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テイルズオブバトルロワイアル Part8

1 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/13(金) 17:47:56 ID:mP3+OWqD0
テイルズシリーズのキャラクターでバトルロワイアルが開催されたら、
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。
参加資格は全員にあります。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
これはあくまで二次創作企画であり、ナムコとは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。

詳しい説明は>>2以降。

【過去スレ】
テイルズ オブ バトルロワイアル
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1129562230
テイルズ オブ バトルロワイアル Part2
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1132857754/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part3
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1137053297/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part4
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1138107750
テイルズ オブ バトルロワイアル Part5
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1140905943
テイルズ オブ バトルロワイアル Part6
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1147343274
テイルズ オブ バトルロワイアル Part7
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1152448443/

【関連スレ】
テイルズオブバトルロワイアル 感想議論用スレ8
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1156667206/
※作品の感想、ルール議論等はこちらのスレでお願いします。

【したらば避難所】
〔PC〕http://jbbs.livedoor.jp/otaku/5639/
〔携帯〕http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/otaku/5639/

【まとめサイト】
PC http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/
携帯 http://www.geocities.jp/tobr_1/index.html

2 :どこにでもいる自治厨 ◆JICHI//hsY :2006/10/13(金) 17:48:16 ID:lAa3i0Yw0
2

3 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/13(金) 17:48:44 ID:mP3+OWqD0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。 
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは3時間ごとに1エリアづつ増えていく。

----スタート時の持ち物----
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ザック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ザック」→他の荷物を運ぶための小さいザック。      
 四次元構造になっており、参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
 「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテムが1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「ランダムアイテム」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもザックに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。

4 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/13(金) 17:49:15 ID:mP3+OWqD0
----制限について----
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 (ただし敵ボスクラスについては例外的措置がある場合があります)
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

----ボスキャラの能力制限について----
 ラスボスキャラや、ラスボスキャラ相当の実力を持つキャラは、他の悪役キャラと一線を画す、
 いわゆる「ラスボス特権」の強大な特殊能力は使用禁止。
 これに該当するのは
*ダオスの時間転移能力、
*ミトスのエターナルソード&オリジンとの契約、
*シャーリィのメルネス化、
*マウリッツのソウガとの融合、
 など。もちろんいわゆる「第二形態」以降への変身も禁止される。
 ただしこれに該当しない技や魔法は、TPが尽きるまで自由に使える。
 ダオスはダオスレーザーやダオスコレダーなどを自在に操れるし、ミトスは短距離なら瞬間移動も可能。
 シャーリィやマウリッツも爪術は全て使用OK。

5 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/13(金) 17:49:46 ID:mP3+OWqD0
----武器による特技、奥義について----
 格闘系キャラはほぼ制限なし。通常通り使用可能。ティトレイの樹砲閃などは、武器が必要になので使用不能。
 その他の武器を用いて戦う前衛キャラには制限がかかる。

 虎牙破斬や秋沙雨など、闘気を放射しないタイプの技は使用不能。
 魔神剣や獅子戦吼など、闘気を放射するタイプの技は不慣れなため十分な威力は出ないが使用可能。
 (ただし格闘系キャラの使う魔神拳、獅子戦吼などはこの枠から外れ、通常通り使用可能)
 チェスターの屠龍のような、純粋な闘気を射出している(ように見える)技は、威力不十分ながら使用可能。
 P仕様の閃空裂破など、両者の複合型の技の場合、闘気の部分によるダメージのみ有効。
 またチェスターの弓術やモーゼスの爪術のような、闘気をまとわせた物体で射撃を行うタイプの技も使用不能。

 武器は、ロワ会場にあるありあわせの物での代用は可能。
 木の枝を剣として扱えば技は通常通り発動でき、尖った石ころをダーツ(投げ矢)に見立て、投げて弓術を使うことも出来る。
 しかし、ありあわせの代用品の耐久性は低く、本来の技の威力は当然出せない。

----晶術、爪術、フォルスなど魔法について----
 攻撃系魔法は普通に使える、威力も作中程度。ただし当然、TPを消費。
 回復系魔法は作中の1/10程度の効力しかないが、使えるし効果も有る。治癒功なども同じ。
 魔法は丸腰でも発動は可能だが威力はかなり落ちる。治癒功などに関しては制限を受けない格闘系なので問題なく使える。
 (魔力を持つ)武器があった方が威力は上がる。
 当然、上質な武器、得意武器ならば効果、威力もアップ。

----時間停止魔法について----
 ミントのタイムストップ、ミトスのイノセント・ゼロなどの時間停止魔法は通常通り有効。
 効果範囲は普通の全体攻撃魔法と同じく、魔法を用いたキャラの視界内とする。
 本来時間停止魔法に抵抗力を持つボスキャラにも、このロワ中では効果がある。

----TPの自然回復----
 ロワ会場内では、競技の円滑化のために、休息によってTPがかなりの速度で回復する。
 回復スピードは、1時間の休息につき最大TPの10%程度を目安として描写すること。
 なおここでいう休息とは、一カ所でじっと座っていたり横になっていたりする事を指す。
 睡眠を取れば、回復スピードはさらに2倍になる。

----その他----
*秘奥義はよっぽどのピンチのときのみ一度だけ使用可能。使用後はTP大幅消費、加えて疲労が伴う。
 ただし、基本的に作中の条件も満たす必要がある(ロイドはマテリアルブレードを装備していないと使用出来ない等)。

*作中の進め方によって使える魔法、技が異なるキャラ(E、Sキャラ)は、
 初登場時(最初に魔法を使うとき)に断定させておくこと。
 断定させた後は、それ以外の魔法、技は使えない。

*またTOLキャラのクライマックスモードも一人一回の秘奥義扱いとする。


6 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/13(金) 17:50:50 ID:mP3+OWqD0
【参加者一覧】
TOP(ファンタジア)  :2/10名→○クレス・アルベイン/○ミント・アドネード/●チェスター・バークライト/●アーチェ・クライン/●藤林すず
                  ●デミテル/●ダオス/●エドワード・D・モリスン/●ジェストーナ/●アミィ・バークライト
TOD(デスティニー)  :2/8名→●スタン・エルロン/●ルーティ・カトレット/○リオン・マグナス/●マリー・エージェント/●マイティ・コングマン/●ジョニー・シデン
                  ●マリアン・フュステル/○グリッド
TOD2(デスティニー2) :1/6名→○カイル・デュナミス/●リアラ/●ロニ・デュナミス/●ジューダス/●ハロルド・ベルセリオス/●バルバトス・ゲーティア
TOE(エターニア)    :2/6名→●リッド・ハーシェル/●ファラ・エルステッド/○キール・ツァイベル/○メルディ/●ヒアデス/●カトリーヌ
TOS(シンフォニア) :3/11名→○ロイド・アーヴィング/○コレット・ブルーネル/●ジーニアス・セイジ/●クラトス・アウリオン/●藤林しいな/●ゼロス・ワイルダー
             ●ユアン/●マグニス/○ミトス/●マーテル/●パルマコスタの首コキャ男性
TOR(リバース)    :3/5名→○ヴェイグ・リュングベル/○ティトレイ・クロウ/●サレ/○トーマ/●ポプラおばさん
TOL(レジェンディア)  :1/8名→●セネル・クーリッジ/○シャーリィ・フェンネス/●モーゼス・シャンドル/●ジェイ/●ミミー
                  ●マウリッツ/●ソロン/●カッシェル
TOF(ファンダム)   :1/1名→○プリムラ・ロッソ

●=死亡 ○=生存 合計15/55

禁止エリア

現在までのもの
B4 E7 G1 H6 F8 B7 G5 B2 A3 E4 D1 C8

09:00…F5
12:00…D4
15:00…C5
18:00…B3


【地図】
〔PC〕http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/858.jpg
〔携帯〕http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/11769.jpg

7 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/13(金) 17:52:01 ID:mP3+OWqD0
【書き手の心得】

1、コテは厳禁。
(自作自演で複数人が参加しているように見せるのも、リレーを続ける上では有効なテク)
2、話が破綻しそうになったら即座に修正。
(無茶な展開でバトンを渡されても、焦らず早め早めの辻褄合わせで収拾を図ろう)
3、自分を通しすぎない。
(考えていた伏線、展開がオジャンにされても、それにあまり拘りすぎないこと)
4、リレー小説は度量と寛容。
(例え文章がアレで、内容がアレだとしても簡単にスルーや批判的な発言をしない。注文が多いスレは間違いなく寂れます)
5、流れを無視しない。
(過去レスに一通り目を通すのは、最低限のマナーです)


〔基本〕バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)

8 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/13(金) 17:52:44 ID:mP3+OWqD0
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。(CTRL+F、Macならコマンド+F)
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。

※基本的なロワスレ用語集
 マーダー:ゲームに乗って『積極的』に殺人を犯す人物。
 ステルスマーダー:ゲームに乗ってない振りをして仲間になり、隙を突く謀略系マーダー。
 扇動マーダー:自らは手を下さず他者の間に不協和音を振りまく。ステルスマーダーの派生系。
 ジョーカー:ゲームの円滑的進行のために主催者側が用意、もしくは参加者の中からスカウトしたマーダー。
 リピーター:前回のロワに参加していたという設定の人。
 配給品:ゲーム開始時に主催者側から参加者に配られる基本的な配給品。地図や食料など。
 支給品:強力な武器から使えない物までその差は大きい。   
      またデフォルトで武器を持っているキャラはまず没収される。
 放送:主催者側から毎日定時に行われるアナウンス。  
     その間に死んだ参加者や禁止エリアの発表など、ゲーム中に参加者が得られる唯一の情報源。
 禁止エリア:立ち入ると首輪が爆発する主催者側が定めた区域。     
         生存者の減少、時間の経過と共に拡大していくケースが多い。
 主催者:文字通りゲームの主催者。二次ロワの場合、強力な力を持つ場合が多い。
 首輪:首輪ではない場合もある。これがあるから皆逆らえない
 恋愛:死亡フラグ。
 見せしめ:お約束。最初のルール説明の時に主催者に反抗して殺される人。
 拡声器:お約束。主に脱出の為に仲間を募るのに使われるが、大抵はマーダーを呼び寄せて失敗する。

9 :青い森にて 1:2006/10/15(日) 01:40:57 ID:Zvx4GKgh0
森が朝日に照らされて、全体が輝いている。
草の上に乗った朝露が、土の震えに揺れて地面に吸われた。
(どうしてこうなった…?)
ヴェイグは手頃な岩に腰掛けて膝に肘を付けて手を組んでいた。


話は十分程前に遡る。

光量の落ちた光を浴びながら2人の男が地面を揺すって歩いていた。
2人は言葉も視線も交わすことを厭っているのか、2人と云うよりは1人組が2つあるという印象だ。

1人――――ヴェイグの方が一方的に目を逸らしているようにも受け取れるのだが。

もう1人、グリッドが足を止めた。
「…どうした」
1メートル半ほど先から仕方なしにと云わんばかりにヴェイグが振り返った。
「お前が疲れているから休め」
口を半開きにすること三秒程。
「疲れているのはお前だろう」
「いや、お前」
「だ「お前」
既にグリッドが議論をする気が無いのは実に明瞭であった。



10 :青い森にて 2:2006/10/15(日) 01:41:44 ID:Zvx4GKgh0
眉間を強張らせてヴェイグは天を仰いだ。
何もしないでいると後悔が溶けるように心に染み入ってくる。
自分が殺した人、自分を殺そうとした人、出会って別れた人、関係ない人、悉く土塊に成り下がる。
馬鹿馬鹿しいほどの不平等さにヴェイグは唯々眉間に皺を寄せるしかない。

耳に草を踏む音が入り、そちらの方に顔を向ける。
グリッドが濡れた手を振りながら帰ってきた。

「あー、スッキリした」
カラカラと乾いた笑いと共にグリッドは手近なところに腰掛けた。
何をしてきたかは見当が付くが、口にするのも下世話なのでヴェイグは何も云わない。
「用が済んだなら行くぞ」
ヴェイグが腰を上げようとするのをグリッドは手で制する。
「せっかちだな。幸運が逃げるぞ?」
「…G3に行くと決めたのはお前だ。時間が無いことは分かっているだろう」
やけに癇に障る笑顔を見ないようにしてヴェイグはそっぽを向いた。
「その手の霜焼け…そこまで行くと火傷か」
グリッドの一言にヴェイグは瞬時に硬直した。呼吸を整えて彼の方に向き直る。
「いつから気付いていた?」
「暴走したお前の腕を掴んだときだ」
漸く乾いた手の爪を軽く擦り、グリッドは呼気で水分を飛ばす。
「どうして誰にも言わなかった?」
ヴェイグは手を隠す様に腕を組んで、目を細めて目の前の人間を睨む。
当時に比べれば大分回復したが、暴走の傷痕が分厚い手袋の中で今なお刻まれている。
「言って欲しかったのか?」
不思議で当然、のように放たれたグリッドの一言にヴェイグは押し黙った。
実際にロイドかメルディに気づかれていれば、こうやって別行動組に回る事も出来なかっただろう。
「ま、無理をしろとは言わんが。あそこにおったら気を遣って碌に休まんだろ」
グリッドの一言一言が的確で、尚の事苛立つ。
「で、どうなのよ実際?」
「元の原因は俺のフォルスだからな。腐って落ちるとかそういう程の障碍じゃない。回復は錬術で十分だ」
回復に特化したティトレイの術に比べれば回復効果は微々たるモノだが、対凍傷に関して言えばその回復は通常に比べれば速い。
しかし、一番回復に貢献しているのは間違いなくE2を離れたことに他ならないだろう。
今のヴェイグにしてみればE2・E3は自分の罪そのものに近い。
我侭と知りつつも、その罪から目を背けることは少なからず彼に落ち着きを与えていた。

11 :青い森にて 3:2006/10/15(日) 01:43:49 ID:Zvx4GKgh0
「心配しなくてもティトレイは此処には居ない」
ティトレイ、その一言にヴェイグの神経は急激に収縮する。
ここは、森で、ティトレイの庭で、腹の中なのだ。ヴェイグはそんなことすら失念していた。
「あれ?違ったか?」
「…その根拠は?」
ヴェイグは遅いと分かっていながらも周囲に警戒を発する。
「もしこの森にティトレイとクレスとやらがいたら、俺は今頃汚物を撒き散らしながら向こうで死んでいるぞ」
グリッドが自慢気に腕を組み鼻息を荒くする様を見て、
ヴェイグは恐ろしく厭そうな顔をしてため息を付いた。神経が一気に弛緩する。
そして、今の今まで罪の意識に苛まれる余り、周りが見えていなかったことを恥じいった。
今ティトレイがこの森にいたならば死んでいたのはグリッドもヴェイグも変わらないのだ。
ヴェイグはその認識を今の今まで持っていなかった。
この目の前で間抜け面を曝している男は、その手法の軽率さ(実際敵がいたらどうするのか)
はともかく自分よりも余程状況が見えている。短い呼吸を1つ。素直に両の手にフォルスを込めた。
「…よくよく考えてみれば」
グリッドは顔を戻して言葉の元に向き直る。
「出会ったときには俺の意識はなかったのだから、今の今までまともに話をしたこともなかったな」

「あのな、1つ言っておきたかったんだ」
「何だ?」
グリッドは深々と、ヴェイグに頭を垂れた。バンダナごと隠す前髪の奥のグリッドの表情は窺い知れない。
「プリムラを救ってくれて助かった。ありがとう」
「…そいつはマーダーになったんだろう。罵倒されこそ感謝される義理は無い」
「分かっちゃいるんだがな。でも、やっぱり言わなきゃ駄目だろう」
その先の言葉は無かった。
違う、とヴェイグは言いたかったのだが上手く発音できない。
プリムラに臓腑を穿たれて落ちかけた意識の中で、がむしゃらにフォルスを放っただけだ。
ただ、ただ、ヴェイグは拒絶しただけなのだ。
人が死ぬのを見たくなかっただけだ。
「俺も済まなかった…お前は、弾除け以上だ」
やっと弾除けレベルかよ、と聞こえたような気がする。
それでも、この島で初めて言われた感謝の言葉はこそばゆかった。

「…お前はどうするつもりだ」
「え?」
「少し考えてみたが、やはり主催側の手によってこの島は分断されようとしている。
 …もし此方側に参加者を集中させるのが目的なら、いや、もう既に集中していたら…」
話を逸らしたヴェイグの口を再びグリッドが制する。
「分かってる。その先はまだ言わんでくれ」
グリッドはボトルの蓋を開けて水を飲んで不安を流し込んだ。
元々D5に水を補給しに行った漆黒の翼のサックの中にはソーサラーリングと低級晶霊術で煮沸した水が補給されている。
「こっちに来ると言ったのも、三割位期待があったからだしな」
ヴェイグは、目の前で鼻を指で掻いている男に対する認識を改めざるを得ない。
確かに、少しばかり学と落ち着きは無いかも知れない―最も、ヴェイグ自身も大してあるとは思っていないが――
が、決して無能ではない。恐らくE2に残った誰よりも全体が見えている。
ロイドの焦燥、プリムラへの審判、ヴェイグの両手、少なくともこれだけ見えていた。

資質、と呼ぶしかないのかもしれない。指導者としての天賦の資質。
他のリーダーと違いグリッドにはそれ以外の才能が絶対的に欠けているのだが…それがあるのだ。


12 :青い森にて 4:2006/10/15(日) 01:44:45 ID:Zvx4GKgh0

「お前は、その女がマーダーになったと知ってどう、感じた…?」
口から勝手に言葉が漏れる。言葉尻に付着した湿気が喉を動かす。
「どう、するつもりだ?」
仲間が向こう側に落ちる感覚をヴェイグは共有しようとしている。
ヴェイグとグリッドを、プリムラと、彼奴を。

「どうもしない」
「…?」
「だから、何もしない」
「は?」
「ハロルドに目に割れ瓶を突きつけられてからずっと考えていたんだがな…」
グリッドは左人差指を右目に運ぶ。あの時の悪魔の笑顔は焼き付いて忘れられない。
「ハロルドの言ったとおりだったぞ。難しいことは何一つ無い」
ヴェイグは彼を計りかねている。
「俺は、はぐれた団員に会いに行くだけだ」
「意味が分からん。そいつはもうマーダーだろうが」
「知ったことじゃない」
「プリムラが何でカトリーヌを殺したのか、とかプリムラが何を思ってお前を刺したのか、
 とかはプリムラ本人の問題であって、団長の問題じゃない。
 俺が分かっているのは彼奴が漆黒の翼を抜けると言っていない以上、メンバーだということだ」

押し黙るヴェイグを押しのけてグリッドはまくし立てた。
ヴェイグにとってグリッドの理論は青天の霹靂でしかない。
つまり、マーダーであることと漆黒の翼の団員であることは関係ない、と言うこと。
そして彼らが抱える様々な因果を取り除き、極めて表面的な事象に限定すれば
グリッドにしてみればプリムラは‘はぐれただけ’なのだ
「だから俺はプリムラを探さねばならん。他は全部その後だ」
「答えになってない。会ってその後どうするかを俺は聞いている」
「それも俺の知った事じゃない。彼奴の意向次第だ。
 『人を殺すのが忙しいから退会します』というなら駄目だと断るし
 『優勝したいので死んでください』と言えば嫌だと断るし
 『もう鬱だから死ぬ』とのたまうなら馬鹿だと叩けばいい。
 というか退会は認めてない」
「…意向も何もないだろう、それは」
「だから、知った事じゃないんだ」

ヴェイグは呼吸を忘れて、彼の言葉を咀嚼する。
要点を纏めれば、こういうことだ。
『プリムラが何を考えているかは分からないけど今の状態は気に入らないので自分の好きにする』
一見すれば全くイカれている論旨だが、ある意味にてこれが及ぼすところは大きい。
彼女の心情を推し量り、彼女を中心に据えて考えるから説得が通じるか、とか正気に戻せるか、とかで話が拗れてしまう。
だが、これをグリッドを中心に考えればプリムラがマーダーだろうと何だろうと意味が無くなる。
グリッドが気に入らないから会いに行くのだ。プリムラの意向は完全に無視である。
仮にプリムラに謝りたいと思う意志があったとしても、グリッドにはそれすら関係ないのだ。
漆黒の翼の団員になるということは、それだけ性質の悪いことだった。
もちろんプリムラが抵抗する可能性や
カトリーヌやヴェイグに対する償いなど済ませなければならない問題は山積しているが
「それはそれ、これはこれ」
別問題だ。

13 :青い森にて 5:2006/10/15(日) 01:48:07 ID:Zvx4GKgh0
「…くくくくくくくく」
ヴェイグが銀髪を押さえながら、笑いを堪える。唇が歪に歪んでいた。
「どうしたオイ。キノコでも食ったか」
成る程、と感心するしかない。
こういう切り口があったという事が嬉しいのか、笑いが止まらない。
「難しいことなど何もない、か」
ティトレイが何を思っているのか、何を考えたのか、何を見ているのか。
全部無視して叩き付けて取り返せたならば、どれほど楽か。
だが、そう割り切れるほどヴェイグは安定できる拠り所を持ち合わせていない。
「そうだと良いな」
そこまで割り切れる人間は、この島には目の前の人間を除いてもういないだろう。


「あざといな…なら、俺が付いてくるのも、キールと別れたのも計算の内か」
グリッドは首を竦めた。
「いや、団員が団長を助けるのは当然だろう?キールに関しては、まあ、あれだ」
「一緒に行っていたら問答無用でプリムラを殺していたかも、か」
「…そこまでハッキリ考えていた訳じゃないんだがな。カトリーヌ達に聞いていた話とは大分印象違うしな」
C3を共に生き抜いたロイド旧来の既知であるメルディと違いグリッドとヴェイグは所詮は外様である。
だからこそ外側にいた2人には1つの懸念があった。
「痛いくらいに無理してるぞ。割り切れないモノまで割り切って、何でもかんでも背負い過ぎだ」
「ああ…多分、一番危ないのはキールだろう」
彼らにはキールが修羅道を行くと決めた背景は見当が付くが、だからと言って深入りする気は毛頭無い。
あの状況下で理論武装を以て甘さという甘さを排除しようとするキールの気持ちは分からない訳ではない。
ああやって徹頭徹尾マーダー廃絶を唱えられるのは羨ましいと思うが、彼らは直感的にその危うさを懸念している。

リッドが死んでから突貫工事で仕上げられた彼の冷徹さには亀裂がある。
それを塞ごうと塞ごうと理屈と知識を重ねて誤魔化している。
他人の甘さを糾弾することで自分の甘さを隠そうとしている。
スタンの遺体の前で彼がヴェイグに能弁を振るっていたのように。
甘さの極みたるロイドなんかは体の良いスケープゴートだ。
土中に掘った壕も、まるで日の光に曝されてその亀裂が際だつのを恐れているかのようで。
(…あそこで立てた作戦、その殆どがキールに負担を強い過ぎている。果たして保つのか?)
大した情報が無いから仕方が無いとはいえ対マーダー対策は
出来る限り戦闘を避けてマーダー6人中3人を自滅、最低弱体化させる。
先制が可能ならキールの術で即殺、無理なら通常戦闘で勝つ。これが壕の中で打ち立てた対マーダー戦略だ。
(ミクトランが封鎖を行った以上・・・多分、戦闘は避けられない。戦況は激化する)
全参加者中40%がマーダーであり、恐らく参加者が西に集結し、封鎖によって東に行くことも適わない。
自滅までゆるりと防空壕に隠れることは無理なのだ。
守るに適しても逃げるに適さない地下を放棄して簡易壕を構築して隠れたのは正しい、が。
いずれ戦闘は避けられず、ここでの回復量を考えればキールの消耗は簡単に見当がつく。
回復・逃走・戦闘補助・攻撃、キールの作戦にはキールの消費が勘定に入っていないのだ。
この状況のままキールの思惑を達成しようとするならそれこそ命を削って戦わなければならない。
グリッドの言うとおり、無理をし過ぎている。死にたいのだろうか。
しかし恐らく頭のいいキールはそれくらいは分かっているのだろう、ならば口を挟める問題ではない。
「俺たちに出来るのは、少しでも速く戻って動けるように情報を集めることだ。
 キールに関しては、メルディとロイドに任せよう」

14 :青い森にて 6:2006/10/15(日) 01:50:33 ID:Zvx4GKgh0
「メルディも数に入れるのか?」
「ああなる前のメルディを知っていると、そう考えたくもなる」
グリッドとヴェイグ、メルディの前後を知っている者と知らない者では温度差は仕方がない。
「ああなる前…どんなだ?」
「それは…元気で…」「元気で?」
「元気で…」「で?」
「元気…」
取り敢えずとても元気なのは分かった、と短くため息を付いてグリッドは話を切った。
一緒にいたのはほんの少しの間だがな、といってヴェイグは目を伏せた。
褐色の肌と額のガラス玉と笑顔が印象的だったように思う。
だからこそ今し方出会ったメルディは別人の様な感覚を覚えるのに充分だったが。
(諦めきれないのは、俺を救ってくれた恩義からか?それとも駄々をこねる子供のそれか?)
「まあ多分大丈夫だろ」
「根拠は?キールが言うにはメルディの心は…」
いや、すでにこれが‘根拠になっていない’のだ。これが懸念の二つ目である。
本来一歩退いた立場で客観的に事実を判別する役であるキールがリーダーの立場に立つことで客観は主観へと変容する。
「だからキールがメルディはもう駄目だって言ってるだけだろ。俺は何も知らんから何とも云えんが」
キールの主観的観測が、あの防空壕内では客観的事実と同義なのだ。
キールの思考が正しく、理路整然としている。だがキールの観測が間違っている可能性も無いわけではないのだ。
誤った情報から導かれる結論は正しく理路整然と誤ったものになる危険を孕んでいる。
(本当に、ティトレイにリバウンドは来るのか?…何か失念していないか?)
明確に、では無いがヴェイグは自分が彼に語った情報に違和感を持っているのだ。
そしてグリッドの云う通り、メルディにも、ヴェグはささやかな引っ掛かりを感じていた。
ただ、グリッドとは違いメルディの回復の可能性ではなく別のところにあるのだが。
(だが、何にしてもメルディが持ち直す可能性が有ったとしたら…それを潰したのは、俺だ)


E2で初めて見たメルディの表情に、(本人にそんな意識は露程も無いだろうが)ヴェイグは1つの罪を覚えた。

1人、足りない。
ロイドと、メルディと、ヴェイグがいて、1人足りない。

北東部で別れたのは、ロイド達は消えゆく命を救うため厄の渦中に向かい、
彼らは保身の為に残ったからのはずだ。しかし現実には。
(ロイドも口では言わないが責めているだろうな…命惜しさに退いておいて此方が欠けていては笑い話にもならない)
メルディが懐いていたのはロイドと欠けた三人目、ジューダス。
せめて俺ではなく奴がメルディに再会できていれば、あの塞いだ心も開いたであろうかと下らない夢想をする。
そしてもう一つの夢想、対クレス戦での戦略展開だ。
(アルベイン流…何処までの剣かは分からないが、もし対抗できる可能性が有ったとすればジューダス以外には考えられない)
直接の技量は見てはいないが目を覚ましたヴェイグと対峙して尚余裕といったあの構え、
剣だけに限定すればその実力は切り結ばないでも判断が付く。
天才、言わしめてもなんら不可分の無い力量が確かにあった。
ロイドもそれには気付いていたはずだ。しかし、無いものは強請った所でどうしようも無い。
だから責めなかったのだろう。

今更死にたいとは思わないが、死んだときの損失の差額の多寡など誰にでも分かる。
ジューダスが生きていれば、ヴェイグが死んでいたときよりも2つ問題を片付けることが出来たのだ。
そこまで自虐した所で漸くグリッドが眉間に皺を寄せていることにヴェイグは気付いた。
敏感なのか、目敏いのかおちおち気落ちするのも許さないらしい。


15 :青い森にて 7:2006/10/15(日) 01:51:06 ID:Zvx4GKgh0
「…具体的に洞窟に行ってどうするつもりだったんだ?」
居た堪れないヴェイグは話を変えることにした。
「だからミトスの手がかりを」
そうじゃなくてだ、とヴェイグは仕切り直す。
ミトスに会わなかったらお前は洞窟でどうする打ち合わせだったんだと話を補正した。
グリッドは無言で顔の汗の量を増やしていく。何も聞いていなかったのか、忘れてしまったのかどちらかだろう。
あわてふためくグリッドが漸く思い出したらしいのか、数枚の紙束をヴェイグに差し出す。

何らかの調合を書いた乱雑な文字列を流し読みする中で異彩を放つ図が目に入る。。
注釈の中の1つに「CAVE」と書かれているのはハロルドが拠点としていた洞窟内部の構造に他ならない。
ヴェイグはその面を広げてグリッドに見えるように地面に置く。

曲線や凹凸をある程度無視して大雑把に纏めると、洞窟は北側の表口と生い茂った草に隠された南側の裏口を一直線に貫いている。
その直線フロアが北側から大部屋、小部屋、細い回廊の三エリアに分けられ、
小部屋と回廊の間にて東から西に水が流れ、それが西側へのT字路を形成している。
水路は更に2つに分岐しG2崖下海岸とG2とG3の境の平原へと繋がっているようだ。
水路の幅は平均3m。深さは最深部で目測1m程度。流れは急ではない。
そしてバルバトスが放った一撃によって小部屋南側が落ち、北側からの分岐路への道は遮断されていて
南口はいつでも落とせるようにホーリィボトルを利用した火炎瓶と発火性植物を利用した組み込んだ仕掛けが設置済み。
深度は北口・南口から分岐点まで緩やかに下降、
分岐点から西口までに長距離下降して合わせてG2崖の高度の合計とほぼ符合する。
洞穴は石灰質であるが風通しが良い為故意に狙わなければ、
或いは南北を隔てる路が塞がらない限りは一酸化・二酸化炭素中毒は無い。

以上ハロルドが洞窟を出る際に測量した事実から記された情報によって記された事実を整理すると

つまり大別して出入り口は北表口、西口、南裏口、そして南西の隠し口の4つ。
北側からは小部屋で行き止まり、西口入り口は何者かの土系魔術によって封鎖されており
南口はハロルド本人の手により爆砕準備済みである。
真上から見れば各入口と洞窟の中央を直線で結んだ様になっている。あとは高低差を鑑みればいい。
因みに彼らに取っては埒外のことではあるが、西口を封鎖したのは1日目夜にカイル追撃に失敗したデミテルであり、
現在分岐路と小部屋を隔てる落石の壁には北側から溜弾砲が見事に杭となって貫通している。
石灰質の洞穴である以上南北と繋いだであろう水路が存在するはずだが、それは消失している。

「ハロルドの薬が有る部屋は隠し口と中継点の間と書いてあるな」
確かに表からでは部屋にたどり着けない。予定通りならハロルド・トーマとの合流地点はそこである。
「だが目的がもう違っているぞ。地図に写っている穴が裏口だろうから…
 ミトスがE2直進して来たなら入っていくのは普通表口だ」
北から入りミトスの痕跡を探るのが先か、一縷の望みをかけてトーマとの合流を狙って南か、どちらのエリアから探索するか。
禁止エリアの打ち方からプリムラとリオンが東からやってくる可能性が高い以上どちらを選ぶのかは重要である。

ヴェイグは腕を組んで無音で唸るなか、グリッドはメモをペラペラとめくっていく。
(…?)
紙束の一番最後の紙、その一枚に目を通す。
紙の全体の上部二割に雑多に書き散らした後、残り八割が真っ白の最後尾である。
どうせなら詰めて切り良く二割を押し詰めればいいのに、そう思いながら紙束を戻してヴェイグの方に向き直った。

いや、そうではない。
グリッドが見たのは‘ヴェイグの奥’だ。
ふらふら、ふらひら、ひらひら、ひらふら。
向こう側のその奥で虫が手招いている。この蟲だ、グリッドは確信した。

16 :青い森にて 8:2006/10/15(日) 01:51:41 ID:Zvx4GKgh0
ヴェイグは思考する。この悩める青年は今できた悩みの種を他人に打ち明けるにも一ヶ月かかり、
その頃には既に別の悩みに変容しているから更に一ヶ月かかるような男だから始末に悪い。
(ハロルド…お前は何を考えていた?俺をこいつに付けて何をさせたかったんだ?)
ハロルドとまともに同道していた時間は思いの外少ない。
逃げていた彼女に追いついてから、プリムラにナイフで刺された僅かの間だけだ。
その僅かが今彼の最大の行動目標、カイル=デュナミスの存在を定めている。
リオン?唯のデコイよあんな奴、ハロルドはそう吐き捨てた。
『面倒だから説明お願いディムロス。あ、これはジューダスが言ったことにしておきなさい。その方が面白いわ』
彼が謝罪の対象としているスタン、カイル。そしてジューダスと瓜二つ存在であるリオン=マグナス。
これらの存在の情報は全て彼女からもたらされているのである。(実質殆どディムロスが語ったのだが)
もし4人で名簿を確認したときにジューダスが逡巡した理由があのドッペルゲンガーに有るのならば、
面白いというのは‘後でジューダスが困るだろうから面白い’という意味だろう。
先ほどの壕内ではきちんと彼女の命令を施行したことになるから、ヴェイグは見事に共犯者である。
しかし、主犯も被害者もいなくなったのだから事件は成立しないのだが。
彼女は言いたいことは此方が聞きたくなくても言うが、言いたく無いことは聞きたくても言わないのだ。
そしてたった十数分で此方のことを片っ端から聞き上げていく。
聞き上手、いうだけでは説明が付かないほどの速度で、言いたくないことまでも強制的に言わされるのだ。
(最もそういうことは大抵推測から察するか、鎌をかけて言わせるのが彼女の技法のようが)
彼女は彼から聞きたいことだけ聞いて、言いたいことだけ言って、彼が意識を失っている間に死んだ。
彼女はジューダスの仲間であって彼の仲間では無い。そう呼ぶには時間が足りなかった。

その彼女は彼にとっては、多分敵だったのかも知れない。
マーダーではない。もっと大きい意味で拒絶するべき、命を奪う者。
ヴェイグが最後に見た彼女はプリムラを殺そうとしている彼女だったのだ。
手を突き出して詠唱と共に術を編み、プリムラを殺そうとした彼女の手を、ヴェイグは。

(…あれも結局は同じだ。まったく同じ事だ)
プリムラをティトレイに、ハロルドをジェイに置き換えれば分かりやすい。
ヴェイグはあの夜に同じ時間を二回過ごしている。
動かない体を動かし、フォルスを操り、一方的に殺されそうな命を救った。
ただ結果が違う。
ハロルドは手を瞬間凍らせただけだが、一応彼女も彼女も守れたのに。
ジェイは、守れなかった。
同じ事を同じ目的で同じ衝動の下遂行したのに結果だけが違う。

同じなのに、違う?

17 :青い森にて 9:2006/10/15(日) 01:53:25 ID:Zvx4GKgh0
電流が走ったとヴェイグは感じた。この言葉こそが避けていた疑問の鍵だと確信を覚える。
(やはり、おかしい。ティトレイがマーダーに堕ちて人を殺してリバウンドを受けるなら、
‘ルーティを殺した時点で俺もそうなっていないと成立しない’はずだ)
先ほどのティトレイのリバウンド説には絶対的に何かが欠けている物がある、とヴェイグは内心で思う。
思う、というよりも説明が付かない点がある。
(今のティトレイがリバウンドで罰せられるなら、ルーティを殺した時点で俺も罰せられているはずだ…
 今こうやって憎悪を撒いたことも十分罰していいはずだ…何が違う?)
そもそも罰する、という概念に引っかかる。
聖獣の判断で有無が違うのか?
それではヒューマ擁護派のシャオルーンが罰さずに
ヒューマ排撃派であるイーフォンが罰するというのは酷く違和感がある。
誰かが、誰かがそれを聞いたからだ。暴走、とかくリバウンドについて彼女が。
彼の脳裏に曙光がかかった。
ヴェイグはカレギアの冒険で既にリバウンドの形を知って、それをこの島で既にカミングアウトしている。
ヴェイグは腕を捲って五指を動かす。
(あの違和感…アガーテの体に入ったクレアを受け入れることが出来なかった俺は腕を凍傷に…)
アガーテの体に入ったクレアはクレアなのか、アガーテなのか、誰なのか。
ガジュマとヒューマの差異を気にして、クレアの心を受け止め切れずに、
素直な感情は理屈に拘束され蓄積したジレンマは腕の凍傷という形で自身を蝕み、暴走という悲劇を引き起こした。
ヴェイグは手にしたチンクエディアで幻龍斬と無影衝の構えを連続して行う。
ヴェイグ単独での最強奥義「崩龍無影剣」は聖獣の力の顕著な例と言える。
(聖獣の試練の時に出した答えは俺にとっては虚構でしかなかった…)
『じゃ何よ?与えられたのはまあともかく聖獣の力と聖獣の心は別物じゃないの。
 そのシャオルーンってのは別に助けてくれなかったんでしょ?そんな力捨てたら?』
多分捨てられたらティトレイは捨てているだろう。
『我等聖獣の力はフォルスと源を同じくするもの、心が揺らげば、力もまた揺らぎ、やがて』
イーフォンは確かにそう言った。
(汝を飲み込むであろう…か)
ティトレイに力を与えたイーフォンは確かにそう言った。
揺らぎ、腕の凍傷、あのシャオルーンの問いと回答、ルーティを殺めた事実、点より導かれる形がある。

(…マーダーになることと、リバウンドは無関係…?)
いや、それでは程度が知れている。
答えはもっと具体的なものだ。

「気持ちは、誰にも罰することは出来ない」
それが例え力を与えた者であろうと、聖獣だろうと。
「罰することが出来るのは…自分自身しかいないからだ」
ヴェイグのリバウンドはヴェイグ自身に依って構築されている。

18 :青い森にて 10:2006/10/15(日) 01:54:08 ID:Zvx4GKgh0
リバウンドは、迷い、迷いの形。ジャッジは、ティトレイの心を判定するのは
「ティトレイ自身、か」
ヴェイグの不安はそこにこそあった。
ヴェイグがティトレイに反動が来ると断定した論拠は、
今のティトレイが「ヴェイグから見たティトレイ」と異なっているからだ。
だが、それは所詮ティトレイの一面でしかない。
ティトレイの中では今のティトレイと連続的に繋がっているのかも知れない。
もしティトレイが一切の迷い無く、強い決意と強い意志を以て堕ちたのならば、恐らくイーフォンは応えるだろう。
リバウンドが来ると断定したのは、今のティトレイを認めたくないヴェイグが生み出した虚像でしかない。
全ては結局振り出しに戻る。
(気付いているのか…反動が来るなら、それはお前自身が迷っていると云うことだ)
ティトレイが迷っていなければリバウンドはなく、説得は困難になるだろう。
だが、グリッドが既に突破口を開いている。
リバウンドがあろうが、無かろうが、それは関係ないのだ。
望むようにあるがままに。それこそがフォルス使いの唯一の生き方。
ティトレイを見極めて後はしたいようにすればいい、目の前の男のように。
自分さえ見失わなければ、地獄に堕ちる様な結果になったとしても納得はできる。


ふと、ヴェイグは自分のサックに気付く。プリムラに刺されてから今まで急展開だったため気付かなかったが。
(…俺のサックじゃないな…誰のだ?)
流石に幼稚園でもないのでサックそのものには名札等、誰のものなのかを判別する要素は無い。
少なくとも自分のサックではない、ハロルド達が着服していない限りはグミがあるはずだからだ。
記憶を振り返るに、おそらくシャーリィが吹き飛んだあの時既に死んでいた男のサックであろう。
察するに、ハロルドの差し金か…いや、グリッドが運ぶのだからこいつが運べなくては意味がない。
ヴェイグを背負ってE3まで行くのも無茶なはずなのに、そこにサック2つである。その胆力は賞賛に値する。
ジェイのサックは支給品系を抜いてメルディ用に置いてあるのだから、これが無くては手ぶらのはずだったのだ。
2人分のサックがあったから置いてきたのだが、
それでも今の今まで気付かなかったのはやはり何処かで見えなくなっていたらしい。
両の手を確認する。満足とは行かなくてもこれ以上の治療は要らないだろう。そろそろ…

19 :青い森にて 12:2006/10/15(日) 01:55:19 ID:Zvx4GKgh0
ヴェイグは顔を上げた。目の前にはグリッドの顔ではなく、交差した腕があった。
「あぶねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
交差したグリッドの両腕は見事にヴェイグの喉元を直撃し、グリッドもろとも地面に倒れた。
グリッドに覆い被さられながら、手に持った短刀に氷を伸ばす。
今なら迷い無く殺せそうだ。
そう魔が差した所に、ヴェイグはグリッドの背中越しにそれを見た。
ヴェイグの頭が先ほどまであった位置に青い蝶々がいた。
小さく弧を描いて、ふらふらと離れるまで約十秒。

「あ…あぶなかった」
「…どけ」
安堵するグリッドの顎を押し上げてヴェイグは立ち上がる。
双眼鏡で蝶の向かった先を見たが、もう小さすぎてやっと識別出来るくらいだ。
なんだあれは、とチンクエディアを片付けて云った。
グリッドが気付くのが遅れていたらヴェイグの頭に触っていたのだろう。
知らん、グリッドはそれだけを云った。
「だが、あ、あれはヤバい。マジヤバ。あれは不幸の蝶々だ。鳥は幸せを運ぶんだからいいとしてあれは駄目だ!!」
不幸しか喚ばんぞ特に反縁結限定、グリッドは根拠がない割りにはハッキリと滑舌能く云った。
彼には彼なりに根拠があるのだが、それをヴェイグに伝える語彙がない。

ヴェイグは頭を抱えるが、ことさら否定するわけでもない。
あれは明らかに自然発生した生き物ではないからだ。
(動きがふらついている所を見ると、俺たちを狙ってきたわけでもない様だが…偶さかか?
 にしてはあれは何処に…)
「G3!?こうしちゃおれんいくぞヴェイぐっ」
走り出そうとしたグリッドの服をヴェイグが掴む。直ぐに手を離して荷物を整え始めた。
「…南側に迂回して裏口に回るぞ。北がハズレであの蝶が入ってきたらもう避けられん。出口が2つある南を先に潰す」

いくぞ、とそれだけ云って。おう、とそれだけ返された。
どうやら結論は先送りにしても良いらしい。

20 :青い森にて 13:2006/10/15(日) 01:56:25 ID:Zvx4GKgh0
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP40% TP50% シャオルーンの力を使用可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア
エルヴンマント ミトスの手紙
基本行動方針:今まで犯した罪を償う
第一行動方針:テルクェスよりも先にG3南口に向かう
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:F2/F3森

【グリッド 生存確認】
状態:不屈の正義感
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:テルクェスよりも先にG3南口に向かう
第二行動方針:いたらプリムラを説得する(出来ないなら拉致)
第三行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第四行動方針:マーダー排除に協力する
第五行動方針:ロイドの作るアイテムにwktk中
現在位置:F2/F3森

21 :青い森にて 9 修正:2006/10/15(日) 04:59:00 ID:Zvx4GKgh0
電流が走ったとヴェイグは感じた。この言葉こそが避けていた疑問の鍵だと確信を覚える。
(やはり、おかしい。ティトレイがマーダーに堕ちて人を殺してリバウンドを受けるなら、
‘ルーティを殺した時点で俺もそうなっていないと成立しない’はずだ)
先ほどのティトレイのリバウンド説には絶対的に何かが欠けている物がある、とヴェイグは内心で思う。
思う、というよりも説明が付かない点がある。
(今のティトレイがリバウンドで罰せられるなら、ルーティを殺した時点で俺も罰せられているはずだ…何が違う?)
そもそも罰するという概念が引っかかる。 聖獣の判断で有無が違うのか?
それではヒューマ擁護派のシャオルーンが罰さずに
ヒューマ排撃派であるイーフォンが罰するというのは酷く違和感がある。
誰かが、誰かがそれを聞いたからだ。暴走、とかくリバウンドについて彼女が。
彼の脳裏に曙光がかかった。
ヴェイグはカレギアの冒険で既にリバウンドの形を知って、それをこの島で既にカミングアウトしている。
ヴェイグは腕を捲って五指を動かす。
(あの違和感…アガーテの体に入ったクレアを受け入れることが出来なかった俺は腕を凍傷に…)
アガーテの体に入ったクレアはクレアなのか、アガーテなのか、誰なのか。
ガジュマとヒューマの差異を気にして、クレアの心を受け止め切れずに、
素直な感情は理屈に拘束され蓄積したジレンマは腕の凍傷という形で自身を蝕み、暴走という悲劇を引き起こした。
ヴェイグは手にしたチンクエディアで幻龍斬と無影衝の手首の振りを連続して行う。
ヴェイグ単独での最強奥義「崩龍無影剣」は聖獣の力の顕著な例と言える。
(聖獣の試練の時に出した答えは俺にとっては虚構でしかなかった…)
『じゃ何よ?与えられたのはまあともかく聖獣の力と聖獣の心は別物じゃないの。
 そのシャオルーンってのは別に助けてくれなかったんでしょ?そんな力捨てたら?』
多分捨てられたらティトレイは捨てているだろう。
『我等聖獣の力はフォルスと源を同じくするもの、心が揺らげば、力もまた揺らぎ、やがて』
(汝を飲み込むであろう…か)
イーフォンは確かにそう言った。
ティトレイに力を与えたイーフォンは確かにそう言った。
揺らぎ、腕の凍傷、あのシャオルーンの問いと回答、ルーティを殺めた事実、点より導かれる形がある。

(…マーダーになることと、リバウンドは無関係…?)
いや、それでは程度が知れている。
答えはもっと具体的なものだ。

「気持ちは、誰にも罰することは出来ない」
それが例え力を与えた者であろうと、聖獣だろうと。
「罰することが出来るのは…自分自身しかいないからだ」
ヴェイグのリバウンドはヴェイグ自身に依って構築されている。


22 :青い森にて 7 修正:2006/10/17(火) 18:14:23 ID:8zwcdYXz0
「…具体的に洞窟に行ってどうするつもりだったんだ?」
居た堪れないヴェイグは話を変えることにした。
「だからミトスの手がかりを」
そうじゃなくてだ、とヴェイグは仕切り直す。
ミトスに会わなかったらお前は洞窟でどうする打ち合わせだったんだと話を補正した。
グリッドは無言で顔の汗の量を増やしていく。何も聞いていなかったのか、忘れてしまったのかどちらかだろう。
あわてふためくグリッドが漸く思い出したらしいのか、数枚の紙束をヴェイグに差し出す。

何らかの調合を書いた乱雑な文字列を流し読みする中で異彩を放つ図が目に入る。
注釈の中の1つに「CAVE」と書かれているのはハロルドが拠点としていた洞窟内部の構造に他ならない。
ヴェイグはその面を広げてグリッドに見えるように地面に置く。

曲線や凹凸をある程度無視して大雑把に纏めると、
洞窟は南側の表口と生い茂った草に隠された北側の裏口を一直線に貫いている。
その直線フロアが南側から大部屋、小部屋、細い回廊の三エリアに分けられ、
小部屋と回廊の間にて東から西に水が流れ、それが西側へのT字路を形成している。
水路は更に2つに分岐しG2崖下海岸とG2とG3の境の平原へと繋がっているようだ。
水路の幅は平均3m。深さは最深部で目測1m程度。流れは急ではない。
そしてバルバトスが放った一撃によって小部屋北側が落ち、南側からの分岐路への道は遮断されていて
北口はいつでも落とせるようにホーリィボトルを利用した火炎瓶と発火性植物を利用した組み込んだ仕掛けが設置済み。
深度は北口・南口共に分岐点まで緩やかに下降、
分岐点から西口までに長距離下降して合わせてG2崖の高度の合計とほぼ符合する。
洞穴は石灰質であるが風通しが良い為故意に狙わなければ、
或いは南北を隔てる路が塞がらない限りは一酸化・二酸化炭素中毒は無い。

以上ハロルドが洞窟を出る際に測量した事実から記された情報によって記された事実を整理すると

つまり大別して出入り口は南表口、西口、北裏口、そして南西の隠し口の4つ。
南側からは小部屋で行き止まり、西口は何者かの土系魔術によって封鎖されており
北口はハロルド本人の手により爆砕準備済みである。
真上から見れば各入口と洞窟の中央を直線で結んだ様になっている。あとは高低差を鑑みればいい。
因みに彼らに取っては埒外のことではあるが、西口を封鎖したのは1日目夜にカイル追撃に失敗したデミテルであり、
現在分岐路と小部屋を隔てる落石の壁には南側から溜弾砲が見事に杭となって貫通している。
石灰質の洞穴である以上南北と繋いだであろう水路が存在するはずだが、それは消失している。

「ハロルドの薬が有る部屋は隠し口と中継点の間と書いてあるな」
確かに表からでは部屋にたどり着けない。予定通りならハロルド・トーマとの合流地点はそこである。
「だが目的がもう違っているぞ。 ミトスがE2直進して来たなら入っていくのは普通表口だ」
北から入りミトスの痕跡を探るのが先か、一縷の望みをかけてトーマとの合流を狙うか、どちらのエリアから探索するか。
禁止エリアの打ち方からしてプリムラとリオンがやってくる可能性が高い以上どちらを選ぶのかは重要である。

ヴェイグは腕を組んで無音で唸るなか、グリッドはメモをペラペラとめくっていく。
(…?)
紙束の一番最後の紙、その一枚に目を通す。
紙の全体の上部二割に雑多に書き散らした後、残り八割が真っ白の最後尾である。
どうせなら詰めて切り良く二割を押し詰めればいいのに、そう思いながら紙束を戻してヴェイグの方に向き直った。

いや、そうではない。
グリッドが見たのは‘ヴェイグの奥’だ。
ふらふら、ふらひら、ひらひら、ひらふら。
向こう側のその奥で虫が手招いている。この蟲だ、グリッドは確信した。

23 :青い森にて 12 修正:2006/10/17(火) 18:16:19 ID:8zwcdYXz0
ヴェイグは顔を上げた。目の前にはグリッドの顔ではなく、交差した腕があった。
「あぶねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
交差したグリッドの両腕は見事にヴェイグの喉元を直撃し、グリッドもろとも地面に倒れた。
グリッドに覆い被さられながら、手に持った短刀に氷を伸ばす。
今なら迷い無く殺せそうだ。
そう魔が差した所に、ヴェイグはグリッドの背中越しにそれを見た。
ヴェイグの頭が先ほどまであった位置に青い蝶々がいた。
小さく弧を描いて、ふらふらと離れるまで約十秒。

「あ…あぶなかった」
「…どけ」
安堵するグリッドの顎を押し上げてヴェイグは立ち上がる。
双眼鏡で蝶の向かった先を見たが、もう小さすぎてやっと識別出来るくらいだ。
なんだあれは、とチンクエディアを片付けて云った。
グリッドが気付くのが遅れていたらヴェイグの頭に触っていたのだろう。
知らん、グリッドはそれだけを云った。
「だが、あ、あれはヤバい。マジヤバ。あれは不幸の蝶々だ。鳥は幸せを運ぶんだからいいとしてあれは駄目だ!!」
不幸しか喚ばんぞ特に反縁結限定、グリッドは根拠がない割りにはハッキリと滑舌能く云った。
「…それがテルクェス、と云うものの性質か」
ヴェイグは一言、それだけ云った。そこで漸くグリッドはキールの話を思い出す。
「いや最初から知っていたんだが矢張り実物と口伝の差はでかい…ってかじゃあ奴近くにいる?!」
「わざわざ近くに斥候を放つ奴が居るか、近距離で存在を相手に教える位なら地道に探して奇襲した方が良い」
故に情報第一の捨て駒であることは自明である。敵を倒すため、というよりは敵を探すためか。
「俺達が…見えていないのか?狙いは…もしや」


「G3!?こうしちゃおれんいくぞヴェイぐっ」
走り出そうとしたグリッドの服をヴェイグが掴む。直ぐに手を離して荷物を整え始めた。
「…南側に迂回して裏口に回るぞ。北がハズレであの蝶が入ってきたらもう避けられん。出口が2つある南を先に潰す」

いくぞ、とそれだけ云って。おう、とそれだけ返された。
どうやら結論は先送りにしても良いらしい。

24 :青い森にて 13 修正:2006/10/17(火) 18:43:27 ID:8zwcdYXz0
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP40% TP50% シャオルーンの力を使用可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア エルヴンマント ミトスの手紙
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:テルクェスよりも先にG3北裏口に向かう
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:F2/F3森

【グリッド 生存確認】
状態:不屈の正義感 ロイドの作るアイテムにwktk
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:テルクェスよりも先にG3北裏口に向かう
第二行動方針:いたらプリムラを説得する(出来ないなら拉致)
第三行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第四行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:F2/F3森


25 :その名の元に1:2006/10/18(水) 17:49:52 ID:KTk3QR6oO
ああ、兄さんが呼んでいる。
いかなきゃ、いかなきゃ。


時は第四回放送前に遡る。
今の今、この会場で消え入りそうな虚ろな魂。
自分から自分が離れてゆくのがわかる。ずっと使っていた肉体から離れ、永遠にも思えた体と精神の楔がゆっくりと抜ける。
元々そこにあったかのように、そう定まっていたかのように、魂が冥界へと帰依してゆくのを感じる。
辛かった。苦しかった。
体中、とにかくどこもかしこも痛かった。
何度飲み込んだかわからない涙で胸は張り裂けそうで悲鳴を上げている。
しかしそれらの心のどす黒く悪い膿が綺麗に抜けて、深い深い場所で昇華される。
ふわりと自分の全てが軽くなる。
心地よい場所。この世の形の真理だろうか、無色の安らぎの宇宙が全てを包み込み抱擁するかのように、招かれるがままにただただ彼女は還ってゆく。
形も思想も善悪も何もない。
それに名前があるとすれば究極の。

幻覚だろうか。
今まで戦争で亡くした愛しかった人々が朧気に眼前に浮かび上がっているのを感じる。
そして数多い影の中で尚くっきり浮かぶ一体の影。
それに触れたくて、苦しいほど懐かしく愛おしくて、もう実体のない腕を伸ばした。

『なーんてね』

彼女は伸ばしかけた手をしまい、フッと笑った。
『本っ当に有り得ない程大きなカケだったけどね。まさに命懸けの。まあ天才の私に掛かれば実力が伴った当然可能な行動なんだけど』
死しても尚、彼女はいつもの自信満々の弁調で「兄さん」の影に言い放った。
影はゆらりと不安定に動く。
『大丈夫よ、心配しないで。私がすっごく負けず嫌いなのは百も承知でしょ?もう本当にギャフンと言わせてやるんだから!!』
けらけらっとその声は高く。影はそんな彼女を咎めるでもなくただ見つめていた。
けれどまるで「全く、君は本当に相変わらずだなあ」と柔らかに笑いながら溜め息を吐いた気がした。
『きっと兄さんの手を取れば幸せよね。
生は基本的に苦痛だもの。
私は充分もうそちらに行ける権利がある。だからその手を取ってもいいんだけれど…』
彼女は一度しまった手のひらを見た。
一瞬名残惜しそうな目をするが、開いた手を握りしめる。
まるで一つの決心を握りしめるかの様に。
再びその決心で命の火を灯すかの様に。
朧な魂が光を纏ったかのように輪郭がはっきりと輝く。
既に無い心臓が更に力強く脈打ち、既に無い血流が巡る。



26 :その名の元に2:2006/10/18(水) 17:51:18 ID:KTk3QR6oO
「何か」と共鳴し、第二の生命の声が吹き荒れた。
呼んでいる。まだまだ他に帰る場所はある。
出来ること、やらなきゃいけないことが沢山ある。
彼女自身が刻んだ遺伝子と魂のプログラムが彼女の眼光を鋭くした。
ニヤリと不敵な笑いも健在だ。

それを見ると影は彼女の前から姿を消した。
暖かい風が周りに穏やかに吹いた気がした。
『兄さん、ありがとう。
ただあと少し、あと少しこの波乱の行動ばかりする妹を見守っていて下さい。
ま、何があろうがばっちり生き残るつもりだけどね!』
鼻息荒くそう言うと、踵を返すかのように彼女の魂はどこかへと引きつけられるように飛んでいった。
その先にあるのはあのまがまがしい玉座。
そこにいる人物、そして携える獲物は―――――

どうしようもない程の負けん気。
自分の命、死さえも利用する度量。
そしてそれを彼女自身が動かせる切り札として使う事を可能にする、凡人を遙かに凌駕した頭脳。
そんな事が出来る人物がこの世にいようか。
いや、ただ一人いたのだ。
かの天才科学者。

彼女の名はハロルド。
ハロルド・ベルセリオス―――――



27 :凶牌の予蝶 1:2006/10/25(水) 19:10:18 ID:d6M04nwQ0
午前11:30・C3村

ミントwith拡声器「ボスケテ(デフォルメ・無設定ではこのメッセージになります)」

同時刻・G3洞窟〜C3直線間(想定では計画実行時E2・D2付近と予想。

麦茶吹いたロイド一味。
ロイド「オイ今の声って!」
影の薄っすい確かバンダナしてた男(名簿ではグリッドと表記)
「ああ…俺の記憶に間違いが無ければミントって無駄に最終兵器なボディしてる、フェロボンねーちゃんだ!」
何か瀕死だった男(名簿ではヴェry
「なんてこった!南に向かったと見せかけてC3村に戻り俺達を欺くとは…
 後1時間G3のメモを手に入れるのが遅かったら危なかったぜ!!」
グリッド「しかし…あの弱々しい声は一体…っていうか気持ち儚げでほんのりエロス」
カイル「エ、エロ…?みみみ…ミントさんにあああんな事やこんな事やそんな事までミトスてめーぶっ殺す!
信じてたのに信じてたのに…決闘すんぞ決闘!首洗って巨大ロボ乗って待ってろや伯爵ゥゥゥゥ!!」
確かC3にいたような気がする奴(名簿ry
「オマイラモチツケつ旦 120%罠だから行くのはKOOLじゃないって。放置して上手いことクレス達とぶつかって貰おうぜ」
ロイド「アホはお前だ!そんなことしたらコレットがクレスに殺されるだろーが!!行きましょう隊長!!」
ヴェイグ「良く言ったロイド。それでこそG○Gの勇者だぜ!!」
カイル・ロイド・ヴェイグ先行開始
キール「…どーせ僕はダメ人間だよ。その上にクズとウスノロを足してもいい…ダメ人間だ…勝手にしろよ」
ネレイド(名簿は別名みたいだが興味なし)
「…ロイドさんが死んだらほぼ私達の負けですけどね。とっとと追いかけましょう」
残りメンバー、先行メンバーから遅れて移動開始。


同時刻・位置不定(体力の消耗具合から考えてC3周辺で此方の手を伺っている可能性高し)
ティトレイ
「…鐘、ですかね…プププ…」
×××(口にするのもおぞましい)
「いやそれ俺のキャラだし。勝手に盗んな」
ティトレイ
「そんなことはどうでも良いからさっさと以下の選択肢から決めやがれハゲ。
 この椅子の上に体育座りってのが窮屈でしょうがねーんだよ。こんなんで推理力が上がる奴なんて気が知れねーな」
×××(ハゲ)
「…声の主を…
1・解体して、やってきた奴も殺す<]
2・やってきた奴を先に殺して、刺殺する
3・放置して先に殺しにE2に行く→どうせ入れ違いになる→C3で全員斬首刑
…これ全部同じじゃね?まいっか」

ティトレイ・×××、C3に向け移動開始


12時以後・C3村にて予定人員の全員集結及び戦力摩耗確認武力介入。
×××から魔剣を奪取し儀式執行。終了後ティトレイ・クレス殺害、しかる後消耗したロイド組と威力交渉開始。

28 :凶牌の予蝶 2:2006/10/25(水) 19:10:51 ID:d6M04nwQ0
「…斯くして儀式は正否はともかく達成され、
 (脱出・全滅等)後顧の問題に速やかに取りかかる…ってのが僕の現時点での最上だね」
C3を一望できる鐘楼から家々を俯瞰してミトスは言葉を締めた。
『C3に来てからの肝心な所が不明です』
「余計なお世話だ。状況を構成する要素が足りなくてここまでしか読み切れないんだよ」
そこから先は実際的予測ではなく希望的予測か悲観的予測しかできない。
ロイドとカイルは兎も角他の連中は碌に話もしていないので性格も読み切れないから若干都合良く納めるしかないが、
確実に読み切っているロイド、カイル、ティトレイを押さえれば多少の誤差はあれど先ほどの構想通りに事は運ぶだろう。
ミトスの狙いは人質を餌にロイド組を釣り、それを餌に生き残った参加者を残らず釣ることである。
ミクトランによって封鎖が始まったことにより、生き残った者はこの鐘に影響を受けざるを得ない。
もし西に取り残されれば、なにも出来ずに野垂れ死にだ。どんな人間だってそれは御免被る。

C3に連中を落とし込んだ後の戦略が無いわけでもない。(ティトレイ達、ロイド達との三つ巴ならば)
鐘が鳴った後にコレットとミントは安全な場所に避難させて、二組の戦闘を観戦。
適当に減耗した参加者を集めたところをボコボコにすればいい。その為の鉛の鋼線は設置済みだ。
ただティトレイがミトスの存在をロイド達に明かす可能性はあるが…
(その時はイノセント・ゼロで一気に全員拘束するしかない)
ミトスが温存している最大の弾丸、イノセント・ゼロ。
麻痺、毒、術技封印、熱病、守備低下etc…戦闘領域全域の対象を複合異常状態に貶める天使術。
この視界良好なここから放てばC3村全域を確実に納めることが出来るだろう。
唯一の弱点である発生から発動までの隙もここでなら問題はない。
この位置ならば発生に気付いたとしても地上から鐘楼まで届き且つミトスに術止めのU・アタック級大ダメージを与える術は
ほぼ無いと言ってもいいから十中八九発動は確定的だが、しかし。
(確実とは言えないな。リカバーや異常耐性のアクセサリ等抜け道があるしな…何より…)
本当にこれでいいのか?ミトスはこの計画への不安を禁じ得ない。

もし、もし第三勢力が、特にあの化物が鐘を鳴らす前にC3に来れば計画は一気に消滅する。
確かに鐘が鳴った後なら、ティトレイ・ロイドが集まってからなら不確定要素の介入は歓迎だ。
だが、11:30より前にここに来られては計画はお仕舞いだ。
ミントが鐘でなければこの計画は成立しない。
コレットは声を出せないし僕が喋っても簡単に罠に飛び込んできてくれるとは思えない。
生きたミントの悲痛な肉声は必須だ。それまでは何としてもミントは死守しなければならないのだが…
この状況下で午前中に化物がここに来たとする。
ミントは動かせないし今ひとつ命令の利きが悪いコレットは役に立たないから僕が戦うしかない。
ソーディアンを手にしたから単体でも勝ち目がない訳ではないが、
消耗した僕にその後の計画を遂行する戦力が残るとは思えない。僕が一番に脱落する最悪の形だ。

29 :凶牌の予蝶 3:2006/10/25(水) 19:11:25 ID:d6M04nwQ0
化け物程ではないが存在の不明な3人も危険だ。
どう見てもマグニスと同型パワーファイターであろう、トーマ。
なにやらミクトランとホットラインを持っていた節のあるリオン=マグナス。
もう1人はどう見ても一般人だろうから良いとして不確定要素3人は少し多い。
ミトスがリオンと接触したとき、アトワイトが同族たるシャルティエに聞いた数少ない情報曰く、
リオンはマーダーであるらしい。
目の前で女を斬られれば(このゲームにおいて)普通やることは決まっている。
そんな男は24時間前に北東部を南下した。
グリッドとヴェイグの行動隊形を見るに、恐らく後詰めが居る。(少なくともあの時点ではいた)
情報としてはこれだけ。読むには足りなすぎる。

もし北の橋を渡って24時間遅れで3人がC3に来たら?
3人とも全員マーダーで僕と戦闘になったら?
3人が南の橋を渡ってG3の演出を滅茶苦茶にされたら?
もしロイド組と衝突してC3行きを奴らが物理的に断念したら?

危険の種はそこら中に広がっている。危険だ。策士の策ではない。


(だがもう時間がない…ミクトランに頼み込むよりかはまだ可能性がある)
ミトスは自分の経験から鑑みて、ミクトランの言を信じていない。
この点に関しては奇しくも戦友であるユアンと同意見であった。

何なら、このゲームで死んだ者全てを蘇生させた後で、各人の故郷に送り返してやる―――――――
ミクトランはそう言った。
莫迦の狂言としか思えない。そんなことが簡単に出来たら最初から僕だってやっている。
エターナルソードで時間を遡り、マーテルの死ぬ歴史を回避できれば
わざわざ4000年もまだるっこしいことをする必要はなかったのだから。
歴史を操るのは禁忌中の禁忌に他ならない。
この島で死んだマーテルが生き返っても元の時代に戻った彼女は歴史通りに殺されるだろう。それでは意味がない。
ならばマーテルが死ぬ歴史を変えれば、その歴史の上にいる僕の存在が危うい。
時間は可逆だが歴史は不可逆、それが時間を操る者の理だ。
ミクトランがどうやって死ぬべき歴史を甦らせるのか、そのビジョンが見えてこないのだ。
時空の理を司るオリジンを黙らせる形も見えてこない。
あの場所で見せた力とこの状況を作り出した力だけではそれが可能だと信じるには大分足りない。

ミクトランが願いを叶える気がない、と考えるほうが理に沿っている。
もしマーテルが生き返り、且つマーテルが死んだ歴史を変えることが出来るとするなら、
それは彼の4000年の否定に他ならない。

30 :凶牌の予蝶 4:2006/10/25(水) 19:13:00 ID:d6M04nwQ0
『どうしました?』
「いや、少し下らないことを考えただけだ」
ミトスは首を覆った(約半分とはいえミトスの体には十分マントの大きさだ)スカーフを指で弄ってみる。
絶望的な状況に少しナーバスになったのか?
とにかく情報も戦力も物資も何もかもが足りない。
いや、別にマーテルを諦めて本気で優勝だけに狙いを絞れば十分に事足りるのだが…
ミトスの目指すべき目標が恐ろしく高いのだ。

こんな不安定で何時破綻しても文句を言えないような戦略を立てなければいけないのも偏にそれが原因である。

戦略には2つの選び方がある。
想定される最大の損害が最小になるように決断を行う戦略と、
想定される最小の利益が最大になるように決断を行う戦略の2つだ。
平たく言えばリスク軽減に重きを置くか、リターン増加に重きを置くかである。
通常の戦争ならば前者を選ぶミトスが選んだのは後者であった。
ミトスは自らの目標に追い詰められて博奕をせざるを得ない状況にいるのである。
だからといって退く気はない。もし自分だけが生き残ったとしても、コレットが死ねば戻っても詰んでいる。
ここで出来るならば、ここで何とかしなければならない。

そこまで追い詰められたミトスはその執念でここまで状況を運んできた。
ミトスは考える。今予定を繰り上げてミントを無理矢理鳴かせててはどうか?
そうすればロイド達はおろかティトレイ達を回復不完全な状態でここにおびき寄せることが出来る。
そうすれば確実に、少なくとも11:30に鳴らすよりは高確率で現状の戦力で2つのパーティを撃破できる。
早ければ早いほど確実に利益を手にすることが出来る。この運気の流れが変わる前に手を打てば、打てば。

ミトスは拳を握ってその誘惑に耐えた。1つの根拠のない妄想、ある種の予感。第六感が告げている。

まだ早い。
根拠は特にない。

「…本当に下らないな」
ミトスは眉間を揉んで思考を現実の方向に向けた。理屈を練ってみる。
敵の参謀が慎重な性格だったら、ある程度は回復しなければ来ないかも知れない。
しかし遅すぎればティトレイ達がしびれを切らして単独先行するかも知れない。
その限界線として正午の30分前に予定時刻を決めた。変更の要はない。

31 :凶牌の予蝶 5:2006/10/25(水) 19:14:37 ID:d6M04nwQ0
必要なことは既にやっており、今はすることが何もない。それがもどかしかった。
(ゼロスかマグニスかクラトスかユアンが使えたら午前中にも仕事はあったんだがな)
とにかく別働隊を出す戦力がないことが痛い。もし出せたらやることは決まっている。
まずD2・D3の高台に伏兵を配置する。
現状のロイド組がどれだけの規模であるかは分からないが、恐らくロイド・カイルを含めた先行部隊が
突出してC3に入る形になるのは想像に難くない。
少なくとも全員が最大速度の7割以上で行軍すれば魔術師系と戦士系の移動速度限界の差によって必ず距離が開く。
上手くいけば丸々後衛を取り残して前線が突出するという贅沢な状況が出来るかも知れない。
この血が上って突出した間抜けの前衛を高台の上でやり過ごして、トロトロと遅れてやってきた薄着の後衛を伏撃で半殺しにする。
前衛の相手はティトレイに任せてあとは情報を奪うなり人質にするなり縦横無尽に利用できる。
そもそもまともに前衛後衛を整えた隊列を整えたパーティとティトレイ達がぶつかれば
ティトレイ達戦闘系のみのパーティでは敗北は免れない。
石・鋏各Lv9だけで石・鋏・紙各Lv6の混合部隊に挑む様なものだ。
これではロイド組に余力が残ってしまう。
まずは石と石で衝突して欲しいミトスとしては先に別働隊でロイド組の魔術師を叩いておきたいという構想があった。

(いっそ僕が別働隊として…いや、それでは人質を守れない)
対×××・カイル用のカードであるミント、対ロイド用のカードであるコレットの確保は必須条件だ。

人員があと1人…それが無理ならせめてコレットがまっとうに使えれば問題ないのだが。

下らない。無い物ねだりに、常軌を逸した博奕。砂上の楼閣のような計画。
これだけの無理が通ったとしてもまだ大願成就には程遠い、ミトスはそう判断していた。
足りない。
ティトレイ達とロイド組は(タイミングの誤差は別にして)確実にC3に来る。
漁夫の利を狙うのはそう難しいことではない。
昨日の行動によって、既に手持ちのカードだけでもストレートフラッシュ位は完成している。
足りない。
そんなものでは全然足りない。
ファイブカードを狙うくらいの博奕を張らねば張らない。
しかしジョーカーは何処にあるのか、どこに来るのか、
相手に高役が入る前にやはり手持ちの役で勝負するか、ミトスはその呼吸のタイミングを計りかねていた。

32 :凶牌の予蝶 6:2006/10/25(水) 19:15:30 ID:d6M04nwQ0
『ミトス』
突然アトワイトが非常に軍人らしいアクセントで言葉を発した。
ソーディアンとしての彼女がこういった口調になったことはほとんど無い。
気怠そうにミトスが青い光を目で追いながら生返事をする。焦りを見せる気は無い。
『お困りですか?』
「別に」
『具体的ではないですが、打開案が無いわけでもありません』
ミトスは目を細めた。どうにも洞窟での一件以降アトワイトの態度は忠実、その一言に尽きる。
ミトスの言葉によって増幅された彼女の中の自責の念は既に彼女だけで支えられる重さではなくなっていた。
アトワイトは2つの方法によってそれから逃避することを選んでいる。
『コレットを使いましょう』
「それが出来たらやっている。あれはもう器以外には使えないよ」
今のコレットは人形ではあっても自動人形とは言い難い。それほど役に立たない。
コレットはたった1つの思惑でミトスに付き従っている。
それはアトワイトの逃避法論の1つであった。
何も考えずに、ただ人形のようにミトスに付き従う。それだけだった。
その効能もたった1つ。自らが負った罪、或いは矛盾への責任転嫁である。

コレットの場合、ミトスの手によって「守るべきリアラを自らの手で殺す」という現象によって彼女の論理は破綻した。
これが唯の機械なら機能を停止してしかり、G3に取り残されるべきである。
しかし彼女は自己を保たねばならなかった。唯の天使としての本能だった。
故に彼女のロジックは1つの解決策を生み出す。
「自らがリアラを殺した」のではなく「ミトスの指示によって彼女を殺した」と自分を改竄した。
ミトスの配下にいる限り、彼女はリアラを殺したと云う責任をミトスに押しつけることが出来るのだ。
そしてプログラムの下で目を瞑り耳を塞ぎ考えることを止めている彼女の意志も大してプログラムと変わらない。
考え始めれば、彼女が彼女として戻れば、リアラを殺したという現実との対面は避けられない。
現実と向かい合う強さは、今の彼女には残っていなかった。
しかし、完全に人形として全てを諦めることが出来るほど、コレットは弱くなることも出来ない。

故に彼女は人形としても破綻を続けている。
そしてその破綻を続けている彼女は、一匹の虫を見ていた。

目の見えぬもう1人の彼女もそれが彼女に近づくのをハッキリと見ていた。
それは彼女の言葉で言うならば、唯のマナの塊だったから。

33 :凶牌の予蝶 7:2006/10/25(水) 19:16:13 ID:d6M04nwQ0
『私がコレットを直率します』
「僕が命令しても、お前が命令しても状況はさして変わらないよ」
ミトスはため息を付いた。首を鳴らして嫌な音を出してみる。
今見たのは何だったか…何処かで見たように思うのだが。
『はい――――そうではありません。ソーディアン・ベルセリオスが行った機能を私が彼女で行います』
「…何が言いたい?」

アトワイトもコレットと同様に、ミトスの道具となることで責任から逃避しようとしている。
しかし、アトワイトの場合それが積極的だ。
エクスフィアによって彼女の武具としての価値が高まったからであろう。
マリアン、ゼロス、C3にスタン、カイル、リアラにミント…彼女はここに至るまで無力すぎた。
しかし、今の彼女は酔い痴れるに十分な機能の促進を実感していた。
第一形態から第二形態へとなったときのように。
力は人を惑わせる。それはソーディアンでも例外ではない。
慚愧、後悔、煩悶…それらの感情、それが感情と呼べるのであれば、を
エクスフィアが喰らっているのも理由の1つかも知れない。
今エクスフィアを奪われれば、彼女もまた自分の罪を1人で背負わなければならなくなる。
力も失う。それが今の彼女には耐えられなかった。
道具であれば、彼女は何もかもを見なくて済む。
ソロンより解放されたディムロスを羨ましがる気は彼女にはなかった。そんな感情は直ぐに喰われてしまうから。


『はい――――私が彼女を逆に支配・運用します。今の私と今の彼女ならば、不可能ではありません』

人の形をしていない人形と化したアトワイトの具申と同時に、
人質を置いた家で一瞬魔力が弾けた。
ミトスがそれが滄我と呼ばれるものの波動であることを理解し、
あの化物がマシンガンより放った青い弾丸と、今通り過ぎた青い蝶を結びつけたのはほぼ同時刻だった。


34 :凶牌の予蝶 8:2006/10/25(水) 19:17:40 ID:d6M04nwQ0
【ミトス=ユグドラシル 生存確認】
状態:TP85% ミント殺害への拒絶反応
所持品:エクスフィア強化S・アトワイト ミスティシンボル
    大いなる実り 邪剣ファフニール ダオスのマント
基本行動方針:マーテルの蘇生
第一行動方針:ミント達の元へ向かい、戦略の立て直し
第二行動方針:C3村でティトレイ達とロイド達を戦わせて両サイドを消耗させる(可能ならシャーリィを巻き込む)
第三行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第四行動方針:蘇生失敗の時は皆殺しにシフト
現在位置:C3村・鐘楼最上部

*ミトスはシャーリィが未だフィギュア化していると思っています

【ソーディアン・アトワイト】
状態:エクスフィア寄生による感情の希薄化 自分の犯した罪からの逃避 力を失う事への恐れ
基本行動方針:積極的にミトスに従う(何も考えたくない)


【ミント・アドネード 生存確認】
状態:TP5% 失明 帽子なし 重度衰弱 左手負傷(処置済) 左人差指に若干火傷
所持品:拡声器 サック(ジェイのメモ サンダーマント)
第一行動方針:…どうすれば…
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:C3の村の民家

【コレット・ブルーネル 生存確認】
状態: 無機生命体化
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック ホーリィスタッフ
基本行動方針:防衛本能(自己及びミトスへの危機排除。若干プログラムにエラーあり)
第一行動方針:ユグドラシルの言うことを聞く?
現在位置:C3の村の民家

35 :死天使の鐘は、されど響き1:2006/11/03(金) 19:11:59 ID:hnjd9F3F0
見えず、聞こえず、話せず。
それでも生きる希望を失わず、多くの人々を励まし続けてきた三重苦の聖人。
ミント・アドネードは母に聞かされたその伝承を、思い出していた。
今自らがおかれた状況が、かの三重苦の聖人と酷似していたからか。
はたまた、三重苦に耐えた彼女の気丈さにあやかりたいと言う、詮無い望みゆえか。
ぼぐ。自らの胸元を蹴り上げられる衝撃。
(いやぁっ!!)
ミントは思わず口元から悲鳴を上げた。悲鳴を上げる時の呼気を吐いた。
『サイレンス』の術式が、空気の震えを禁じているこの部屋。自らの悲鳴さえ、聞こえない。
法術『サイレンス』は魔法封じの術。
周囲の音の発生を完全に止め、更に体内の魔脈に戒めをかける事で、魔術やそれに準じる力の行使を完全に封じる。
ミントには、すなわち音も聞こえない。光を失い、耳も聞こえない。
嗅覚や触覚、味覚といった感覚が退化している人間にとって、視覚と聴覚を奪われること…
それはまさに、永劫の暗黒の世界に監禁されているかのごとき恐怖を、彼または彼女にもたらす。
もはやまともに頼れる感覚は、触覚のみ。
立ち上がり、しゃがみ、這い、この部屋の床や壁をさすって回る。
視覚も聴覚も封じられることがこれほどの恐怖だと、ミントは改めて思い知っていた。
そして、その徘徊の結果として受け取ったのが、先ほどの蹴り。
おそらく、蹴りを入れたのはコレットか。地面に仰向けに倒れこんだミントは、そう推測する。
「自殺しないように監視してろ」とは、つい先ほどこの部屋を去っていったミトスの命。
そしてその命には、無論のこと「ミントの脱走を許すな」という言外の指示も組み込まれている。
原則として何もしないコレットが自身を蹴り倒したということは、コレットのいる側にドアがあるということ。
ミトスが一旦は解いた『サイレンス』。その際聞いた、退出するミトスの足音の向かった方向からしても間違いない。
また、蹴り倒されて以降、家の床には震動が伝わってこない。
つまり、コレットはドアの前で待機し、動かぬままという事か。
そのまま、四つん這いで床を進むミント。時おり、傷付いた左手で宙を描きながら、壁がないかどうか確かめる。
ミトスの剣に貫かれ、そして先ほどは正体不明のマナの塊に焼かれ、ボロボロの左手を。
(この辺りには…『あれ』があるはず…)
そう、窓が。
先ほど床を這いずり回ったとき感じた温もりが、ミントにそう推理せしめていた。
部屋の床の一箇所…ミント自身確証はできないが、それも暖かい部分が四角形をしていた…
ということは、ここはフリーズキールやアーリィのような寒冷地でない以上、床のぬくもりのもとは暖房器具ではなく日光。
そして日光が降り注ぐということは、窓があるはず。
角度的には、この辺りの壁に…
そして、ミントの手には窓のガラスの、冷たい感触が伝わった。
(冷たい?)
冷たい。ミントの手には、あるはずの温もりが感じられない。
そのままあちこちに手を滑らせてみても、同じく。
カーテンのような遮光器具なしにこの冷たさ。ということは、考えられる可能性は…
(まさか…!)
窓の外側に、何か日の光を遮るものがある。
おそらくは、ミトスが外側から大きな木の板か何かを釘で打ちつけ、止めている。
無論、脱走防止用に。おそらく、釘を打ちつける音は『サイレンス』でかき消されていた。
ミントは、そのままへたり込みそうになった。だが、考えてもみればこれくらいは当然のことか。
本性を見せたミトスは、実に狡猾で抜け目がない。
自分のような無力そうな人間にすら、荒縄で四肢を縛り上げ『サイレンス』のかかった部屋に閉じ込めるくらい。
おまけに武装解除の一環として、一度は自分を素裸にするほどの、執拗極まりない身体検査をやってみせた。
そんな彼が窓からの脱走の可能性を見落とすなど、シルヴァラントの月がテセアラの月とぶつかってもありえまい。
(だったら…)
もはや、自身に残された手立てはないのか。
このまま、ミトスの思惑通りにクレスの注意を引くという選択肢以外、手はないのか。
否。そんな手を選べば、待つのは破滅のみ。クレスのみならず、他の参加者までもがミトスの毒牙にかかる。
だが、自らに彼の毒牙を折る術はない。光を失い耳を塞がれ、法術を禁じられ。あまつさえ武装は完全に解除されている。
この状態で、ミトスと渡り合うなどできぬ相談。
アルベイン流稀代の剣匠であるクレスですら、こうなったならどれほどの抵抗が出来ようものか。

36 :死天使の鐘は、されど響き2:2006/11/03(金) 19:12:59 ID:hnjd9F3F0
(クレスさん…どうすれば……どうすれば…!?)
絶望感と無力感のあまり、ミントは思わず膝からくずおれる。傍らにあったテーブルに、手がぶつかる。
その時。
かしゃりと手に何かが触れた。細くて冷たい、何か。
(?)
ミントは、その手応えに思わず疑問符を浮かばせる。
(これは…何なのでしょうか?)
もしこの時ミントの目が見えていたなら、「それ」の正体はすぐ分かったであろうに。
しかし、盲目・聾唖の聖者と化したミントには、それはただ空しい高望みに過ぎなかった。
その細くて冷たい何かに触れてみる。指でつまみ、つつと表面をしごくように撫でてみる。
曲がっている。やや固い。しかし、比較的弱い力で簡単に別の方向に曲げられる。
そしてそれは、蛇がとぐろを巻くかのようにしてまとめられている。
何か、固い糸のようなもの。そして、表面は冷たい…
(…針金!?)
ミントは、閃いた。
そう、この手ごたえや手でなぞった形。これを「針金」と思えば、確かに自らの触覚のもたらす情報は全て符合する。
そしてミント自身はあずかり知らぬが、今彼女が手にした針金は、ミトスがこの村に敷設した針金の切れ端。
もし今彼女を見張っているコレットに意識があれば…
ミントが悪夢の世界で悶え苦しんでいた内に、ミトスがこの部屋に針金の残りを置いていたことを証言していたであろう。
そして例えば、ミントの仲間であったすずの手にかかれば、これはちょっとした鍵開けの道具にもなっていただろう。
ミントはそのまま、針金の先端まで指を滑らせてみた。
鋭い。おそらくは何らかの金具を用いて、適当な長さに切断されたがゆえだろう。
ふつう工作に慣れた人間であれば、針金の先端を火で炙って、先端を丸くしてからしまうなり何なりの処置をする。
だが、あまり悠長なことをやってられないとでも思ったのだろうか、ミトスはそんな処置を行っていない。
(!!)
だとするなら。
これを使えば、まだ目はある。
ミトスの目論見を突き崩す、一抹の希望が見えてくる。
(…ですが…)
しかしその方法は、あまりにミント・アドネードという人間の自己同一性とかけ離れている。
アセリアの地を旅してきた頃の彼女なら、絶対に選ばなかった…
それ以前に、選択肢として思いつきもしなかったであろう、禁じ手。
ユニコーンにすら選ばれた清き乙女ならば、何があろうと成してはならない不徳。
だが、ミトスの悪夢に精神を陵辱された今の彼女は、「その手」を思いついてしまった。
彼女の強靭なはずの精神力は、確実に崩壊への歩を進めている証左は、その事実にもあった。
だが、それ以外にどうしろと?
ミントはここにはいないはずの第三者に、心の中問いかける。
このままミトスの策が成れば、誰一人として助からない。
大怪我を負った手足を切り落とすことを拒んだがゆえに、血腐れ病を発症し命を落とす患者のように。
しかし、今なら…
怪我を負った手足から、全身に腐った血が流れ出す前。
切り落とせば、患者は助かる。
やってみせる。やらねばならない。
激しい葛藤の中、ミントは決心した。
かくなる上は、「あの札」を切る。
「あの札」を切るには…そのために稼がねばならぬのは、六手。
ミントはいつもの感覚から計算する。
この状況では、己に許されたのは精々が半手と言うところ。
コレットが全力で妨害にかかるこの状況では、そのまま「あの札」を切るなどできまい。
だが、「初手の札」を切れば…「初手の札」をコレットに直撃させられれば、六手の隙は辛うじて作り出せる。
そのためには、自力で「初手の札」を切るための、一手分の隙を自力で作らねばならない。
逆に言えば、その一手分の隙を作り出せれば、あとは一気に「あの札」を切るまでの道筋が出来る。

37 :死天使の鐘は、されど響き3:2006/11/03(金) 19:14:23 ID:hnjd9F3F0
(今他に…使えそうなものは…)
ある。ミトスが腰掛けていたベッド…そこにかかったシーツ。これを使う。
まさに紙一重を十に裂いたよりもか細い、成功への道。
もとよりこの状況は、ミント側が圧倒的に劣勢の立場にある。
どこか一箇所でも立ち行かなくなれば、その瞬間「詰み」が確定する。
それでも、やってみせる。やらねばならない。ミトスの凶手を、阻むためにも。
ミントは、強い決意をめしいた瞳に宿した。
そしてそのまま、体を部屋のベッドに投げ出した。
右手には、先ほど手にした針金を、強く握り込みながら。
コレットは、ミントのその動作を、静かに眺めていた。
ミントは、半ば無理やりに自らの意識を夢の中に沈めていた。
もう二度と、あの悪夢の世界への扉をくぐらぬことを、祈りながら。



38 :死天使の鐘は、されど響き4:2006/11/03(金) 19:15:16 ID:hnjd9F3F0
どこかとってつけたような爽やかさを帯びた風が、ミトス・ユグドラシルの光翼をふわりと撫ぜた。
さわさわと頬を撫でる金の長髪を、彼は煩わしげにかき上げる。
その髪は、幼い少年の姿によく似合う柔らかな手触りを残し風にほぐれた。
手元の砂時計に残る砂の量は、そろそろ全体の半分を割ろうとしている。
すなわち、次の放送までの折り返し…正午が、近い。
あと10分で、定刻。自らがあの劣悪種に課した決定を、問いただす時刻。
与えた時間はたっぷり4時間。そして、それだけの時間は有意義に使った。
(…勝率、七割ってところかな)
ミトスは慢心も衒(てら)いもない心の中で、己が策の成る率を計算してのけた。
これ以降の作戦の見直し。三度も四度も繰り返し、しつこいくらいまでに己が策の再検討を行った。
そして頭がそれだけの思考で働いている間に、体内の魔力は完全に満ちた。
今なら出せる。まごうことなき全力を。
客賓をもてなす正装は、少年ミトスの姿。初手の『タイムストップ』のための布石。
(やっぱり、最もリスクを低くして『タイムストップ』を撃つためには、ボクはこの姿でいるのが一番いい)
今から約24時間前、そして30時間前に立証された通り、
ミトスはいずれの姿を取ったままでも、己の体得している全ての術技を用いることが可能。
ミトスの姿のまま、『ユグドラシルレーザー』を放つことも。
ユグドラシルの姿のまま、『タイムストップ』を放つことも。
だが、やはり「力」に特化した術技を放つためにはユグドラシルの姿が…
「技」に特化した術技を放つためにはミトスの姿が、それぞれ最も適している。
(この期に及んで無理な力の行使をして、その反動でまた天使術が使えなくなったら、
それこそ目も当てられないからね)
無論天使術なしでも、ミトスがこの村を舞台に戦う限り、彼の優勢はまず覆らないだろう。
初手の『タイムストップ』。そしてそれに続く何らかの広域攻撃魔術。
常識的に考えて、まずこの二手だけでこの村の戦いは決着することに、異論を差し挟むものは存在するまい。
凍りついた時の中で炸裂する魔術が、無防備な犠牲者の急所を穿ち絶命させる。
単純だが、必勝必殺。
この村に自分以外の参加者が全員乗り込んできたなら、この二手で全ては終わる。
ミトスの優勝は確定する。
(だが、時空剣士クレスの手の内には、魔剣エターナルソードがある。
ボクの止まった時の世界に入門してくることは、十分想定しておいていいだろう。
更に、残存しているネレイドは、軍用攻撃魔法の一射すら完全に相殺した上で、
まだリッドを殺すほどの力を残していた。あいつの出鱈目なまでの魔力を以ってすれば、
『タイムストップ』の術式を強引に破壊して無効化するくらい…いや)
この二者には最初から『タイムストップ』が効かないことを前提にして、戦術を組み立てる。
そこまで慎重にリスクを計算しなければ、最悪わずか一撃で優劣逆転の憂き目を見る。
ただでさえ、この戦いには七割の勝率しか期待できないのだ。
本来ならば、この戦いには十割の勝率を見込まねばならないところを。
(そのためには、この贈り物はなかなかに有り難いところだね。
…劣悪種ごときがこのボクに一杯食わせた罪の贖(あがな)いには、遥かに足りないけれども)
ミトスの首で、六茫星の紋章が揺れた。
昨夜、あの劣悪種から受け取った、高速詠唱の紋・ミスティシンボル。
(これで乱戦がやりやすくなる)
ミトスは元来の強靭な『鋼体』と相まって、乱戦下でも上級魔術の詠唱をやり遂げるなどそう困難ではない。
ましてや、これがあれば。ミトスの術の行使に死角はない。
通常の剣技を繰り出す際の闘気の溜めの時間を一瞬とおけば…
ミスティシンボルを用いて繰り出す魔術の詠唱時間は二瞬と言ったところ。
すなわち剣の間合いですら、術の行使の阻止はほぼ何人にも不可能。
ロイドが救いの塔で繰り出した『秋沙雨』並みの連撃技ですら、術式を砕くことは出来まい。
可能性があるとすれば、ミトスのあずかり知らぬ奥義『斬光時雨』や『驟雨双破斬』並みの連撃技。

39 :死天使の鐘は、されど響き5:2006/11/03(金) 19:16:16 ID:hnjd9F3F0
(けれども…)
それでもまだ必勝には遥かに及ばない。
そもそも、客賓達に自ら戦いを挑むのは、それしか手がないときの最後の手。
ミトスは、かつて緑髪の少女が命を挺しての声を届けた鐘楼より、改めてこの村を見渡した。
初手のタイムストップに続き、数々の罠が張り巡らされたC3の村。
落とし穴、埋設された電流の針金、その他もろもろの死の罠。
先ほど落とし穴の下に槍ぶすまを用意したときは、魔力節約の観点から『アイスニードル』を用いた。
だが、先ほど村を一巡して罠の点検や補完を行った際、今度は『グレイブ』で槍ぶすまを作り直しておいた。
『グレイブ』による岩の槍は、『アイスニードル』のそれなどとは違い時間経過で溶けはしない。
少なくとも、この戦いが終わるまでの間は十二分の持続時間を見込める。
(…まあ、これだとせっかく噛ませ犬として招待するクレス達も、
無差別に巻き込んでしまうのが欠点かな。まあ、その時はその時だ)
どの道、クレスもロイドも始末せねばならない対象であることに変わりはないのだから。
一応ロイドは、コレットを人質としてエターナルソードの力を使わせることを想定に入れてはいる。
だが、シルヴァラント側の救いの塔でユグドラシルとして対峙した際、彼の意固地さの片鱗は伺えた。
彼の性格なら、ミトスの言うことを聞いてエターナルソードの力を行使するくらいなら、最悪自害の道を選ぶ…
やはりそれくらいの想定はしておいていいだろう。
ロイドにエターナルソードの力を使わせるという目論見が成れば、もっけの幸い程度に考えるべきである。
実姉復活の第一の条件が、ロイドを脅迫してのエターナルソードの強制使用。
そして第二の条件が…胡散臭いことこの上ないので、ミトスははなから信用していないが…
ミクトランの『優勝賞品』に頼ること。
このいずれかが成れば、ミトスにとっては全面勝利となる。
(実質上は、前者一択以外はありえないけどね。それにだ)
今見据えるべきは、今。遠い未来より、近い未来。
ミトスは思い直し、一つ己の金髪をかき上げた。
(さて、この戦いをもう一度だけシミュレートしてみようか)
ミトスは、鐘楼から村を一望し、もう何度目かも分からぬ策の再検討を開始する。
まずは、あれから追加した一枚目の札。
この村での戦いが本格的に始まったならば、村全体に『ディープミスト』をかけ、視界が劣悪な状況を作り出す。
救いの塔の地下を見れば分かる通り、ミトスはまた罠の敷設も得意とする。
本物の罠は可能な限り巧妙に隠蔽し、そしてわざと視認されやすいよう作った、ブラフの設置痕も作った。
虚実織り交ぜての、敵を錯乱するための心理作戦。
よって素人の目ではそうそう見破られぬ自身はあるが、
村のありあわせの道具と魔術で作った罠では、その品質には自ずと上限が見える。
また、残存勢力の中にはミズホの里の『忍者』のように、罠の発見を得意とする者もいるかも分からない。
その可能性を見越しての、『ディープミスト』。罠を見破る眼光を遮るための霧の煙幕。
『ディープミスト』による濃霧は、エルフの血の賜物である夜目や、エクスフィアで強化された眼力をも阻む魔術の霧。
無論『ディスペル』や風属性魔術の使い手がいれば破られる危険もあるが、それもまたよし。
もとより『ディープミスト』は牽制程度にしか考えていないし、
大なり小なり侵入者に魔力を消耗してもらえばそれ以上の釣果は期待しない。
『ディープミスト』による視界の悪化状態が持続すれば、それこそ御の字と言ったところか。
続いて、二枚目の札。
ミトスの目を、ちらほらと焼く輝き。村の民家の屋根から、白い光が届く。
(…こんなこそ泥じみた真似を、この期に及んでしなきゃならないとはね)
民家の屋根に設置したのは、すなわち鏡。針金同様、民家にあった鏡をありったけ持ち出し、設置したものである。
民家の屋根の鏡は、どれもこれもがある特別な角度に調整してある。
すなわち、この村の鐘楼から光を放てば、その光は村のめぼしい道に到達する角度に。
これこそ、『レイ』の曲射のための布石。
(ここから『レイ』を放てば、『レイ』の光線はあの鏡に反射されて、
やってきた侵入者は様々な射角から光線を受ける。侵入者を混乱させるには、打ってつけの策だ)
無論、鐘楼から直接村に出向いてきた敵を『レイ』で狙撃することも、一度は考えた。
だが、あえて鏡による反射を利用して『レイ』を曲射すると言う策を狙ったのは、いくつかの理由がある。

40 :死天使の鐘は、されど響き6:2006/11/03(金) 19:17:30 ID:hnjd9F3F0
(ボクはあの愚劣な同族である、デミテルとやらと同じ失態は犯さない。
魔術の射線から、自らの居場所を悟られるような愚はね)
ティトレイから昨晩聞いた、E3の顛末。
すなわち『サウザンドブレイバー』の射角でデミテルは居場所を悟られ、そして足元を掬われたという惨めな最期。
彼は『サウザンドブレイバー』の弱点を過小評価し、慢心でその身を滅ぼしたのだ。
鐘楼から直接『レイ』を撃てば、それと同じ轍を踏みかねない。
(更に、色々な射角からの攻撃の方が、敵を浮き足立たせる効果も大きいしね。
村の引き出しに入っているような安物の鏡じゃ、一回『レイ』を反射させたら粉微塵だろうから、
どの鏡も使い捨てだけれど。
まあ、鏡が壊れるということは、相手に『レイ』の反射軌道を推理する材料を与えないということだから、
あながち下策でもない。
そもそも、この異常な魔力場では『ディープミスト』と『レイ』の相性は評価できない。
下手をすれば『ディープミスト』の濃霧で、『レイ』の光線の威力が減衰してしまう可能性もある)
ゆえに、これもまた必殺の策としての期待はしない。これで排除できる侵入者は、精々が数名と言ったところだろう。
それにこれ以外にも、村には様々な仕掛けを施してある。この罠で侵入者を殺(と)れなくとも、問題はない。
この村での戦いの主力となる札は、やはりこの二枚。
『タイムストップ』から『ジャッジメント』などへの連撃。
『イノセント・ゼロ』による侵入者の弱体化。
しかしそれらすらも、侵入者から『サイレンス』あたりを受ければ、ただの屑札となる。
原則魔術は目標を視認出来ねば、「大雑把にしか」狙いはつけられないという弱点も知っている。
それを利用して、可能な限り侵入者の死角からの攻撃は心がけるつもりだが、
攻め手側に、気配で敵の居場所を知ることの出来る手練がいる可能性も、否定は出来まい。
(まあ、『サイレンス』は受ける前にこちらから見舞ってやるつもりではいるけどね。
もし『サイレンス』を受けたら、魔術を頼りにした攻め手の全てが、屑札に成り下がる)
無論ミトスは魔術を封じられようと、クラトス直伝の種々の剣技という札はある。
また自ら編み出した光属性の剣技、『光星震宙斬撃』の冴えも並みの剣士とは次元が違う。
だが、魔術を封じられればその分必勝の布陣から身は遠のく。
可能な限り、『サイレンス』による先制攻撃を被ることは避けねばなるまい。
(そして…心配な点が二つ。
目下のところ想定しうる範囲内で、こちらを問答無用で『詰み』に追い込む攻め手側の切り札は二枚ある)
一つには、昨夜のE2の城での一件のような過剰殲滅。
この村に何者かが昨夜の『サウザンドブレイバー』のような、軍用攻撃魔術級の超大火力魔術を撃ち込んだ場合。
C3の村を丸ごと灰燼に帰するような桁外れの火力を攻め手側が用いたら、『タイムストップ』も罠もあったものではない。
そんな小細工など、C3の村ごと粉微塵に破砕される。『剛よく柔を断つ』式に、目論見は全て瓦解する。
そして、それだけの大火力を行使できる筆頭候補は、今現在のところまだこの島の生存競争を生き延びている。
『サウザンドブレイバー』を真っ向から相殺できるだけのエネルギーを、昨夜発揮したメルディが。
(リッド達の言うところの…『闇の極光術』だか『フィブリル』だか、ってやつだったかな。
万一あれをこの村に撃ち込まれたなら、それこそ一大事だ。
無論ボクには『粋護陣』があるし、その手の広域殲滅魔法はマナの指向性が皆無。
だから、破壊力を一点集束させて標的を確実に葬るような、細かい芸当は不可能。
直撃さえしなければ、辛うじてではあるが生き延びる自信はある。
だが…)
考えたくはないが、相手がそんな超大火力魔術を連射できるような化け物だったら。
その時は、もうチェスを打つかのごとき繊細な戦術など、弄するだけ無駄。
チェスの盤面そのものを破壊するような化け物に、チェスのルール下での勝負を挑むなど笑劇の題目にもなるまい。
(…まあその可能性は、低いと言えるけどね)
一応、ミトスは自らの懸念にそう注釈を入れる。
メルディがそんな超大火力の攻撃を平然と乱射できるなら、今頃このゲームはゲームとして成立していないだろう。
一方的な虐殺…処刑の舞台に成り下がっているだけだ。
それに昨日の午後から、自らの行動圏とメルディの行動圏はある程度一致しているという考察は、朝の内に行った通り。
メルディが行く先々で破壊の応酬を見舞っていたら、さすがに自らの索敵網にかからぬはずもない。

41 :死天使の鐘は、されど響き7:2006/11/03(金) 19:18:38 ID:hnjd9F3F0
もちろんそんな真似が出来るのに、あえて敵の戦術的撤退の誘発を防ぐなどの理由で、
メルディが札を切るのをためらっているなどの可能性もある。
案外正気に戻ったふりをして、あの甘ちゃん達の寝首を掻く隙を狙っているのかもしれない。
圧倒的な力を持った上でも、あえて小細工で保険をかけるのは、決して戦術的に考えて間違いではないのだ。
そもそも、自身がその闇の極光とやらの発現の瞬間を目撃したわけではないが…
たとえメルディがネレイドなる神の力を手に入れたとしても、ティトレイに聞かされたほどの力を行使すれば、
媒体であるメルディの肉体への負担は桁外れになるだろう。
ネレイドが誰にでも憑依出来るなら、媒体を「使い潰す」可能性もなくはないが、
昨日この村で漏れ聞いたリッドらの話によると、その可能性はほぼ皆無らしい。
とにかく、闇の極光術の乱射と言う自体はまず埒外としていい。
百歩譲って本当に何者かがこの村に対し、そんな力押しの過剰殲滅を試みてきたなら、無理に抵抗はしないほうが上策。
『粋護陣』で初撃に耐え、混乱に乗じ戦術的撤退。のちに逆襲の機会をうかがうのが、妥当な打ち方であろう。
禁止エリアによる封殺という時間制限は確かに存在するが、どの道完全封殺には最短でも3日の時間を要する。
これだけの時間があれば、万一この村の策を全て粉砕されようと、十分形勢の建て直しは可能だろう。
(そして、次の懸念は…)
シャーリィ。
先刻ミントが触れていた、あの蝶が帯びていた力。間違いなく、シャーリィの固有マナ。
あの蝶は1日目…シャーリィが狂気に堕ちる前に、彼女自身が話してくれていた。
あれは『テルクェス』という、いわば意志を持たない使い魔のようなものらしい。
漠然とではあるが、テルクェスを放てば周囲のものを感知し、その精度はテルクェスがものに触れた瞬間、最大になる。
あれの存在に気付いた瞬間は、思い出しても胃の底が冷たくなる。
(まさか、あいつがテルクェスを偵察に使い始めたなんて、とんでもない計算外だった…!)
そして、シャーリィがテルクェスを使い出したということは、ミトスに一つの恐るべき事実を告げていた。
シャーリィは「エクスフィギュアでありながら」、偵察・索敵などという高度な戦術を見せてくれた。
すなわち、「シャーリィはエクスフィギュアでありながらも知性を保っている」、という事実を。
ミトスはエンジェルス計画の中核に携わってきたことには、今更説明の必要はない。
すなわち、その副産物であるエクスフィギュアについても無論知識はある。
本来、エクスフィギュア化した人間は完全に本能の赴くままに暴れる、知性皆無の怪物に変貌する。
だがシャーリィはどういうわけか、エクスフィギュアの肉体と知性を同時に維持している。
4000年間の中で、ただ一つも見られなかった「例外」が、そこにあった。
しく、とミトスの「そこ」が痛む。
(まさか…あの女!)
代謝活動が停止したはずのミトスの背に、脂汗が一筋流れるような錯覚が起こる。
それともシャーリィは、自力でエクスフィアの毒素に対する免疫を得たとでも言うのか。
エクスフィギュア化した肉体を再び人間のそれに戻して、同時に理性を取り戻したとでも言うのか。
ありえない。
4000年間のエクスフィアの研究は揃いも揃って、人間がエクスフィアの毒素への免疫を得るなど不可能と示唆している。
(けれども…)
ミトスは、2日目朝のあの事件を思い出す。
シャーリィは、ミトスの持つ術技の中で最大級の威力を持つ『ユグドラシルレーザー』…
そしてダオスの放つ『ダオスレーザー』…
これら二者を同時に撃ち放つU・アタック、『ダブルカーラーン・レーザー』の直撃にすら耐えたのだ。
シャーリィはとっさに『フォースフィールド』と思しき防御技を発動させたとは言え、辛うじて生きていた。
本来ならば、髪の毛一本、血の一滴も残さず消滅していなければおかしいはずなのに。
たとえ『EXスキル』を防御特化型にカスタマイズし、『バリアー』や『フリントプロテクト』などをかけ、
その上から『フォースフィールド』を重ねても、あれが直撃したらどんな英雄も耐えられない。
耐えられない、はずなのに。
ミトスは、無意識のうちに己の股間に手をやった。
恐怖。ミトスの目に揺れる感情は、それ以外適切な名を持つまい。
(ボクは…あんな劣悪種の女1人ごときに怯えているのか?)
シャーリィは厳密には人間ではなく水の民という種族らしいが、ミトスにとっては所詮十把一絡げの劣悪種。
そんな相手に、自分が怯えている。
否定できる材料はなかった。

42 :死天使の鐘は、されど響き8:2006/11/03(金) 19:19:44 ID:hnjd9F3F0
テルクェス発見後、悪態交じりに行った簡易な索敵に、シャーリィは引っかからなかったのに。
それでもまだ、シャーリィはこの村の近くで虎視眈々牙を研いでいるのではないか。
半ば偏執的なまでのその警戒心を、どうやっても理性で抑え切れない。
テルクェスを発見した直後、ミトスはあえて隙だらけの様相を装って、村の周りを何度か回ってみた。
無論、EXスキル『スペルチャージ』を併用し『タイムストップ』をいつでも発動できる状態のまま。
シャーリィから聞いた話では、テルクェスは相当な遠距離まで飛ばすことが出来るらしい。
今シャーリィがどこにいるのかはミトスには分かりかねるが、
隙だらけを装い村の周りを回る「釣り」に、シャーリィが引っかからなかったことだけは事実。
即座には攻め込めないような遠距離にいるのか、それとも「釣り」に乗らずに機会を窺っているのか。
ミトスはおそらく、前者であろうと推理した。
時が経てば、確かにこの村は最高の「狩り場」になるだろう。
そしてマーダーであるシャーリィにとっては、この村が「狩り場」と化してから攻め込む方が、間違いなく上策。
だが、それはこの村が近々「狩り場」になるという事実を知っていなければ、出来ない判断。
そしてこの村が「狩り場」になると知悉している者は、今のところティトレイとあの忌々しい殺人剣士のみ。
ミトスはそれ以外の人間にその事実を知らせていない。
もしシャーリィが独力でその事実を知ったとするなら、この村に自ら偵察に入った以外考えられない。
テルクェスでは、そもそも視覚ではなく「漠然とした気配」しか知ることは出来ないと彼女から聞いたし、
よってテルクェスはこの村に派遣された「密偵」としての資格は不十分。
すなわち、この村の行く末について、確たる情報を持たぬ彼女は、「釣り」にかからないはずがないのだ。
だが、それでもミトスの疑念は晴れなかった。
こちらにだって、一切他者には明かしていない切り札は何枚かある。
シャーリィが『EXスキル』を体得し、テルクェスから視覚的情報を得られるようになったかもしれない。
その危険性を否定できる証拠は、どこにもない。
ミトスは、どうしてもその可能性を否定しきれない。
今この瞬間も、振り返ってみればシャーリィがあの血走った目で、マシンガンを構えているかも知れない。
トーマ、リオン、プリムラ、シャーリィ、メルディ。
いまだ戦力評価の出来ない面々も合わせれば、残る参加者の1/3も、策をひっくり返しかねない危険人物がいる。
特に、リオンからは血なまぐさい狂気を窺えた。
特に、メルディからは暴力的なまでの大魔力を感じた。
特に、シャーリィには背筋が凍るような恐怖を見た。
(とにかくこいつら3人は、ボクも実際にその力を見て把握している。
こいつらへのマークは、厳しくしなければならない。
おまけに、プリムラとトーマとか言う牛人間…
ボクの手持ちの情報では戦力を評価できない、不確定要素も存在する。
この状況…勝率七割でも、かなり楽観的な計算かもしれないな)
今後の戦いに確たる絵を描けないこの状況。ミトスは、眉間に皺を寄せた。
折りしも、時は正午の半刻前。
ミトスは半ば無意識のうちに、『サイレンス』の解呪の詠唱を始めていた。
今出来ることは、とにかく可能な限りの布石を用意すること。
勝利の女神を振り向かせるための、最善の努力を行うこと。
結びの句を唱えたミトスの横顔は、祈りを捧げる無垢な少年そのものであった。
その祈りは、ただ盲目の祈りではあったけれども。
(さて、今のうちに不安の芽は摘み取っておかないと、ね)
『サイレンス』を解いたミトスは、続けてEXスキル『スペルチャージ』を起動。
蓄える術は、『ディスペル』。
『ディスペル』は持続型の魔術の効果を強制解除する解呪の法。
ゆえに、本来は瞬間的に発動する魔術を破るのに使うことは出来ない。
だが、どうせあの劣悪種のことだ。何らかの「小細工」を弄している可能性は想定済み。
タイミングと使う術さえ分かっていれば、後は戦闘時のような緊急事態下でなければ、「あれ」の解呪にも使えるだろう。
金の髪を宙に舞わせ、ミトスは鐘楼から降り立った。
一目散に駆け出すその後ろ姿は、さながらかけっこを楽しむ子供のようでもあった。



43 :死天使の鐘は、されど響き9:2006/11/03(金) 19:23:08 ID:hnjd9F3F0
やがて、その時は来た。
静寂の帳が、消え去った。
聾の患者が突然聴覚を取り戻したかのように、暗黒の世界に音が溢れた。
自らの息遣いの音。
今まで身を横たえていたベッドから、身を下ろす時の軋み。
床を踏みしめる己の、控えめな足跡。
解けた。ミトスの『サイレンス』が。
正午の半刻前。約束の10分間が来たのだ。
「クレス…さん……」
ミントは、試しに己が愛する者の名を呼び、もう一度確かめる。
問題ない。世界は音で満ちている。
音のある世界が、これほどに素晴らしかったとは。
音のありがたみを、17年の生涯の中で一番強く噛み締めた瞬間だった。
そして、『サイレンス』が肉体の魔脈にもたらす、あの絡みつくような不快感も消滅している。
すなわちこの10分のみ、ミントは法術の使用を許される。
ミトスに究極の選択を迫られ、そして部屋の中で針金を見つけて以降、自らを半ば無理やりに寝かしつけたのはこのため。
確かに朝の『チャージ』の強要で、ミントの法力は尽きていた。
だが、こうして睡眠をとれば、法力は再び蘇る。
ミントはミトスの口の端々から、それを聞き取っていた。
ミトスの傲岸。ミトスの慢心。
ミトスはミントに執拗な身体検査を行い、コレットを見張りに立たせ、更に家の外から窓を塞いだまでは良かった。
だが、そこまででミトスの警戒は終わり。
それだけで抵抗力を奪い切ったと油断したがゆえに、「その可能性」をこうして見失っていたのだ。
すなわち、自身が即座に眠りにつき法力を回復させた上で、『サイレンス』の解かれる10分間を狙い一矢報いる可能性を。
そしてミントはその慢心を突き、この一撃を繰り出す。
ミントは、纏った白の法衣のポケットの中に、握り締めた針金をしまう。
そして新たに手につかむは、今まで寝ていたベッドのシーツ。
古典的な手段だが、やってみる。
ミントは、大きく息を吸い込んだ。
舌を震わせ、それを始める。
法術の、詠唱。
だん、と床を蹴る音が、それに唱和するかのごとく続いた。足音の主は、コレット。
コレットが「自殺しないように監視してろ」とミトスから命ぜられたからには、おそらくこう来る。
法術の詠唱を始めたからには、その正体が何であれ妨害にかかるであろうことは。
ましてやミントはミトスと違い、『鋼体』を持たないのだ。接近されれば、ひとたまりもない。
それはミントの読み通り。
ミントは、全精神力を法術の行使に、全神経を聴覚に集中させ彼我の間合いをはかる。
この距離、足音。あわよくば牽制なしで間に合ってくれれば良かったが、やはり時間が足りない。間合いが近すぎる。
だが、それもまたミントは心得ている。
ミントは、すかさずその法術の詠唱を中断した。
握り締めるは、ベッドのシーツ。
「これを…!!」
ミントは、足音のした方向に、全力でベッドのシーツを投げた。
ぶわ、とコレットがその身を、シーツに包まれ動きを阻まれる。
ミントのすぐ隣、歩幅にして一歩のところに、コレットはつんのめり倒れこむ。
ミントはそれを確認するや、法術の詠唱を再開。
『EXスキル』を持たぬ彼女は、法術詠唱の中途再開などという真似は出来ない。実質的には一からのやり直しになる。
だが、法術師としてのミントの実力を侮るなかれ。いみじくも時空の六英雄に列席する彼女の腕前を。
「初手の札」を切るための、一手分の時間は、稼げた。
「お願い…届いて!!」
ミントは祈るように言いながら、シーツの中でもがくコレットに、手を触れた。
コレットの居場所は、目が見えなくとも分かる。
シーツを取ろうと暴れるその手足が、ばたばたと床を叩き一目瞭然…否、一聴瞭然とでも言うべきか。
そして、魔術や法術は対象を視認できなければ、「大雑把にしか」狙いをつけられぬのは先述の通り。
だが、その例外はいくつかある。そして、今こそその例外の最たる例。
目標の体に、じかに触れている場合。すなわち、零距離での法術の行使。
「『ピコハン』!!」
コレットの頭部を、被ったシーツ越しに法術の槌が叩いた。
成功。

44 :死天使の鐘は、されど響き10:2006/11/03(金) 19:23:40 ID:hnjd9F3F0
ミントはすかさず、コレットと大きく間合いを離した。
「初手の札」は、無事に切れた。だが、正念場はここから。
「あの札」を切るための、六手。
ミトスの策を打ち破るための、六手。
失敗は、許されない。
ミントは、すかさず呪を紡ぎ出した。
一手目。
ミントは、喉を震わせ呼びかける。
コレットは、『ピコハン』の影響でか、どう、という音と共に体を投げ出した。
二手目。
ミントは、両の手で印を結ぶ。
コレットは、まだ動けない。
三手目。
ミントは、虚空に紋を刻み付ける。
コレットは、はたと意識を肉体に呼び戻す。
四手目。
ミントは、ありったけの法力を呼び起こす。
コレットは、だんと両手で床を突き、立ち上がる。
五手目。
ミントは、ユニコーンの加護を祈った。
コレットは、とうとうシーツを剥ぎ取った。
六手目。
ミントは、ただ無心に、必死に詠唱を続けた。
コレットは、部屋の隅に動いたミントを捉えた。
ミントの取った間合い。駆ければ、コレットなら一歩半。
コレットは、握り拳を作った。
これを、突き刺す。ミントの鳩尾に。
一歩の間合いが半歩に、四半歩に。コレットの拳は、空を切り裂く。
蹴りつける。床を。遮るものはなし。
コレットの拳は、秋の夕日を呑み込む地平線の如くにじわじわと、しかし急速に迫る。
剣の間合いが拳の間合いに。そして拳の間合いは、柔(やわら)の間合いに。
コレットの拳が、ミントの衣に触れた。
布一枚の厚み。それを越えれば、コレットはミントの呪を阻む。
そして、コレットの拳はミントの鳩尾に触れた。
ミントの口から、悲鳴のような声が上がった。
「――『タイムストップ』!!!」
触れただけ。ただ、触れただけ。
世界が、色彩を失った。
そして時は、凍りつく――。



45 :死天使の鐘は、されど響き11:2006/11/03(金) 19:25:52 ID:hnjd9F3F0
灰色の世界の中、ミントは息を震わせた。
『タイムストップ』で、時流を止められた世界の独特の感覚。
間違いない。今や彼女は、時の流れぬ世界にいた。
(これで…)
もはやミトスですら、今のミントを止める事はできない。コレットは言うに及ばず。
「あの札」を…『タイムストップ』という札を切ったミントに、もはや法力は残されていない。
だが、それでも十二分。
この時間のうちに、ミトスの姦計の牙を折る。
ミントは、先ほどポケットにしまい込んだ針金を取り出した。
慎重に、尖った先端を探し出す。
そして、難なく見つかった。
ミントは、針金を握り締めた両手を、背中側に回す。
両の手は、震えていた。
(ごめんなさい…クレスさん……)
つぷ、と針金の尖った先端を、首の後ろに当てる。俗に「盆の窪」と呼ばれる部位。
医術を知るミントは、その事実を知っている。
人間は、実は鉛筆一本でも殺せる。突くべき急所を突けば。
そして「盆の窪」は、その条件を満たしうる急所の一つ。
医術を学ぶ者たちの長年の研究により、ここは「脳幹」と呼ばれる部位を直撃できる急所だと判明している。
脳幹に何か尖ったものを突き立てれば、たちまちの内に脳幹は破壊されるのだ。
そして脳幹は、生命の維持を司る様々な機能を一手に引き受ける部位。
ここが破壊されれば、どうなるかはもはや言わずと知れたこと。
すなわち、生命の維持機能の停止。速やかなる死。
脳幹を破壊するには、槍の一突きどころか、短剣の一刺しでも十二分。
二流以上の暗殺者なら、針一本でも事足りてしまうのだ。
そんな急所に突き立てる。針金を。
(…………ッ!!)
ミントが選んだのは、すなわち自害の道であった。
人質が人質としての役割を果たすのは、無論人質に命があるから。
クレスがいざミトスと対峙する段になって、自分に命があればどうなるか。
ミトスは必ず、自身を人質にとって立ち回る。そしてあの優しい性格のクレスならば、それだけで剣を捨てかねない。
そうなったなら、後はクレスに残された道はミトスに嬲り殺しにされるのみ。
すなわち、自身は足手まといにしかならないのだ。
だが、今のうちに命を自ら放り捨てれば…
クレスが戦う時、彼には足かせは一つとしてかからない。
歴代アルベイン流伝承者の中でも最強級の実力を持つ彼なら、足かせさえなければミトスをその剣で討ち伏せてくれるはず。
何せクレスの剣は、戦神オーディン…戦いの神すらも、一騎討ちで下したほどの冴えを誇るのだ。
そしてその剣は、この島で罪なき人々を守る戦いで、更に鍛え上げられているはず。
剣匠が剣匠たるゆえんは、戦いを経るごとに…
否。戦場にいる一瞬ごとに成長を続けることにあるのだと、ミントはクレスから聞かされた。
神すらも打ち破ったクレスの剣を、同じく剣で破れる者はこの世に存在しない。
盲信にも似た信頼感が、ミントの手をここまで進ましめていた。
(お願いします…クレスさん……必ず…ミトスを止めて下さい……!)
そのために、己は今この場で命を振り捨てる。
クレスの持つ優しさが、剣を鈍らせないように。
己の死すらも、クレスの剣の鋭さに変えてもらうために。
そして何より、ミトスの策をくじくために。
もうこれ以上、何も出来ないまま人が死ぬのを見たくはないから。
ミトスの策を妨げることが、誰かを救う一助になるなら。
自らの犠牲で、ミトスの毒牙にかかる人間を減らすことが出来るなら。
甘んじて、自ら死を受け入れる。
ミントは、大きく息を吸い込んだ。
既に針金の切っ先は、盆の窪にあてがっている。
途中で針金が曲がらぬよう、短く持って突き刺せば、確実に自害できる。
(さようなら…クレスさん……)
ミントは、針金を力の限り、自らの盆の窪に突き刺した。



46 :死天使の鐘は、されど響き12:2006/11/03(金) 19:28:11 ID:hnjd9F3F0
「『ディスペル』」
ぱり。
灰色の空間が、ひび割れた。
入ったひび割れは、そのまま全周囲に広がる。さながら、蜘蛛に張られる巣のごとくに。
「随分と大した茶番だね。この脚本を1人で書いたその聡明さ…劣悪種にしちゃ大したものだね」
一点入ったひび割れは、たちまちの内に反対側まで一気に走り抜ける。
「けど、一言だけ言わせてもらおうか。『無駄な足掻きを』、ってね」
ぱぁぁぁぁん。
――そして時は動き出す。
灰色の世界は、ガラスのように砕け散った。
唖然呆然。
ミントは、針金を盆の窪に突き立てたままの態勢で、硬直を余儀なくされていた。
針金は、首の皮一枚だけを貫き、そこで止まっていた。
ミントの手は掴み上げられ、それ以上の進行を禁じられていた。
右手でミントの手を握り締め、左手で「それ」を持つ「彼」は、ただただ静かに告げていた。
ミトス・ユグドラシルはミント・アドネードの自害を阻んだという事実を。
『タイムストップ』による時流停止を、『ディスペル』で砕き去っていたという事実を。
「…どう…し…て……?」
「お前の固有マナは、姉さまのそれに似ていた。
『タイムストップ』は、姉さまの一番の切り札だったからね…
お前も『タイムストップ』を使うことが出来るんじゃないかって警戒していたら、ずばりその通りだったってわけさ」
「いやぁぁぁぁあああぁああああああ!!!」
ミントは、絶叫した。
悲嘆。絶望。驚愕。恐怖。
ありとあらゆる、負の感情が詰め込まれた悲鳴。
そして、その悲鳴は確かに、ミトスの左手の「それ」に吸い込まれていた。
ファラ・エルステッドが命を賭けた呼びかけに用いた、あの道具に。
拡声器を通り抜け、ミントの絶叫は確かにこの島に響き渡った。
少なくとも、確実に西部全域には聞こえているだろう。
だが、これで終わりではない。
このミントの悲鳴に、更に自らが彩りを加えてやるのだ。
下らない…下らなすぎる茶番で。
ミトスはミントの絶叫に続けて、更に言葉を拡声器に吹き込む。
「なっ…!? 止めろ『器』め! そんな真似をしろとは命令していな…!!」
一拍置いて。
「しまった! 拡声器のスイッチが入っている!? おのれ『器』ごときが…小賢しい真似を!!」
ミトスはその言葉を言い終えるや否や、すかさず拡声器を宙に投げ上げた。
自由になった左手で、すかさず邪剣ファフニールを抜刀。
わずか一瞬の内に闘気を刀身に行き渡らせ、放つ。
「これ以上させるか! 『剛・魔神剣』ッ!!」
迸る衝撃波が、拡声器を呑み込んだ。
「がしゃ」や「ぐしゃ」とでも表せそうな破壊音。
拡声器は断末魔の悲鳴代わりに、自らの破壊音を増幅してから吐き出し、そしてそれきり沈黙した。
訪れる静寂。
邪剣ファフニールを再び納刀される音を最後に、世界は再び旋律を無くしたかのようであった。
さながらミズホの里の一子相伝の剣術「居合い」を思わせる、ミトスの剣閃…
それすらもが、風切り音を忘れてしまったかのように。
砕け散った拡声器の破片が、しじまの世界に空しく響いた。
ミントをそのまま強引に捻じ伏せ、ミントの後ろ手を半回転させたミトスは、しばらく言葉を失っていた。
絶望と恐怖のあまり、ミントはただただ黙する他なかった。
コレットの虚ろな瞳が、その様を無機質に映していた。
およそ人間の呼吸にして三呼吸分…それだけの時間が不気味に過ぎる。
突然の嗤い声が、部屋を切り裂いた。
「ぷ…くくくくく……!」
下らない。下らな過ぎる茶番だ。
仮にもクルシスの首魁である己の、何と珍奇な猿芝居か。
「あは…あはははははは…! あはははははははは!!」
自嘲するミトス。嗤い声が、後から後から溢れてくる。

47 :死天使の鐘は、されど響き13:2006/11/03(金) 19:32:11 ID:hnjd9F3F0
けれども、ミトスは自らのプライドが傷付くことなど、4000年のうちにどれほどあったか。数え切れない。
ハーフエルフとして迫害され。疎外され。爪弾きにされ。
この程度の猿芝居を打つなど、プライドの傷に入ろうものか。
かつては町の人間に小便をかけられ、家畜の糞を食わされ。
それに比べれば、これはまだ可愛いもの。傷のうちにも入らない。
ミトスは知っている。命のやり取りをする戦場で、どれほど誇りが下らないお題目に過ぎないかを。
ミトスならやってのける。姉を蘇らせるためなら、ロイドに卑屈に泣いて命乞いをするくらい。
必要ならば、憎たらしいロイドの尻の穴でも舐めてみせる。
不倶戴天のシャーリィに悪罵の声を浴びせられながら、鞭打たれるような所業にでも耐えてみせる。
繰り返すが、クルシスの首魁たる男が、何と無様なことか。
救いの塔の遥かなる高みに鎮座し、高貴にディザイアンや教会を操って来た四大天使筆頭が、何と卑劣なことか。
ああそうか、化けの皮が剥げたんだな。
ミトスは思った。
所詮自分は、どれほど神聖なる四大天使の立場にあろうと、その本質は変わらない。
クラトスやユアンに目をかけられるまでは、意地汚く命にすがり付く乞食であった。
そして、この「バトル・ロワイアル」という極限状況において、その「地」が出ただけのこと。
12枚の翼と天使の衣に包まれ、自分でも忘れかけていたあの時の自身という「地」が。
ミトス・ユグドラシルは変わっていない。
4000年前のカーラーン大戦時代を生きたあの少年と…
生きるためなら盗みでも人殺しでも平気でやり、家畜の糞でも食えた薄汚いハーフエルフの少年と…
何ら、変わることはないのだ。
ミトスの笑いは、ひたすらに続いた。
クルシスの四大天使の衣と、乞食のまとうボロ布との落差が、あまりにも滑稽に思えてきて。
当たり前であろう。貴族の衣の下からみずぼらしい下郎の服が覗ければ、誰でも笑いを抑える事は出来まい。
ミトスは理解した。今こそ、ようやく。
己も、その貴族の衣を纏った下郎に過ぎないことを。自身は元来が、卑しいハーフエルフであることを。
妙に晴れ晴れとした、愉快な気分だった。
一瞬か、それとも数十分か。
ミトスはようやく嗤いの波も治まり、人心地ついたころ。
「さて、お前にいい悲鳴を上げてもらったところで、その後始末と行こうか」
ミトスは胸算用と共に呟いた。
突如ミトスに人質に取られていたコレットが乱心し、ミントを急襲。
それに気付いたミトスがコレットを止めようとするも、
そこで拡声器のスイッチが入っていたことに恐慌。慌てて拡声器を破壊した。
(あの「悲鳴」と「猿芝居」を聞いた人間なら、自らの置かれた状況をまずそう推理するだろうね)
無論、自身のみの声では残存勢力を引き寄せるには向かない。
大半の人間にマーダーとして敵性認定されているであろう自身の声のみでは、確実に罠や策の存在を疑われる。
さりとて、ミントの悲鳴のみでは何が起きたのか分からず、それはそれで村の外の人間を警戒させる。
だがしかし、ここに己の浮き足立っているかのような声を吹き込めば、「釣り」には最適。
ロイドであれば、この声を聞けばコレットがとうとう凶手を振るったのかと思い、居ても立ってもいられなくなるはず。
あとは、それでロイドの取り巻きも芋づる式に「釣り」上げることが出来るだろう。
そして、この村の人間と無関係の人間にも、この「撒き餌」は効く。
単純に拡声器の内容をいぶかしんで近付く人間もいれば、「狩り場」の存在を予見して馳せ参ずるマーダーも居るだろう。
まさか生き残っているとは思わないが、正義感気取りの痴れ者もいれば、特に彼または彼女には効果絶大。
浮き足立っている声を織り交ぜてやれば、そこに攻めの機を見出す者もいるだろう。
剣豪と剣豪の対決においては、敵の攻撃を誘い出すためにわざと隙を作り、相手が動いたところを逆襲という攻め方もある。
今の声は、それと同じ原理なのだ。
無論、この声を聞いて「今から行っても間に合わない」と諦めたり、
最初からこの声から「釣り」や「茶番」の臭いをかぎ付けるような、頭の回る連中も居ることは想定すべき。
しかし、そもそもそこまで警戒心の強い人間なら、何をどうしても拡声器から声が上がった時点でこの村には来るまい。
そういう連中の始末は、後手に回す。
どの道、時間が経てばあの「24時間ルール」や、3日〜6日かけて行われる禁止エリア封殺がじわじわ効いてくる。
いつまでも盾に隠れるような真似は出来ないのだ。
ならばそれら二つの要素が残存勢力を炙り出すまで、息を潜めて待てばいいだけのこと。万全の準備を整えて。

48 :死天使の鐘は、されど響き14:2006/11/03(金) 19:35:29 ID:hnjd9F3F0
こちらは肉体を無機化している以上食料も水も要らないし、ソーディアン・アトワイトもある。
持久戦に持ち込んでも、十二分に勝ち目を見込める。
むしろ、天使化した肉体と回復の術というアドバンテージがある以上、時間は己を利することこそあれ害することはない。
「どうも、最高『撒き餌』を提供してくれて、ありがとうね」
ミトスはうつ伏せになったミントを強引にひっくり返し、仰向けの状態に持ってこさせた。
「さて、やってもらうことはやってもらったし、あとはお前の『声』に用はない」
ミトスは、濁った瞳に明らかな恐怖を浮かべるミントの顎を、ぎりりと左手で掴んだ。
わずかながらにもがくミント。しかし、それすらも掴んだ左手の握力で無理やりに押さえつけてやる。
みしみしと、ミントの顎が軋む。エクスフィアに強化された握力は、既にそれ自体が一つの暴力と化していた。
「ところで、魔術や治癒術の使い手を捕縛したとしようか。その時、捕らえた相手にまずしなければいけないことは何だ?」
ミントの顔。ちらつく。重なる。リフレインする。
姉の顔が…マーテル・ユグドラシルの顔が。
ミトスは、言い聞かせる。
幻だと。目の前の姉の顔は、幻覚だと。
この劣悪種の女と、姉の固有マナがたまたま似通っていたという偶然がもたらした、虚像に過ぎぬのだと。
己の姉は、マーテル・ユグドラシルただ1人。
ゆえに、「それ」を行うことをためらういわれは無いのだ。
「舌を切り落とす。顎骨を砕く。煮えた油を喉に注ぐ。…要するに、言葉を喋れなくして術式の詠唱を禁じることだ」
右手で抜き放つは、ソーディアン・アトワイト。鞘から抜き放ち、空中で逆手に持ち替える。
光が、ソーディアン・アトワイトの刀身を滑る。
光はやがて、切っ先で弾ける。
「今まではわざわざ『サイレンス』を使ってまで、お前を五体満足なまま生かしておいてやったけど、もうその必要も無い。

お前に『鐘』の役割を果たしてもらった以上、ね」
消え去れ。幻め。
ミトスは、極冷の眼光を目に宿し、姉の顔を睨みつける。
こんな薄汚い劣悪種の女に…雌豚一匹ごときに、何を犠牲にしてでも守りたかった姉を見るなど、あってはならない。
姉マーテルの復活は、何が何でもやり遂げる。
こんな己の心の弱さの見せる迷妄で、刃を鈍らせるなどあってはならない。
「お前から、永久に言葉を奪い去ってやる――」
目の前に見えるマーテルの顔。この劣悪種の女と重なり合う。
(あなたは…私にも剣を向けるの?)
マーテルが、か細い声で言う。言ったかのように、ミトスの心に痛みが突き刺さる。
歯噛みするミトスは、しかしその痛みすらも力に変え、マーテルを睨みつける。
視線だけで、地の底まで抉れそうなほどの凄絶な光。
(消えろ……ボクの前から失せろ!!)
(止めてミトス…あなたは、こんな事をするような子じゃ、ないわよね?)
哀願するように、懇願するように愛しい姉の顔が揺れる。
ミトスは、確かに感じた。そこに姉の温もりを。
偽物の、暖かさを。
(お前は姉さまじゃない…。
お前は、ボクの心の迷いだ…!
ボクがもたれかかりたい虚像だ…!!
ボクの…ボク自身の『甘え』だッ!!!)
(お願いミトス。剣をしまって――)
「あああああぁぁぁあああアアアア―――ッ!!!」
ミトスは、けだもののごとき咆哮を上げ、ソーディアン・アトワイトの切っ先をマーテルに突き立てた。
雲散霧消。
マーテルは、虚空に消え去った。
己の弱さと共に。
切っ先は、マーテルの顔面を貫き、そして自らが狙った位置で、ぴたりと静止していた。
ミント・アドネードの舌を、ちょうど切除できるその深さで。
猿人か何かの断末魔の悲鳴のような、珍妙な絶叫が剣先から響く。
苦痛のあまり涙を流し。口からは濁流のような血と唾液の混合物を吐き散らし。ミントは悶絶する。
その声を抑えなきゃ、とも思わず。
さあ、「宴」に客賓を招き入れる準備をしないと、とも思わず。
ミトスは、ひたすらに無機質にそれを眺めていた。

49 :死天使の鐘は、されど響き15:2006/11/03(金) 19:38:40 ID:hnjd9F3F0
(姉さま、ボクはとうとうやったよ)
虚ろで乾いた達成感だけが、ミトスの浮かべる唯一の感情。
(ボクは…ボクが愛するのは、こんな薄汚い雌豚じゃない。
姉さまだけだ。本物の姉さまだけだ――)
ミトスはとりあえず、突き立てたソーディアン・アトワイトを引き抜いた。
刀身に絡みつく奇妙な肉片が、べしゃりと床に落ちた。赤い液体が絡み付いて、前衛的なオブジェのようだった。
ミトスはその肉片を、ほとんど無意識の内に手に取り、握り締めた。
魔術『ファイアボール』を、ごく小規模に発動。ミトスの手に、炎が宿る。
肉片はミトスの炎に、たちまちの内に包まれた。
万一にも上級治癒術で、舌を再接合されないために。
念には念をおき、肉片を焼く。
レア。ミディアム。ウェルダン。消し炭。灰。
あっという間に、その肉片は白くて細かい砂のようになった。
ミトスは、その灰を風に舞わせる。魔術『ウインドカッター』で。
この窓を閉ざされた薄暗い部屋に、自然の風は吹き込まないから。
ミトスは、そして晶術『ファーストエイド』をミントにかけてやる。
情けゆえの行いではない。舌を切り取った際のショックで、死なれては困るから。
この島の異常なマナの位相ゆえに、威力を絞られた癒しの光。ミントの口内に注ぎ、わずかながら鎮痛作用をもたらす。
猿人の断末魔は、ようやく治まった。
これで、この女はもう二度と言葉を発することも、ましてや法術を行使することも出来ない。
これで、『サイレンス』に回す魔力を節約できる。
最も、舌を切り落としたくらいで魔術の使い手を無力化したと安心しきることは出来ない。
練達の魔術師ならば…それこそ世界に数人程度しかいないような、真の達人の境地に達した大魔術師ならば…
呪文を唱えや方陣を描画し、印を結ぶなどと言った過程なしに、思念のみで術を発動できる者もいるというから。
すなわち詠唱も身動きもせずに、術を行使できる者もいるというのだ。
(まあ、この状況じゃこの女にそんな真似が出来るとは思わないけどね)
確かにこの女ほどの実力があれば、思念のみでの術の行使も可能かも知れない。
だが、思念のみでの術の使用は、明鏡止水の清澄な心を保たねばなし得ない。
つまりこんな心を絶望と恐怖に彩られた状態では、それはまず不可能だろう。
もちろん、賓客の「もてなし」の最中に、この女に『タイムストップ』あたりを撃たれることをそこまで恐れるならば、
早くこの女を殺してしまった方が上策なのは言わずと知れたこと。
だが、ミトスはあえてその道を選ばない。
「鐘」は鳴らされた。「宴」の最後の準備を、この場で行う。
この女は、「宴」の供物になってもらわねばならないのだ。
ミトスは、傍らの剣に心で呼びかけた。輝石とコアクリスタルを介した、無機質な会話。
(アトワイト…本当にお前に、出来るのか?)
(可能です、マスター)
その声に乗る心は、すでにもとのアトワイトのそれとは、似ても似つかぬものとなっていた。
エクスフィアに意識を侵食され、度重なる罪の意識に苛まれ。
本来ならば感情のぶれの少ないソーディアンであるはずの彼女の心にも、幾筋ものひびが走っている。
その結果が、これ。軍人気質の負の発現形態…上官命令の盲信による、思考放棄。
ミトスは、背徳的な達成感を背に走らせながら、細身の剣に呼びかけた。
(ならまあ、せいぜいやって見せてもらおうか。ただし、あの器はお前に「一時貸与」するだけだ。
分かったか蛆虫?)
(サー、イエッサー)
(それから、必要に応じてだが、さっきのボクの猿芝居に応じた、腹芸や芝居もやってもらうことになる。
上手いこと、演技し通して見せろ。ボクがこの世でただ一つ我慢できないのは―――ボクの部下の不始末だ)
(サー、イエッサー)
(最後に一つだけ。お前にボクを裏切る権利は無い。ボクの部下は許可なく動くことを許されない)
(サー、イエッサー)
(お前は上官を愛しているか?)
(生涯忠誠。命懸けて。ガンホー・ガンホー・ガンホー)
ミトスはそれだけ聞くと、満足したように一つ頷いた。
(ならば、仕上げを始めようか)
ミトスは、抜き放ったままのソーディアン・アトワイトを左手に持ち替えた。
ソーディアンの中核部位とでも言うべき、コアクリスタル。鼓動するように光を明滅させる。

50 :死天使の鐘は、されど響き16:2006/11/03(金) 19:42:56 ID:hnjd9F3F0
コアクリスタルに寄生したエクスフィアの毒素は、確かに効いている。
ミトスは確信した。これだけ毒素に触れさせておけば、もうエクスフィアを剥がしても大丈夫だろう。
たとえ肉体を蝕む毒素を完全に浄化したとしても、それで衰弱した体力まで回復するわけではないのと同じこと。
アトワイトは、あとはエクスフィアなしでもミトスを盲信するただの奴隷と化す。
(それじゃあ、エクスフィアを剥ぎ取るよ)
ミトスは、コアクリスタルにへばりついた青い球体に手をかけた。
金属の箔を引き剥がすような奇妙な手応えと共に、青い球体はコアクリスタルとの別れを経る。
ぽとり。あっけなく、エクスフィアは剥がれ落ちた。
握り締めるミトスの右手。エクスフィアは続けて、ミトスの手に着床しようと試みる。
簡易な術で手を守るミトスに、それは詮無いことではあったのだが。
(お前が張り付くべきは、こっちだ)
ミトスは、ふと首を横に振り、「それ」を眺めた。
そして「それ」に、エクスフィアを押し付ける。
ミントの、盆の窪に。
「ああおあぅ…!?」
まともな言葉を発することを禁じられたミントは、意味不明の言葉を発しながら、首の冷たい感覚に悶える。
(まずは、これでいい)
ミトスは、にやりとほくそ笑む。こうすれば、ミントはより一層駒としての旨味が引き立つ。
要の紋なくして、エクスフィアを体に着床させた者の末路…
それは、マウリッツ・ウェルネスやシャーリィ・フェンネスを見れば明らかである。
すなわち、肉体のエクスフィギュア化。理性をなくし、ただ本能のままに暴れる魔物と化す。
(ミントを人質にとって、更にその前でエクスフィアを剥ぎ取ってやったなら…
あいつらはどう反応するだろうね?)
ミントが目の前でエクスフィギュアと化したなら、果たしてカイルあたりは割り切って剣を向けることが出来るだろうか。
あの忌々しい殺人鬼も怪物を斬り斃して、死の芳香に無心のまま酔うことが出来るだろうか。
想像するだに、面白い。
だが、これは自らの持つ札の中でも、後半戦に切るべき札だろう。
ミントをエクスフィギュア化し、それを連中にけしかけるという手は。
それでも、戦いに理想論だの精神論だのを持ち込むような莫迦どもには、これは相当に効く札となるだろう。
特に、ロイドにはオリジンとの契約がある以上、何が何でもミントを救う手立てを考えようとするはずだ。
たとえ何者かがエクスフィギュアと化したミントと合し、結果切り捨てたとしても問題は無い。
その分だけ、敵の戦力を損耗させることに、変わりはないのだから。
(そして…次はお前だ、アトワイト)
(はい)
ミトスは、今度はエクスフィアの剥がれ落ちたアトワイトのコアクリスタルに手をかけた。
アトワイトは、もはやミトスの成すがまま。コアクリスタルを固定する爪から、あっけなくアトワイトは脱離した。
(着床の仕方は、何となく理解は出来るな? さっきまでエクスフィアに寄生されていた時のあの感覚を…
あれの逆の要領をやると思えばいい)
(はい)
右手の中で輝く結晶に、ミトスは輝石を介して話しかけた。生殺与奪思うままの、裸の存在に。
「器、こっちに来い」
コレットは、今度はその赤い瞳をミトスに向けた。
赤い瞳には、涙が溢れていた。
(…目障りなプログラムエラーだ)
ミトスは頭の片隅にかすかばかりの不快感を浮かべる。だが、この処置を行えば、そのエラーも上書きされて消えるだろう。
コレットは、近付く。ミトスのもとへ。
ミトスは見つめる。コレットの胸の輝石を。
コレットは、とうとうミトスと半歩の距離まで、歩み寄った。
(今から、お前をこの器に着床させる。どうせこの器の意識野はがらんどうだ。お前の好きに使え)
(サー、イエッサー)
ミトスはコアクリスタルを持ち上げ、それをコレットの胸に近づける。
(着床し、意識をその肉体に根ざす際、『異物』があったらそれは好きに処理して構わない。
この女の体に元々あった魂は、あるだけ無駄だ。吸収して栄養分にするなり、強引に破壊するなり好きにしろ)
(サー、イエッサー)
コアクリスタルとクルシスの輝石の間は、もはや指一本分ほどの距離にしか過ぎなかった。
接触。

51 :死天使の鐘は、されど響き17:2006/11/03(金) 19:47:03 ID:hnjd9F3F0
液体のように波打つ輝石の表面に、輝石の赤とは別の色彩が混じる。コアクリスタルの色彩が赤一色の世界を染め直す。
それはまるで、コレットを侵すアトワイトという縮図を表しているかのようにさえ思える。
コアクリスタルは、やがてそのまま輝石の中に身を埋めた。
輝石が、再び硬化する。コアクリスタルを呑み込んだまま固まる。
ものの1分もせずして、コレットの胸には奇怪な研磨法を経た、不気味な結晶が出来上がっていた。
ミトスはそれを確認し、満足げに首を縦に振った。
(これで、接続完了。あとは、アトワイトが意識野をこの器の中に無事根ざさせることが出来るかどうか、か)
願わくば、アトワイトがコレットの魂も併呑してくれれば実に有り難い。
コレットの魂をそのまま栄養分としてくれれば、その分アトワイトは強力な力を得る。
更には、元々肉体に宿っていた魂の抵抗もなくなる。
だから土壇場でコレットが再び意識野の支配権を取り戻し、自らの手中から飛び出すような事態もなくなるはず。
まるで熱病に浮かされるかのようにして、体をがくがくと震わせるコレットを見ながら、ミトスは静かに思った。
とにかく、アトワイトが先ほどこの提案をしてくれたのは、またしても僥倖。
姿はコレット、中身は己の部下たるアトワイト。
正気が戻った演技をしてもらって、油断してもらったところを「コレット」に刺されたら…
クラトスの息子のあいつは、どんな泣き声を上げてくれるだろう。
それとも愛する者の手にかかって死ぬなら本望、などというお為ごかしの偽善論を吐いてくれるだろうか。
ロイドの惨めな死に様を思い浮かべ、陰鬱な笑い声を抑えきれないミトス。
エクスフィアを埋め込んだミント、そして今この場に生まれようとする「コレット」。
「宴」の品目は、食前酒や前菜、メインディッシュからデザートまで全て揃った。
だが、油断は出来ない。
これほどの準備をした上でも、先ほども述べたようにいくらでもこの「宴」を台無しにする要素は想定できる。
リオン、プリムラ、トーマ、メルディ。
そして、シャーリィ。『ダブルカーラーン・レーザー』すら耐え切ったあの女。
悔しいが、恐怖は晴れない。
けれども、とミトスは自らに言い聞かせる。
一撃で殺せなければ、相手が死ぬまで殺し続ければいいだけのこと。
灰一粒からでも蘇り再生するなら、灰一粒残さず消せばいい。
この世に真の意味で不死身の存在など、ありえないのだから。
ゆえに不死身の生命力を持つとされたかの九頭の大蛇、ヒュドラも最後は英雄ヘラクレスの策と力の前に敗れ去ったのだ。
「宴」という策の出来は上々。「宴」を台無しにせんとする闖入者は、力ずくで宴席に着かせればいい。
奇と正、柔と剛は、二つが互いを補い合ってこそ、初めて至高の力に昇華されるのだから。
少年の姿と青年の姿…技と力を兼ね備えた己なら、それが出来る。出来るはずなのだ。
(覚悟しておけ…ボクはこうなった以上、勝つためならばどんな手段でも使ってやる。
死体を微塵に切り刻んでばら撒くような残虐な真似も、泣いて命乞いをするような下衆な真似も。
姉さまのまがい物のこの雌豚も、いくらでも生け贄に捧げてやる。本物の姉さまを蘇らせるための、生け贄に。
ボクは、クルシスの指導者…ミトス・ユグドラシルだ!!)
刹那。
ミトスの前にいた「コレット」の体の震えが、ぴたりと止んだ。
ミトスはその様を、静かに見守っていた。
いつの間にか閉じられていた「コレット」の瞳が、少しずつ開く。
その目は、再び澄んだ青色を取り戻していた。
コレットのものではない、澄んだ青色を。
「意識野への着床、完了しました」
その声は、紛れも無いコレット・ブルーネルのもの。
けれども、声に包まれた魂の形は、根本から異なっていた。
アトワイト・エックスは、こうして肉体を再び得ることになったのだ――。
「ご苦労。言うまでもないが、今この瞬間から、この村は戦場だ。ゆめゆめ、油断するな」
「サー、イエッサー。
ところで、この肉体が元来所持している魂は、どう致しましょう?」
「さっき言ったはずだ。お前の好きにしろと」
吐き捨てたミトスに、「コレット」は淡々と応える。
「サー、イエッサー。
それでは、これよりこの肉体の魂の『消化』に入ります」
「『消化』が無理そうならば、魂はイドの海の最深部に沈めておけ。
もとの魂が暴れ出して、逆にお前が支配権を奪い返されては元も子もない」
「サー、イエッサー」
その返答の声は、どこまでも虚ろだった。

52 :死天使の鐘は、されど響き18:2006/11/03(金) 19:50:31 ID:hnjd9F3F0
【ミトス=ユグドラシル 生存確認】
状態:TP95% 決戦への覚悟 少年形態をとっている シャーリィへのかすかな恐怖
ミント殺害の拒否感を克服
所持品:S・アトワイト(エクスフィア及びコアクリスタル脱落) ミスティシンボル
    大いなる実り 邪剣ファフニール ダオスのマント
基本行動方針:どんなに卑劣で姑息な手段を使ってでも、マーテルを蘇生させる
第一行動方針:想定外の事態を警戒しながら、「賓客」を迎撃する
第二行動方針:C3村でティトレイ達とロイド達を戦わせて両サイドを消耗させる(可能ならシャーリィを巻き込む)
第三行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第四行動方針:蘇生失敗の時は皆殺しにシフト(ただしミクトランの「優勝賞品」はあてにしない)
現在位置:C3の村の民家

【ミント・アドネード 生存確認】
状態:TP0% 失明 帽子なし 重度衰弱 左手負傷(処置済) 左人差指に若干火傷
舌を切除された(会話および法術の行使はほぼ不可能) 絶望と恐怖
所持品:サック(ジェイのメモ サンダーマント) 要の紋無しエクスフィア(盆の窪の傷口に着床)
基本行動方針:なし。絶望感で無気力化
第一行動方針:…どうすれば…
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:C3の村の民家

【アトワイト・エックス@コレット・ブルーネル 生存確認】
状態: 無機生命体化 コレットの肉体への意識寄生 ミトスへの隷属衝動
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック ホーリィスタッフ アトワイトのコアクリスタル
基本行動方針:積極的にミトスに従う(何も考えたくない)
第一行動方針:C3の村の闖入者への迎撃体制をとる
第二行動方針:コレットの魂を「消化」し、自らの力とする
現在位置:C3の村の民家

【コレット・ブルーネル 生存確認?】
状態:アトワイトに寄生されている 魂をアトワイトに「消化」されつつある?
所持品:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ
基本行動方針:????
現在位置:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ

53 :罪と救いと、拒絶 1:2006/11/05(日) 01:34:21 ID:j/mT9/+A0
僅かに聞こえた草を踏み分ける音は、プリムラの防衛本能に鳴る警鐘としては充分な役割を果たしていた。
少しずつ擦り合わせる音は大きくなってきている。
しゃかしゃかと本来なら童心に帰らせる小気味よいリズムも、今だけは気持ちいいものには聞こえず、
まるで草葉を掻き分け獲物を狙う、無色透明・不可視のエッグベアでもやって来るような気分だった。いや、多分実際そうだ。
物語の一幕を体験している気分でもあった。
推理小説で逃げて逃げて逃げまくって追い詰められた被害者の気分。
こんな感じなのかな、と彼女は考えてみたが、こんな静かなもんじゃないだろうと自分で一蹴した。
「今正に追い詰められ始めようとしている被害者」だと更に訂正した。
そうなるかもしれない。
相手自ら危険を知らしてくれるのなら願ったりである――鳴らない方がいいのは確かだが。
少しずつ、擦り合わせる音は大きくなってきている。
そもそもここで問題なのは、自分に戦う力はないことである。
持っているのはおよそ料理道具とは思えない、金で作られたフライパンと、あの血濡れの忌まわしき短剣だけだ。
正直もう刃物なんて持ちたくない。
かと言って本音ではフライパンで立ち向かうのも何だか情けない。
(けれどもかつてはこれで戦った、今は亡き赤髪の戦士がいたことをここに記しておく)
縋るように彼女は傍にいる牛人間、もといトーマの方に顔を向ける。
彼は別の方向、はっきり言えば彼女の背後の方を見ている。プリムラの視線には気付いていない。彼は「何か」を見ている。
ねぇちょっと、誰か来るわよ! そんなことを言われる以前に、彼はエマージェンシーに気付いていた。
それはガジュマならではの野生の勘から、という訳では決してなく、
ある程度近くにいなければ感じられない、精神と生命のパワーこと「フォルス」。
彼が感知したものは特に強力なフォルスだった。
全身の細胞が氷に覆われ、寒さで締め上げられ、震える感覚。
間違いない。このフォルスの能力者は――彼は目を尚も強く見据える。

「やはりお前か、ヴェイグ……!」

54 :罪と救いと、拒絶 2:2006/11/05(日) 01:35:09 ID:j/mT9/+A0
頭1つ抜きん出た、草原の緑に似合わぬ銀色と紺色。
全身がやや暗めの配色であることが、逆にくっきりとした輪郭を作り出している。
その先にいるのは、長身の青年だった。彼は驚愕に支配されている。
一瞬の静寂の間にも爽やかな風は吹き抜け、停止しているのは彼らだけだった。
さながら自然に作られた一種のオブジェのようだった。
え、と間抜けに言わんばかりの顔をして、プリムラはトーマの視線の先を追う。
彼女もまた同じように顔に驚愕が張り付き、引きつってそれ以上は動かなかった。
見間違うはずがない。記憶に残る姿はおぼろげでしかないのだが、罪を認める自分が小さく囁き告げる。
間違いない、今目の前にいるのは紛れもなく自分が刺したヴェイグ・リュングベルよ、と。
「あなた」なんて他人行儀な言い方はしてくれない。あくまで「自分」だ。
自分と同じ声質を持つ言葉と共に、血を吐き、手を差し出し崩れ落ちる青年の姿がフラッシュバックされる。
とてもスローモーションな残影だった。
彼女は苦痛に顔を歪めた。
フラッシュバックは時間をも逆行し、手に力を篭める感覚が再生し、加えて若干の嘔吐感に襲われる。
そして何より、その場にいたのは彼だけではない。ヴェイグの背後には、「彼」がいる。

「プリムラ!?」
「――っ、……グリッド……」

両手を胸元前に持ち上げ、少したじろぐ。それでもお構いなしに彼ことグリッドはずかずかと近付いてきた。

「無事だったのか! どんなに心配したことか……」

しかし、てんでデリカシーの無い行動を、誰かの腕が遮る。
陽が落ちた後の空の色に似た、暗めの青い着物がグリッドの目にも入った。
言っておくと、これはグリッドのデリカシーの無さについて阻止したのではもちろんなく、その相手が問題だったのである。
何せ自分を刺した女(無論、その点で腕の主が彼女を蔑むなど決して出来はしないのを、先に触れておく)で、
E2にいた時に挙がった6人のマーダーの内の1人だ。
グリッドの考えがあり、気持ちは分かるとしても、みすみす彼女の元に行かせるなど言語道断、
自分のように油断を突かれ刺されたらどうするのか。
それこそ彼が信じていたものの根底を打ち崩されることになる。
それがまあ、よくもノコノコと。


55 :罪と救いと、拒絶 3:2006/11/05(日) 01:36:12 ID:j/mT9/+A0
「トーマ、何故その女と一緒にいる?」彼は問うた。「そいつはマーダーだぞ」
「こいつはもう元マーダーだ。俺はハロルドに、後悔しているこいつを追えと言われた」

元マーダー、とヴェイグは心中で疑問の音を持って反復する。
彼はトーマより前方にいるプリムラに視線を移した。彼女の身体はびくりと1度震えた。

「ほ、本当よ! 私はもうマーダーなんかじゃない。あの時、私はどうかしてた……」

プリムラの瞳に映るヴェイグの視線はひどく冷たく、それは針の鋭さを持って無数に降り注ぐ強雨のように
幾度も彼女の身体を突き刺した。
けれでも彼女は怖じずに言い返した。それにどれだけの勇気を有したかは分からないが、ヴェイグの視線に変化はなかった。
彼はプリムラの言葉を推していた。

『その手の芝居を打った上で、油断した相手の背中を刺すのは、悪党の常套手段と相場は決まっています』

この言葉が引っかかっていたのだ。
仮にD5で初めてプリムラに会った時、あのふらふらとした抱擁が演技だとしたら、嫌なほどに符合している。
刺されたのが背中か腹部かの些細な違いだ。
そしてこのジェイの言葉を否定したのは、あくまでティトレイが嘘をつくのが下手と言うか嫌いだという
見知った関係からの前提であり、それ以外の参加者にはこのルールは適用されるのである。
ましてや彼女とはバトル・ロワイアルで、しかもつい半日ほど前、2日目の夕方に初めて出会ったのだ。
ヴェイグは初見の他人をすぐに信用するほど、易しい男ではない。
位置としてはプリムラが前、そのすぐ後ろに図体の大きいトーマがいるという図式になっているため、
後ろからトーマを不意打ちするということはないだろうが、立ち位置だけでシロかクロかは決められない。
ただ自分達がこの方向からやって来たまでの話だ。
更にファーストコンタクトは刺殺未遂、という実に最悪のケースが、疑念に拍車をかけている。
(ちなみに、)この彼の行動はグリッドにとっては不愉快極まりない行為だろうが、
先に述べたように彼が刺されては全く意味がないのだから仕方がない。
グリッドの「どうもしない」というルールはプリムラだからこそ成立するのと同じように、
ヴェイグの「どうもしない」ルールはティトレイにしか成立しないのである。
気にかけてやる義理はない。彼女は、ヴェイグにとって自分を刺したマーダーでしかない。


56 :罪と救いと、拒絶 4:2006/11/05(日) 01:36:54 ID:j/mT9/+A0
どうかしてた、か。便利な言葉である。そんなもので全てが解決するのなら、世界はこんなに難しくはないだろう。
もしミクトランが「どうかしてました」と言ったら許せるのか? それと同じことだ。答えは当然のごとくノー。
ここでヴェイグは彼女が本当にどうかしていた可能性を考えてみた。
シャーリィの襲来により、一時的な混乱に陥ってしまった可能性は充分にある。
どうかしてしまっていただけで仲間の女性を殺し、無関係の自分を刺したのならば、後悔も一層深いものであろう。
そして自らの場合も考えてみる。
自分もどうかしていたからルーティを殺しました――合っている気がする。やはり便利な言葉だ。

「……そいつの武器を全部渡せ。話はそれからだ」

食って掛かるようにプリムラは身を乗り出す。「信じてくれないの!?」

「黙っていろ」
「ぎゃふっ」

トーマの手から黒がかった紫の光が発せられ、プリムラの身体は脚から膝、腹、胸、頭の順に崩れ落ち、
支えようとした手も左右に広がり、不自然な大の字(むしろY字に近い)になり大地にキスをした。
心臓麻痺でもないのに、そのまま起き上がろうともしない。磁のフォルスが働いているのは火を見るより明らかであった。

「プリムラ!?」

遮っていた腕の壁を無理矢理にでも押し退け、グリッドはプリムラの元に駆け寄ろうとする。
ヴェイグは「馬鹿」、と腕を伸ばし阻止しようとするも、相手は仮にも音速の貴公子、間に合わない。足だけはお墨付きだ。
ちなみに彼が止めようとしたのは、決してマーダーの可能性がある彼女の元に行かせぬためではなく、

「ぬおっ!!?」

恐らく空間に発動しているであろう磁のフォルスの効果を受けさせないためである。
グリッドは勢いもあって見事につんのめり、彼こそ本当に大の字になって地に伏した。ヴェイグは呆れた溜息をつく。
男女が揃って倒れている様、こうして見るとこの会場では覚悟と決意の末に情死したように見えなくはないが、当然そんな訳はない


2人は生きているし、そもそも共に心中するような間柄ではない、筈だ。
グリッドが倒れていることにも気付いていないのか、ぴくりとも藻掻けない代わりにプリムラは、
夕方のカラスの群れのようにぎゃあぎゃあと騒ぎ立てているようだが、それも気にせずトーマは背のサックを外していく。
どうやらフォルスが作用しているのは厳密にはヒトの身体のみで、デイパックには何ら異常はない。器用なものである。


57 :罪と救いと、拒絶 5:2006/11/05(日) 01:38:36 ID:j/mT9/+A0
「戦意がないことを証明するのが1番手っ取り早い。悪く思うな」

彼はヴェイグにデイパックを放り投げた。
この手法にはサックを奪い去るということ以外に、疑惑をかけられているプリムラの動きを封縛する狙いも当然ながらある。
それは彼には不本意であるのだが。

「これで全部か?」
「そうだ。何なら俺のも渡せばいいか?」

いや、いい、とヴェイグは少しの後小さく首を振りながら答えた。
中身で武器になりそうな物は絞殺用のロープといつかのバルカ博物館で見たようなフライパン、
元々は自分の支給品である短剣だけだ。
「離してやってくれ」、と彼は改めて言った。
トーマの大きく粗野な手から光が消える。それがフォルスの制約からプリムラが解放された証拠だった。
彼女は上体を起こし、草むらであることなど忘れてその場にぺたりと座りこむ。
ヴェイグに罵声の1つでも浴びせてやろうとでも思い、彼の方を向いた。
だが、彼の変わらぬ冷たい視線に射抜かれ、今更そんな資格が自分にはないことを思い出した。
疑われて当然――今目の前である程度ぴんぴんしている人間を刺したのだ。普通そうな姿に罪が鈍ってしまった。
失われた信用を取り戻すのは非常に難儀であるのだ。信じてくれないの、なんて厚かましいセリフだ。
彼女には口を開き弁明の言葉を語る権利さえなかった。
立ち上がろうとは思わなかった。動けなかった。
私は彼らに謝らなくてはいけない、そう思っているのに、どこかにそれを避ける自分がいる。

――私は、許されるのだろうか?

ふと、俯いていた彼女の視界でも、誰かの影が映る。
「プリムラ」、とその影は声を掛けた。



58 :罪と救いと、拒絶 6:2006/11/05(日) 01:39:31 ID:j/mT9/+A0
「……グリッド」

空を男の形に切り取った部分に影はいた。表情は燃え尽きた灰を塗りたくったようになっていて窺えない。
それでもプリムラは目を逸らした。自分の顔を見られたくなかった。

「私、カトリーヌを疑って、殺した……
 そこの男の人も、刺して殺そうとした……わ、たし……ご、めんな、さい……!!
 わ、わた、し……もう……仲間、なんて……言えない……!」

たっぷりと間を置いて、懺悔はプリムラの口から語られた。
肩に手が置かれる。彼女は身体を震わせて、はっと正面に向き直った。
陽光が潤んだ瞳に反射し、無垢な光を発している。

「お前は仲間だ。マーダーだろうと元だろうと関係ない。お前は我が漆黒の翼、『迷探偵』のプリムラなのだ」

一瞬、太陽に雲がかかり、逆光が薄らいでいく。絵の具を水で溶かしていくように、すうっと黒い陰影がその濃さを失くしていく。
そこにはいつものグリッドがいた。格段慈愛に満ちた表情ではなく、いつもの馬鹿っぽい真っ直ぐなグリッドがいた。
あの「理由もない」自信げな笑みを浮かべて、そこにいたのだ。
途端、プリムラの目から涙が滲み出してきた。
最大限まで水を入れた杯に更に水を注いだように、零れ出さんとしていた潤みは一塊となってて頬を伝い、
今まで塞き止めていた感情と共に流れていく。
鼻を何度もすすり、涙で前は揺らぎ、顔がぐしゃぐしゃになってなお、プリムラは泣き続ける。
どんなに不細工な顔になってようと、見られようと、そんなもの関係なかった。
何故涙というものを流しているのか、その根底にあるものは何か――それすらも意味を成さないように思えてくる。
ただ、泣いている。よく分からないが、泣いている。それで今の自分には充分立派な勲章に思えた。
その涙が、自分は心無いマーダーではない、という唯一無地の証明だと。

「ひっ……く、う……ぅ……ぁああぁぁぁぁあっっ!!!」

彼女はそして駆け出した。
夢魔の靴が彼女を闇へと誘った。


59 :罪と救いと、拒絶 7:2006/11/05(日) 01:40:33 ID:j/mT9/+A0
「な……プリムラっ!?」

巨大な魔物の口のように開く洞穴に、彼女の影は吸い込まれていく。
いくら座っていたとはいえ、突然過ぎる行動に近くにいたグリッドも止めることは叶わなかった。
ナイトメアブーツの加護による敏捷性の上昇もその要因の1つに入っていた。
一刹那で消えた彼女を、唖然として見えない姿を見つめる。

「……逃げた!?」

ヴェイグの声にトーマは振り向く。

「違う!」
「じゃあどうして逃げる!?」
「奴は本当に後悔していた! 逃げたのではない!!」
「根拠はどこだ! あの涙だって嘘に……!」

唯一空いた左腕で、トーマはヴェイグの胸倉を掴んだ。本当はリアルスマッシュでもかましてやりたい気分だった。
長躯である彼すら宙に持ち上げてしまいそうな怪力で掴んでいたが、それにも怯まずヴェイグは睨み返した。

「ハロルドに聞いたぞ。お前も人を殺したと」

思いもよらなかった言葉に思わず目を瞠る。

「後悔してようがしてまいが、どうでもいい。人を殺すなど呆気ないものだ。だが、貴様に奴を罵る権利など微塵もない」

返した答えは、無言だった。
トーマはふん、と1度鼻を鳴らし、無造作に突き飛ばした。

「俺にもないがな」


60 :罪と救いと、拒絶 8:2006/11/05(日) 01:41:29 ID:j/mT9/+A0
彼もまた同じなのだ。人は殺していないにしても、マーダーとして殺そうとはした。しかも、プリムラを。
しかしその立場にいた者として、それを自覚していただけ、現時点のヴェイグより上等だろう。無知とは罪である。
彼がプリムラのことを異様に擁護しているのは、そこから来る後悔と、その時聞こえた太陽の少女の声によるのかもしれない。
そしてまた、プリムラもマーダーであったのだ。
寧ろトーマが及ぼした影響――恐怖心が彼女をそれに駆り立たせたのも、一概に否定できないだろう。
しかし後に仲間の1人を殺したことを非常に悔やんでいるのはトーマも知っているし、謝りたいとも思っていた。
マーダーであった彼女は仲間の認可によって救済されたはずなのだ。逃げるような理由などどこにも見当たらない。
よもやこのような状況で発狂するとは――考えにくい。
だが、彼女は去っていった。まるで一刻も早く姿を消したかったかのように、仄暗い闇へと逃げ込んでいったのだ。
ヴェイグは動揺に瞳を揺らしながら、洞窟を見やる。
一時的な憎しみは永き罪を忘れさせる。直情的な心情は深層心理を上書きする。心などそんな簡単なメカニズムで作られているのだ


それを失念していたヴェイグは、再度深く反省した。

何かが足りない。
何かが、この場に欠落している――

「――グリッド?」

ヴェイグは辺りを見渡す。グリッドがいない。髪の毛1本の影もない。はっとして再び洞窟の方へと向く。
そうだ。漆黒の翼のリーダーたるグリッドが、逃げるプリムラをそのままにしておく筈がない。
やっとのことで会え、彼女の償いの意志を確認した彼が、それでお終いにする訳がない。
グリッドは、プリムラを追いかけていったのだ。感情に囚われ彼をしっかり見張っていなかったこともヴェイグは悔やんだ。

「まあ……大丈夫だろう。中にリオンがい」
「リオン!?」

トーマの考え込んだ唸りを彼は遮った。

「リオンが、中にいるのか!?」

ヴェイグの只ならぬ様子を見て、トーマは口ではなく、ただ失敗したと思いながら頷いて答えた。

「どういうことだ! 何故、マーダーの奴と一緒に行動している!?」
「……あいつはプリムラと一緒に来た。奴もマーダーであったが、止めたらしい」


61 :罪と救いと、拒絶 9:2006/11/05(日) 01:42:38 ID:j/mT9/+A0
具体的な事実を知らないトーマは、こんな簡単で他人事な言葉でしか言いようがなかった。
事実、彼はリオンがどのような行いをしてきたかは全く知らない。当人の口から多く語られることもなかった。
それならば、どんなに共に動いていないとしても、ジューダスという特定の人物を殺す姿が想像できるヴェイグの方が
マーダーの彼を知っているだろう。
ヴェイグは二の足を踏んでいた。騙しているのはプリムラかリオンか、両方か、どちらも違うのか。

「……くそっ!」

体を起こし、ランタンを取り出し洞窟へと駆けて行く。プリムラとグリッドは頭の隅にもないだろうが、洞窟は暗闇なのである。
そんな自分の行動に、まだ少し冷静さが残されていると安堵した。
内部はやはり真っ暗だ。ヴェイグは火を点す。天井から氷柱のように吊り下がった鍾乳石が、炎の光を受け微かに照らされている。
全くもって戦えないグリッドと、殺人容疑の男女2人が、この本来なら一寸先も見えない洞窟にいる。状況はかなり危険だ。
仮にどちらかがマーダーなら――全身に寒気が襲い掛かり、冷汗が浮かび上がる。
呼吸が荒々しくなっていることが自分でも分かった。
彼が恐れていることは、己の死ではない。グリッドの死、ひいては自分に近付いた者が死ぬという、拒絶の再発である。
信じることの難しさを再認識する。信じていればこんな焦ることもないのだ。
しかし疑念という時に正しき負の感情が、彼の足を速めさせる。砂の土台では築き上げるものはいとも容易く崩れてしまうのだ。
特に、マーダーであった人間は――

『はいな。助けられる人、メルディ助けたかったよ』
『やってしまったことはどうしようもないけど、これからのことならなんとかなるんじゃないか?』
『お前が罪を背負ったままただ死んでも何も残りはしないが、お前が生きて他の者を助けることでできる何かはあるはずだ』

信じて、やれるのだろうか。

今洞窟にいる2人は、かつての自分だ。今度は自分がロイドやメルディやジューダスになる番なのだろう。
しかし、まだその気持ちまでは至れていない。
体の震えがその証拠である。彼は自らの手が失わせることを恐れている。
命を奪うのはマーダーなのに、まるで自分が死神となり奪ったかのような錯覚に陥ることを。
それを今は、頭の本当に隅のミクロ単位の小部屋に追いやろうとする。
今必要なのは、信じることでも疑うことでもなく、グリッドが追いかけたから自分も追うという設定。
見定めるのは自分の眼と心であり、相手に対面し事実を確認してからでも、多分遅くはないだろう。遅くない。
彼は頬の汗を拭い取った。


62 :罪と救いと、拒絶 10:2006/11/05(日) 01:43:32 ID:j/mT9/+A0
トーマもまた、プリムラ、グリッド、そしてヴェイグを追おうとしていた。
全ては自分の失言が原因である。彼ら彼女らが改心したのは、ハロルド亡き今、恐らく自分しかいないのだ。
そんな彼の目に、嫌な青が映る。ふらふらと酒に酔っているかのような不安定な動きが、不吉さを相乗している。
彼の脳裏にあの青の光線が思い出される。
最早動きはしない右腕が疼いたような気がした。
何故か耳にタイプライター音が反響する。
死んでという少女の声が耳の奥で聞こえる。
あの時の言い様のないヤバさ。その片鱗を僅かながらに感じる。間違いない、奴だ。あいつだ。

「こんな時に……ッ!」

近くにいる? いや、戦場ではわざわざ自分がいるような証明はしない。
それを明かすということは、いや明かさざるを得ないということは、これはつまり偵察だ。
分かれば話は早い。トーマもまた、暗闇の洞窟へと走っていった。
逆に彼は明かりを点けなかった。もし追って来るのなら暗闇の方が断然撒きやすい。それに、ヒューマよりは視力は優れている。
トリのガジュマなら話は別だが。奴らはどちらかと言うと夜は苦手な方らしい。
願わくば、あの忌まわしい蝶が入り込んでこないことを、神でない何かに祈った。彼は信心深くないのだ。
メルネスやら海の意志やら、そんな宗教めいたものは信じないのだ。




暗中を走るプリムラは、溢れ出る涙を右手で押さえながら、何故逃げてしまったのか思案した。
分からない。何故今洞窟を走っているのかも分からない。
ひょっとしてここは洞窟の中ではなく、せめぎ合う自分の混濁した心の中ではないかと彼女は考えた。
どちらにせよ出口も光も見えてこない。五里霧中ならぬ五里暗中の中を、彼女はひたすら走っていた。
違う、と彼女は思った。光を探して走っているのではない。光から逃げているのだ。
普通を失った者にとって、普通というものはあまりに眩し過ぎて届かない存在なのである。

(ごめんなさい、グリッド……
 私、嬉しかった……許してもらえて、嬉しかった。
 でも……どうしてそんな笑ってくれるの? どうしていつも通り接してくれるの?
 どうして? どうして? どうして!?)

何故なら、それは最早取り戻せぬ「幸せ」の形だからである。

(――私は、マーダーだったのに!!!)

彼女は、普通のままのグリッドを恐れたのだ。



63 :罪と救いと、拒絶 11:2006/11/05(日) 01:44:16 ID:j/mT9/+A0
『結局の所、私が許そうが許すまいが、彼女が自分を許せなければ意味がないの』

こんなことを言った天才科学者がいる。

『そしてそれを促せる外的要因は1つしかないわ』

彼女はその外的要因すら、自らの手で突き飛ばした。
彼女は自分を許すことは出来ない。手が首に食い込む感覚を、彼女は忘れない。
その外的要因はしつこいだろうが、それが彼女の心の鍵となるか、錠となるかはどこの誰にも分からないのだ。
彼は無自覚であり、許すのは自分自身なのであり、そして彼女は己の気持ちすら分かっていないからである。


それでも彼は言うのだろう。「お前は漆黒の翼の一員だ」、と。
無知とは罪である。



64 :罪と救いと、拒絶 12:2006/11/05(日) 01:46:08 ID:j/mT9/+A0
【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 軽い火傷 TP残り70% 決意 中度失血
所持品:イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり)
    ジェットブーツ, 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明)
基本行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
第一行動方針:テルクェスを避けるのを兼ね、プリムラを追う
第二行動方針:漆黒を生かす
第三行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
現在位置:G3洞窟裏口付近

【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)切り傷多数(応急処置済み) 
   再出発への決意 体力消耗(中) グリッドへの恐れ
所持品:なし(ヴェイグが所持)
基本行動方針:主催をぶっ飛ばす
第一行動方針:逃げる
第二行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
第三行動方針:グリッドとヴェイグに謝る?
現在地:G3洞窟裏口内

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP40% TP50% シャオルーンの力を使用可能 他人の死への拒絶
所持品:チンクエディア ミトスの手紙 (ユアンのサック所持)
    プリムラの荷物(ソーサラーリング、ナイトメアブーツ ミスティブルーム、ロープ数本
            ウィングパック(食料が色々入っている)  金のフライパン
            C・ケイジ スティレット  グミセット(パイン、ミラクル) 首輪 )
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:グリッドとプリムラを追う
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:G3洞窟裏口内

【グリッド 生存確認】
状態:不屈の正義感 ロイドの作るアイテムにwktk
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:プリムラを追う
第二行動方針:再度プリムラを説得する(出来ないなら拉致)
第三行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第四行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:G3洞窟裏口内


65 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/05(日) 15:10:16 ID:mdr8G1ij0
テイルズ大好きage

66 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/05(日) 15:27:29 ID:qtFzJlIT0
えー?マジ?テイルズ信者? キモーイwww! テイルズが許されるのは小学生までだよねぇ〜(笑
キャハハハハハハハ


67 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/07(火) 05:11:30 ID:hNRBu+Tr0


68 :双刀に約束し二刀に誓う 1:2006/11/08(水) 20:28:07 ID:1DlJx4uI0
判ってる。俺は甘い。そんなことは判っているんだ。
お前は何も判っていない。判った気になっているだけだ。

馬鹿が背伸びして賢そうな振りをした所で、馬鹿であることには変わりない。

俺はどうしたらいい?何が出来る?
自分で考えろ馬鹿。手先の技はともかく、今更自分の生き方を変えられる程器用には見えんがな。


土に切り取られた空から差し込む光を瞼に受けて、泣き疲れて眠っていたロイドは辛そうに目を開けた。
腰を120度負って目を覚ます。右頬に冷たいものを感じた。
グローブを付けた左手で頬を擦り、掬った滴を舐めてみる。味は分からないし意味もない。
こんな生理現象がある位なら天使になった方がマシなのかも知れないとは、思いたくても思えなかった。

起きたか、という右横からの声にそちらに目を向けた。
まだハッキリしない頭で、それがメルディだと認識するのには少々時間がかかった。
どの位寝ていたかを聞けば30分も経っていないと、彼女は答えた。その顔は矢張り24時間前とはかけ離れている。
立ち上がろうとして、彼女はそれを制した。起き上がろうと右手に力を掛ける寸前だった。
右手を意識した途端に鋭い痛みが押し寄せてくる。
少しだけ眉をしかめて、ロイドは目を閉じた。メルディに対して出来た最大限の配慮だった。やせ我慢とも言う。
努めて平静にロイドは右手を前に出した。
十重二十重に巻かれた布と添えられた副子で固定された右手は実に無惨に思う。
親指を除く四指は纏めて巻かれてまるでミトンを装備したかのような形だ。

泣いてたか、メルディはロイドの目元を見ながら(焦点が曖昧でそう思うしかないだけだが)指で涙の跡をなぞりながら言った。
ロイドの目は少しだけ赤く腫れていた。
キールが首輪を弄って自爆する夢を見た、そう言おうとしてロイドは口籠もる。
盗聴は元より、それはメルディにとって不適当極まりない発言であることぐらいは彼にも分かる。
ロイドは漸くキールを認識することを思い立った。自分が疲れていると思うのには十分な証拠だった。
首を回して探してみる。そう広くない壕の中で眠る彼は直ぐに見つかった。
体の崩れ方と精細を欠いた顔から、休むだけのつもりが墜ちてしまったのだろうことは容易に想像が付く。
その様が、酷く哀れに見えた理由は、皆目見当も付かない。


69 :双刀に約束し二刀に誓う 2:2006/11/08(水) 20:28:41 ID:1DlJx4uI0
包帯の中で中指を少し動かそうとしてみる。激痛が脂汗を呼んだ。
ロイドは下唇を噛む。痛みではなく、無力に、どうにもならないほどの力の無さを堪えるためだ。
所詮、お前はその程度だと右手に印を押されたようで情けないにも程がある。
先ほど散々出して最後の一滴も夢の中で底を突いたからか、涙は出ない。
ロイドは背中にほんの少し、暖かみを感じた。
背中合わせに座ってくれたのは、多分、今のロイドの顔を見なくて良いように気を利かせてくれたからか。
それは今のロイドにとって最高の贅沢に感じられた。

「俺はどうしたら良いと思う?」
ロイドは聞いた。
「分かんないよ。メルディバカだから」
「彼奴には嘘付いたけど、実は俺もそうなんだ」
彼の表情は冗談を言えるそれではなかった。
「メルディと同じだな」
短い嘆息が口から漏れた。
未だ治療中の右手、押し寄せる選択の時間、仕様もない無力感、どうしろって言うんだよ。
俺は何をしたらいいんだ?父さん…コレット…
「でも、ロイドは、ロイドのままで良いと思うよ」
鼓動が、高鳴ったような気がした。メルディはもう限界の筈だ。でも、今確かに。
彼女の言葉は、確かに熱量を持っていた。
「…そう思うか?そう思って良いのか?」
俺は今とてつもなく馬鹿なことを考えているんだぞ。最高に馬鹿な話だ。いいのか、いいのかよ?
「多分、ヴェイグもジューダスもそう言うよ」

ロイドは手を使わずに立ち上がった。
キールが寝ていることを確認して、少々考える。
どこまでやれるか、材料を探しに行くか?キールとメルディを置いては遠くに行けない。どうする?

「クィッキ…」
話は聞かせて貰った、と言わんばかりのアクセントでいつの間にか壁にクィッキーがもたれ掛かっていた。
その体毛は酷く薄汚れている。

70 :双刀に約束し二刀に誓う 3:2006/11/08(水) 20:29:35 ID:1DlJx4uI0
――――――――――――――――――――――――――――――

そんなに俺の尻が欲しいかカマが!そうだ追ってこい!!

低空軌道!?  高低差僅か3ミリ…良い腕だ。

             FOX4!ブレイク!ブレイク!!

   旋回半径の小ささなら此方が上手だ。馬鹿の1つ覚え見たく加速してんじゃねーよ!

  距離50000(cm)…デコイ役はもう十分だろ?

                      来い来い来い来い最大加速!

目標相対速度比1.14…目標まで2…1…ブレイク!

         そのまま墓とキスしておねんねしな!このイカレたバタフライが!!

テルクェスのFOX4を確認…これより帰還する。

――――――――――――――――――――――――――――――

「…クィッキー…」

実は今の今までクィッキーは座標−0(地下)の概念が無いため防空壕の入り口をうろついていたテルクェスと
フライトシミュレーションさながらの空戦を行っていたのだ。
ともに唯の攻撃オプションとしての意地があるのか、そのドッグファイトたるや絶句に一言に尽きる凄惨なものだった。
このままでは彼らに余計な心労を与えまいとクィッキーはテルクェスを入り口から引き離すため単身で陽動作戦に出撃する。
地面に触れれば偵察機としての意味を失ってしまうテルクェスがクィッキー生体反応に引っかかり、
最終的にはクィッキーが誘い込んだ地点で障害物に激突し、テルクェスは情報を得ることが出来ぬまま
自滅、という形でこの空戦は幕を閉じる。
飛べない癖に無茶な機動を行ったクィッキーはボロボロになりながらも戻ってきた。その一言と共に…

「「ふーん」」

っつってもロイドやメルディには何言ってるかさっぱり分からないし、見た目的には少し土で汚れた程度でしかないので
気付くわけもない。後にこの一戦は謳われない空戦(The Unsung War)と言われることもなかったしどうでも良いのでカット。
まあ本人が満足してるし別に問題もない。

第一クィッキーは飛べないんだから空戦じゃないし。


71 :双刀に約束し二刀に誓う 4:2006/11/08(水) 20:31:36 ID:1DlJx4uI0
兎も角現れたクィッキーはその場の彼女の意志を代弁するかのようにロイドを誘った。
応じるようにロイドとメルディは音漏らさぬように立ち上がり、日の下に戻った。


瞼を開けるのも辛そうにしてキールは目を覚ました。
不眠無精は学徒の常とはいえ、実に不可抗力の睡眠であった。
広域ホーリーブレスに、ロイドの治療、防空壕の維持と既に休憩だけでは賄えない程の消耗がキールにはついて回った。
この状況下でキールが自分に課した責任は酷く重く、精神を摩耗し続けている。
加えてメルディに対する自責、ロイドの眩しさに浮かぶ自分の醜さに対する自己嫌悪。
泣き疲れたロイドが眠ったことを確認して、キールは一瞬安堵して緊張の糸を切ってしまった。
空に輝く青い蝶を認識する前に墜ちたのは多分幸いだったのだろう。

目を覚まして五秒ほどしてから異変に気付く。自分が寝ていたことに気付いたのはその十秒後であった。

それほど大きくはない壕の中を一頻り見渡し、誰もいないことを認識して彼は坑の中から飛び出した。
心中穏やかならぬまま既に城とは呼べない荒れ地を探し回る。
左手の懐中時計を開いて、そう時間は経っていないことを確認した。
城の地下を見下ろすが動体は無い。
血の気が引いていくのを感じた。
超常現象の類の可能性を必死で追い出し、可能性を模索する。

ロイドが出て行くとしたら何処だ?決まっている。ヴェイグ達を追って洞窟へ、だ。
彼奴がメルディを自ら危険に曝すとは思えないが、メルディは1人で動ける状態じゃ無いんだから同伴だろう。
そんなに頼りないか、そんなに僕が信用成らないか、畜生、畜生。
自分の無能さは自分が一番よく知っているさ。くそったれ。

行くべきは南の筈だ。そう判断した彼の足は北に向かっていた。
1人になってしまった恐怖と、既にいない人間に縋る程の惰弱さが混交した肉体は彼の墓に向かっていた。
結果として、それは正解である。

72 :双刀に約束し二刀に誓う 5:2006/11/08(水) 20:32:30 ID:1DlJx4uI0

両の掌を膝に当て、肩で息を切らしたキールは地面を向いて数度肺の空気を入れ換える。
動悸を抑えたところで面を上げた。彼の墓は手前の人影で確認できない。
「俺の手は今どうなってるんだ?」
叱咤を行おうとしたキールの言葉の頭にロイドの声が被さる。
ロイドとは思えないほど、陰鬱で重厚で、その奥にある力を実感させる声だった。
「皮膚を突き破って外面に出ていた骨は戻した。
 リカバーの必要箇所の除去は済ませてあるから感染症は今のところ無い
 今のペースなら後6時間あれば戦闘に耐えられる程度には戻るだろう」
場の空気に呑まれそうになるのを堪えようと賢明に学術的要素とロイドの理解力を重視して言葉を選ぶ。
複雑骨折ではあっても粉砕骨折としては酷くなかったのが幸いだったといえる。
「‘今’どのくらいなんだ?」
「…今か?割れた拳の形状修正と骨移防止、整骨は済んでいる。現在は再構成中だ」
意図を掴みかねていることを表に出さないよう、慎重に言葉を選んでいく。
ロイドの口からもういい、と出たとき、キールはその動揺を隠せなかった。
「痛いけど、動かない訳じゃない。俺の手の治療はこれでもう十分だ」
「僕がそこまで頼りないか。そこまで信じられないか」
喉が怒りで震えている。ロイドにでは無く、ロイド1人心服させることの出来ない自身の無能に。

そうじゃない、そうじゃないんだとロイドは振り向かずに言った。
「俺は、どこまで行ってもどうしようもなく俺なんだ。
 コレットも、メルディも、キールも、グリッドも、ヴェイグも、約束も、全部守りたい。
 その為に出来ることを、俺はしたい。俺は、全部を守りたいんだ」
「…何をするつもりだ?」
風が薙いでいる。ネレイドとの攻防を生き残った僅かばかりの緑が揺れた。
「2つ、武器を造りたい。1つはダブルセイバー。
 これは俺のムメイブレードの刀身を溶接して合成する。…グリッドとの約束だ」
「施設も、炉も機材も無いんだぞ。…お前、誰にそれを頼むつもりだ」
ロイドの意図は簡単に理解できる。
セレスティアの三属、土・雷・氷、即ち金属加工の能力を当てにしているのだろう。
雷晶霊による通電による発熱で融解、鉱物を司る土晶霊の力で金属を精錬、氷晶霊の力で焼き入れ、
セレスティア系のC・ケイジはある。そして此処には金属処理に適した技術者が1人いる。
「メルディの状態を分かっててお前言っているのか!」
疲労も忘れて大股でロイドに近づき、キールは左肩を掴む。
「しかもグリッドとの約束だ?お前はそんなものの為にお前の武器を無くすつもりか!?お前は」
「そんなもんしか無いんだよ…」
ロイドの声は震えている。連動するかのように握りしめた左手の震えはキールの手にまで伝播していた。
「俺は…俺には、残った約束を叶えるくらいしか、出来ることがないんだ」
頼む、という言葉は震えが強すぎて聞き取れなかった。
ぐい、とメルディがキールのローブを引っ張る。
「ロイドとは、もう話をしたよ。メルディ、ロイドの手伝いしたい」
キールは彼女の方を向くことが出来なかった。見たら、負ける速度が早まる気がした。
「メルディのせいで色んなものいっぱい、いっぱい無くなっちゃったから、何か造りたい。守りたいよ」
畜生。畜生。賛成2に反対1か、糞が。
そしてロイドが此処にいるのは、つまりそう言うことだ。
ロイドはもう一つの我侭を認めろと言っている。それを材料にして造る気だ。

73 :双刀に約束し二刀に誓う 6:2006/11/08(水) 20:33:26 ID:1DlJx4uI0
キールは漸くロイドの覚悟を完全に諒解した。
エターナルソードに比べればムメイブレードもウッドブレードも大して変わらない。
手負いだろうが何だろうがクレスやミトス相手では常時天使化しなければ勝ち目もない。
手持ちの時間を全て精神力の回復に回して一戦に全てを費やすつもりだ。
腕一本、いやその気になれば体全部を使い潰すつもりだろう。

『何かを得るための犠牲』キールはそう言った。その返答が此処にある。
手も、メルディも、仲間も、ロイドは全てに甘えて全てを守り通すつもりだ。
全部かゼロか、全部を失う覚悟を以て今こうして哀願している。残った全部を守りたいと。
「行くぞメルディ。…僕たちはそんなに暇じゃない」
キールはロイドに背を向け行進を始める。
畜生。担ぐ相手を間違ったか。甘い、甘すぎる。こんなに心地良いんじゃ鬼も仕様もない。
「1時間だ。メルディだけじゃ時間が足りない。インフェリア側の晶霊も使って1時間で拵えてやる。
 覚悟しろよ…お前は戦闘中にへばっても兵器として戦って貰うからな」
まずはロイドのテーピング準備だ。ガチガチに固定してでも右手を使えるようにしなければ。
ああ、使おうと思えば右手はもう使える。激痛が走るだろうが天使になれば関係ないんだろう?
その後右手が使い物になるかはロイド次第だ。
鋳型は城跡の煉瓦を使うか、畜生、単純作業は愉しすぎる。厭なことを考えなくて済むからな。
「…木剣に関しては面倒は見ない。‘お前が何処でどうやって手に入れる’のかは関知しない。勝手にしろ」
「本当に良いのか?」
ロイドの声は若干の憂いを秘めている。
「お前は大嫌いだ、この馬鹿が」
キールは未来の墓荒らしに精一杯の激励を送った。
「もう言われたっつーの…有り難う、キール」


74 :双刀に約束し二刀に誓う 7:2006/11/08(水) 20:34:09 ID:1DlJx4uI0
ロイドは腰の二刀を外して、メルディに渡した。
「こんなのは、唯の甘えかも知れない。メルディのことを考えたら、させない方が良いのかも知れない」
メルディはサックから、一本の忍刀を手渡した。ロイドが使うには短すぎる。
「バイバ、らしくないよ。メルディに任せて」
ロイドは確信した。メルディは強い。俺達が思っているよりもよっぽど強い。俺よりも強い。
「…頼む」
「ワイール、メルディ頼まれたよぅ」
メルディの笑顔は、24時間前のそれとの違いを見つけるのは難しかった。


メルディもE2の方へ向かい、十分離れたのを確認してからロイドは忍刀を抜いた。手は震えている。
今から木刀を造るのに都合の良い木材を探すには時間がない。森まで行くのは残る2人が危険すぎる。
クィッキーに導かれてロイドはそこに到達し、直ぐにクィッキーの意図を察した。
メルディが止めないのは互いに理解済みと言うことだろう。

攻撃に次元斬を使うのならば別に切れ味は必要ない。
兎に角使いやすさ重視。徹底して右手への負担を減らす握りを設計する。
材料が材料だから右と左の長さは異なるが逆に都合が良い。短い方を右にすれば負担は更に減る。
クィッキーはそれをただ見ていた。先ほどテルクェスがぶつかった木と木を組んだ縄が半ば焼け切れている。

今は戦士として戦えなくとも、出来ることはまだある。職人として戦える。
最高の木刀を造ってやる。ジューダスも認めたあれ以上の物を。唯の木刀で魔剣に挑んでやる。

「許して貰おうなんてこれっぽっちも思わない」

ロイドは忍刀で縄を切った。十字架が解体される。
お前が褒めてくれなかったら、こんなこと思いつかなかっただろうな、ジューダス。
俺はどうしようもない馬鹿だから、こんな事しか誓えないよ。ゴメン。

「だけどここに誓う。俺は絶対に諦めない」

木刀制作の一番最初の行程は、木に刻まれたこの下で眠る人間の名前を削り取る作業だった。


75 :双刀に約束し二刀に誓う 8:2006/11/08(水) 20:35:09 ID:1DlJx4uI0
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:TP35% 「鬼」になる覚悟  精神的肉体的疲労 気分高揚
所持品:ベレット セイファートキー リバヴィウス鉱 BCロッド キールのレポート ジェイのメモ ダオスの遺書 
基本行動方針:脱出法を探し出す。またマーダー排除のためならばどんな卑劣な手段も辞さない
第一行動方針:メルディの武器作成をサポートしつつTP回復を図る
第二行動方針:仲間の治療後、マーダーとの戦闘を可能な限り回避し、食料と水を集める
第三行動方針:共にマーダーを倒してくれる仲間を募る
第四行動方針:首輪の情報を更に解析し、解除を試みる
第五行動方針:暇を見てキールのレポートを増補改訂する
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

【メルディ 生存確認】
状態:TP50% 精神磨耗?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?)
所持品:スカウトオーブ・少ない C・ケイジ
    ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア ムメイブレード
基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下?)
第一行動方針:ムメイブレード二本をダブルセイバーに合成する
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP40% TP30%  右肩・胸に裂傷(処置済み) 右手甲骨折(解放部に関する処置は終了) 決意
所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット ホーリィリング 忍刀・紫電 木材二本 クィッキー
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:調達した木材二本をウッドブレードに改造する
第二行動方針:治療は外科処置に留めて天使化・次元斬用のTP回復を優先
第三行動方針:回復後はコレットの救出に向かう
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

76 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)1:2006/11/11(土) 13:26:47 ID:zwbj6Q5z0
見えず、聞こえず、話せず。
それでも生きる希望を失わず、多くの人々を励まし続けてきた三重苦の聖人。
ミント・アドネードは母に聞かされたその伝承を、思い出していた。
今自らがおかれた状況が、かの三重苦の聖人と酷似していたからか。
はたまた、三重苦に耐えた彼女の気丈さにあやかりたいと言う、詮無い望みゆえか。
ぼぐ。自らの胸元を蹴り上げられる衝撃。
(いやぁっ!!)
ミントは思わず口元から悲鳴を上げた。悲鳴を上げる時の呼気を吐いた。
『サイレンス』の術式が、空気の震えを禁じているこの部屋。自らの悲鳴さえ、聞こえない。
法術『サイレンス』は魔法封じの術。
周囲の音の発生を完全に止め、更に体内の魔脈に戒めをかける事で、魔術やそれに準じる力の行使を完全に封じる。
ミントには、すなわち音も聞こえない。光を失い、耳も聞こえない。
嗅覚や触覚、味覚といった感覚が退化している人間にとって、視覚と聴覚を奪われること…
それはまさに、永劫の暗黒の世界に監禁されているかのごとき恐怖を、彼または彼女にもたらす。
もはやまともに頼れる感覚は、触覚のみ。
立ち上がり、しゃがみ、這い、この部屋の床や壁をさすって回る。
視覚も聴覚も封じられることがこれほどの恐怖だと、ミントは改めて思い知っていた。
そして、その徘徊の結果として受け取ったのが、先ほどの蹴り。
おそらく、蹴りを入れたのはコレットか。地面に仰向けに倒れこんだミントは、そう推測する。
「自殺しないように監視してろ」とは、つい先ほどこの部屋を去っていったミトスの命。
そしてその命には、無論のこと「ミントの脱走を許すな」という言外の指示も組み込まれている。
原則として何もしないコレットが自身を蹴り倒したということは、コレットのいる側にドアがあるということ。
ミトスが一旦は解いた『サイレンス』。その際聞いた、退出するミトスの足音の向かった方向からしても間違いない。
また、蹴り倒されて以降、家の床には震動が伝わってこない。
つまり、コレットはドアの前で待機し、動かぬままという事か。
そのまま、四つん這いで床を進むミント。時おり、傷付いた左手で宙を描きながら、壁がないかどうか確かめる。
ミトスの剣に貫かれ、そして先ほどは正体不明のマナの塊に焼かれ、ボロボロの左手を。
(この辺りには…『あれ』があるはず…)
そう、窓が。
先ほど床を這いずり回ったとき感じた温もりが、ミントにそう推理せしめていた。
部屋の床の一箇所…ミント自身確証はできないが、それも暖かい部分が四角形をしていた…
ということは、ここはフリーズキールやアーリィのような寒冷地でない以上、床のぬくもりのもとは暖房器具ではなく日光。
そして日光が降り注ぐということは、窓があるはず。
角度的には、この辺りの壁に…
そして、ミントの手には窓のガラスの、冷たい感触が伝わった。
(冷たい?)
冷たい。ミントの手には、あるはずの温もりが感じられない。
そのままあちこちに手を滑らせてみても、同じく。
カーテンのような遮光器具なしにこの冷たさ。ということは、考えられる可能性は…
(まさか…!)
窓の外側に、何か日の光を遮るものがある。
おそらくは、ミトスが外側から大きな木の板か何かを釘で打ちつけ、止めている。
無論、脱走防止用に。おそらく、釘を打ちつける音は『サイレンス』でかき消されていた。
ミントは、そのままへたり込みそうになった。だが、考えてもみればこれくらいは当然のことか。
本性を見せたミトスは、実に狡猾で抜け目がない。
自分のような無力そうな人間にすら、荒縄で四肢を縛り上げ『サイレンス』のかかった部屋に閉じ込めるくらい。
おまけに武装解除の一環として、一度は自分を素裸にするほどの、執拗極まりない身体検査をやってみせた。
そんな彼が窓からの脱走の可能性を見落とすなど、シルヴァラントの月がテセアラの月とぶつかってもありえまい。
(だったら…)
もはや、自身に残された手立てはないのか。
このまま、ミトスの思惑通りにクレスの注意を引くという選択肢以外、手はないのか。
否。そんな手を選べば、待つのは破滅のみ。クレスのみならず、他の参加者までもがミトスの毒牙にかかる。
だが、自らに彼の毒牙を折る術はない。光を失い耳を塞がれ、法術を禁じられ。あまつさえ武装は完全に解除されている。
この状態で、ミトスと渡り合うなどできぬ相談。
アルベイン流稀代の剣匠であるクレスですら、こうなったならどれほどの抵抗が出来ようものか。
(クレスさん…どうすれば……どうすれば…!?)

77 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)2:2006/11/11(土) 13:27:41 ID:zwbj6Q5z0
絶望感と無力感のあまり、ミントは思わず膝からくずおれる。傍らにあったテーブルに、手がぶつかる。
その時。
かしゃりと手に何かが触れた。細くて冷たい、何か。
(?)
ミントは、その手応えに思わず疑問符を浮かばせる。
(これは…何なのでしょうか?)
もしこの時ミントの目が見えていたなら、「それ」の正体はすぐ分かったであろうに。
しかし、盲目・聾唖の聖者と化したミントには、それはただ空しい高望みに過ぎなかった。
その細くて冷たい何かに触れてみる。指でつまみ、つつと表面をしごくように撫でてみる。
曲がっている。やや固い。しかし、比較的弱い力で簡単に別の方向に曲げられる。
そしてそれは、蛇がとぐろを巻くかのようにしてまとめられている。
何か、固い糸のようなもの。そして、表面は冷たい…
(…針金!?)
ミントは、閃いた。
そう、この手ごたえや手でなぞった形。これを「針金」と思えば、確かに自らの触覚のもたらす情報は全て符合する。
そしてミント自身はあずかり知らぬが、今彼女が手にした針金は、ミトスがこの村に敷設した針金の切れ端。
もし今彼女を見張っているコレットに意識があれば…
ミントが悪夢の世界で悶え苦しんでいた内に、ミトスがこの部屋に針金の残りを置いていたことを証言していたであろう。
そして例えば、ミントの仲間であったすずの手にかかれば、これはちょっとした鍵開けの道具にもなっていただろう。
ミントはそのまま、針金の先端まで指を滑らせてみた。
鋭い。おそらくは何らかの金具を用いて、適当な長さに切断されたがゆえだろう。
ふつう工作に慣れた人間であれば、針金の先端を火で炙って、先端を丸くしてからしまうなり何なりの処置をする。
だが、あまり悠長なことをやってられないとでも思ったのだろうか、ミトスはそんな処置を行っていない。
(!!)
だとするなら。
これを使えば、まだ目はある。
ミトスの目論見を突き崩す、一抹の希望が見えてくる。
(…ですが…)
しかしその方法は、あまりにミント・アドネードという人間の自己同一性とかけ離れている。
アセリアの地を旅してきた頃の彼女なら、絶対に選ばなかった…
それ以前に、選択肢として思いつきもしなかったであろう、禁じ手。
ユニコーンにすら選ばれた清き乙女ならば、何があろうと成してはならない不徳。
だが、ミトスの悪夢に精神を陵辱された今の彼女は、「その手」を思いついてしまった。
彼女の強靭なはずの精神力は、確実に崩壊への歩を進めている証左は、その事実にもあった。
だが、それ以外にどうしろと?
ミントはここにはいないはずの第三者に、心の中問いかける。
このままミトスの策が成れば、誰一人として助からない。
大怪我を負った手足を切り落とすことを拒んだがゆえに、血腐れ病を発症し命を落とす患者のように。
しかし、今なら…
怪我を負った手足から、全身に腐った血が流れ出す前。
切り落とせば、患者は助かる。
やってみせる。やらねばならない。
激しい葛藤の中、ミントは決心した。
かくなる上は、「あの札」を切る。
「あの札」を切るには…そのために稼がねばならぬのは、六手。
ミントはいつもの感覚から計算する。
この状況では、己に許されたのは精々が半手と言うところ。
コレットが全力で妨害にかかるこの状況では、そのまま「あの札」を切るなどできまい。
だが、「初手の札」を切れば…「初手の札」をコレットに直撃させられれば、六手の隙は辛うじて作り出せる。
そのためには、自力で「初手の札」を切るための、一手分の隙を自力で作らねばならない。
逆に言えば、その一手分の隙を作り出せれば、あとは一気に「あの札」を切るまでの道筋が出来る。

78 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)3:2006/11/11(土) 13:28:35 ID:zwbj6Q5z0
(今他に…使えそうなものは…)
ある。ミトスが腰掛けていたベッド…そこにかかったシーツ。これを使う。
まさに紙一重を十に裂いたよりもか細い、成功への道。
もとよりこの状況は、ミント側が圧倒的に劣勢の立場にある。
どこか一箇所でも立ち行かなくなれば、その瞬間「詰み」が確定する。
それでも、やってみせる。やらねばならない。ミトスの凶手を、阻むためにも。
ミントは、強い決意をめしいた瞳に宿した。
そしてそのまま、体を部屋のベッドに投げ出した。
右手には、先ほど手にした針金を、強く握り込みながら。
コレットは、ミントのその動作を、静かに眺めていた。
ミントは、半ば無理やりに自らの意識を夢の中に沈めていた。
もう二度と、あの悪夢の世界への扉をくぐらぬことを、祈りながら。



79 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)4:2006/11/11(土) 13:29:19 ID:zwbj6Q5z0
どこかとってつけたような爽やかさを帯びた風が、ミトス・ユグドラシルの光翼をふわりと撫ぜた。
さわさわと頬を撫でる金の長髪を、彼は煩わしげにかき上げる。
その髪は、幼い少年の姿によく似合う柔らかな手触りを残し風にほぐれた。
手元の砂時計に残る砂の量は、そろそろ全体の半分を割ろうとしている。
すなわち、次の放送までの折り返し…正午が、近い。
あと10分で、定刻。自らがあの劣悪種に課した決定を、問いただす時刻。
与えた時間はたっぷり4時間。そして、それだけの時間は有意義に使った。
(…勝率、七割ってところかな)
ミトスは慢心も衒(てら)いもない心の中で、己が策の成る率を計算してのけた。
これ以降の作戦の見直し。三度も四度も繰り返し、しつこいくらいまでに己が策の再検討を行った。
そして頭がそれだけの思考で働いている間に、体内の魔力は完全に満ちた。
今なら出せる。まごうことなき全力を。
客賓をもてなす正装は、少年ミトスの姿。初手の『タイムストップ』のための布石。
(やっぱり、最もリスクを低くして『タイムストップ』を撃つためには、ボクはこの姿でいるのが一番いい)
今から約24時間前、そして30時間前に立証された通り、
ミトスはいずれの姿を取ったままでも、己の体得している全ての術技を用いることが可能。
ミトスの姿のまま、『ユグドラシルレーザー』を放つことも。
ユグドラシルの姿のまま、『タイムストップ』を放つことも。
だが、やはり「力」に特化した術技を放つためにはユグドラシルの姿が…
「技」に特化した術技を放つためにはミトスの姿が、それぞれ最も適している。
(この期に及んで無理な力の行使をして、その反動でまた天使術が使えなくなったら、
それこそ目も当てられないからね)
無論天使術なしでも、ミトスがこの村を舞台に戦う限り、彼の優勢はまず覆らないだろう。
初手の『タイムストップ』。そしてそれに続く何らかの広域攻撃魔術。
常識的に考えて、まずこの二手だけでこの村の戦いは決着することに、異論を差し挟むものは存在するまい。
凍りついた時の中で炸裂する魔術が、無防備な犠牲者の急所を穿ち絶命させる。
単純だが、必勝必殺。
この村に自分以外の参加者が全員乗り込んできたなら、この二手で全ては終わる。
ミトスの優勝は確定する。
(だが、時空剣士クレスの手の内には、魔剣エターナルソードがある。
ボクの止まった時の世界に入門してくることは、十分想定しておいていいだろう。
更に、残存しているネレイドは、軍用攻撃魔法の一射すら完全に相殺した上で、
まだリッドを殺すほどの力を残していた。あいつの出鱈目なまでの魔力を以ってすれば、
『タイムストップ』の術式を強引に破壊して無効化するくらい…いや)
この二者には最初から『タイムストップ』が効かないことを前提にして、戦術を組み立てる。
そこまで慎重にリスクを計算しなければ、最悪わずか一撃で優劣逆転の憂き目を見る。
ただでさえ、この戦いには七割の勝率しか期待できないのだ。
本来ならば、この戦いには十割の勝率を見込まねばならないところを。
(そのためには、この贈り物はなかなかに有り難いところだね。
…劣悪種ごときがこのボクに一杯食わせた罪の贖(あがな)いには、遥かに足りないけれども)
ミトスの首で、六茫星の紋章が揺れた。
昨夜、あの劣悪種から受け取った、高速詠唱の紋・ミスティシンボル。
(これで乱戦がやりやすくなる)
ミトスは元来の強靭な『鋼体』と相まって、乱戦下でも上級魔術の詠唱をやり遂げるなどそう困難ではない。
ましてや、これがあれば。ミトスの術の行使に死角はない。
通常の剣技を繰り出す際の闘気の溜めの時間を一瞬とおけば…
ミスティシンボルを用いて繰り出す魔術の詠唱時間は二瞬と言ったところ。
すなわち剣の間合いですら、術の行使の阻止はほぼ何人にも不可能。
可能性があるとすれば、ミトスのあずかり知らぬ奥義『斬光時雨』や『驟雨双破斬』並みの連撃技。

80 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)5:2006/11/11(土) 13:30:22 ID:zwbj6Q5z0
(けれども…)
それでもまだ必勝には遥かに及ばない。
そもそも、客賓達に自ら戦いを挑むのは、それしか手がないときの最後の手。
ミトスは、かつて緑髪の少女が命を挺しての声を届けた鐘楼より、改めてこの村を見渡した。
初手のタイムストップに続き、数々の罠が張り巡らされたC3の村。
落とし穴、埋設された電流の針金、その他もろもろの死の罠。
先ほど落とし穴の下に槍ぶすまを用意したときは、魔力節約の観点から『アイスニードル』を用いた。
だが、先ほど村を一巡して罠の点検や補完を行った際、今度は『グレイブ』で槍ぶすまを作り直しておいた。
『グレイブ』による岩の槍は、『アイスニードル』のそれなどとは違い時間経過で溶けはしない。
少なくとも、この戦いが終わるまでの間は十二分の持続時間を見込める。
(…まあ、これだとせっかく噛ませ犬として招待するクレス達も、
無差別に巻き込んでしまうのが欠点かな。まあ、その時はその時だ)
どの道、クレスもロイドも始末せねばならない対象であることに変わりはないのだから。
一応ロイドは、コレットを人質としてエターナルソードの力を使わせることを想定に入れてはいる。
だが、クラトスから聞いた話だけでも、彼の意固地さの片鱗は伺えた。
彼の性格なら、ミトスの言うことを聞いてエターナルソードの力を行使するくらいなら、最悪自害の道を選ぶ…
やはりそれくらいの想定はしておいていいだろう。
ロイドにエターナルソードの力を使わせるという目論見が成れば、もっけの幸い程度に考えるべきである。
実姉復活の第一の条件が、ロイドを脅迫してのエターナルソードの強制使用。
そして第二の条件が…胡散臭いことこの上ないので、ミトスははなから信用していないが…
ミクトランの『優勝賞品』に頼ること。
このいずれかが成れば、ミトスにとっては全面勝利となる。
(実質上は、前者一択以外はありえないけどね。それにだ)
今見据えるべきは、今。遠い未来より、近い未来。
ミトスは思い直し、一つ己の金髪をかき上げた。
(さて、この戦いをもう一度だけシミュレートしてみようか)
ミトスは、鐘楼から村を一望し、もう何度目かも分からぬ策の再検討を開始する。
まずは、あれから追加した一枚目の札。
この村での戦いが本格的に始まったならば、村全体に『ディープミスト』をかけ、視界が劣悪な状況を作り出す。
救いの塔の地下を見れば分かる通り、ミトスはまた罠の敷設も得意とする。
本物の罠は可能な限り巧妙に隠蔽し、そしてわざと視認されやすいよう作った、ブラフの設置痕も作った。
虚実織り交ぜての、敵を錯乱するための心理作戦。
よって素人の目ではそうそう見破られぬ自身はあるが、
村のありあわせの道具と魔術で作った罠では、その品質には自ずと上限が見える。
また、残存勢力の中にはミズホの里の『忍者』のように、罠の発見を得意とする者もいるかも分からない。
その可能性を見越しての、『ディープミスト』。罠を見破る眼光を遮るための霧の煙幕。
『ディープミスト』による濃霧は、エルフの血の賜物である夜目や、エクスフィアで強化された眼力をも阻む魔術の霧。
無論『ディスペル』や風属性魔術の使い手がいれば破られる危険もあるが、それもまたよし。
もとより『ディープミスト』は牽制程度にしか考えていないし、
大なり小なり侵入者に魔力を消耗してもらえばそれ以上の釣果は期待しない。
『ディープミスト』による視界の悪化状態が持続すれば、それこそ御の字と言ったところか。
続いて、二枚目の札。
ミトスの目を、ちらほらと焼く輝き。村の民家の屋根から、白い光が届く。
(…こんなこそ泥じみた真似を、この期に及んでしなきゃならないとはね)
民家の屋根に設置したのは、すなわち鏡。針金同様、民家にあった鏡をありったけ持ち出し、設置したものである。
民家の屋根の鏡は、どれもこれもがある特別な角度に調整してある。
すなわち、この村の鐘楼から光を放てば、その光は村のめぼしい道に到達する角度に。
これこそ、『レイ』の曲射のための布石。
(ここから『レイ』を放てば、『レイ』の光線はあの鏡に反射されて、
やってきた侵入者は様々な射角から光線を受ける。侵入者を混乱させるには、打ってつけの策だ)
無論、鐘楼から直接村に出向いてきた敵を『レイ』で狙撃することも、一度は考えた。
だが、あえて鏡による反射を利用して『レイ』を曲射すると言う策を狙ったのは、いくつかの理由がある。

81 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)6:2006/11/11(土) 13:31:32 ID:zwbj6Q5z0
(ボクはあの愚劣な同族である、デミテルとやらと同じ失態は犯さない。
魔術の射線から、自らの居場所を悟られるような愚はね)
ティトレイから昨晩聞いた、E3の顛末。
すなわち『サウザンドブレイバー』の射角でデミテルは居場所を悟られ、そして足元を掬われたという惨めな最期。
彼は『サウザンドブレイバー』の弱点を過小評価し、慢心でその身を滅ぼしたのだ。
鐘楼から直接『レイ』を撃てば、それと同じ轍を踏みかねない。
(更に、色々な射角からの攻撃の方が、敵を浮き足立たせる効果も大きいしね。
村の引き出しに入っているような安物の鏡じゃ、一回『レイ』を反射させたら粉微塵だろうから、
どの鏡も使い捨てだけれど。
まあ、鏡が壊れるということは、相手に『レイ』の反射軌道を推理する材料を与えないということだから、
あながち下策でもない。
そもそも、この異常な魔力場では『ディープミスト』と『レイ』の相性は評価できない。
下手をすれば『ディープミスト』の濃霧で、『レイ』の光線の威力が減衰してしまう可能性もある)
ゆえに、これもまた必殺の策としての期待はしない。これで排除できる侵入者は、精々が数名と言ったところだろう。
それにこれ以外にも、村には様々な仕掛けを施してある。この罠で侵入者を殺(と)れなくとも、問題はない。
この村での戦いの主力となる札は、やはりこの二枚。
『タイムストップ』から『ジャッジメント』などへの連撃。
『イノセント・ゼロ』による侵入者の弱体化。
しかしそれらすらも、侵入者から『サイレンス』あたりを受ければ、ただの屑札となる。
原則魔術は目標を視認出来ねば、「大雑把にしか」狙いはつけられないという弱点も知っている。
それを利用して、可能な限り侵入者の死角からの攻撃は心がけるつもりだが、
攻め手側に、気配で敵の居場所を知ることの出来る手練がいる可能性も、否定は出来まい。
(まあ、『サイレンス』は受ける前にこちらから見舞ってやるつもりではいるけどね。
もし『サイレンス』を受けたら、魔術を頼りにした攻め手の全てが、屑札に成り下がる)
無論ミトスは魔術を封じられようと、クラトス直伝の種々の剣技という札はある。
また自ら編み出した光属性の剣技、『光星震宙斬撃』の冴えも並みの剣士とは次元が違う。
だが、魔術を封じられればその分必勝の布陣から身は遠のく。
可能な限り、『サイレンス』による先制攻撃を被ることは避けねばなるまい。
(そして…心配な点が二つ。
目下のところ想定しうる範囲内で、こちらを問答無用で『詰み』に追い込む攻め手側の切り札は二枚ある)
一つには、昨夜のE2の城での一件のような過剰殲滅。
この村に何者かが昨夜の『サウザンドブレイバー』のような、軍用攻撃魔術級の超大火力魔術を撃ち込んだ場合。
C3の村を丸ごと灰燼に帰するような桁外れの火力を攻め手側が用いたら、『タイムストップ』も罠もあったものではない。
そんな小細工など、C3の村ごと粉微塵に破砕される。『剛よく柔を断つ』式に、目論見は全て瓦解する。
そして、それだけの大火力を行使できる筆頭候補は、今現在のところまだこの島の生存競争を生き延びている。
『サウザンドブレイバー』を真っ向から相殺できるだけのエネルギーを、昨夜発揮したメルディが。
(リッド達の言うところの…『闇の極光術』だか『フィブリル』だか、ってやつだったかな。
万一あれをこの村に撃ち込まれたなら、それこそ一大事だ。
無論ボクには『粋護陣』があるし、その手の広域殲滅魔法はマナの指向性が皆無。
だから、破壊力を一点集束させて標的を確実に葬るような、細かい芸当は不可能。
直撃さえしなければ、辛うじてではあるが生き延びる自信はある。
だが…)
考えたくはないが、相手がそんな超大火力魔術を連射できるような化け物だったら。
その時は、もうチェスを打つかのごとき繊細な戦術など、弄するだけ無駄。
チェスの盤面そのものを破壊するような化け物に、チェスのルール下での勝負を挑むなど笑劇の題目にもなるまい。
(…まあその可能性は、低いと言えるけどね)
一応、ミトスは自らの懸念にそう注釈を入れる。
メルディがそんな超大火力の攻撃を平然と乱射できるなら、今頃このゲームはゲームとして成立していないだろう。
一方的な虐殺…処刑の舞台に成り下がっているだけだ。
それに昨日の午後から、自らの行動圏とメルディの行動圏はある程度一致しているという考察は、朝の内に行った通り。
メルディが行く先々で破壊の応酬を見舞っていたら、さすがに自らの索敵網にかからぬはずもない。

82 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)7:2006/11/11(土) 13:32:56 ID:zwbj6Q5z0
もちろんそんな真似が出来るのに、あえて敵の戦術的撤退の誘発を防ぐなどの理由で、
メルディが札を切るのをためらっているなどの可能性もある。
案外正気に戻ったふりをして、あの甘ちゃん達の寝首を掻く隙を狙っているのかもしれない。
圧倒的な力を持った上でも、あえて小細工で保険をかけるのは、決して戦術的に考えて間違いではないのだ。
そもそも、自身がその闇の極光とやらの発現の瞬間を目撃したわけではないが…
たとえメルディがネレイドなる神の力を手に入れたとしても、ティトレイに聞かされたほどの力を行使すれば、
媒体であるメルディの肉体への負担は桁外れになるだろう。
ネレイドが誰にでも憑依出来るなら、媒体を「使い潰す」可能性もなくはないが、
昨日この村で漏れ聞いたリッドらの話によると、その可能性はほぼ皆無らしい。
とにかく、闇の極光術の乱射と言う自体はまず埒外としていい。
百歩譲って本当に何者かがこの村に対し、そんな力押しの過剰殲滅を試みてきたなら、無理に抵抗はしないほうが上策。
『粋護陣』で初撃に耐え、混乱に乗じ戦術的撤退。のちに逆襲の機会をうかがうのが、妥当な打ち方であろう。
禁止エリアによる封殺という時間制限は確かに存在するが、どの道完全封殺には最短でも3日の時間を要する。
これだけの時間があれば、万一この村の策を全て粉砕されようと、十分形勢の建て直しは可能だろう。
(そして、次の懸念は…)
シャーリィ。
先刻ミントが触れていた、あの蝶が帯びていた力。間違いなく、シャーリィの固有マナ。
あの蝶は1日目…シャーリィが狂気に堕ちる前に、彼女自身が話してくれていた。
あれは『テルクェス』という、いわば意志を持たない使い魔のようなものらしい。
漠然とではあるが、テルクェスを放てば周囲のものを感知し、その精度はテルクェスがものに触れた瞬間、最大になる。
あれの存在に気付いた瞬間は、思い出しても胃の底が冷たくなる。
(まさか、あいつがテルクェスを偵察に使い始めたなんて、とんでもない計算外だった…!)
そして、シャーリィがテルクェスを使い出したということは、ミトスに一つの恐るべき事実を告げていた。
シャーリィは「エクスフィギュアでありながら」、偵察・索敵などという高度な戦術を見せてくれた。
すなわち、「シャーリィはエクスフィギュアでありながらも知性を保っている」、という事実を。
ミトスはエンジェルス計画の中核に携わってきたことには、今更説明の必要はない。
すなわち、その副産物であるエクスフィギュアについても無論知識はある。
本来、エクスフィギュア化した人間は完全に本能の赴くままに暴れる、知性皆無の怪物に変貌する。
だがシャーリィはどういうわけか、エクスフィギュアの肉体と知性を同時に維持している。
4000年間の中で、ただ一つも見られなかった「例外」が、そこにあった。
しく、とミトスの「そこ」が痛む。
(まさか…あの女!)
代謝活動が停止したはずのミトスの背に、脂汗が一筋流れるような錯覚が起こる。
それともシャーリィは、自力でエクスフィアの毒素に対する免疫を得たとでも言うのか。
エクスフィギュア化した肉体を再び人間のそれに戻して、同時に理性を取り戻したとでも言うのか。
ありえない。
4000年間のエクスフィアの研究は揃いも揃って、人間がエクスフィアの毒素への免疫を得るなど不可能と示唆している。
(けれども…)
ミトスは、2日目朝のあの事件を思い出す。
シャーリィは、ミトスの持つ術技の中で最大級の威力を持つ『ユグドラシルレーザー』…
そしてダオスの放つ『ダオスレーザー』…
これら二者を同時に撃ち放つU・アタック、『ダブルカーラーン・レーザー』の直撃にすら耐えたのだ。
本来ならば、髪の毛一本、血の一滴も残さず消滅していなければおかしいはずなのに。
たとえ『EXスキル』を防御特化型にカスタマイズし、『バリアー』や『フリントプロテクト』などをかけ、
その上から『フォースフィールド』を重ねても、あれが直撃したらどんな英雄も耐えられない。
耐えられない、はずなのに。
ミトスは、無意識のうちに己の股間に手をやった。
恐怖。ミトスの目に揺れる感情は、それ以外適切な名を持つまい。
(ボクは…あんな劣悪種の女1人ごときに怯えているのか?)
シャーリィは厳密には人間ではなく水の民という種族らしいが、ミトスにとっては所詮十把一絡げの劣悪種。
そんな相手に、自分が怯えている…怯えてるというのか?
否定できる材料はなかった。

83 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)8:2006/11/11(土) 13:34:03 ID:zwbj6Q5z0
テルクェス発見後、悪態交じりに行った簡易な索敵に、シャーリィは引っかからなかったのに。
それでもまだ、シャーリィはこの村の近くで虎視眈々牙を研いでいるのではないか。
半ば偏執的なまでのその警戒心を、どうやっても理性で抑え切れない。
テルクェスを発見した直後、ミトスはあえて隙だらけの様相を装って、村の周りを何度か回ってみた。
無論、EXスキル『スペルチャージ』を併用し『タイムストップ』をいつでも発動できる状態のまま。
シャーリィから聞いた話では、テルクェスは相当な遠距離まで飛ばすことが出来るらしい。
今シャーリィがどこにいるのかはミトスには分かりかねるが、
隙だらけを装い村の周りを回る「釣り」に、シャーリィが引っかからなかったことだけは事実。
即座には攻め込めないような遠距離にいるのか、それとも「釣り」に乗らずに機会を窺っているのか。
ミトスはおそらく、前者であろうと推理した。
時が経てば、確かにこの村は最高の「狩り場」になるだろう。
そしてマーダーであるシャーリィにとっては、この村が「狩り場」と化してから攻め込む方が、間違いなく上策。
だが、それはこの村が近々「狩り場」になるという事実を知っていなければ、出来ない判断。
そしてこの村が「狩り場」になると知悉している者は、今のところティトレイとあの忌々しい殺人剣士のみ。
ミトスはそれ以外の人間にその事実を知らせていない。
もしシャーリィが独力でその事実を知ったとするなら、この村に自ら偵察に入った以外考えられない。
テルクェスでは、そもそも視覚ではなく「漠然とした気配」しか知ることは出来ないと彼女から聞いたし、
よってテルクェスはこの村に派遣された「密偵」としての資格は不十分。
すなわち、この村の行く末について、確たる情報を持たぬ彼女は、「釣り」にかからないはずがないのだ。
だが、それでもミトスの疑念は晴れなかった。
こちらにだって、一切他者には明かしていない切り札は何枚かある。
シャーリィが『EXスキル』を体得し、テルクェスから視覚的情報を得られるようになったかもしれない。
その危険性を否定できる証拠は、どこにもない。
ミトスは、どうしてもその可能性を否定しきれない。
今この瞬間も、振り返ってみればシャーリィがあの血走った目で、マシンガンを構えているかも知れない。
トーマ、リオン、プリムラ、シャーリィ、メルディ。
いまだ戦力評価の出来ない面々も合わせれば、残る参加者の1/3も、策をひっくり返しかねない危険人物がいる。
特に、リオンからは血なまぐさい狂気を窺えた。
特に、メルディからは暴力的なまでの大魔力を感じた。
特に、シャーリィからは背筋が凍るような恐怖を見た。
(とにかくこいつら3人は、ボクも実際にその力を見て把握している。
こいつらへのマークは、厳しくしなければならない。
おまけに、プリムラとトーマとか言う牛人間…
ボクの手持ちの情報では戦力を評価できない、不確定要素も存在する。
この状況…勝率七割でも、かなり楽観的な計算かもしれないな)
今後の戦いに確たる絵を描けないこの状況。ミトスは、眉間に皺を寄せた。
折りしも、時は正午の半刻前。
ミトスは半ば無意識のうちに、『サイレンス』の解呪の詠唱を始めていた。
今出来ることは、とにかく可能な限りの布石を用意すること。
勝利の女神を振り向かせるための、最善の努力を行うこと。
結びの句を唱えたミトスの横顔は、祈りを捧げる無垢な少年そのものであった。
その祈りは、ただ盲目の祈りではあったけれども。
(さて、あの劣悪種はどんな手に出てくるやら…
器に見張りをやらせている以上、自害などという道はゆめ選ぶまいととは思うけど…)
ミトスが俯き、ミントを監禁した民家を見やる。
刹那。
砂時計の、音が消えた。
砂が、まるで見えない鋲で空中に止められたかのように、ぴたりと動きを止める。
砂の滝の止め絵が、そこにはあった。
ミトスは、絶句した。
やはりエターナルソードを、あの時強引に奪っておけば。
エターナルソードの加護なき今、自らにこれを防ぐことはできない。
灰色の空間が、ミトスの驚愕の表情をたちどころに呑み込み去った。
早くも己は、失策を犯した――。
灰色の空間は、そしてそのミトスの後悔の念をも、凍りつかせる。
『サイレンス』によりもたらされる静寂とはまた異なった静けさが、世界を包み込んだ。



84 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)9:2006/11/11(土) 13:34:54 ID:zwbj6Q5z0
やがて、その時は来た。
静寂の帳が、消え去った。
聾の患者が突然聴覚を取り戻したかのように、暗黒の世界に音が溢れた。
自らの息遣いの音。
今まで身を横たえていたベッドから、身を下ろす時の軋み。
床を踏みしめる己の、控えめな足跡。
解けた。ミトスの『サイレンス』が。
正午の半刻前。約束の10分間が来たのだ。
「クレス…さん……」
ミントは、試しに己が愛する者の名を呼び、もう一度確かめる。
問題ない。世界は音で満ちている。
音のある世界が、これほどに素晴らしかったとは。
音のありがたみを、17年の生涯の中で一番強く噛み締めた瞬間だった。
そして、『サイレンス』が肉体の魔脈にもたらす、あの絡みつくような不快感も消滅している。
すなわちこの10分のみ、ミントは法術の使用を許される。
ミトスに究極の選択を迫られ、そして部屋の中で針金を見つけて以降、自らを半ば無理やりに寝かしつけたのはこのため。
確かに朝の『チャージ』の強要で、ミントの法力は尽きていた。
だが、こうして睡眠をとれば、法力は再び蘇る。
ミントはミトスの口の端々から、それを聞き取っていた。
ミトスの傲岸。ミトスの慢心。
ミトスはミントに執拗な身体検査を行い、コレットを見張りに立たせ、更に家の外から窓を塞いだまでは良かった。
だが、そこまででミトスの警戒は終わり。
それだけで抵抗力を奪い切ったと油断したがゆえに、「その可能性」をこうして見失っていたのだ。
すなわち、自身が即座に眠りにつき法力を回復させた上で、『サイレンス』の解かれる10分間を狙い一矢報いる可能性を。
そしてミントはその慢心を突き、この一撃を繰り出す。
ミントは、纏った白の法衣のポケットの中に、握り締めた針金をしまう。
そして新たに手につかむは、今まで寝ていたベッドのシーツ。
古典的な手段だが、やってみる。
ミントは、大きく息を吸い込んだ。
舌を震わせ、それを始める。
法術の、詠唱。
だん、と床を蹴る音が、それに唱和するかのごとく続いた。足音の主は、コレット。
コレットが「自殺しないように監視してろ」とミトスから命ぜられたからには、おそらくこう来る。
法術の詠唱を始めたからには、その正体が何であれ妨害にかかるであろうことは。
ましてやミントはミトスと違い、『鋼体』を持たないのだ。接近されれば、ひとたまりもない。
それはミントの読み通り。
ミントは、全精神力を法術の行使に、全神経を聴覚に集中させ彼我の間合いをはかる。
この距離、足音。あわよくば牽制なしで間に合ってくれれば良かったが、やはり時間が足りない。間合いが近すぎる。
だが、それもまたミントは心得ている。
ミントは、すかさずその法術の詠唱を中断した。
握り締めるは、ベッドのシーツ。
「これを…!!」
ミントは、足音のした方向に、全力でベッドのシーツを投げた。
ぶわ、とコレットがその身を、シーツに包まれ動きを阻まれる。
ミントのすぐ隣、歩幅にして一歩のところに、コレットはつんのめり倒れこむ。
ミントはそれを確認するや、法術の詠唱を再開。
『EXスキル』を持たぬ彼女は、法術詠唱の中途再開などという真似は出来ない。実質的には一からのやり直しになる。
だが、法術師としてのミントの実力を侮るなかれ。いみじくも時空の六英雄に列席する彼女の腕前を。
「初手の札」を切るための、一手分の時間は、稼げた。
「お願い…届いて!!」
ミントは祈るように言いながら、シーツの中でもがくコレットに、手を触れた。
コレットの居場所は、目が見えなくとも分かる。
シーツを取ろうと暴れるその手足が、ばたばたと床を叩き一目瞭然…否、一聴瞭然とでも言うべきか。
そして、魔術や法術は対象を視認できなければ、「大雑把にしか」狙いをつけられぬのは先述の通り。
だが、その例外はいくつかある。そして、今こそその例外の最たる例。
目標の体に、じかに触れている場合。すなわち、零距離での法術の行使。

85 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)10:2006/11/11(土) 13:35:26 ID:zwbj6Q5z0
「『ピコハン』!!」
コレットの頭部を、被ったシーツ越しに法術の槌が叩いた。
成功。
ミントはすかさず、コレットと大きく間合いを離した。
「初手の札」は、無事に切れた。だが、正念場はここから。
「あの札」を切るための、六手。
ミトスの策を打ち破るための、六手。
失敗は、許されない。
ミントは、すかさず呪を紡ぎ出した。
一手目。
ミントは、喉を震わせ呼びかける。
コレットは、『ピコハン』の影響でか、どう、という音と共に体を投げ出した。
二手目。
ミントは、両の手で印を結ぶ。
コレットは、まだ動けない。
三手目。
ミントは、虚空に紋を刻み付ける。
コレットは、はたと意識を肉体に呼び戻す。
四手目。
ミントは、ありったけの法力を呼び起こす。
コレットは、だんと両手で床を突き、立ち上がる。
五手目。
ミントは、ユニコーンの加護を祈った。
コレットは、とうとうシーツを剥ぎ取った。
六手目。
ミントは、ただ無心に、必死に詠唱を続けた。
コレットは、部屋の隅に動いたミントを捉えた。
ミントの取った間合い。駆ければ、コレットなら一歩半。
コレットは、握り拳を作った。
これを、突き刺す。ミントの鳩尾に。
一歩の間合いが半歩に、四半歩に。コレットの拳は、空を切り裂く。
蹴りつける。床を。遮るものはなし。
コレットの拳は、秋の夕日を呑み込む地平線の如くにじわじわと、しかし急速に迫る。
剣の間合いが拳の間合いに。そして拳の間合いは、柔(やわら)の間合いに。
コレットの拳が、ミントの衣に触れた。
布一枚の厚み。それを越えれば、コレットはミントの呪を阻む。
そして、コレットの拳はミントの鳩尾に触れた。
ミントの口から、悲鳴のような声が上がった。
「――『タイムストップ』!!!」
触れただけ。ただ、触れただけ。
世界が、色彩を失った。
そして時は、凍りつく――。



86 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)11:2006/11/11(土) 13:38:46 ID:zwbj6Q5z0
灰色の世界の中、ミントは息を震わせた。
『タイムストップ』で、時流を止められた世界の独特の感覚。
間違いない。今や彼女は、時の流れぬ世界にいた。
(これで…)
もはやミトスですら、今のミントを止める事はできない。コレットは言うに及ばず。
「あの札」を…『タイムストップ』という札を切ったミントに、もはや法力は残されていない。
だが、それでも十二分。
この時間のうちに、ミトスの姦計の牙を折る。
コレットに『ピコハン』を見舞ってやった時点で、即座に「事に及ぶ」か。
それとも更にそれを『タイウストップ』にまで繋げ、保険をかけてから反旗を翻すか。
時間と確実性。ミントが針金を見つけ、この策を思い立ってより、秤にかけるべきは時間と確実性であった。
ミントが選択したのは後者。そして、その判断は結果的には正解だった。
このときの凍りついた世界には、何人たりとて手出しは出来ない。
出来るとすれば、エターナルソードの力を得たクレスくらいのものか。
とにもかくにも、これでミトスの策を砕くための王手はかかった。あとはこのまま、王を殺(と)るのみ。
ミントは、先ほどポケットにしまい込んだ針金を取り出した。
慎重に、尖った先端を探し出す。
そして、難なく見つかった。
ミントは、針金を握り締めた両手を、背中側に回す。
両の手は、震えていた。
(ごめんなさい…クレスさん……)
つぷ、と針金の尖った先端を、首の後ろに当てる。俗に「盆の窪」と呼ばれる部位。
医術を知るミントは、その事実を知っている。
人間は、実は鉛筆一本でも殺せる。突くべき急所を突けば。
そして「盆の窪」は、その条件を満たしうる急所の一つ。
医術を学ぶ者たちの長年の研究により、ここは「脳幹」と呼ばれる部位を直撃できる急所だと判明している。
脳幹に何か尖ったものを突き立てれば、たちまちの内に脳幹は破壊されるのだ。
そして脳幹は、生命の維持を司る様々な機能を一手に引き受ける部位。
ここが破壊されれば、どうなるかはもはや言わずと知れたこと。
すなわち、生命の維持機能の停止。速やかなる死。
脳幹を破壊するには、槍の一突きどころか、短剣の一刺しでも十二分。
二流以上の暗殺者なら、針一本でも事足りてしまうのだ。
そんな急所に突き立てる。針金を。
(…………ッ!!)
ミントが選んだのは、すなわち自害の道であった。
人質が人質としての役割を果たすのは、無論人質に命があるから。
クレスがいざミトスと対峙する段になって、自分に命があればどうなるか。
ミトスは必ず、自身を人質にとって立ち回る。そしてあの優しい性格のクレスならば、それだけで剣を捨てかねない。
そうなったなら、後はクレスに残された道はミトスに嬲り殺しにされるのみ。
すなわち、自身は足手まといにしかならないのだ。
だが、今のうちに命を自ら放り捨てれば…
クレスが戦う時、彼には足かせは一つとしてかからない。
歴代アルベイン流伝承者の中でも最強級の実力を持つ彼なら、足かせさえなければミトスをその剣で討ち伏せてくれるはず。
何せクレスの剣は、戦神オーディン…戦いの神すらも、一騎討ちで下したほどの冴えを誇るのだ。
そしてその剣は、この島で罪なき人々を守る戦いで、更に鍛え上げられているはず。
剣匠が剣匠たるゆえんは、戦いを経るごとに…
否。戦場にいる一瞬ごとに成長を続けることにあるのだと、ミントはクレスから聞かされた。
神すらも打ち破ったクレスの剣を、同じく剣で破れる者はこの世に存在しない。
盲信にも似た信頼感が、ミントの手をここまで進ましめていた。
(お願いします…クレスさん……必ず…ミトスを止めて下さい……!)
そのために、己は今この場で命を振り捨てる。
クレスの持つ優しさが、剣を鈍らせないように。
己の死すらも、クレスの剣の鋭さに変えてもらうために。
そして何より、ミトスの策をくじくために。
もうこれ以上、何も出来ないまま人が死ぬのを見たくはないから。
ミトスの策を妨げることが、誰かを救う一助になるなら。
自らの犠牲で、ミトスの毒牙にかかる人間を減らすことが出来るなら。
甘んじて、自ら死を受け入れる。

87 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)12:2006/11/11(土) 13:39:39 ID:zwbj6Q5z0
ミントは、大きく息を吸い込んだ。
既に針金の切っ先は、盆の窪にあてがっている。
途中で針金が曲がらぬよう、短く持って突き刺せば、確実に自害できる。
ミントは、針金を力の限り、自らの首に突き刺した。
突き刺そうとした。
手が、止まる。
(…………)
何故、止めねばならない。
『タイムストップ』で時を止められる時間とて、無限ではない。
この『タイムストップ』は、ましてやなけなしの法力を、無理やり振り絞ってまで編み上げた呪なのだ。
ミトスの策を砕く反旗を翻すチャンスは、おそらくこの一度きり。
狐のごときずる賢さを持つミトス相手に、この機を逃せばもう後はない。
突き刺せ…突き刺せ!!
ミント・アドネードは叱咤した。
ダオス軍の繰り出す強大な魔物にも、一歩も退くことなく立ち向かった気丈さはどこに消えた。
今までの戦いを乗り越えてきた、恐怖を克服する勇気はどこに消えた。
非力な上女である己が、クレスと共に最後まで肩を並べ、200年の時空(とき)の旅に耐えてこさしめた強き心は。
(…………ッ!!?)
だが、ミントはそこまで己に言い聞かせて、突然胸の中に黒いものがドロドロと吹き上がってくるのを感じた。
クレスさん。クレス。クレス・アルベイン。
悪夢で見せた彼の狂笑が、再び蘇る。
(…いや…止めて……!!)
違う。こんな殺人鬼は、クレスではない。
剣匠クレス。剣を振るうことの意味を、他者の命を奪うことの意味を知る青年。
そんな彼が、こんな笑みなど浮かべようものか。
命を朱に染め、命の尊厳を踏みにじることを至高の愉悦とするような、人斬りの笑みなど。
これが、今のクレスなのだとミトスは告げた。
(違う! …違います!!)
騙されるな、ミント・アドネード。彼女は己の名を呼び、気を強く持つ。
ミトスの二枚舌に騙されるな。ミトスは昨夜もその甘言と腹芸でカイルをたばかり、そしてリアラを殺した。
ミトスは、ペテン師。
きっと誰かからクレスと自分の関係を聞き取り、そこから話を膨らませて嘘と悪意にまみれた話を聞かせているのだ。
それで、自らの心を砕こうとしているのだ。見たこともないような邪法で、悪夢の世界に己を放り込んだのもその為。
百歩譲って…否、万歩譲って、よしんばもし本当にクレスがそれほどの凶行に及んでいたのならば…
その時は自分が、クレスの心の傷を癒す。それが出来るのは、この世に自分1人しかいない。
法術は、肉体の傷や肉体の病を癒すことはできる。
しかし練達の法術師ですら、いかなる法術を用いても人の心の病までは癒せない。
だから、自分が必要なのだ。自分がいなければ、クレスはどうなる?
ミントの手に握られた針金は、ミントの盆の窪の皮一枚を破ったところで、ぴたりと止まっていた。
死か、生か。どちらを選ぶ?
決めたはずだ。死をもってして、自らはクレスの力になると。
だが自らが死ねば、クレスは一生心の病を引きずったまま生きることになる。
クレスは今、どちらを欲している?
力か?
癒しか?
それとも、血か?
ミントは知っている。クレスは守りたい者のため、譲れないもののため、力を求めるであろうことを。
だからこそ、クレスはアセリアの旅に生きた、全て瞬間を剣客としての実力の練磨に捧げていたことを。
そして強大な力を得たがゆえに、魔王ダオスの計画を砕き去ったのだ。
けれども、ミントはその気持ちを抑えることができない。クレスに、力ではなく癒しを与えたい気持ちを。
それが己の女であるが故の甘さの証左かも知れない。
時には剣の練磨のためとダークボトルを用いて、モーリア坑道やトレントの森などで湧く魔物を片端から斬り伏せるという、
心身の限界に迫る激烈な鍛錬を試みてきたクレス。ミントはそれを、何度も制止したこともある。
だが、文字通り命まで賭けに出すほどの気概と実力と強運が揃っていたからこそ。
クレスは数度型を見ただけに過ぎない、アルベイン流最終奥義『冥空斬翔剣』の極意を、自力で掴んだのだ。
クレスの父ミゲールからの、奥義伝承の儀なくして。

88 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)13:2006/11/11(土) 13:41:51 ID:zwbj6Q5z0
ミントは知っている。
クレスは、剣に生まれ剣に生きることを運命付けられた、剣星の子であることを。
癒しよりは力。クレスが求めるものは。
分かっている。
けれども、ミントの母性本能もまた、ミントの理性を妨げるほどに大きな声を上げている。
一歩間違えれば、血みどろの修羅の道にはみ出しかねないクレスを、傍らで支えたいという気持ちが抑えられない。
己がクレスを支えねば、クレスはそのまま修羅道に堕ちるやも分からぬ。
もしもクレスが、自身という足かせから解き放たれたまま、ミトスを屠り去ったとしよう。
だが、そのあとのクレスはどうなる?
神をも下したクレスの剣は、ひとたび殺人剣と化せばたちどころに血の豪雨を降らせる。
その殺人剣は何人たりとて止めるあたわず。
自ら死を選び、そしてその死を糧としてクレスが勝利し、そのまま悪鬼羅刹と化したなら…
今ここで死という選択を選び、その様を冥界から見続ける羽目になったら、その時果たして後悔の念を抱かずに済むのか?
力か、癒しか。
逡巡。決められようものか。
クレスにはどちらも必要なのだ。されど両方を選ぶことは出来ない。
今自らが盆の窪に突き立てた針金が、どちらを選び取るかを決める。
クレスに力を与え、ミトスを屠ってもらった上で、クレスに外道への片道切符を受け取ってもらうのか。
クレスに癒しを与え、その結果クレスに弱点をもたらした上でも、クレスを支えるのか。
クレスの生とミトスの命を犠牲にした上で、この島に残る無辜の人々へ、生への活路を譲るべきか。
それとも、残るこのゲームの参加者の命を犠牲にすることになろうとも、クレスを支えねばならないのか。
ミントがアトワイトのごとく、軍に生きる人間ならば間違いなく前者を選ぶだろう。
ミントがミトスやシャーリィのごとく、傍若無人の極みにあれば、迷わず後者を選ぶだろう。
されど、ミントはそのどちらでもない。
ミント・アドネードの心は、血風死屍を冷やしめるこの島においては、暖か過ぎる。
その心の温もりが、そのまま刃となって彼女自身に突き刺さる。
悪夢に苛まれ力を無くした心は、ただ愛という名の剣に刻まれ、朱の血を散らしてくずおれるのみ。
『このバトル・ロワイアルというゲームは、狂気という名の猛毒に満ち溢れている』
『たとえ心優しき者でも、その優しさゆえに毒を受け、怒りに、憎悪に、その身を焼かれることもある』
『いかに聖人君子たれど、彼や彼女もまた人である以上、この猛毒に蝕まれる危険は常にある』
デリス・カーラーンの王をして、こうまで書かしめたこの「バトル・ロワイアル」。
ユニコーンにまで認められた清き乙女もまたこうして、その猛毒に屈した。
分かっていた。
早く自らを殺めねば、こうなる事を。
『タイムストップ』で止められる時は、されど無限ではないことを。
運命の女神には、後ろ髪はないことを。
灰色の空間にひびが走る。
ミントは、涙を流しながら、血反吐を吐いた。体内の法力は、すでに限界に達していた。
ごめんなさい。ごめんなさい。
ミントはもう、自分でもその心の声を向けた相手が分からなかった。
クレスにか。母メリルにか。カイルにか。リアラにか。
だが、こうしてミントの心が砕けたこと。
それだけはただ一つ、言えた事実であった。
ミントの背から、灰色の空間が砕け去ってゆく。
ミントに与えられた時間は、こうして塵に帰した。
行く川の流れは絶えずして、しかももとの流れにあらず。
絶望と後悔の怒涛がミントの心にのしかかり、すり潰す。
闇夜に辛うじて見つけた一筋の星明りのごとくに、かすかで儚い自害の機を、こうしてミントは失った。
窓に張られた厚手の板を割り、『ファイアボール』の火球がミントの足元に降り注いだ。
そして次の瞬間には、鬼神のごとき形相を浮かべた金髪の少年が、その剣で残った板とガラスを割り砕き。
ミントのいる部屋になだれ込んでいた。
剣を返しざまの突きが、虚空に閃いていた。
ミントの口腔に過たずに飛び込んだ切っ先は、正確無比にミントの舌に突き刺さっていた。



89 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)14:2006/11/11(土) 13:43:34 ID:zwbj6Q5z0
「この……劣悪種がァッ!!!」
ミトスは、ミントの頬に拳を叩き込んでいた。
潰れた蛙か何かのような、汚らしい悲鳴を上げるミント。
口からは赤いものに混じり、白いものが数本宙に待った。
「豚は豚らしく…大人しく天意に沿い生きていればいいものをッ!!!」
既に砕けた右手肘に、邪剣ファフニールを突き刺し抉る。
先ほど「泣き声」を上げてもらうために砕いてやった右手肘。更に傷口の中を切っ先で掻き回してやる。
神経質な猿か何かのような叫び声が、再び迸る。
「家畜はその主人に黙って食われることがその天命だッ!!!」
血が抜け白くなるまで握り込まれた拳を、ミトスはミントの鳩尾に突き刺す。
血の混じった吐瀉物を吹き散らし、ミントの背は壁に叩きつけられた。
「雌豚ごときが…ボクの計画を、邪魔立てするなあああぁぁぁぁっ!!!」
ミトスは、ミントの顔面を握り潰さんばかりにその右手で掴み、更に頭部を壁に叩き付けた。
ミントの後頭部が壁に衝突し、激しい打撃音が響き渡った。
ミントはそのまま、自らの頭を壁に引きずりながらくずおれた。
壁にこすり付けられた血が、さながらミズホの里の筆記用具「毛筆」の筆致を思わせた。
べしゃりと、ミントはその身を床に預ける。もはや、苦痛ゆえにもがく力すら、彼女には残されていなかった。
わなわなと、肩を震わせるミトス。
もう5、6発殴りつけてやれと叫ぶ自らの怒りを、併せ持った理性で最大限に鎮める。
今の状態でそれをやったら、間違いなく怒りの余りこの雌豚を殺してしまう。
激昂に任せて、この女を殺してよいものか。
答えは否。
この場で早々に殺し去るのは下策。この女からは、まだ美味い汁が啜れるから。
そう簡単に、この女を殺してなるものか。
ミトスは眼光だけでミントを刺殺できそうなほどの、狂気の領域にまで達した怒りを以ってして、ミントを睨みつける。
何故ここまでミトスが怒りに燃えているのか。
ミントの自殺という、危うくミトスの計算を狂わせかけた要素が投げ込まれたからか。
否。
ミトスはミントの自殺という事態は、予め想定していた。
ミントに鳴いてもらおうという絵を描いたのは、それが「釣り」に最適だから。
万一ミントに鳴いてもらえるような事態が…具体的にはミントの自殺などという事態が起ころうとも…
ならば次善の策を用いればいいだけのこと。ケーキが食べられなければ、パンでも十分。
何故ここまでミトスが怒りに燃えているのか。
たかが劣悪種ごときが、優良種たる己の計画を打ち崩そうとした、不遜千万な試みに怒っているのか。
否。
劣悪種どもが己の指図通りに動かないことなど、過去4000年の歴史の中でいくらでもあった。
そこをいかにして従わざるを得ない状況に追い込むかが、劣悪種を飼う上での決め手と言える。
そんな事態への対応策など、長年の蓄積のおかげでいくらでも見つかる。
詰まるところ、ミトスが怒りを覚えたのは他ならぬ自分自身。
岩や金属のような、無機物のごとく冷たく冷徹な己の頭脳からしてみれば、あり得ないほどの失策を山のように重ねていた。
その事実が、ミトスをしてここまで激怒させていたのだ。ミントをこうまで痛めつけたのは、所詮はただの八つ当たり。
八つ当たりされる側からすればたまったものではないが、とにかくミトスの怒りはその一点に集約されていた。
ミントを監禁する際の体制。余りにもずさん過ぎる。
まず、何故猿ぐつわを噛ませなかったのか。
即席の猿ぐつわなど、この村にいくらでもあるような布や縄があれば、ものの四半刻もなく作れる。
大した手間なくして大きな効果を上げられる、便利な道具なのだ。
猿ぐつわは、魔術の使い手を監禁する時にはこれ以上ないほど便利な拘束具となる。
普通の捕虜を監禁する際と同じく、監禁した相手の言葉を喋らせなくする、舌を噛み切っての自害を封じる。
そして何より重要なことは、発声を制限することにより、呪文の詠唱を禁じられること。
呪文の詠唱どころか、方陣の描画などを一切省略して、思念のみで魔術を発動させられるような真の達人が相手でなければ、
猿ぐつわをはめて雁字搦めに縛り上げてやれば、魔術師の魔術の使用を、一切禁ずることが出来るのだ。
むしろ、魔術の使い手を拘束した際、顎を砕いたり舌を切り落としたりといった手を使わないなら、
猿ぐつわを噛ませるのは常識。

90 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)15:2006/11/11(土) 13:44:30 ID:zwbj6Q5z0
そして二つ目。
何故、朝のうちにこの女の拘束を解いたのか。
捕虜にした相手を縛り上げたなら、捕虜を相手側に引き渡すなり拷問にかけてから殺すなりして用が済むまで、
縄をほどくなど絶対にやってはならない愚策。
もし看守を務めているディザイアンが、捕虜への用が済んでもいない状態でそんな真似をしていたなら、
ミトスは即座にその看守を斬殺する。
これはある種、人間牧場の門を開放して劣悪種を逃げ放題する…それに匹敵するほどの大失策なのだ。
三つ目。
『サイレンス』を一時的にでも解くということは、その隙を狙ってミントが何らかの術を用いる危険性は当然ある。
ミントに自害の機会を与えたということは、その危険性をそっくりそのまま見落としていたことを示している。
これほどまでに精神的に打ちのめし、かつ朝のうちに『チャージ』の強要で法力は全て奪った。
それだけで安心していたのだ。
これほどまでの絶体絶命の窮地にあれど、死中に活を見出さんとするミントの底力…
そして法力は休息や時間経過で自然回復するという要素。
どちらかに気付いていれば、このミントの窮鼠猫を噛むがごとき反逆も潰せていたはずなのに。
致命的なミスが三つ。
せめてもの救いは、これほどの失策を犯したのが、現時点であったことか。
もしも後に予定されているこの村での「宴」の最中にこれほど大きな失策を…
それも三つも犯していたなら、その結果は明白。
どれほど駒に緻密な布陣をとらせようとも無駄なこと。
ミトスはそれが原因で、三回死んでいただろう。
全ては、この女が原因か。
やたらと実姉の面影をちらつかせ、それで冷徹なはずの思考を狂わされたのか。
ミトスは、ミントを見てふと考えた。
そして、おそらくこれほどの手落ちをやった原因はそれで間違いないことを、次の瞬間の確信に近い納得感で知った。
何故だ。
顔立ちはまるで似ていない。
確かに「養殖」せずに生まれた劣悪種にしては、異常過ぎるほど固有マナは似ているが、コレットほどに一致度は高くない。
その法力も、姉に比べればいかほどのものか。
理解出来ない。理屈で似ていないと知ってもなお、心が姉の面影を見る。
やはり、この場で殺めておくべきか。ミトスは己が得物をじゃきりと鳴らしながら、自問する。
この女は、生かしておけば必ず己の布陣に際し災厄を呼び込む。
冷徹な思考の歯車に、この女のもたらす姉の面影というごみが入り込み、歯車の運行を狂わせる。
この女のもたらした姉の面影で、現にミトスは三度も「死んで」いた。
このまま生かしておけば、この村での「宴」で己が「死ぬ」回数は、三度程度では済むまい。
ただでさえ、この島にはどれほど己が策を突き崩す伏兵が忍んでいるか分からないのだ。
潰せる危険は、全て潰さねばならない。
だが、この女は生かしておけば、まだ旨味があることは先述した通り。
この女のもたらす旨味と、この女を生かす事による思考の「ごみ」。
安全策をとるか、あえて劇薬を飲むか。
ミトスは、そこまで考えて決めた。
この戦い、ミトスが求めるものは完全勝利。
通常の戦いにおいては、負けないことこそが肝要。
勝利は無論重要ではあるが、本来負けていた勝負を引き分けや双方痛み分けにまで持ち込むこともまた、名将の力。
だが、この「バトル・ロワイアル」でミトスが求めるものは完全勝利。自らの身に傷一つ負わぬ勝利なのだ。
そのためならば、必要とあらば時には盾を捨て、虎穴に入るがごとき危険を冒さねばならない。
盾を捨てようとも、敵を一刀必殺で葬れば一切の反撃を受けずして、結果として無傷の勝利を飾れる。
ゆえに盾に隠れ反撃の機を窺うか、防御を捨てた大上段の斬撃で瞬殺を狙うか。
無傷の勝利のためには、このギリギリの見極めが鍵となる。
ミトスが逡巡の末に選び取ったのは、劇薬を飲む道であった。
何よりこの劇薬を飲むという道には、追い風が吹いている。
アトワイトが先ほど、己に具申した提案という、追い風が。
ミトスは、傍らの剣に心で呼びかけた。輝石とコアクリスタルを介した、無機質な会話。

91 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)16:2006/11/11(土) 13:47:41 ID:zwbj6Q5z0
(アトワイト…本当にお前に、出来るのか?)
(可能です、マスター)
その声に乗る心は、すでにもとのアトワイトのそれとは、似ても似つかぬものとなっていた。
エクスフィアに意識を侵食され、度重なる罪の意識に苛まれ。
本来ならば感情のぶれの少ないソーディアンであるはずの彼女の心にも、幾筋ものひびが走っている。
その結果が、これ。軍人気質の負の発現形態…上官命令の盲信による、思考放棄。
ミトスは、背徳的な達成感を背に走らせながら、細身の剣に呼びかけた。
(ならまあ、せいぜいやって見せてもらおうか。ただし、あの器はお前に「一時貸与」するだけだ。
分かったか蛆虫?)
(サー、イエッサー)
(それから、必要に応じてだが、さっきの『声』に応じた、腹芸や芝居もやってもらうことになる。
上手いこと、演技し通して見せろ。ボクがこの世でただ一つ我慢できないのは―――ボクの部下の不始末だ)
(サー、イエッサー)
(最後に一つだけ。お前にボクを裏切る権利は無い。ボクの部下は許可なく動くことを許されない)
(サー、イエッサー)
(お前は上官を愛しているか?)
(生涯忠誠。命懸けて。ガンホー・ガンホー・ガンホー)
ミトスはそれだけ聞くと、満足したように一つ頷いた。
(ならば、仕上げを始めようか)
ミトスは、抜き放ったままのソーディアン・アトワイトを左手に持ち替えた。
ソーディアンの中核部位とでも言うべき、コアクリスタル。鼓動するように光を明滅させる。
コアクリスタルに流れ込んだエクスフィアの毒素は、確かに効いている。
ミトスは確信した。これだけ毒素に触れさせておけば、もうエクスフィアを剥がしても大丈夫だろう。
たとえ肉体を蝕む毒素を完全に浄化したとしても、それで衰弱した体力まで回復するわけではないのと同じこと。
アトワイトは、あとはエクスフィアなしでもミトスを盲信するただの奴隷と化す。
(それじゃあ、エクスフィアを剥ぎ取るよ)
ミトスは、へばりついた青い球体に手をかけた。
金属の箔を引き剥がすような奇妙な手応えと共に、青い球体はソーディアンとの別れを経る。
ぽとり。あっけなく、エクスフィアは剥がれ落ちた。
握り締めるミトスの右手。エクスフィアは続けて、ミトスの手に着床しようと試みる。
簡易な術で手を守るミトスに、それは詮無いことではあったのだが。
(お前が張り付くべきは、こっちだ)
ミトスは、ふと首を横に振り、「それ」を眺めた。
そして「それ」に、エクスフィアを押し付ける。
ミントの、盆の窪に。
「ああおあぅ…!?」
まともな言葉を発することを禁じられたミントは、意味不明の言葉を発しながら、首の冷たい感覚に悶える。
(まずは、これでいい)
ミトスは、にやりとほくそ笑む。こうすれば、ミントはより一層駒としての旨味が引き立つ。
要の紋なくして、エクスフィアを体に着床させた者の末路…
それは、マウリッツ・ウェルネスやシャーリィ・フェンネスを見れば明らかである。
すなわち、肉体のエクスフィギュア化。理性をなくし、ただ本能のままに暴れる魔物と化す。
(ミントを人質にとって、更にその前でエクスフィアを剥ぎ取ってやったなら…
あいつらはどう反応するだろうね?)
ミントが目の前でエクスフィギュアと化したなら、果たしてカイルあたりは割り切って剣を向けることが出来るだろうか。
あの忌々しい殺人鬼も怪物を斬り斃して、死の芳香に無心のまま酔うことが出来るだろうか。
想像するだに、面白い。
だが、これは自らの持つ札の中でも、後半戦に切るべき札だろう。
ミントをエクスフィギュア化し、それを連中にけしかけるという手は。
それでも、戦いに理想論だの精神論だのを持ち込むような莫迦どもには、これは相当に効く札となるだろう。
特に、ロイドにはオリジンとの契約がある以上、何が何でもミントを救う手立てを考えようとするはずだ。
たとえ何者かがエクスフィギュアと化したミントと合し、結果切り捨てたとしても問題は無い。
その分だけ、敵の戦力を損耗させることに、変わりはないのだから。
(そして…次はお前だ、アトワイト)
(はい)
ミトスは、今度はエクスフィアの剥がれ落ちたアトワイトのコアクリスタルに手をかけた。

92 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)17:2006/11/11(土) 13:49:43 ID:zwbj6Q5z0
アトワイトは、もはやミトスの成すがまま。コアクリスタルを固定する爪から、あっけなくアトワイトは脱離した。
(着床の仕方は、何となく理解は出来るな? さっきまでエクスフィアに寄生されていた時のあの感覚を…
あれの逆の要領をやると思えばいい)
(はい)
右手の中で輝く結晶に、ミトスは輝石を介して話しかけた。生殺与奪思うままの、裸の存在に。
「器、こっちに来い」
コレットは、今度はその赤い瞳をミトスに向けた。
赤い瞳には、涙が溢れていた。
(…目障りなプログラムエラーだ)
ミトスは頭の片隅にかすかばかりの不快感を浮かべる。だが、この処置を行えば、そのエラーも上書きされて消えるだろう。
コレットは、近付く。ミトスのもとへ。
ミトスは見つめる。コレットの胸の輝石を。
コレットは、とうとうミトスと半歩の距離まで、歩み寄った。
(今から、お前をこの器に着床させる。どうせこの器の意識野はがらんどうだ。お前の好きに使え)
(サー、イエッサー)
ミトスはコアクリスタルを持ち上げ、それをコレットの胸に近づける。
(着床し、意識をその肉体に根ざす際、『異物』があったらそれは好きに処理して構わない。
この女の体に元々あった魂は、あるだけ無駄だ。吸収して栄養分にするなり、強引に破壊するなり好きにしろ)
(サー、イエッサー)
コアクリスタルとクルシスの輝石の間は、もはや指一本分ほどの距離にしか過ぎなかった。
接触。
輝石の表面が、粘土のようにぐにゃりとひしゃげる。
コアクリスタルは輝石の中に潜り込む。輝石を介して、「糸」を伸ばす。
ミトスはその上から、更に呪を紡ぎコレットの胸に刻む。
コレットの意識野への強制侵入。コレットの精神の外殻を穿ち、アトワイトを滑り込ませる道を作る。
液体のように波打つ輝石の表面に、輝石の赤とは別の色彩が混じる。コアクリスタルの色彩が赤一色の世界を染め直す。
それはまるで、コレットを侵すアトワイトという縮図を表しているかのようにさえ思える。
コアクリスタルは、やがてそのまま輝石の中に身を埋めた。
輝石が、再び硬化する。コアクリスタルを呑み込んだまま固まる。
ものの1分もせずして、コレットの胸には奇怪な研磨法を経た、不気味な結晶が出来上がっていた。
ミトスはそれを確認し、満足げに首を縦に振った。
(これで、接続完了。あとは、アトワイトが意識野をこの器の中に無事根ざさせることが出来るかどうか、か)
願わくば、アトワイトがコレットの魂も併呑してくれれば実に有り難い。
コレットの魂をそのまま栄養分としてくれれば、その分アトワイトは強力な力を得る。
更には、元々肉体に宿っていた魂の抵抗もなくなる。
だから土壇場でコレットが再び意識野の支配権を取り戻し、自らの手中から飛び出すような事態もなくなるはず。
まるで熱病に浮かされるかのようにして、体をがくがくと震わせるコレットを見ながら、ミトスは静かに思った。
とにかく、アトワイトが先ほどこの提案をしてくれたのは、またしても僥倖。
姿はコレット、中身は己の部下たるアトワイト。
正気が戻った演技をしてもらって、油断してもらったところを「コレット」に刺されたら…
クラトスの息子のあいつは、どんな泣き声を上げてくれるだろう。
それとも愛する者の手にかかって死ぬなら本望、などというお為ごかしの偽善論を吐いてくれるだろうか。
ロイドの惨めな死に様を思い浮かべ、陰鬱な笑い声を抑えきれないミトス。
エクスフィアを埋め込んだミント、そして今この場に生まれようとする「コレット」。
「宴」の品目は、食前酒や前菜、メインディッシュからデザートまで全て揃った。
だが、油断は出来ない。
これほどの準備をした上でも、先ほども述べたようにいくらでもこの「宴」を台無しにする要素は想定できる。
リオン、プリムラ、トーマ、メルディ。
そして、シャーリィ。『ダブルカーラーン・レーザー』すら耐え切ったあの女。
悔しいが、恐怖は晴れない。
けれども、とミトスは自らに言い聞かせる。
一撃で殺せなければ、相手が死ぬまで殺し続ければいいだけのこと。
灰一粒からでも蘇り再生するなら、灰一粒残さず消せばいい。
この世に真の意味で不死身の存在など、ありえないのだから。
ゆえに不死身の生命力を持つとされたかの九頭の大蛇、ヒュドラも最後は英雄ヘラクレスの策と力の前に敗れ去ったのだ。

93 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)18:2006/11/11(土) 13:50:31 ID:zwbj6Q5z0
「宴」という策の出来は上々。「宴」を台無しにせんとする闖入者は、力ずくで宴席に着かせればいい。
奇と正、柔と剛は、二つが互いを補い合ってこそ、初めて至高の力に昇華されるのだから。
少年の姿と青年の姿…技と力を兼ね備えた己なら、それが出来る。出来るはずなのだ。
(覚悟しておけ…ボクはこうなった以上、勝つためならばどんな手段でも使ってやる。
死体を微塵に切り刻んでばら撒くような残虐な真似も、泣いて命乞いをするような下衆な真似も。
姉さまのまがい物のこの雌豚も、いくらでも生け贄に捧げてやる。本物の姉さまを蘇らせるための、生け贄に。
ボクは、クルシスの指導者…ミトス・ユグドラシルだ!!)
刹那。
ミトスの前にいた「コレット」の体の震えが、ぴたりと止んだ。
ミトスはその様を、静かに見守っていた。
いつの間にか閉じられていた「コレット」の瞳が、少しずつ開く。
その目は、再び澄んだ青色を取り戻していた。
コレットのものではない、澄んだ青色を。
「意識野への着床、完了しました」
その声は、紛れも無いコレット・ブルーネルのもの。
けれども、声に包まれた魂の形は、根本から異なっていた。
アトワイト・エックスは、こうして肉体を再び得ることになったのだ――。
「ご苦労。言うまでもないが、今この瞬間から、この村は戦場だ。ゆめゆめ、油断するな」
「サー、イエッサー。
ところで、この肉体が元来所持している魂は、どう致しましょう?」
「さっき言ったはずだ。お前の好きにしろと」
吐き捨てたミトスに、「コレット」は淡々と応える。
「サー、イエッサー。
それでは、これよりこの肉体の魂の『消化』に入ります」
「『消化』が無理そうならば、魂はイドの海の最深部に沈めておけ。
もとの魂が暴れ出して、逆にお前が支配権を奪い返されては元も子もない」
「サー、イエッサー」
返答の声は、どこまでも虚ろだった。

94 :死天使の鐘は、されど響き(修正版)19:2006/11/11(土) 13:51:03 ID:zwbj6Q5z0
【ミトス=ユグドラシル 生存確認】
状態:TP全快 少年形態をとっている シャーリィへのかすかな恐怖
己の間抜けぶりへの怒り ミントの存在による思考の「エラー」
所持品:S・アトワイト(エクスフィア及びコアクリスタル脱落) ミスティシンボル
    大いなる実り 邪剣ファフニール ダオスのマント
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:想定外の事態を警戒しながら、「賓客」を迎撃する
第二行動方針:C3村でティトレイ達とロイド達を戦わせて両サイドを消耗させる(可能ならシャーリィを巻き込む)
第三行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第四行動方針:蘇生失敗の時は皆殺しにシフト(ただしミクトランの「優勝賞品」はあてにしない)
現在位置:C3の村の民家

【ミント・アドネード 生存確認】
状態:TP0% 失明 帽子なし 重度衰弱 左手負傷(処置済) 左人差指に若干火傷 盆の窪にごく浅い刺し傷
舌を切除された(会話および法術の行使はほぼ不可能) 絶望と恐怖 歯を数本折られた 
右手肘粉砕骨折+裂傷 全身にに打撲傷
所持品:サック(ジェイのメモ サンダーマント) 要の紋無しエクスフィア(盆の窪の刺し傷に着床)
基本行動方針:なし。絶望感で無気力化
第一行動方針:…どうすれば…
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:C3の村の民家

【アトワイト・エックス@コレット・ブルーネル 生存確認】
状態: 無機生命体化 コレットの肉体への意識寄生 ミトスへの隷属衝動
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック ホーリィスタッフ アトワイトのコアクリスタル
基本行動方針:積極的にミトスに従う(何も考えたくない)
第一行動方針:C3の村の闖入者への迎撃体制をとる
第二行動方針:コレットの魂を「消化」し、自らの力とする
現在位置:C3の村の民家

【コレット・ブルーネル 生存確認?】
状態:アトワイトに寄生されている 魂をアトワイトに「消化」されつつある?
所持品:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ
基本行動方針:????
現在位置:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ

95 :支度の完了 1:2006/11/18(土) 00:01:25 ID:f/WbCHlJ0
殺風景な空と無機質な粘性を帯びた海。モノクロームな空間で2人の女性が居た。

女は云う。

どうして、目を閉じているの?

少女は答えた。

見たくないから。

どうして、耳を塞いでいるの?

聞きたくないから。

波紋が縦に拡散する。美しい正弦波を象っていた。

要らないなら、その目を頂戴。

どうぞ。

使わないなら、その耳を頂戴。

はい。

なら、全部、一切合切全部を頂戴。

いいですよ。


96 :支度の完了 2:2006/11/18(土) 00:02:06 ID:VUQZd3+L0
複数の波紋が、互いに揺らぎながら空間を揺らしていく。

全部要らないなら、貴方は何のために生きてるの?

待って居るんです。

1人殺して、そしてまた1人見殺しにしようとしているのに?


ええ、本当は、逃げ出したい。でも、私は待たなきゃいけないんです。だって

神性を剥奪された神子、即ち巫女をなんて云うか知ってる?―――――――――――貴方は唯の端女よ。

私はお姫様にはもう成れないけど、王子様が帰る場所が無くなっちゃう。


少女は泡となって霧散していく。そうなのだろうか。
女は揺らがない。

揺らいでなるものか。女は力を手に入れた。
女は女であることを捨てたかった。絶対的な力の前には女も男もないから、暴力的なまでの力に縋った。

女は云った。増幅された振幅と相殺する。女を結ぶ像がぐにゃりと歪んだ。

「駆けつけてくれる王子様が居るだけ、貴方はマシよ。私の下には来なかった」


97 :支度の完了 3:2006/11/18(土) 00:02:39 ID:f/WbCHlJ0
小春日和のような暖かさ、晴れ晴れとした蒼天。
長閑な村に、絶叫が響き渡った。
錯乱しているようにも聞こえる。しかし、たった1つの単語だけが明確な意志を載せて響いていた。

クレスさん。Cless. クレス。拉げた悲鳴の中で叫ばれる声。


まったく、忌々しいにも程がある。
手水場のミトスは洗った顔を上げて、自分の表情を見ようとした。
しかし。鏡が無いことに気付く。ああ、全部配置済みか。
たいした問題ではないと認識した。どうせ酷い貌をしているに決まっている。
濡らした指で耳の穴を穿ってみる。
あの声が鼓膜に残響しているのは拡声器に依って増幅された音量だけが原因だと、ミトスは信じたがっていた。

「マスタ」
ミトスは後ろを向いた。目の前にはコレットのからだが有った。目は
「状況報告」
「既ニサイレンスを展開シテいた家屋は破壊済みでス。羽再しタ山GUYは跡血に一纏めにしてありマス」
「…その声何とかならないのか?ああ、こっちでいい」
ミトスは自分の輝石を指で二回叩いた。どこぞの木偶を思い出して更に気分が悪くなったのを面に出さないようにするので限界だった。
『はい、マスタ。残念ながら元の素体の発声機構が機能していない為これが限界です』
「…続きを、ああ、もう一度最初から」
『既にサイレンスを展開していた家屋は破壊済みです。破砕した残骸は跡地に一纏めにしてあります。
 残った家々から箪笥、テーブルetcの大型の家財を鐘楼台一階、二階の入り口内側に集めて置きました。
 命令あり次第直ぐにでもバリケード作成にかかれます。
 後はご命令通り、焼け跡にあった植物の残骸を手に入れましたが?』
「ご苦労。植物の残骸を置き、ミントを連れて二階に向かえ。置いたらバリケード作成を始めろ。一階を優先…ミントの状態は?」
『その前に1ついいですか?』
「許可する」
『この後の具体的な行動内容に関して、以降も指示は無いのでしょうか』
 そこで漸くミトスは気付いた。今まで行動そのものの指示は山ほど与えたが、具体的な意図をまだ伝えていない。
 ミトスはくくくと喉で笑った。何とも脳内が麻痺している。
「いや、お前を個別に使う以上は知っておいて貰わなければならない。向こうで伝える」
ミトスは顎で本来の報告を促した。さて、此奴には何と云おうか。考えなければならない。
『口内、体外の失血は外科的な応急処置で収まりました。エクスフィアに関してはおそらく』
「お前の推量はいい。了解した。現状の精神状況」
ミトスは訝しんだ。治癒晶術に特化したアトワイトが外科処置と云うことは、成程。陣容の変更は急務だ。
『現在、意識支配は極めて順調です。ステージからの排除確認後、素体の意志の存在は確認されておりません』
「つまりは消滅していないわけだ」
ミトスは羊皮紙を取り出す。
『はい。申し訳ありません。ですが』
「踏み込み過ぎて、自分が消えそうになった?」
ミトスはペンを取り出して頭を掻いた。
『はい。残念ながらマスタが提案なさった手法は、浸食効率が極めて高いですが』
アトワイトの言葉を手で遮った。書く文面に少し悩んだ。
「分かってるよ。逆に喰われる、っていうか溶けるだろうなという予感はしていた。
 それに関しても後で説明・対処する。で、コレットの戦力確認」
『素体コレットの肉体、無機化による超視覚と聴覚。これはそのまま運用できます。
 特技は…専用武器が要らない物に関しては問題ありません。
 ただ、術は不可能です。コアからソーディアンが乖離した以上晶術の運用は出来ませんし、
 天使術が使用可能な段階までの浸食には未だ時間がかかります。実際的な運用は無理でしょう』
ミトスはコレットの姿をしたアトワイトの報告に多少の満足を覚えた。
内容にでは無く、要点を掴んでいる辺りに好感を持った。
少なくとも中に溜まった黒い暴力的なモノは鳴りを潜めたのを感じたのだった。

98 :支度の完了 4:2006/11/18(土) 00:03:20 ID:f/WbCHlJ0
次の行動の為動いたアトワイトを見送り、結局適当に悪意を散らした手紙を地面に置いた。
重しとして、植物の残骸を使う。ミトスはこれに覚えがあったから、これを火種とすることを決めた。
コレットの膂力によって適度に粉砕された家屋の中に残りの植物を贅沢に入れた。
ミトスは低級の魔術で火種に着火した。
酸素濃度を操らなくても、燃やすだけならこれで十二分だった。

鼻歌でも歌いたい、そんな高揚感があった。
クレスの名を賢明に呼んでくれたのなら、それも使わねば勿体ない。それだけの浅ましさだった。


この村で一番の高さを誇る鐘楼の構造は比較的簡単だ。
5,6m四方のこぢんまりした、高さだけは四方よりほんの少しだけ長い簡素な部屋が階段で3つ縦に連結しており、
三階の屋根には大鐘がその偉容を誇示していた。
成人男性が寄りかかるのに適した高さより上は屋根を支える四方の柱しかない、実質的な屋上だった。
三階の床には、黒い血が死、それ以外の全ての規則性を捨ててこびり付いていた。

一階の入り口、唯一の進入口は既にベッドやら食器棚やらが大挙して積まれている。
一階、二階の階段以外の壁から1m以内も同様だった。一階のバリケードに支えられる形で、二階が重みに耐えていた。

三階の手摺から、ミトスは遠くの山がくっきり見えたのを嬉しがる子供のようにもうもうと煙を上げる嘗ての拠点を眺めた。
「ほ〜〜良く燃えてる。まるで煉獄」
ユグドラシルのような男性的な笑みを浮かべていた。
ミントの舌を切ってから30分、丁度正午。手際としては悪くない。
これほど良く燃えるならさぞ僕たちを焼くのは容易かっただろうな。ティトレイめ、あの男。
用が済んだらお前にも返礼はしてやる。それまで精々クレスを守ってろ。


99 :支度の完了 5:2006/11/18(土) 00:03:49 ID:f/WbCHlJ0
『マスタ』
ミトスは彼女の言葉にはっとした。そう言えば説明すると云ったのだった。
「聞きたいことから聞いてみろ」
『何故あの家を焼いたのですか?』
「ミントが散々、クレスの名前を連呼したからな。拡声器からの声を聞いて暫くしてから同じ方向から煙が上がった。
 さて何を思い浮かべる?」
『罠の可能性が有りますが、戦闘が始まったと推測します』
「そう。しかも、昨日を思い出すだろうな」
昨日の光景を既視感として叩き込む。最低で擾乱、最高でクレスがC3に入ったと思わせることができる。
燃やしておくのは悪くない。ミトスはそう思っていた。
『罠の敷設をもっと重点的に行う必要が有ったのではないですか?』
「使える魔力には限界があるし擾乱以上の効果は期待していない。戦略的な意味がないからな。
 人質を取って、城に来いと魔王が云った。お前は丸腰で来るか?」
『はい。罠・危険の可能性を考慮します』
「拠点を使って、市街戦を仕掛ける以上、奇襲・罠は実害以上の効果が殆ど無い。
 例え引っかかったとしても、それ以上の効果は期待できない。第一、英雄は罠には引っかからないって特性がある」
向こうだって甘くはあっても馬鹿ではない。来る以上は罠の可能性は想定してくるだろうから、
心理的な圧迫感が無い。‘やっぱりあった罠’なんて誰も恐れない。
しかも、此方は向こうの英雄としての立場を組んで計画を立てている。
罠なんかでは絶対死なない。ミトスにとってそれは経験則だった。
だからこれで期待するべきは、敵の注意が地面に向くことだろう。鐘楼から目を逸らすことが出来ればそれでいい。

『何故、私の案を別の手法でコレットに憑依させたのですか?』
今までの問いとは異なり、少しだけ感情が籠もっていたような気がした。
「理由は2つある。まずはコアクリスタルをエクスフィアと見立てて、
‘エクスフィアによる精神支配ができるかどうか’を確かめたかった」
ミトスもその気になれば、輝石単体で誰かに寄生する事ができる。
しかし、自分がもし参加者の能力を把握していたなら輝石による精神支配など許すか?
許さない。それが可能なら、天使の連中は全員参加者を移り歩いて優勝者に憑依すればいいからだ。
「結果はお前が体験した通り、深入りすれば即意識消滅だ。
 そもそもコレットのような特殊な献体でもなければ、制限下のこの空間で輝石憑依が出来るとは端から思っていないが」
(今の彼は)試したことは無いが、強靱な精神相手では憑依すれば此方が保たない。
元の世界ですらそうなのだから、特殊な制限のかかったここでは憑依すら出来ないだろう。
アトワイトにやらせたように、コレットのような生きながら死んでいるような抜け殻を使うか、
抵抗が限りなく0になる程に献体と輝石が完全な同調をするかでもしない限りは。
まあ仮に出来たとて、10分保てば奇跡といった所だろうし戦略としても戦術としても使い物にならない。
まあ人は分かり合えないのだから後者は有り得ない。前者の手段を取れただけ幸運と言える。
『では私は使い捨てですか?』
「拗ねるなよ。でもお前が提唱した案、ミクトランが行ったという
 ソーディアンを介しての精神支配…これでは少々時間が掛かりすぎる。これがもう一つの理由だ」
ミクトランがS・ベルセリオスを介して、ヒューゴ・ジルクリフトを操った手法。
これがアトワイトの提唱した案であった。しかし、ミクトランが彼の洗脳にかけた時間は莫大である。
幾らコレットが実質的な抜け殻とはいえ同じ手法を踏襲する時間がない。
ミトスが取ったのは、2つの併用法だ。

100 :支度の完了 6:2006/11/18(土) 00:04:25 ID:f/WbCHlJ0
「大体だな」
ミトスはコレットの輝石に手を付けた。コアクリスタルの方が大きいため、輝石に入り込んだというよりは
輝石が入り込んだコアがコレットに接合しているという、少々間の抜けたバランスのアクセサリになっていた。
「こんな変な輝石ぶらさげてたら騙せる物も騙せない」
まるでこうなった原因は胸のコアのせいです。取ってください、と言っている様なものだ。
音もなく、再び輝石とコアが乖離した、素早くミトスはコアを元の鞘に収め、コレットの左手にソーディアンを握らせる。
「このまま、ソーディアンの同調を利用しじっくりと絞っていけ」
エクスフィアとしての運用による強制的な支配で一気に器の精神を蹴散らし、
確実な運用を期待できるレベルまで支配してからソーディアンとしての運用に切り替えて不安要素を無くす。
ミントに関わらない限りは、彼の知性は一定の能力を発揮していた。
「運用、それと晶術の使用は?」
『はい。晶術含め運用はそのまま可能です。但し、エクスフィアを失ったためこの素体では暫く上級晶術は使用が出来ません。
 それに、あの立案はエクスフィアによる強化を前提としていましたので』
ミトスは静かに舌打ちをし、分かったと云って発言を遮った。そう言えば自分も最初はそうだったか。
ミトス本人はもうエクスフィアに頼る必要が無い程度には晶術の扱いに練達したし、
アトワイトの忠誠はほぼ疑いのない所まで来ている為必要が無い、そう高を括っていたツケだった。
しかし困った。
アトワイトに晶術の支援を任せるつもりだったが上級術が使えなければ少々不安が残る。
ミトスがアトワイトを独立させて運用する手段を選んだのは、ロイドに対する奇襲も無論だが、
何よりも戦闘においての利を得る為だ。
コレットが天使化した情報は予定通り伝わっているだろうから、正気に戻った振りも一度は通じるだろう。
だが、ミトスは楽観はしていない。良くて先制を取れれば儲け物と云ったところだ。(これは罠に関してと同じ理由に基づいている)
ロイド本人は信じても、最悪此方の手を読み切られた場合。アトワイトとマーテルの器を両方奪われる可能性もあるのだ。
ロイドはスペアの時空剣士としての人柱でもあるし、この虚撃はあまり旨味がない。

余程の好機でもなければリスクばかりが目立つ浸透突破よりは、コレットが敵対する事による戦意低下を狙った方が確実だ。
クラトスに聞いたと云っても。子供がいると云うことしか知らない。
まあ交渉次第では上手く事を運べるかも知れない。戦闘は最後の最後まで厳禁だ。
今のミトスに己の趣味を満たす余裕は無い。趣味に走るのは姉が還ってきた後にすると決めていた。
「戦闘に入った場合、お前は後方支援を任せる。いいか、お前も、その体も後々必要になってくる。
 無駄遣いはこれを厳に禁ずる。詠唱以外は喋るな。タバサのような腐った発音では露見が早まる」
『Yes,Sir』

101 :支度の完了 7:2006/11/18(土) 00:05:00 ID:f/WbCHlJ0
さて、問題はエクスフィアか。ミトスは横目で厭そうに横たわるミントを見た。
オリジナルが軍医であるアトワイトの治療は極めて適切で、術による治癒以外で凡そ考えられる最上の処置になっている。
ミトスはため息を付いた。付いてから、それが何の感情から出た物であるかを考えるのを止める為、必死にカードの配置を考えた。
コレットと違い、ミントはもう使い捨てて構わない。
だからエクスフィギュアに仕立ててけしかけるのは非常に効果的な戦術のように思える。リスクが殆ど無いからだ。
しかし、効果に関しては少々疑問が残る。なにか忘れているような気がする。マーテルと彼奴の顔が重なった。
吐き気を感じながら理屈を捏造する。
まず、シャーリィが出現したら、効果が無くなってしまう。何と云っても凶悪さではマシンガンや鋭剣を吸収し
独自の進化を遂げた奴の方が上だ。これも心理的効果が薄い。
エクスフィギュアがミントであることが簡単に連想できては騙し討ちも何もない。
しかしそれよりもっと深刻な問題が有ったような気がする。何だったか、ええい。
兎も角問題はエクスフィアだ。今から取ってしまおうか、駄目だ。もうバリケードは組んでしまった。
この際エクスフィギュアは諦めるか?もうエクスフィアは付けてしまった。
なあに、此方にはアトワイトがいるから……

ミトスは血の気が引く思いがした。駄目だ。意味がない。
ミトスはつかつかと歩き、ミントの顎を持ち上げた。
『何を?』
アトワイトは訝しんだ。
質問には答えず、傷だらけになって尚艶めかしいうなじを見るように、首の後ろのエクスフィアを見据えた。
躊躇いもなく、それを外す。
『マスタ』
ミトスは不機嫌極まりない凶相で、アトワイトを奪い再びそのコアにエクスフィアを埋め込んだ。
畜生、矢張り無茶な合成も限界だな。また天使術が使えなくなっては堪らない。
ミントの体が泡立つように変色していく。体がびくりと震える。
『マスタ。排除します』
「不要だ。晶術準備、目標化物。使用術は」
意図が分からぬまま、アトワイトは言われたとおりに呪文を準備する。
服が伸縮率の限界に到達していた。化け物が、再び誕生を
コレットの手にあったアトワイトが呪文を放つ。
ミントを辞めようとしていた生き物が、時間が逆行するように収縮していく。
光の先には、ミントが何一つ変わらぬままそこにあった。
「レイズデッド……ボルトマン術書、か。再生の儀式をやったならアレを見ている可能性大だな」
『蘇生術が有効だったのですか。早く気付くべきでした』
「非は僕にある。あの時点でこのことを知っていたのは僕だけだ。もっと早く気付いていたらな」
ミトスは悪態をついた。あの時点でシャーリィを倒せたと云う後悔と、それで救えたかも知れない命への懺悔が混濁した表情だった。
どうしてこんな簡単なことにも気付かなかったのか。
となると、クレス相手なら兎も角、ロイド達にはまったく意味がない。対処法があるのだ。
今回は完全に変態の出会い頭を狙って撃ったからレイズデッド一発で済んだが、
連発すればどんなフィギュアも直せるだろう。これでは絶望を与えられない。
寧ろ希望を与える公算大だ。愉しくない。全然愉しくない。
『マスタ。彼女のバイタルが安定しません』
ミトスは知ったことかと云わんばかりに発言を黙殺しようとしたが、
レイズデッドによる治癒が不完全で、後で予期せぬタイミングでフィギュア化というのも詰まらないと思い直した。


102 :支度の完了 8:2006/11/18(土) 00:05:42 ID:f/WbCHlJ0
そして酷く、とても酷く詰まらないことを思いついてしまった。
ミトスは自分のサックを漁り、1つの物を取り出す。
「何処でもいい。これをミントに装備させろ。外した後に効く物では無いが、気休め程度にはなるだろ」
『これは何ですか?』
「僕は既に命令を達した」
『Yes,Sir』
ミントに可能な限りの選択を与え、奴は死を選んだ。
だが、それを阻止することが出来た。結果的に、とはいえ僕は賭に勝った。
対価として得たのは迷いの果てに砕けた心とクレスに対する最高の餌。
ならば次のギャンブルを再び此奴でやってやろうじゃないか。コレットは使えないから仕方ない。
姉様の要の紋はどれだけお前に似合うかな?ルーンクレストまで付いた特注だぞ?
賞金はクレスの命と絶望だ。もしかしたら、それ以上のおまけが付くかもな?
虚も実も際限なく混ざって、ミントに限って云えば、ミトスの真意は無くなっていた。
ミントには丁重に手足に拘束がかけられた。アトワイトの発案だった。
ミトスはサンダーマントを装備させておくように厳命しただけだった。
どの属性に耐性があるのかが分かっていれば、簡易的な識別装置になるからだった。


鐘楼を中心にC3に霧が立ちこめた。コレットの精神力を喰らって、アトワイトは白霧を生産していく。
依然として元家屋からは灰色の煙が噴出している。
『五分も有れば、全域に散布できます。6割の魔力を当てますので有効時間は90分誤差30分前後と云ったところでしょうか』
「散布後は二階に籠もる。この状況下では目視による索敵は無理だ。互いに」
『先ほど手水場で何を書いて居たのですか?』
「別に。D2からの伏撃で敵前衛後衛を分断させるから、仕掛けた罠を利用しつつ先にC3に来た剣士連中の相手を頼む、って」
追伸として、魔剣とその剣士を宜しく頼んである。ティトレイ達へのメッセージだった。
ミトスは恐らくこの場所に一番に来るのはティトレイだと踏んでいる。
与えた情報を鵜呑みするような馬鹿ではないだろうが、向こうはクレスに関して何か焦っている。
もし好機として使えるようならば使うべくC3に近い位置で警戒しているだろう、という読みだった。
ティトレイ達には暫く此処で待機して貰わねばならない。まあ多分率先して猪が来るだろうから強ち嘘ではない。
テルクェスによって位置が割れているとはいえ、予想ではシャーリィの位置は島の中央。先着は目に見えている。
「とりあえず、ティトレイを泳がせて情報収集に専念する。
 目下重要なのはネレイドとシャーリィの戦力・情報だ。それが分かるまでは徹底してここに潜伏、戦闘を回避」
『ですが、それでは先の先が取れませんが。騙し討ちも』
「拠点に固執する時点で僕たちはそれを実質放棄している。騙し討ちが有効なのは戦術までだ。それでは戦略を覆せない」
『ですが、先制してタイムストップを仕掛けられれば』
「だから、僕は壁にバリケードを準備した。幾らタイムストップが発動しても出来ないことが幾つかある。
 おい、姿の見えない敵にどうやって術を当てる?」
アトワイトは得心したような声を上げた。コレットには余り反応がなかった。
幾ら時を止めようが、居ると分からない目標に術を当てるほどの時間的猶予はない。
偶然この場所に外側から攻撃が当たったとしても、それはバリケードが防ぎ且つ存在は露見しない。
バリケードが損耗すれば余裕のある壁から資材を補填すればいい。
「僕たちは敵とは戦わない。徹底して情報収集に努める。クレスの魔剣や術士の魔術は僕が警戒するから、物理的な情報はお前に任せる」
『ですが、霧が』
ミトスは笑った。年相応すぎて酷く場に合わない笑みだった。
「頼むぞ?お前はコレットなんだ。強化された所は有意義に使え」
ミトスは自分の耳を叩いた。コレットの聴覚ならC3村の全域を捉えることが出来る。
それをソーディアンとミトスの輝石を通じて音を立てることなく入手した情報を交換する。
無音のままの情報収集。三階に顔を出す必要すらなかった。


103 :支度の完了 9:2006/11/18(土) 00:06:18 ID:f/WbCHlJ0
そして、シャーリィやネレイドに対して恐怖を覚えたミトスはタイムストップにすらその絶対性を疑っていた。
確かにあの術は絶対的だ。
しかし、その絶対性を余すことなく活用できるほどに勇気が有ると信仰できる程、ミトスは自分を信じられなかった。
ミントの無様な結果を見て、深くそう思った。
もし、時間停止を発動してもその間に敵を殺せるとは限らない。
そして、失敗した者に待っているのは容赦ない戮殺。もし、止めを刺せなかったら、
シャーリィの正面で、ネレイドの真正面で倒せないまま時間が解けたら。
考えるだに恐ろしい。そいつらじゃ無くても怖い。タイムストップを一度喰らえば誰だって二度目は御免だ。
生き残った全員が魔女狩りの如く殺しに来るだろう。気付かないまま死ぬなんて誰だって厭だから。
そして質の悪いことに、時間停止が解けた者はそれを自覚している。
こういう背景を考えた上で、このプレッシャーの中数秒で仕手を行うのは存外難しいのだ。
しかもこの戦いでは対象識別が出来ないから、術者しか動けない。
仕損じれば、全員から殺されるかもしれない。
そして、急所さえ外れれば、人間はそう簡単に死なないのだから。
此処までを踏まえて、ミトスはタイムストップによる優位性を捨ててでも
タイムストップから生き延びることに専念することを上策と考えている。
それにコレットやミント、或いは敵の仲間と混交してしまえば魔術師は魔術で殺せなくなる。
巻き添えを懸念するその数秒で、時間が戻るからだ。
幾らでもタイムストップは潰しようがある。少なくとも、この条件下なら。


ミトスは輝石を弄った。アトワイトに剣一本を任せる以上この姿はさして意味がない。
何より、あの姿でも普通にタイムストップは使える。
ミトスの姿はたちどころにユグドラシルへと変成した。
向かうべき戦場は市街戦、いや、こんな小さな村では野戦となんら代わりもないか。
ここから先は一切の読みの意味が失われるだろう。どうせ裏切られる。
ならば、重視するべきは情報量と機動力と反応速度、そして詠唱すら要らぬ携行型圧倒的火力。
読みではなく、反射で勝負してやる。


『反応確認、入村します』

ユグドラシルは4時間の間に用意した村の白地図を広げた。ペンを走らせる。
さあ、事前の思いつきはこれで品切れだ。ここからの脚本はアドリブ。
まずは手並みを拝見。出来れば死の際まで踊ってくれ。
葬儀の準備はしてやるから。


104 :支度の完了 10:2006/11/18(土) 00:06:51 ID:f/WbCHlJ0
【ミトス=ユグドラシル@ユグドラシル 生存確認】
状態:TP90% 恐怖 己の間抜けぶりへの怒り ミントの存在による思考のエラー
所持品:ミスティシンボル 大いなる実り 邪剣ファフニール ダオスのマント C3村の白地図
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:想定外の事態を警戒しながら、マナの変動に警戒しつつ情報の把握。クレス、シャーリィ、ネレイドを優先
第二行動方針:見に回ってティトレイの行動を軸に善後策検討
第三行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第四行動方針:蘇生失敗の時は皆殺しにシフト(ただしミクトランの優勝賞品はあてにしない)
現在位置:C3村・鐘楼台二階

【ミント=アドネード 生存確認】
状態:TP5% 失明 帽子なし 重度衰弱 左手負傷 左人差指に若干火傷 盆の窪にごく浅い刺し傷
   舌を切除された 絶望と恐怖 歯を数本折られた 右手肘粉砕骨折+裂傷 全身に打撲傷  全て応急処置済み  
所持品:サンダーマント ジェイのメモ 要の紋@マーテル
基本行動方針:なし。絶望感で無気力化
第一行動方針:…どうすれば…
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
現在位置:C3村・鐘楼台二階

【アトワイト=エックス@コレット 生存確認】
状態:TP40% コレットの精神への介入 ミトスへの隷属衝動 思考放棄
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック ホーリィスタッフ エクスフィア強化S・A
基本行動方針:積極的にミトスに従う
第一行動方針:聴覚を使い、情報収集。クレス、シャーリィ、ネレイドを優先
第二行動方針:ミトスの指示に従う
第三行動方針:コレットの魂を消化し、自らの力とする
現在位置:C3村・鐘楼台二階

【コレット=ブルーネル 生存確認?】
状態:魂をアトワイトに占領されつつある 無機生命体化 外界との拒絶
所持品:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ
基本行動方針:待つ
現在位置:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ


*C3村に火災・ディープミスト発生(共に1時〜2時までには終了)

105 :The stray's fragment/その世界の名は記憶 1:2006/11/18(土) 00:30:24 ID:B5n6tosT0

「紅茶を濁らせると、何になると思う?」




空にはたくさんの星が輝いている。誰かが、それは「宇宙」という名なのだと言った。
何故そんな名前なのかは分からない。そこに本当は何があるのかも、誰も知らない。ただ、誰かが宇宙だと言った。
隣にいる誰かがある日の夜空を見上げて言った。
「もし星の海に浮かべたら、とても綺麗な景色なんでしょうね」
俺は「いつか連れてってやるよ」と答えた。



残念でした。宇宙に星なんて輝いていない。あったのは机とストーブと絵と本棚とメモボードと――そんな物だった。
一目で俺の家だと分かった。家具の位置や形、空間の広さが瓜二つだ。
机には落書きもしっかりと残っていて、けれど文字は重なっていた。
最初はよく分からなかったけど、じっと見てみるとそれは
「姉貴、石けん返せ」と「俺はガジュマなんて大嫌いだ」という文章が重なっているのだと分かった。
ここは俺の家じゃない。
飛ぼうともしていないのに地に足が着いていない奇妙な浮遊感(どこかで1度味わった気がする)。
どこに向かっているのか。そもそも本当に浮いているのか。曖昧。
その場に留まっているのに、そこに居るという感覚すらない。地を踏みしめる感触は己の存在を確認するためにあるのだ。
星は欠片も見えない。けれど確かにそれは存在している。
それらが、ここが家じゃないという証拠だった。
寒い。光は寒々として冷たい。
遠くに見えた時は温かいのに、近いとすごく冷たいなんて不思議だ。
星全てが自分に視線を注いでいる。数多のコウモリが侵入者を見ている。
それらは何か1つの痛烈な意思を持っている。俺をじっと見つめている。そう思うだけで、正体が何なのかは分からない。
ヒトどころか勝手に考えた星の気持ちさえ分からない。馬鹿みたいだ。
見られたくない。それだけは確かに思った。


106 :The stray's fragment/その世界の名は記憶 2:2006/11/18(土) 00:31:29 ID:B5n6tosT0
ふと振り返ると、何か1つ増えていた。緑色の長い髪が目についた。とても見覚えがあった。
天使に空へ誘われたかのように、背に広がる赤い羽。「あの時」と同じ場所にいた。

『姉貴ぃ!』
ありもしないドアが勢いよく開かれる音がし、誰かが駆け込んで来る。
誰かは分かっている。俺は1番に見つけた人物を知っている。
"そいつ"と目が合った。
『お前が……お前が殺したのかぁっ!!』
そいつが俺に飛び掛ってきた。あまりに浅慮かつ短絡的な思考。その時俺は手が赤いことに気がついた。
その時だけ何故か突如現れた壁に身体が叩きつけられる。感覚は特にない。
胸倉を掴むそいつの目は動揺で揺れ、血走っていた。下手すれば暴走しかねない。
壁に押さえつけられたまま、その瞳をじいっと見つめていた。多分一寸の表情も浮かんでいない。
「どうして怒ってんだよ? 俺が憎いのか?」
眉がぴくりと動く。今度は床に叩きつけられた。
『ふざけんなっ!! そうだよ、憎いんだよ! 姉貴を……姉貴を殺しやがって……!! 返せ! 姉貴を返せっ!!』
そのまま掴まれた胸倉が何度も揺らされる。視界が揺らぐ。

「でも、お前も今同じことをしようとしてるんだぜ?」
そいつは今更はっとして視界の下に映る首元を見た。
いつの間にか首へと伸ばされていた手は僅かに緩み、気道の圧迫感も乗じて弱まる。発音やや良好。
「まるで自分は正しいことしてる、みたいなさ……。
 そうだよなぁ、ヒトって生き物は自分を正義と決めた瞬間、どんなに残酷なことも平気でするようになるもんな」
手を取り払うこともなく、何も答えずにただ黙っている。目はまた揺れている。
「表では善人ぶって、裏じゃあ平気で見下したり悪口言ったりしてる。そういうもんなんだよな」
『黙れ……黙れぇっ!!!』
また気道が塞がるのを感じる。苦しくはない。声も普通に出る。
「それより、お前何か勘違いしてないか? まるで自分と目の前の自分が別人だ、みたいに思ってるだろ?」
声は聞こえない。何の表情も浮かべない。
「ダオスを殺したのは俺じゃない。ジェイを殺させたのは俺じゃない。
 サウザンドブレイバーを撃とうとしたのは俺じゃない、むしろ止めた……そうだろ?
 馬鹿言うなよ。
 感情が消えても、フォルスは残ってた。つまり、少しでも"お前"はいたんだ。だからヴェイグと会った時、目を覚ましたんだ。
 でもよ、何かきっかけがなきゃ駄目だったとか、そんな言い訳するつもりはないよな?
 "お前"は確かにそこにいた。やろうと思えば起きられたんだ。だからデミテルのおっさんに騙されてるって分かってたんだろ?」
均等に篭められた握力が継続する。
「そう。殺したのはお前だよ。
 E2の城でジェイや赤い髪のおっさんを見捨てたのも、しいなを見殺しにしたのも、みんなみんなお前だよ」

きっと血走る目の赤が増加する。骨がくっきりと顕わになる程に、指が首に食い込む。
『うるさいッ……黙れ黙れ黙れぇっ!!!』
「そうだよ。そうやって殺せばいい。それでお前は逃げる奴から本当に人殺しになれるぜ」
『俺はこんなゲーム認めない……! 殺し合うなんて間違ってる……!!』
言葉と真逆の力を感じる。
「でもいいじゃねぇか。負の感情は"お前"がヒトである証拠だし、それに、その気持ちはお前自身のモンだよ」
『無意味な死なんて意味がないんだ……! ミクトランを許してたまるか……!!』
恐らく最大限の力が首に掛かっている。
「ま、そしたら俺はヒトじゃねーけどさ」
俺はゆっくり目を閉じた。光景がブラックアウトしていく。
最後に、少し笑ってみせた。

「人殺し」




107 :The stray's fragment/その世界の名は記憶 3:2006/11/18(土) 00:32:53 ID:B5n6tosT0
目を開けた時には、部屋も星も死体も"あいつ"も消えていた。
まるで闇の洪水でもやって来たかのように、何もかも一気に呑まれていった――気付けば全て無くなっていた。

言い難い空虚感に襲われた。
虫に食われた林檎のように。外側は普通に残っていても、中はめちゃくちゃだ。

ふと、身体が浮いていた感覚から、足が地に着いた感覚に変わる。世界が左に90度動いた。
色は何も変わっていない。ふと見れば浮いているように見えるのには変わりない。
黒く広すぎる影、否、黒い床で影などないのだ、果てしなく広がる白い部屋と同じだ。
そこからぬるりと2本の腕が現れる。

「ティトレイ」
白く黒い手が差し出される。

「ティトレイ・クロウ」
黒く白い手が差し伸べられる。


現れた2つの手は俺に絡みつき、俺はあるがままに全てを委ねていた。
心地いいのか、煩わしいのか。表裏一体過ぎる。分からない。

また誰かの声が聞こえた。誰の声かは分からない。さっき俺を呼んだ声に似ていた気もしたし、全く似ていない気もした。
白い手か、黒い手か。それすらも超越した1つの存在か。
けれど、俺はその声だけには首を横に振った。多分笑ってた。にやりとしてたか、にかっとしてたかは分からないけど――

「……俺はもう戻れねぇよ」


現れた2つの手は俺に絡みつき、俺はあるがままに全てを委ねていた。


沈んでいく、深く、深く、どこかも分からない、俺なのに、俺が知らない場所へ、でも知っている場所へ――……

ああ、分からない、見たくない、何も、何も、何も、 、 、  、  、    








108 :The stray's fragment/その世界の名は記憶 4:2006/11/18(土) 00:33:47 ID:B5n6tosT0
「…………」
目を開けると、深緑が彼を包んでいた。
何の変哲もない普遍的な光景。夜床につき、朝目覚めて見る、訪れるべくして訪れたような光景。
何故こうなのか、と問う理由さえ見当たらないほどに普通過ぎる。
ただ1つ例外、普通ではないもの――ありえない、どうして首筋にある――が、彼の目にもはっきりと映った。
深い、どこまでも深い深い紫の大剣だった。更にその先の柄を掴む銀色の篭手、黒い肌着、微かに見え隠れする真紅のマント。
顔を上げると切っ先がほんの少し皮膚に食い込む感触がした。見つけた微笑は何故か心に食い込んだ。
「クレス……」
名を呼ばれた者は剣を納める気などないようだった。
「殺してくれ、ってうわ言で何度も言ってたよ」
引っ込める気もない笑顔で、クレスはそう告げる。
そう、と彼は答えた。
それでやっとクレスは魔剣を納めた。相変わらず緩く浮かべられた笑みは消えていない。
その笑みの奥では、彼を殺せなかったことをどれだけ恨めしく思っているのか、思っていないのか――
霧が消え差し込んできた太陽の光に隠れて、それは上手く見えない。光が全てをさらけ出させるとは限らないのだ。
クレスは彼の隣に片膝を立てて座った。
その理由の8割は彼と話をしたいからではなく、身体を休めるという悲しくも剣士として正しい本能からである。

「死にたいの?」
「さあ。どうなんだろうな」
「分からない?」
「ああ」彼は言った。
「どうして?」
「どっちでもいいからだよ」
「じゃあ死んでもいいのかい?」クレスは尋ねた。
「そん時はそん時だ」
「生きるのも?」
「多分同じ」
「なら、君はどうしたいんだ?」
その問い掛けに彼は口をつぐんだ。
どうしたい、というのは実に主観に溢れた答えを導き出させる言葉である。
「俺を放棄できればいい。あいつを殺して、それか変化を見て、俺を放棄できればそれでいい」
ふぅん、とクレスは答えた。少しだけ興味がありそうな音の響きだった。
「どうして?」
全く、こいつは自分に何故を聞くことはしないのに、他人には聞くのか。
自分の行動には絶対的な確信があると思っている人間は己に問いかけることはしないのだ。迷いを抱く者への一種の軽蔑だ。
それよりも質問責めなんて子供のすることだろう。先生に尋ねてことあるごとに「どうして?」と聞き返すようなものである。
子供は純粋故に残酷とも言う。ある意味では正しい。

「中途半端ってのは1番辛ェことなんだよ。勝ってる訳でも劣っている訳でもねぇし。
 そもそも優劣で話していいことじゃねぇとは思うけど、とにかく、邪魔なんだよ。これは」
指示語の内容が分からない、と言いたげな顔だった。
あまりに抽象的かつ観念的過ぎて、正当な思考能力も持たないクレスには理解が及ばない。
彼も懇切丁寧に説明してやる気などなかった。
ついでに言えば、クレスに何故を聞く気もなかった。何となくまだ早いと思った。
そもそも――心を失った(この場合は知識や意志ではなく感情を指す)という点では、2人には共通するものがある。
しかし、あまりにも度合が違うのだ。
クレスは善意という性善論を信ずる人間にとっては決定的なものを失った。
だが、彼は善も悪も失くしてしまったのだ。性善も性悪もない。無性、まさしく中立の感情である。
単純に善と悪を半々のピースに分けるなら、クレスは片方のみ、彼は両方である。
ピザを半分食われたか全部食われたかだ。それだけでいかに喪失の大きさの違いが窺える。
それに、クレスは笑おうと思えば、篭める感情は何にせよ、いつでも笑える。現に今でも薄く笑っている。
だが彼は笑みに篭める感情すらない。結果として、笑えない。
あるとしても――恐らく、それは彼でありながら今の彼とは乖離しているものであり、
そして断片的過ぎるが為に有り余ったものなのだろう。
手は伸ばしても届かない。


109 :The stray's fragment/その世界の名は記憶 5:2006/11/18(土) 00:35:01 ID:B5n6tosT0
太陽の位置はおおよそ50度。時間にて10時半。プラスして10分くらいか。
予定に何の狂いも生じていないのなら、ミトスの放送の1時間半前だ。

「クレス、もう少し寝とけって。これから俺達は……」
左方向を見やると、既にクレスは眠りに落ちていた。
あまりの就寝の早さに彼は少しぎょっとしてみせた。いつでもどこでも愛用の枕もなく寝れるなど、羨ましい奴め。
「殺してくれ、って言わなくなった途端これかよ……要領がいいのか悪いのか分かんねぇ」
あくまで人を殺すという一点に焦点を置くクレスにとって、殺害に必要な活力を蓄えることは必須。
己の最大限の力を出せるようにすること、途中でエネルギー切れなど起こさせないことを考えれば、
クレスにとってこれは必然の行動だ。
本来なら彼も、ミトスの鐘により引き起こされるC3での戦闘に備え眠っておかなければならないのだ。
自身のフォルスが乱れている中、力はまだ完全には戻っていない。
この後のことも考えれば睡眠は極めて重要なアクションなのである。
しかし、目を閉じても睡魔は一向に己を闇には誘ってくれない。招待状が届かぬのではなく、破り捨てている。
どうしようもない、と彼は短く嘆息らしきものをついた。眠れないものは眠れないのだから仕方がない。

彼は自分の荷物から1冊の本を取り出す。読書は安らかな眠りをもたらしてくれる。
(それが単に活字という媒体と相性が悪いからなのかはさておき)
その本は、彼の仲間であった赤髪の少年――名を無、そして穢れなき瞳という――が記している物である。
その為たまに語尾が「ヨ」や「ネ」になっていたりする、癖にしては不思議な本である。
とかく、その本には彼が戦ってきた敵、バイラスと呼ばれる生物(生物とはいえ動物系統から光などの現象等、類は様々である)に
ついて多く記されている。
少年なりのイラストも描かれていることから、歌唱力はなくとも絵心はあるらしい。そういえば歌も全部自作だった。
他にも戦闘回数、倒してきた敵の数、倒れた回数など、いわばこれは「軌跡」とも言えるだろう。

軌跡。彼は軌跡を辿っていた。
アルバムを捲った時のように、自分の中の時が逆行していく感覚が彼を支配した。
ジルバ、ミルハウスト、サレ、トーマ、ワルトゥ、ミリッツァ……シャオルーン、ギンナル、ドルンプ、ユシア、イーフォン……
あまりに長かった旅で戦ってきた、多くの人物。聖獣。出会いが記憶を模っていく。
彼はまたページを捲った。
その先には、彼の仲間の姿があった。

何の感傷もない。ただ漫然と道を歩いているだけだ。記憶という世界の軌跡という名の道を。
読み解くことは今まで頭の中で霞みがかっていた輪郭を、ただはっきりとさせるだけの行為でしかない。
カレギアの黒豹の三つ編みの編み目まで見えるようにし、
黒髪のハーフの女が持っているタロットカードの絵柄まで見えるようにし、
医者の卵が書いていた日記の文字まで見えるようにし、
炎の子が具現化しているフォルスキューブまで見えるようにしているようなだけだ。
モノトーンの中に微々たる色彩が所々に彩られているだけで、世界は白と黒という温かみも何もない単純な色で作られている。
既に施された色彩は剥げ落ちてしまったのだ。塗り直す気もない。
色に溢れた世界を白黒にするだけで、世界はこうも儚く荒んで見える。
その中でこの本に秘められた記憶の数々が、そのモノクロを際立たせる。世界の輪郭を明瞭にする。

そう、彼は、世界をモノクロにしようとしているだけだ。
   そこには僅かに着彩された自分もいた。


110 :The stray's fragment/その世界の名は記憶 6:2006/11/18(土) 00:36:13 ID:B5n6tosT0
事細かにデータが書き込まれており、少年の解説文もあった。他人の自分への評価を見るというのは中々慣れない。
下方には追記のような形で文章が書き加えられていた。

『弱点:セレーナさん』

何のことはない。いつか話したことだ。
しっかりと書き込んでおくとは、少年も意外と律儀な性格だったようだ。それとも本を任されている者としての使命か。

姉。名はセレーナ・クロウ。唯一の肉親。
同じ職場で働き、器量良しと言われ、そのため多くの男どもが近寄ってきて、それを自分が片っ端から振り払ってきた。
そもそも彼が体得した格闘技術も姉を守るためのものなのだ。
彼女についてだけこんなに記憶が豊かなのもその所為かもしれない。
そういえば、少しだけ見た世界樹の女神の化身に似ていたかもしれない。
共通点は緑色の髪だけだから、無意識に重ねてみているだけだ。サブリミナルといわれる奴だ、きっと。
彼女はもうここにいない上に、長く見ていた訳でもない。ヒトの頭は都合のいいように記憶を書き換える。
その女神の死が、何故か自分と姉との永遠の別れを思わせる。
それを最後に、彼は本を閉じた。

「姉貴……ごめん。俺、帰れそうにない」
たったこれだけの言葉を発するだけで、どうしてこんなにも胸が狂おしく締め付けられるのだろう?


彼は荷物からもう1つ取り出した。
大きさは中々で、燃料は決してなくならない不思議なランタンである。どんな仕組みなのかは彼には分からなかった。
留めてあるベンチレーター(傘に似たような部分にあたる)を無理矢理外し、上部にぽっかりと空洞を作らせる。
そのガラスに囲まれた穴をじいっと見た後、彼はそのまま火を点した。一瞬で炎の熱気が顔に当たるのが分かる。
空いた口の向こうできらつく炎に、彼はフェニアが司る誕生の火を見出したような気がした。
例え全てを失っても、何かが生まれるのだろうか。

彼は持っていた本の隅を、ランタンの内部へと差し込んだ。サイズが違い過ぎてほとんど入らない。
それでも燃え盛る火は本に移り、少しずつ、その身を炎に任せ始めた。
彼は取り出しても燃えていく本を手放さない。彼の琥珀色の瞳には炎の光さえ映らない。
その何もない瞳で、ぱらぱらと燃える紙屑を眺めていた。
時がとてもとても長く思えた。今までの時間に比例しているかのように。
末端から本は黒ずんだ灰へと化していき、落ちては風に舞い、思い出とどこかに飛んで消えていく。
灰の行く先など気にもかけず、ただ眺めていた。
炎はゆっくりと本を侵していく。愛おしく、名残惜しむように――

「――――!?」

彼の瞳に、ぼやけた光が映った。

ばさ、という音と、ぱち、という音が同時に鳴った。
草葉の上で取り落とした本が燃える。記憶が燃える。"彼"が燃える。
何かを失くしていく感覚、水が干乾びていくのに似ているそれは、彼の中で牙を剥いてうねり合う。
その何かが肯定し、否定する。
彼は傍にあったデイパックを両手で乱雑に掴み、本に向かって叩きつける。中身がどうなるという思考は微塵もなかった。
叩きつける。繰り返して。何度も。それは倒れた相手を殴り続ける誰かの様によく似ていた。

――気付けば本の灯火はとうに消火されていた。

111 :The stray's fragment/その世界の名は記憶 7:2006/11/18(土) 00:37:08 ID:B5n6tosT0
息絶え絶えに彼は打ち捨てられた本を見つめる。顔には汗が浮かび、表情は微かに強張っている。
ちょうど真ん中の辺りで本は黒い灰と化していた。半分が塵に消えてしまった。
彼は恐る恐る、といったように静かに本を拾い上げる。ぱらり、と灰が何枚も落ちていった。またちくりと痛んだ。
痛んでもそれを悲しむことはなかった。涙は流れず目も潤んでいない。
ただ、惨めな姿に成り果てた本を、彼はぎゅっと胸に押し当てた。
「どうして俺は本を燃やした? 火を消した? 俺が本当にしたかったことはどっちだ?」
本に、胸に、心に尋ねるように。
答えは返ってこない。
彼は隣にいるクレスを見やる。
答えは返ってこない。

目が必要以上の光を取り込まないように、過剰な食物の摂取が病の起因となるように、
ヒトの身体は通常を越えたものを必要としないのである。
過ぎたものは身体にとって蝕む害でしかない。
そして今の彼にとって、心は例え僅かであっても、身体には有り余るものであり、
決して掴めぬ残滓は煩わしいものでしかないのだ。
時折ちくりと胸を刺す心の針が、異物のようなものに思えて仕方がない。むず痒さにも苛つきにも似ている。
だが、引っ掻くことも取り除くこともできない。
あるかも分からぬ掴めない霧のようなものなのに、確かな痛みを持って留まり続ける。

あの時と同じだ。火に飛び込む儚き蜉蝣の群れの向こうにいた青年を見たあの時と。
突然現れては彼を掻き乱していく。
痛みが孤独を呼び覚ます。痛みが何かを求める。
もう戻れはしない。そうだ、戻れないんだ。元・親友に求めるなんて高望みなんだ――なのに。

「俺はゼロだ。0.1も0.000001もいらない……なのに、何で……!」

「何が俺の手を止める……何が俺を拒む……何が俺を迷わせる……
 こんなんだから中途半端で余計なものはいらない、の……にッ……!!」

胸元を中心に全身に激痛が走る。
ぐらり、と本を抱えたままの身体が倒れ込む。
彼の顔には明らかに暑さのためとは思えない汗と、滅多に浮かべぬ痛みを堪える表情が表れていた。
強く閉じられた目を僅かに開ける。
たった少しなのに受容器が眩しいと感じる。眩しい、眩し過ぎる。草木が、木洩れ日が、世界が――。

「俺が、理想じゃ、ない、から? ティト、レイが求めて、た、理想じゃない、から、罰を下、すって、訳か、よ……」

彼は目を閉じた。開ければきっとまた全てが無くなっているに違いない。

「俺を殺人に走らせているのは……誰だ……」

その答えは、既に彼の中で出ていたのだろうか。







「紅茶が濁る? 簡単簡単! 答えはずばり、ミルクティーだろ!」
「ハズレね。普通じゃない」
「じゃあ何なんだよ。なぞなぞとか苦手なんだっつの」
ふふっ、とその人は笑った。

「答えは2つあるの。
 1つは、D。
 もう1つは、紅茶は濁っても紅茶なのよ」



112 :The stray's fragment/その世界の名は記憶 8:2006/11/18(土) 00:37:46 ID:B5n6tosT0
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:TP全快 善意及び判断能力の喪失 薬物中毒(次の禁断症状発症は午後6時ごろ?)
   戦闘狂 殺人狂 欲求が禁断症状を上回りつつある 放送を聞いていない
所持品:エターナルソード クレスの荷物
基本行動方針:力が欲しい、禁断症状に苦しみたくはない
第一行動方針:強い敵を殺して強くなる
第二行動方針:殺せる生者を殺して弱さを捨てる
第三行動方針:ティトレイはまだ殺さない
現在位置:C2森

【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態: HP40% TP55% 感情希薄 フォルスに異常(リバウンドの前兆? 全身に軽度の痛みが出てます)
放送をまともに聞いていない
所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼) オーガアクス  
    エメラルドリング 短弓(腕に装着) クローナシンボル
基本行動方針:命尽きるまでゲームに乗る(優勝する気は無い)
第一行動方針:正午まで休む
第二行動方針:休息後、ヴェイグ達の索敵を開始する(植物のない地点を重点的に)
第三行動方針:対ヴェイグ組撃破に有効な策を講じる(誘導or先制攻撃orその他の策)。あわよくばヴェイグを仲間に
第四行動方針:事が済めばクレスに自分を殺させる
第五行動方針:最終的には「なるようになれ」
現在位置:C2森

113 :支度の完了 3 修正:2006/11/18(土) 01:08:33 ID:nRuqfv1g0
ミトスは後ろを向いた。目の前にはコレットのからだが有った。目は

ミトスは後ろを向いた。目の前にはコレットのからだが有った。

すみませんでした。

114 :冥府にて澱む 1:2006/11/18(土) 17:49:31 ID:5rh4ZRZN0
黒地の布を十重二十重と重ね折って積み上げたような暗がりの中で、灯が揺らいでいた。
カンテラの内の灯は独立的に形を変え、洞窟の壁面は従順にその明るさを拡散させた。
一つの灯に道を照らし二人の男、まだ少年と呼ぶべきだが、は沈黙を守りつつ更に奥へ向かっていた。
それでも険悪以上の状況に進展しないのは、ディムロスが双方のことを双方に現在進行形で伝えているからだろうか。
2人ともただ黙してディムロスの話を聞き流しながら歩いている。
会話は少し長引く、そう判断したリオンが入り口の二人の介入を嫌った故の誘導にカイルが乗った形だ。

ディムロスの説明が終わる頃には洞窟の中心、中継点にたどり着いていた。
灯りの向こうで鋼のような巨石に亀裂がかかっている。その向こう側に突き刺さった銃剣に依る物だった。

「グリッドと云う男は此処には向かわずE2に向かった、という事だな」
リオンは右腕を掻きながらそう言った。
カイルがディムロスを持った手を壁に叩き付けた。
「そんな事はどうでも良い!ジューダスはどうなったんです!?」
「それは僕が訊きたい位だ」
リオンは震える右手を隠すように左半身を前面に出してカイルに向き直った。
訥々と抑揚無くヴェイグが離れた後のあの時の戦いを語る。
「どう思う?」
語り終えてリオンは威圧するようにカイルに訊いた。
カイルは質問の意図が掴めずに口籠もった。
「奴の剣が心臓に刺さり、僕が先に死んだはずだ。しかし僕は何故か生きている…まるで結果が捩れてしまった様だ」
「何が言いたい!?ハッキリ言え!!」
自嘲気味に手を広げるリオンに苛立ちながらカイルは唸った。
『……お前がジューダス、本人だ。そう言いたいのか?』
ディムロスの発言にカイルは驚愕し、リオンは口元を歪ませた。
『落ち着けカイル。ヴェイグの話に依ればジューダスはエリクシールを持っていたらしい。
 目の前の男が語った事が事実なら生きてエリクシールを使った方はジューダスでなくては説明が付かない』
「そんな馬鹿な話があるか!現に此奴はリオンって名乗っているじゃ」
「……例えば失血のショックで軽度の記憶障害にかかった、というのはどうだ?」
震えの収まった仮面の罅をなぞりながら、リオンはカイルを挑発した。
知っているようで知らない、不可思議な存在であるカイルを見極めるためである。
『ショックでジューダスとしての記憶を失い自分とリオンを錯乱している。
 放送はどうやら主催側が間違えたらしい…言い張られたら反証は出ないな』
「……僕はどっちだろうな?」
次の句を言う前にカイルが掴みかかった。ディムロスとカンテラが落ちて金属音が2つ鳴った。
『落ち着かんか、カイル!!リオン、要点はさっさと述べろ。今のマスターは気が短い』
「お前の問いに明確な回答は用意できない。リオンだと言う証拠すらもう残っていないからな」
まず重点として置くべきはこれが主観的な錯誤に依るものだ、ということだ。
リオンは負けて、心臓を刺されて死んだ。これがリオンの気絶する前の認識である。
しかし目が覚めれば死んでいるのはジューダスだった。焼けた頭蓋片と首の無い死体がその証拠だ。
気絶する前と後で矛盾が起きている。
戦いという過程と、生死という結果の矛盾。
リオンが負けたという過程を正しいとするなら結果生きているのはジューダスであるべきだ。
リオンが生きているという結果が正しいとするならジューダスが勝ったという過程が間違っている。
どちらも正しく、どちらも間違っている。

115 :冥府にて澱む 2:2006/11/18(土) 17:50:05 ID:5rh4ZRZN0
カイルは眉を小刻みに動かしながら何かを喋ろうとしている。言葉が出ないのだろう。
「要するに僕にもよく分からん。だから訊くな」
そう、彼にもよく分からない。
リオンが知る事実を全て信じれば
「僕は負けたけど生きていました」「奴は勝ったけど死にました」
と言うことになり意味が分からない。
ジューダスが勝った、という物語とリオンが勝った、という物語が明確な処理を得ずして1つに収斂してしまったように。
箱の中の猫の生死が分からないように、真実は封じられてしまった。
全ては闇の、否、箱の中だ。
最も、ミクトランという客体を引き合いに出せばこの不可思議は一瞬で消滅するのだが。

下らない。
「まあ放送など関係なしに、現実として僕はリオンだ。それは信じて貰ってもいい」
襟を掴むカイルの手を払い、右手を向いた。水の流れはその方向に向いている。
「が、そんなことはどうでも良い。マーダーでない奴に会えたなら僕の役目は終わりだ」
リオンは地図を抜き取って自分のサックを置いた。
「僕の連れが、洞窟の入り口で待機している。連中を連れてグリッドとやらと合流してやって欲しい」
リオンは二刀に手をかけようとして、悪いがこれは貰って行くと云って止めた。
「ジュ…貴方はどうするんですか?」
「素人と怪我人…足手纏いを二人も抱える余裕は無い」
実際早いうちにこうした方がいいと、リオンは最初から考えていた。
『マーダーに戻る…シャルティエも持たずにか?』
ディムロスの牽制をリオンは嘲った。目は笑っていない。
「シャルの半分はここに居るし、もう精力的に殺しに走る程気力が残っている訳でもない。
残らず奴に奪われたからな、リオンの声は少し震えていた。
「カイル、と云ったか。何だったらお前に殺されても良いさ」
思わぬ一言にカイルの口が少々間の抜けた開きになった。
幾らか考えていたが、これが総合的に見て一番ベストな選択ではあると思う。
全く訳の分からない状況で生きながらえて、取り敢えずの拠り所としていたスタンを探そうとしていた。
しかし彼が死んでしまった以上、特に当てが有るわけでもない。
正直放送の後すぐに死んでも良かったが、自分の一存で生かしてしまった以上は
せめてプリムラの面倒位は見てやろうという安っぽい甲斐性だけで動いていたのだ。
何といっても今更お人好しの馬鹿共の中で安穏を享受するには、血に汚れ過ぎている。
このままではトーマは兎も角プリムラに類が及ぶだろう。
仮に三人が受け入れられたとしても確実に何らかの疑心が生まれるだろうし、
この極限の状況下では、それは組織の空中分解に直結する。
早い話、五人も殺してしまったリオンは存在自体が組織を破綻させる毒に他ならない。
例え単独でマーダーキラーとして動いたところで、行為自体が場を乱すだろう。
変な綾が付く前に縁か命を絶ってしまえば、二人の安全はカイルに任せることが出来る。
結果が捩れてしまった不確定な存在など居ても邪魔なだけ。
納得はしていないが、これが最良である。最後の仲間を失った本人はそう結論付けていた。
あまりにもよく似ているこの少年とであったのは、なんとも過ぎたる奇貨だ。


116 :冥府にて澱む 3:2006/11/18(土) 17:51:55 ID:5rh4ZRZN0
「貴方は…命をなんだと思っているんですか…」
歩こうとしたリオンの背中にカイルの声が打ち付けられた。
「俺には良く分からないけど…ジューダスは、貴方を助けたんでしょ?」
「それが一番論理的で、一番非論理的な回答だ。奴が僕を助ける理由は皆無だが、それしか有り得ない」
「俺には貴方の気持ちは分からない。でもジューダスが何をしたかったかは、何となく分かる」
リオンはもう一度カイルを正面から見据えた。具体的に何処、とは言えないが矢張り似ている。
「ジューダスは、貴方を許したかったんだと思う。でもジューダスは不器用だから、それしかできなかった。
 リオンとして貴方の罪を代わりに負うしか出来なかったんじゃ無いですか?
 貴方はそれを分かっているから…ジューダスの代わりに…ん…なんて言うか…その…」
リオンは言葉尻の締まりのないカイルの言いたいことを何となく理解した。
リオンはもう一度カイルに向き直った。カイルの容貌をもう一度確認する。
「俺は貴方を許せないけど。ジューダスが許したなら俺は何も言わないよ。
 それに、ジューダスならその2人を他人に任すなんて無責任なことはしない」
カイルはそういってリオンと向き合った。落ちたランタンの光を受けて力強い光彩が瞳を満たしていた。
スタンによく似ている、リオンは素直にそう思った。

「取り敢えず、入口まで戻ろう」
カイルが手を差し出す。
「ああ…その前に、前々から思っていたんだがお前達は何故僕を知っているんだ?
 ハロルドも、お前も、彼奴も、何故一方的に僕も知っている?」
ハロルドはジューダスのことを何も語らなかった上、
分かっているのはジューダスとは別のリオンであるという推測のみ。
いい加減ハッキリさせねば唯でさえ、不明瞭な自身の存在が更に胡乱になる。

しかし、カイルの返答は疑問として戻された。
「彼奴…って、誰?」
リオンは何とも無しに答えてしまった。
「褐色肌で短髪の男だ。確か、名簿で見た名前は――――――」
力強かったその目の輝きは、一瞬で反転した。

――――――――――――――――――――――――――――――


117 :冥府にて澱む 4:2006/11/18(土) 17:52:49 ID:5rh4ZRZN0
ヴェイグはランタンを片手に闇の中を走っていた。地面はテラテラと汚く光り、
明瞭と地面に付着した水分の存在を理解させた。ランタンに視界の確保を頼っているため錬術を含めて
速度上昇の手は打っていない。対象を見過ごすのも足を滑らせて死ぬのも下らなさすぎる。
回廊の細さと、急に暗がりに入った故の目の不慣れが距離感を希薄させる。まるで無限に続く様な。
「死ななかったのか、ヒューマの癖に生意気な」
気が付けばそこにはトーマがいた。灯りを持ってはいないが歩調は軽い。
ジェットブーツを履いているため、ヴェイグに追いつくのは至極簡単だったが彼は速度をヴェイグに合わせた。
洞窟の中にはリオンが居るのだし、グリッドの性格を知らぬ訳ではない。
リオンの性格を考えれば、もし何らかの敵意を持った強力な第三者が居れば素直に戻ってくるだろう。
一番面倒なヴェイグの行動さえ抑えておけば大事には至らない。そういう判断だった。
無論、後ろから来る警戒を厳に要する存在への打ち合わせも兼ねている。
「色々云いたいことはあるが、個人的な話は後だ」
ヴェイグは一瞥もせずに云った。争うほどの余剰戦力は無い。
「後ろから蝶が一匹、心当たりは?」
「シャーリィのフォルスだ」
必要最低限の言葉で情報を交換する。カレギアの住人として能力はフォルスで括った方が早い。
トーマは舌打ちをした。ヒューマを一括りにした苛立ちだった。
「俺とハロルドもアレに捕まった。アレに触れると居場所が露見する」
「此処の場所を向こうに教えて此方に惹き付けるというのはどうだ?」
「最悪砲撃が来るぞ。生き埋めで良いなら俺は構わん」
「じゃあどうする」
「情報を与えなければ行動は鈍る。避けの一手だ」
ヴェイグは舌打ちをした。敵を一括りにした苛立ちだった。


118 :冥府にて澱む 5:2006/11/18(土) 17:53:36 ID:5rh4ZRZN0
テルクェスは一体何に惹かれて動いている?ほぼ直線とはいえ壁にぶつかる気配はない。
明らかに何かがナビゲートしている。
フォルスか?それならば先ほどの森で捕まっている。
生命反応か?それならテルクェスが人に触れられるのを待っているのがおかしい。
「なら…六大元素、マナか?」
それなら魔術の使えないグリッドとマナをフォルスに変換するヴェイグに蝶は大して反応しなかったことの説明が付く。
「お前達三人の中で導術使いは居るのか?」
「リオンとプリムラだな。但し、媒介がいる。それに2人とも生粋の術士ではない」
「媒介?」
「リオンはレンズとやらが要る。プリムラは…何とか…クリスタルケイジだったか何かが」
「クレーメルケイジか!!」
ヴェイグは己の過失に腹を立てた。メルディの説明通りなら内部の鉱石に晶霊、つまりマナを蓄えた媒介。
成程、漆黒の翼が短時間で居場所を突き止められたのはそれだ。
「ハロルドはその時何か術を準備していたと云うことは?」
「チャージはしていた。が、それがどうした?」
一応の筋道を立てたヴェイグは言葉にならない唸りを上げた。
大まかな移動の指定はシャーリィの指示だろうが細かい捜索はテルクェス本体がマナを探って行っている。
だから、漆黒の翼は早い段階で蝶と接触したのか。
そしてハロルドの連携発動待機が狙われた。
「糞ッ、サックだけで油断した俺のミスだ。プリムラは何を装備している!?」
「ソーサラーリングと、それだ」
トーマはさも当然とばかりに返答した。ヴェイグは武器の確認を欲しており、トーマはそれに応えた。
装備中のアクセサリは両者の意識の外であったのは否定できない。しかも2つとも小物だ。
現在テルクェスはケイジの軌跡、つまりプリムラの移動の軌跡を追って洞窟を縫うように移動している。
ヴェイグはそう結論づけた。ヴェイグはプリムラのサックをトーマに投げ渡した。
荷が軽くなれば安定したまま速度は上がる。ガジュマの体力を持て余す気はない。

距離感が掴めないから移動した距離が分からない。ヴェイグは速度を上げようとして足を若干滑らせた。
減少した摩擦係数に見合ったよろけ方だったが、発生した力場に支えられて速度を落とさずに体勢を戻した。
「奴らは白だ」
トーマは徐にそう言った。フォルスを使ってヴェイグを支えた事は既にどうでも良いことになっていた。
「確証はない。ハロルドはお前に奴らの監視を命じたんじゃないか?」
感謝を述べる機を逸したヴェイグはもごもごと口を動かす。
「プリムラは兎も角リオンは既に五人殺していると告白した。
 だからこそ、このタイミングで敵意を以て取り入るのは考えにくい」
しかも取り入ろうとした相手はハロルドだ、と注釈する必要はなかった。
トーマの言い分は理解できる。しかしヴェイグは過度の警戒をしていた。
この場所は良くない、そう思っているからだった。
朝の時点でマーダーと警戒されていた人間が2人、しかも
1人はジューダスを殺したであろう人物。もう1人は自分を刺した人物。
そしてどういう変遷が合ったかは知らないが、自分の知っている限りにおいては
ヒューマの命なぞ蚊ほどにも思っていなかったガジュマ。
目下最大級の敵とされるシャーリィの使い魔。
更に、ヴェイグの氷使いとしての才覚が、更なる恐怖を呼ぶ。
悦楽と狂躁と殺意が綯い交ぜになったような、それでいて妙に稚拙なこの冷気は何とも気味が悪い。


119 :冥府にて澱む 6:2006/11/18(土) 17:54:09 ID:5rh4ZRZN0
ヴェイグは何かの冗談かと思いたかった。
マーダーと疑わしき三人の集団。獲物を狙う青の蝶。そしてこの厭な空気。
この洞窟は、死が満ち溢れ過ぎている。死者でも現れそうな程の死。
まるでこの状況そのものが、死ねと命じているような違和感。
そこにグリッドは飛び込んでしまった。真っ先に死ぬような予感。
ヴェイグはこの異常空間からグリッドの命を死守することに意識を集中した。
誰も死なせない。
一時的とはいえ、ヴェイグはその他の可能性を排除してしまった。
リオン、プリムラ、トーマが繋がっているならば死ぬ可能性が有るのはグリッドだけだ、と断定してしまった。

死に囚われ過ぎた彼は、この場に第三者の存在する可能性を失念していた。

奥の方に微かな灯りとそれにかかる陰影が写る。どうやら直線の終点のようだ。
「憶測はいい。俺は誰も死なせる気は無いそれだけだ」
影の塊が割れた。1つが横に吹き飛ぶ。

黒い砂の様な影が飛び散った。
近づくに連れて、影達の正体が分かった。
グリッドが飛んだ影に飛びかかるように近づいた。
存在するはずの無いジューダスが慌てて影の手首を掴んだ。血糊がベッタリと付いた剣が落ちる。
死人に掴まれた影は、ヴェイグが探していたカイル=デュナミスは、
ただ己が行ったことに対する恐怖を理解し切れていない顔だった。


吹き飛んだ影は、プリムラ=ロッソだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

120 :冥府にて澱む 7:2006/11/18(土) 17:55:08 ID:5rh4ZRZN0
カイルは剣を持ったまま、地面に両手両膝を付いた。
「貴方が、あなたが」
カイルの眼球は忙しなく振動している。頭の中で固い音響が唸っている。
目の前にいるのは誰だ?ジューダスがロニを斬るわけが無いじゃないか。お前は誰だ?
でもリオンはジューダスが守った。反射音が煩い。
ジューダス?リオン?
リオンがロニを斬った。目の前にいるのはジューダスだろ?
今が戦うべき時なのか?
心拍が後ろから響く音と共振する。

浅い呼吸を数度繰り返し、単語にすらならない疑問の集合を押さえ込んだ。
先ほどリアラの前で立てた決意を忘れるほどカイルは逸っていない。

カイルは白地が失せるほど充血した目で縋るようにリオンを見上げた。
カイルは真実を聞きたかった。本人の口から聞ければ、どんな真実だろうと受け入れられる気がした。
しかし、カイルの目に映ったリオンはカイルの方を向いていない。
地面とリオンの目線は平行を保っている。
来た道を見ている。後ろの音は大きくなっていく。
リオンの口が動いた。これは走っている音だ。‘誰かが後ろにいる’。
「何をしている?待っていろと云ったはずだ」
移ろうジューダスの影、兄を殺した男、後ろから近づく足音。思考が揺れる。
後ろの足音はロニを殺したリオンの仲間だ。近い。
仲間は入り口ではなく此処にいる。リオンは嘘を付いていた。
嵌められた。そう考えるに十分な程、その瞬間、カイルの混乱は絶頂にあった。
ディムロスをしっかりと握る。脳に直接響く剣の声は聞こえない。
振り向き様に、思い切り剣を振り上げる。
確かな手応えがカイルの腕に伝わる。

等量の確かな過失の認識は、その数秒後に訪れた。
彼女は何も武器を手にしていない。
加速度的に血色を失っていく彼女は、ただリオンを見つけて助けを求めようとしていただけだ。
地面に落ちたカンテラしか寄る辺のない暗がりの中、蹲ったカイルを認識することなど彼女には出来なかったのだから。

――――――――――――――――――――――――――――――

121 :冥府にて澱む 8:2006/11/18(土) 17:55:52 ID:5rh4ZRZN0
リオンに手首を押さえられたカイルの手から握力が失せて、ディムロスが落ちた。
ディムロスの見地では未だプリムラは生粋のマーダーだったことが、少女の武器の有無に気付くのを遅らせた。
カイルの表情は無い。唯、締まりのない口か微かに戦慄いていた。

リオンにも、何が起こったのか殆ど理解が出来ていない。
漸く気付いた、「デュナミス」という単語の意味を処理するので精一杯だった彼の限界だった。

ヴェイグは現象を受け入れることすら困難だった。
甦る死人。血に倒れたのはグリッドではなくプリムラ、そして奪ったのは自分が懺悔をするべき少年。
一瞬で展開された悪夢は、彼に暴走させるだけの余裕すら簒奪した。

トーマは状況を静観することを決めた。これは自分の手には余るという自覚があった。
この状況で一番外にいるのは自分だ。ならば見極めて最善を打たなければならない。
トーマは、グリッドの状態を確認した。一言も発さずプリムラの傍にいた。


時間が経てばヴェイグの暴走も懸念される。リオンも身の危険が有れば剣を抜くだろう。
テルクェスもプリムラのケイジを狙って近くまで来ている。
存在し得ないジューダス、生き写しのようなスタン。
死を呼ぶ蝶。磔になった女神。悪意で出来た冷気。正に、死が統べる冥府。
冥府に集った5人は最高に無駄な殺し合いの一歩手前に立っていた。


122 :冥府にて澱む 9:2006/11/18(土) 17:56:23 ID:5rh4ZRZN0
【トーマ 生存確認】
状態:TP75% 右腕使用不可能 軽い火傷 やや貧血気味 プリムラのサック所持
所持品:イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり) パイングミ
    ジェットブーツ 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 首輪 スティレット ミラクルグミ
    ミスティブルーム、ロープ数本 ウィングパック(食料が色々入っている)  金のフライパン
基本行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
第一行動方針:テルクェスとヴェイグの暴走に警戒しつつ状況を静観
第二行動方針:漆黒を生かす
第三行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
現在位置:G3洞窟・中央中継点

【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:意識混乱 臨死 左下から右上にかけて前面に大規模裂傷
   右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)切り傷多数(応急処置済み) 
所持品:C・ケイジ@I ソーサラーリング ナイトメアブーツ
基本行動方針:???
第一行動方針:???
第二行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
第三行動方針:グリッドとヴェイグに謝る?
現在地:G3洞窟・中央中継点

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP40% TP55% 状況への理解不能 他人の死への拒絶
所持品:チンクエディア ミトスの手紙
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:カイルが殺した?何故ジューダスが此処にいる?何がどうなっている?
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:G3洞窟・中央中継点


123 :冥府にて澱む 10:2006/11/18(土) 17:57:03 ID:5rh4ZRZN0
【グリッド 生存確認】
状態:不明
所持品:マジックミスト 占いの本 ハロルドメモ ペルシャブーツ S・D
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:???
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:G3洞窟・中央中継点

【リオン=マグナス 生存確認】
状態:HP70% TP90% 右腕はまだ微妙に違和感がある コスチューム称号「ジューダス」 若干の混乱
所持品:アイスコフィン 忍刀桔梗 首輪  45ACP弾7発マガジン×3 ウグイスブエ(故障)
    レンズ片(晶術使用可能) ハロルドメモ2(現状のレーダー解析結果+α)
基本行動方針:ミクトランを倒しゲームを終わらせる 可能なら誰も殺さない
第一行動方針:カイルの動きを見守りつつ状況を静観
第二行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
第三行動方針:協力してくれる者を集める
現在地:G3洞窟・中央中継点

【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP45% TP75% 悲しみ 静かな反発 過失に対するショック 状況に対する混乱
所持品:鍋の蓋 フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 要の紋
    蝙蝠の首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ ミントの帽子
基本行動方針:生きる
第一行動方針:???
現在位置:G3洞窟・中央中継点


124 :冥府にて澱む 状態欄修正:2006/11/18(土) 18:44:11 ID:D4uymf2a0
【グリッド 生存確認】
状態:不明
所持品:マジックミスト 占いの本 ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:???
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:G3洞窟・中央中継点

【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP45% TP75% 悲しみ 静かな反発 過失に対するショック 状況に対する混乱
所持品:鍋の蓋 フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 要の紋 S・D
    蝙蝠の首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ ミントの帽子
基本行動方針:生きる
第一行動方針:???
現在位置:G3洞窟・中央中継点


125 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/01(金) 06:41:35 ID:7ae9VBX7O
保守

126 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/01(金) 10:06:07 ID:8FP6yFF+O
リッド
『虎牙連斬!』
スタン
『ぎゃあああ』


スタンはバラバラになった。スタンは死んだ

127 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/05(火) 19:42:33 ID:sgIQSqMkO
>>126

無効だ!クズが!!

保守

128 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/08(金) 00:07:22 ID:Xa+niJ4b0
いや、てかスタンもう死んでるw

129 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/12(火) 20:06:02 ID:jNuZVKdPO
保守。

130 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/14(木) 11:01:06 ID:RykvlVuIO


131 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 23:03:38 ID:7JNMJ1GV0
>>128
リッドも死んでるしなw

132 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/17(日) 14:03:52 ID:kNp8lVtB0
PSUアンチによってTOTが糞ゲー四天王に入れません
納得いかない人は是非参加してください
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1166249605/l50

133 :軋んだオルゴールのメロディ 1:2006/12/18(月) 20:44:39 ID:XwvzFz2UO
無音、音すら焼き払ってしまったかのような静けさの中で、削る音が広がった。
短く、均一で、止む気配は今のところ特にない。
時たま粛々とした間はあるのだが、しばらくすればまた木を削るどこか柔らかい音が耳の奥を突くのだ。
音も、「人工的」を作り出す存在も、この静穏(とはいえ多くの悲劇が起きたこの地にこの言葉を当てはめるのは、お門違いかもしれない)の前では
小さなものに過ぎない。
ただ少年は自分の小ささを、無力さを埋めるために、手を動かし音を作り続ける。
無心に、しかし決して綿密ではないわけではなく。極度の集中力がなす技だった。
彼は傷の溝に溜まった木くずを呼気で吹き飛ばした。

『         、安らかに眠れ』

これでまた、仲間が生きた証が1つなくなった。
少年――ロイドは重い体に鞭を打ち、防空壕の方へと歩き始めた。



この地の下でリッドが眠っているということは分かっている。自身も覚えている。
しかし、あまりに安易に死が与えられるこの島で、自らの記憶が仲間の生きた証など、雨上がりにかかる虹のようにはかない証拠でしかない。
そもそも人間は物事を忘れるから、そしていつかは全てを忘れるから、物的な証拠として墓というものを立てるのだ。
それがなき今、どうしてリッド・ハーシェルという人間がここに生きたと確かに言えるだろう?





134 :軋んだオルゴールのメロディ 2:2006/12/18(月) 20:46:54 ID:XwvzFz2UO
テーピングの準備は終わった。
粘着性のあるテープがない分よけいに包帯を使わなくてはいけないが、全く処置しないよりはましなのだから致し方ない。
ロイドがソーイングセットでも持っていたらもう少し楽だったのだが、彫金専門だからどうしようもない。
この場にそうそう都合よく道具が揃うわけがないのだ。
限られた手でどれだけ最善を尽くせるか、そこにこの島での生死がかかっている。
問題はダブルセイバーだ。果たして半人前でもない自分たちに満足のいくものが作れるのか。
やらねばならない。ロイドが律儀に約束を果たそうとしているのに、自分が破るわけにはいかなかった。
それにすでに犠牲を払ってしまったのだ。何かを得るための犠牲、を。
準備は出来ている。熔解には炎晶霊を加える。ふいご代わりに風晶霊を使えばいい。
ある程度まで進めばメルディに任せることができる。
……本当ならメルディにではなく、全て自分がやってしまいたい。
ぼろぼろの彼女にやらせるなど、廃人化が進むだけではないか。
反論ならいくらでも思いつく。回復術はインフェリア系に属する水晶霊を行使できる自身にしか使えず、
いくら効果が薄いとはいえ、万が一の場合を考えれば余力を残しておくことは必然だ。
それにこの先の戦い、自らが出した作戦のことも考えれば、術の乱用は失敗に直結する――
――理屈で片づく問題じゃあない。
メルディのあの願いを――
「キール」
その呼び声に彼ははっとした。隣を見やればメルディがこちらを見つめている。
「すまない。早く取りかかろう」
はいな、とメルディは返した。
少し笑った姿になおさらキールは心を痛めるはめになった。
「僕は剣を作ることに関しては、てんで素人だから……お前の方が頼りだ」
「ワイール、でもメルディも……剣あまり詳しい方じゃないよ」
かがみ込み、用意された鋳型を見つめる。
自らがテーピングの用意をしているあいだ、メルディはダブルセイバーの元となる鋳型を準備するよう言っておいたのである。
隙間なく密接して重なる煉瓦の特性をうまく利用している。
それでも念には念を入れたのか、間は土の晶霊術によって塞がれている。
それに煉瓦はもともと焼きいれて作るものであるため耐火性にも優れている。
今の状況で鋳型を作るにはもってこいの材料だ。
ムメイブレードの大きさもしっかり考えてある。刀1つで刃を1つ作るわけだから、決して大きいサイズにはならない。
ゆえに鋳型――完成する刃はよくあるロングソードより少し短いくらいだろうか、その程度に設計されている。
あまりに広く作り薄っぺらい刃ができるのも失笑ものである。簡単に折れたり曲がったりしては話にならない。
さすが、と言うべきか。詳しくないというのも嘘だろう?

135 :軋んだオルゴールのメロディ 3:2006/12/18(月) 20:48:41 ID:XwvzFz2UO
「それでも、やらなきゃいけないことに変わりはないんだ」
キールは後ろに振り向かず右手を差し出し、意図を理解したメルディから一刀を受け取る。
そだな、と答えた彼女は少し俯きがちだった。
「……キール、やっぱりメルディするの、反対してるか?」
鞘から取り出した抜き身は白い光の波を打った。
こんな美しい輝きを出せるのなら、無銘とはいえ将来はなかなかの鍛冶師になれたことだろう。
それとも使った者の心の輝きか? 剣は使用者の心を映す鏡なのだから、光が強ければ反射する光もまた強い。
「当然さ。あいつがあんなこと言わなきゃ、お前はこんなことせずに済んだ」
キールは嘲笑を返した。その輝きが自らの醜さの影を引き立てていた。
「ロイドがこと、許してあげて。ロイドも苦しんでるの、同じ」
彼は無言のまま、煉瓦の鋳型の上にムメイブレードを置き、炎をくべた。慌ててメルディも雷の晶霊術を唱える。
沈黙の中で、ただ空気と刀だけが熱を帯びていった。
身を赤々とさせる刀身は、とける飴のような粘性を持って鋳型の中へと流れ込んでいく。
金属がこんな光を発するのか――炎のような、もっと言えば太陽のようなきらめきに思わずキールは感嘆の息をこぼした。
辺りを支配する高温に、身体の芯まであたたかくなっていく。額から汗がにじみ出る。
氷、それとも金属の心まで一緒に熔けていくような気がした。
人は火を見ると落ち着くというが、本当かもしれない。
「……分かってるさ。あいつは……僕たちより仲間を失ってる。つらいんだよ。
 なのにロイドは何がなんでも生きなきゃいけない。その重圧が、いまの状況でなおさら無力感を増させている」
キールは風の晶霊術を諳んじる。
「ロイド、ほんとうに苦しそうだったよ。泣いてたよ」
メルディは雷の晶霊術をなおも行使する。
「そうだな……」
泣かせたのは僕なのにな、とは言わずキールは肯定だけを呟く。
睡眠の差で2人には微妙な食い違いができている。どちらにせよ泣いていたという事実に変わりはない。
それに、ロイドが苦しんでいるということにも何ら違いはない。
「たまにはわがままも聞いてやらないとな。僕たちはロイドに頼りすぎているのかもしれない」
わがまま。本来ならもういくらでも聞いている方かもしれない、そうキールは心の中のどこかで反駁した。
でもいいじゃないか。奴はそれほどに重荷を背負わされているのだから。
そのわがままを、彼自身も甘さを隠すのに利用していたのだから。
刀は全てどろどろとした液体と化し、友が生きた証がまた1つ消えた。
それでも熔けた金属は確かに熱を持ち、力強い輝きを発し、照らし続けるのだ。
奥に赤い影を見つける。ふらふらとした足取りで、いつ倒れるか分からない不安定さを持っている。
そう――強さの影には必ずもろさがあるから――支えあわねばならないのだ。
ひびは広げなければいい。穴は埋めればいい。ただ、それだけのこと。
「噂をすれば影、だ。行ってくる」
はいな、とメルディは返した。
キールの白いローブに刀身の橙色が映った。



136 :軋んだオルゴールのメロディ 4:2006/12/18(月) 20:51:55 ID:XwvzFz2UO
――だからこそ、少年は新たな武器を生み出す。



右手のミトンのように巻かれた包帯をほどき、新たに別の包帯を巻いていく。
端と端とを結び、テーピングとしての役割を果たさせる。
掌圧をあまり制限しないようにし、かつ痛みを抑えるよう心がける。本来なら矛盾した行為だ。
結果的に甲の部分はやや緩めに巻くことになるのだが――まあ何の処置をしないよりはましだ。
痛み少なく剣を握れさえできれば及第点だろう。天使化しても包帯でぐるぐる巻きにされて握れなければ意味がない。
まったく、先程から専門外のことばかりさせられる、とキールはため息をついた。
最後に少し破れた久々のグローブを装着させる。
「動くか?」
「ばっちり。痛くないしな。サンキュー」
皮革の独特な音を立てながら2回右手を開閉させ、自分の手の心地を確かめる。
痛くない、というのは正直うそだ。動かせるよう頼んだ時点で多少の痛みは覚悟していた。
それでも思っていたほどではない。そこは素直にキールに感謝した。
さっそく右手に忍刀・紫電を持ち、左手に木材――左に持つ剣、つまり長い方の、名を削り取った方の――を
持ち、感触を思い出そうとする。
削り取られていく木に既に名がないことで、キールははっとした。
「さっきは……すまなかった。お前をわがままだと言って」
居直り謝る相手の姿に、ロイドはすぐに手を止め、目を魚のように大きくし驚いた様子で見つめる。
「キールに謝られるとなんか気持ちわりいんだけど」
明らかに不服な顔つきでキールは睨みつけた。それにロイドは苦笑を浮かべて、
「気にしてないってことだよ」
と返した。
最初は面食らった表情もしていたキールも、次第にくつくつと抑えつつ笑いはじめた。
どうせまたバカだと、大嫌いだと思っているに決まっている。
「これからの戦いは熾烈を極める」
キールは1度大きく息を吐いてからそう言った。
「さっきも言ったように、僕らに無理難題を押しつけた以上、お前には何がなんでも戦ってもらう」
「言ってること違わないか?」
「それとこれとは話が別だ。
 僕はお前をわがままと呼んだことを謝っただけで、お前のわがままの内容まで容認したわけじゃない」
「うっわ、屁理屈」
両手を上げてロイドは嫌味をこめて言った。
「何とでも呼べばいいさ。わがままであることを咎めているわけでもない」
それに屁理屈は学士の性分だしな、とキールはさらりと返す。
褒められてるのかけなされてるのか分からなかった。
「……。
 お前の甘さに、僕らは救われてるのかもしれないからな。その甘さに希望を抱きつづけることができる」
ロイドは何も言わず、ただ右手で頬をかいた。
こう言われてしまっては照れて言い返しようもないので、場には沈黙がしばらく蔓延した。
キールも何か恥ずかしいことでも言ったのか、とばかりに顔を紅潮させる。
しかたなくロイドは改めて右手を動かし始める。規則的な軽い音が防空壕の中で響く。
しゃ、しゃ、しゃ……
それは秒針の音に似ていた。
時が進んでいく。一歩ずつ足を出すように、過ぎ去った時間から離れていく。



――生きた証までも奪って、己が証明となるために。

137 :軋んだオルゴールのメロディ 5:2006/12/18(月) 20:54:12 ID:XwvzFz2UO
「なぁ、ちょっと思ったんだけど……ってか前から思ってたんだけど……」
手を器用に動かしたまま、ロイドは尋ねる。
何だ、と少したどたどしくキールは答えた。
「お前、自分1人が悪役になればいいって思ってないか?
 あの作戦のほとんどが術でとどめを刺す……つまり、キールが殺すってことになる。
 自分だけが泥をかぶればいい。そう……思ってないよな?」
あえてキールの顔は俯いたまま見なかった。見るのが怖かった。
木刀に息を吹きかけ、全体の形を確かめる。なかなかの調子だ、と思考をわざと置き換えた。
「それが最善さ。交戦せざるを得なくなったら、そうはいかないだろう」
至ってキールの声は普通だった。ロイドは顔を上げる。
何をいまさら、バカも休み休み言え。と少し呆れ果てた表情でため息をついていた。
青い長めの前髪が揺れるほどだった。
そのキールらしい様子に一抹の安堵を覚えるとともに、
「それに泥をかぶると言ったが、僕はマーダーを殺すことにためらいなんてない。だから、泥さえない。
 そういう奴も1人は必要だろう?」
その言葉のあまりの軽さに、目の前には人殺しもいとわない奴がいるということに、震えた。
もっともその相手は罪なき人間ではなく、相応の罪を重ねてきた人間だから、とやかく言う理由はなかった。
さてと、とキールは終結の第一句を切り出す。
体を起こし、ローブについた土ぼこりを払ってロイドを一瞥する。
「テーピングはしたが、これからもあるし無茶はするなよ。
 やっぱり痛いとか言いだしたらこっちが困るし、それに」
完全にロイドに背を向けて、捨てぜりふを吐くように、彼は大きな声で。
「――僕にできることは少ないんだからな」

後ろ姿がひどくみすぼらしく見えた。
影を持った背中に、ロイドはやっと気づく。そして先刻の思いを後悔した。
人は最後の最後で油断する。
そう――強さの影には必ずもろさがあるから――支えあわねばならないのに。
お前もバカじゃないか、と内心で毒づく。
何かを得るための犠牲って、自己正当化だったのか。自分のことを言っていたのか。

手の動きが早くなる。
十字架の木が約束の象徴へと化していく。



――全ては生き抜くために。守るために、約束を守るために、誓いを守るために。





138 :軋んだオルゴールのメロディ 6:2006/12/18(月) 20:56:08 ID:XwvzFz2UO
「ただいま」
「はいな、おかえりな」
事務的な挨拶のやりとりだと彼は思った。秩序のように定められた「ただいま」と「おかえり」だった。
そこには何の面白みもなく、マニュアルに従うレストランの店員との一方的なやりとりに似ていた。

鋳造は精錬まで達し、今は金属の不純物を土の晶霊術を利用して取り除いているところだった。
(もともと完成品から作っているため不純物はないようなものなのだが、まあ無銘だから)
それに伴い、液体化していた金属は凝固を始めている。
こうしてくると刃の形がはっきりと分かってくる。ここまで来て失敗するわけにはいかない。
晶霊術を唱えつづけるメルディの横顔を見る。
テーピングの間はメルディに任せていたわけだが、特に精神状態に異常は見られないことにキールはほっとした。
彼女は集中して精錬に力を注いでいる。
「でも、メルディ思うよ。無理してるのは、キールも同じ。キールもつらい、怖いよ」
え、とキールは呟く。唐突な言葉を発した彼女は振り向かない。
「キールもみんなと同じ。だれも殺したくない。でも、ほかにできる人いないから」
誰に語っているのかも分からず、メルディは虚空に語りつづける。
「……メルディ?」
彼女に向かって声を出しても、
「だから自分がするって、無理してるよ」
気づいてくれさえしない。
「メルディ!」
突発的に肩を揺さぶり、無理やりにでも作業をやめさせこちらを向かせる。
やっとはっとしたような顔をし、紫の瞳をキールに向ける。
キー、ル、と小さく呟いた彼女は無表情だった。
「どうしたんだ! またネレイドに何か言われたのか!?」
ヒステリックに肩を揺らしながら問う彼に、メルディは首を横に振る。
そしてゆっくり足元へと視線をやる。
クィッキ、と小動物が存在を誇示するように鳴き、高速で彼女の体に登っていき肩に座りこんだ。
「クィッキーに話しかけてたよ」
唖然とするキールをよそに、メルディはクィッキーの耳をかいてやる。
気持ちよさそうな表情が見せつけに思えてなんだか今は憎たらしかった。
そうだ。もうネレイドはここにはいないのだ。
先程の「おかえり」はたまたま出かけていたクィッキーに対するものだったと思えば納得はいく。
それに時おり現れる躁病に似た症状――そうだ、さっきも何か物を作っているときだった。
鋳造に集中するばかりその症状が、いや症状が出たから自分の声も耳に入らなかった。
自分の存在が今メルディの中にはなかったのだ。
その現実がとてつもなく悲しかった。

139 :軋んだオルゴールのメロディ 7:2006/12/18(月) 20:57:48 ID:XwvzFz2UO
「……聞いてた、か?」
申し訳なさげに、おずおずとメルディは尋ねる。
「……何で、お前ら2人とも同じこと言うんだ」
両肩に手を置いたまま頭を垂らす、彼の足元には悲哀の影が伸びていた。
長さの割にいやにちっぽけな姿に見させる影。
影も、声も少し震えていた。
「きっとバカだからだよ。ジューダスにも言われたし、ロイドも言ってた」
にこり、と彼女は少し笑って答えた。妥当な答えだな、と彼は少し笑った。
手を肩から取り払うも、すぐに後ろに振り向き顔を隠した。
世界がにじんでいることに気づいたからだった。
それを不思議と思いながらも、中途半端なままの刃を思い出してメルディは精錬を再開する。
土晶霊の力を借りて、液体となった刀は再度固体へと違う姿で生まれ変わろうとしていた。
「メルディ、キールがすること、止めないよ。キールが決めたこと。でも、無理する必要、ないよ」
後ろから聞こえた声にキールは身を震わせる。
どうしてそんなこと言うんだ、と彼は目を伏せる。それがどれだけ決心を鈍らせることか。
「すまない……でも僕は……。
 ロイドにはロイドの約束があるように、僕には僕の約束があるんだ」

それは友人との最後の約束であり、己が己に唱えた約束。

――再逢。

彼はつかつかと彼女のもとへと近づく。
刃は赤を保ったまま、確かに1つの形となっている。
時は訪れた。一歩ずつ歩を進め、自分たちのもとへとやって来た。
詠唱を始める。隣のメルディも同じく。
自分の中で力が集束し高まっていくのを感じる。同時に何の操作もできない、体を乗っ取られた感覚。
頭だけがはっきりとしている。
何かが心を引っ張った。
「僕は僕の思いを曲げるつもりはない。僕の命は、皆を守るためにあるんだと、そう思ってる」
――ひときわ大きい蒸発音と熱気が二感を刺激した。


ぽす、と背に重量とぬくもりを感じる。
衣服ごしに伝わる体温が、メルディのやさしさと同じ温度だった。
「メルディ、やだよ。キールがすることは止めない。でも、キールが死ぬのは、やだよ」
ぎゅっ、とローブが掴まれているのが分かった。
畜生、甘い。甘すぎる。あまりに心地よくて僕まで泣けてくるじゃないか。
それでも。それでも。
いつかは、背を掴むこの手を振りほどく時が来るかもしれないのに。
「……生きられると思うか?」
彼は静かに問いかける、
「生きるよ。みんなで生きて帰るよ」
言葉の熱が、じんわりと、もう1つの鋼を熔かしていった。
体が打ち震えるのを必死に腕を押さえて隠そうとする。それでも腕が震える。
そして、キールは1つの可能性を再考する。
魔剣を取り戻し、おそらくミクトランをも倒さねば成せない、限りなく成功確率の低い可能性。
なぜ彼がマーダーを殺すということに固執するのか。
守れなかった希望の代わりに新たな希望を守るのとともに、マーダーとの痛み分けも辞さない――どこか死を願う彼。
全ては、友人との約束のためなのだ。
しかしその約束の手段を、彼は変える。高確率から低確率に、死から生へと移行する。
恐ろしく希望に満ちあふれていた。
「……そうだな。僕が死んだら、お前らとんでもない無茶しそうだからな」
彼は目をこすり、頬をぬぐった。手に少し湿った感触。
これが涙で、彼が本当に鬼なら、まさしく「鬼の目にも涙」なのだろうが、

――そこは今は気にしないでおこう。

140 :軋んだオルゴールのメロディ 8:2006/12/18(月) 20:59:10 ID:XwvzFz2UO
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:TP40% 「鬼」になる覚悟  精神的肉体的疲労 気分高揚
所持品:ベレット セイファートキー リバヴィウス鉱 BCロッド キールのレポート ジェイのメモ ダオスの遺書 
基本行動方針:脱出法を探し出す。またマーダー排除のためならばどんな卑劣な手段も辞さない
第一行動方針:休息をとりTP回復に努める
第二行動方針:仲間の治療後、マーダーとの戦闘を可能な限り回避し、食料と水を集める
第三行動方針:共にマーダーを倒してくれる仲間を募る
第四行動方針:首輪の情報を更に解析し、解除を試みる
第五行動方針:暇を見てキールのレポートを増補改訂する
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

【メルディ 生存確認】
状態:TP40% 精神磨耗?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?)
所持品:スカウトオーブ・少ない C・ケイジ
    ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア ムメイブレード
基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下?)
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP40% TP30%  右肩・胸に裂傷(処置済み) 右手甲骨折(テーピング中) 決意
所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット ホーリィリング 忍刀・紫電 木材二本 クィッキー
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:調達した木材二本をウッドブレードに改造する
第二行動方針:治療は外科処置に留めて天使化・次元斬用のTP回復を優先
第三行動方針:回復後はコレットの救出に向かう
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

141 :軋んだオルゴールのメロディ 8修正:2006/12/19(火) 16:31:51 ID:zmdz07CuO
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:TP40% 「鬼」になる覚悟  精神的肉体的疲労 気分高揚
所持品:ベレット セイファートキー リバヴィウス鉱 BCロッド キールのレポート ジェイのメモ ダオスの遺書 ムメイブレード(ダブルセイバーに加工中)
基本行動方針:脱出法を探し出す。またマーダー排除のためならばどんな卑劣な手段も辞さない
第一行動方針:休息をとりTP回復に努める
第二行動方針:仲間の治療後、マーダーとの戦闘を可能な限り回避し、食料と水を集める
第三行動方針:共にマーダーを倒してくれる仲間を募る
第四行動方針:首輪の情報を更に解析し、解除を試みる
第五行動方針:暇を見てキールのレポートを増補改訂する
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

【メルディ 生存確認】
状態:TP40% 精神磨耗?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?)
所持品:スカウトオーブ・少ない C・ケイジ
    ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 クィッキー
基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下?)
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP40% TP30%  右肩・胸に裂傷(処置済み) 右手甲骨折(テーピング中) 決意
所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット ホーリィリング 忍刀・紫電 木材二本(ウッドブレードに加工中)
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:調達した木材二本をウッドブレードに改造する
第二行動方針:治療は外科処置に留めて天使化・次元斬用のTP回復を優先
第三行動方針:回復後はコレットの救出に向かう
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕

142 :力という名の正義の下に1:2006/12/22(金) 23:54:45 ID:o+G2g8ib0
今をさかのぼることしばし。
この「バトル・ロワイアル」が始まったころより前。
時は、光跡翼の一件が終息し、猛りの滄我が鎮まりし頃。

******

猛りの滄我が鎮まったことを如実に表すかのごとくに、潮騒穏やかな夜のこと。
シャーリィ・フェンネスは、ドアの前でただただ固まっていた。
おりしも、水の民との和解の宴が行われた数日後。
マダム・ミュゼットの部屋の前で、シャーリィは足に釘でも打たれたかのように凍り付いていた。
「そんな…いくら何でも無茶過ぎますぞ、この条項は!!」
部屋の中から響く、老年の男の声。シャーリィは、それを聞き間違えるはずもない。
水の民の族長、マウリッツ・ウェルネス。悲痛な叫び声が喉からほとばしる。
「確かに、水の民の元創王国時代の建造物への無許可での進入禁止、メルネスのレクサリア側への引き渡し、
水の民の戸籍謄本のレクサリア側への完全提示、水の民の知りうる遺跡船関連の全情報の開示…
この辺りはまだ分かります。ですが、自衛戦力を含めた水の民の一切の武装の禁止、自衛目的を含めた軍事行為の禁止、
個人・集団のいかんを問わぬ一切の武具の売買の禁止…
これではまるで、我々に座して死を待てとでもおっしゃっているようなものではないですか!
確かに我々水の民の里は結界を張り、その力で隠れ里になってはおりますが、
これでは万一遺跡船の魔物の群れが里の結界を破りでもしたら、我らに残された道は犬死のみですぞ!?」
シャーリィは、息を潜めた。
確かに、今日の夜はどうしても用があるとき以外は自室で待っていなさい、とミュゼットから言いつけられた。
だから、たった今トイレで用を足してきた後は、すぐに部屋に戻ろうと考えていた。
けれども、今この部屋から漏れ聞こえてくる声は、それを許しはしなかった。
「あまつさえ、そちらの提示した交易の関税に年ごとの貢納…どの税率も法外です!
この上でもし凶作の秋が来たら、我ら水の民からは何人の餓死者が出ることか……!!」
シャーリィは、その会話で理解した。
今、この部屋の向こう側で行われている会話の意味を。
すなわち、光跡翼発動未遂の一件を落着させるための、講和条約締結の会議。
けれども、シャーリィはその会話から察してしまう。
ドアの向こうの「講和条約締結会議」は、詰まるところはレクサリア側からの一方的な賠償請求に等しいものがあると。
ここに外交術に関して知識のある人間がいたなら、
その中の様子を見て講和条約締結に不可欠のあるものが欠けている事に気付けていただろう。
仲立ちとなる第三者の不在。すなわち、双方の意見の調停役の不在に、気付けていたはずである。
そして、マウリッツに切り返す老年女性の声は、ただただ淡々としていた。
「……『法外』、とおっしゃいましたね、ウェルネス族長。
ですが、昨今の世界情勢を鑑みれば、私はこれでも最大限譲歩した上での条約提示をしたつもりですのよ。
本国が族長の擁する水の民を庇護した上で、更に水の民に自治権まで認めているのですから、これは破格の好条件ですわ」
アッシュグレイの髪の毛をまとめ、穏やかな瞳の中に苛烈な意思をも宿す老女。
彼女こそ、七聖連合をまとめ上げる宗主国、源聖レクサリア皇国にて統治の杓を振るう国家元首、マダム・ミュゼット。
そして、今後水の民と陸の民の橋渡したることを切に望んだシャーリィが師事する、外交官の大先輩でもある。
蝋燭の光の揺れる室内、ミュゼットは静かに膝の上で皺の寄る両の手を組み、マウリッツを諭すように言う。
「もちろん、あなた方水の民には自衛戦力・自衛活動を含めた一切の軍事活動・軍事教練を自粛していただく以上、
こちらからも譲歩はございますわ。本国の常備軍のいくばくかをあなた方水の民に無償貸与し、
彼らに自衛活動を代行してもらいます。もちろん、私が直轄する、忠実かつ強力な部隊を貸与致しますわ。
それに、高い税率を求める以上、万一飢饉のような事態が発生すれば、こちらからも救護の取り計らいを致します。
無償での食料の提供を行う準備も整えておりますわ。
いかがでして? 世界の列強国の筆頭である我らレクサリアからの、全面的な庇護を受けた上で
水の民は自治態勢を維持できる。これほど好都合なことはなかなかないのではなくて?」
だが、この条約の真意も分からぬほど、マウリッツは愚劣ではない。

143 :力という名の正義の下に2:2006/12/22(金) 23:55:47 ID:o+G2g8ib0
「…よろしい。そちらの真意は薄々気付いております。
要するに…我ら水の民を、滄我砲の弾丸として『養殖』する、というのがそちらの狙いなのでしょう?
猪という野の獣から、反逆の牙を抜き去り豚になれと…我ら水の民を家畜扱いするつもりなのでしょう?」
「…………」
かちゃり。ミュゼットはコースターの上に乗せられたティーカップを手に取る。
紅茶の芳香が鼻をくすぐる。マウリッツの声が耳を叩く。
「現に、元創王国時代の記述にも、陸の民が我ら水の民を滄我砲の弾丸として『養殖』していたという節が散見されます。
滄我砲がある限り、我ら水の民が再びそのような悲劇に見舞われないとも限りませぬ。
これほどの条項をこちらに提示するからには、こちらからも条項の追記を求めます」
マウリッツは、汗で額に張り付く金の髪を撫でながら、その両手を組む。
「――我ら水の民立ち会いの下での、滄我砲の破壊。この条件なくして、我ら水の民に安寧の日は訪れませぬ――」

******

今頃になって、なぜあの日のことを思い出したのだろう。
水底にてその金の髪を青白く光らせる少女は自問した。
掲げる両手は、彼女の僕(しもべ)たる海色の蝶と結ばれている。滄我の力にて編まれた、不可視の糸で。
シャーリィ・フェンネスは、瞳に濁った光を宿らせながら、テルクェスの声に耳を傾ける。
そしてその傍ら、あの日の事を思い出し、黙考にふけることしばし。
今まで舞わせたテルクェスの数は総勢4体。
C3の村に1体。C6の城に1体。E2の城に1体。G3の洞窟に1体。
C3の村――反応あり。
C6の城――今のところ反応なし。
E2の城――つい先刻、テルクェスを不自然にロスト。
G3の洞窟――今のところ反応なし。
これが、現時点でシャーリィが得た情報のすべて。
このテルクェスを4体同時に放ち、そしてそれらから情報を得る。
これを常人離れした神業のように思う手合いもあるかもしれない。
だが、もとよりシャーリィはメルネスとしての生を受けた。水の民の中でも、特に滄我の愛を多く受ける巫女として。
ゆえにテルクェスを4体同時に飛ばすことは、精神さえ集中させればさほど困難というわけでもない。
かつて猛りの滄我に心を奪われた時は、同時に7体のテルクェスを放ったことだってある。
おまけに、それで7人の人間を同時に束縛するという芸当だってやってのけたのだ。
今はメルネスとしての力を解放している状態ではないが、それに比べれば4体程度、どうということはない。
けれども。
その上でも足りない。
この事態に必要なのは、テルクェスの複数同時展開など足元にも及ばぬような無理無茶苦茶なのだ。
この極限の戦い、それでなくとも既にシャーリィは体力も精神力も損耗している。
この状況下、体力も精神力も共に、わずかばかりの浪費も許されない。
すなわち、シャーリィに課せられた条件は――
テルクェスを4体同時に放ち、それらから情報を得つつ、同時進行で体力と精神力を回復させる。
それでもシャーリィはその無茶苦茶を、通した。通してみせた。
シャーリィはぶくぶくと泡を吹き続ける自身の傷口を見ながら、無理を通した確信を抱く。
体力と精神力の回復のためにシャーリィが捧げた代償は、時間。
本来ならばあちこちに動き回れていたはずの時間を、休息にあててシャーリィは力を取り戻しつつある。
そして。
更にこの休息とテルクェスによる偵察を同時進行させるために彼女が払った代償。
己の肉体(からだ)。
ぴしり。
あの不快な音が、再び体内で響く。
シャーリィはそれを確認するかのように、まとうワンピースの胸元をめくりそれを眺めた。
青緑色の結晶は、既に左腕はおろか彼女の胴体の左半分を完全に覆い尽くしている。
エクスフィギュアの超常の再生力を、今の今まで引き出し続けていたその代償が、これ。
シャーリィは本来知りえぬはずのその病…永続天使性無機結晶症は、すでにここまで進行している。
シルヴァラントやテセアラの医師がこれを見たなら、病の脅威的な進行速度に度肝を抜かれていただろう。
本来この病は、数週間単位、数ヶ月単位といった比較的長い時間をかけて進行する。
発症してから半日も経たずしてここまでの進行を見せるなど、空前絶後の事態。
シャーリィはエクスフィギュアの再生力を得るために、魔の結晶に己の肉体を食わせることを選んだのだ。
(…冷たい……)
まだ人間としての形質を保つ右手で、シャーリィは結晶化した左手を撫でた。
この岩室の水の冷たさだけでは説明できない、まさに石の冷たさがその左手に宿っていた。

144 :力という名の正義の下に3:2006/12/22(金) 23:56:36 ID:o+G2g8ib0
時間。そして己の肉体。
この二つを代償にして、シャーリィは休息と情報という二つの利を得たのである。
そして幸か不幸か、エクスフィアにその身を食わせたことで、得られた情報も一つ。
おそらく、首から上が結晶化するのは、この病が末期に陥ってから。
シャーリィの左半身の結晶化は、何故か肩や鎖骨の辺りまでで止まっている。結晶は、首をいまだ蝕んでいない。
もし結晶が周囲に存在する健全な肉体の部位を無差別に呑み込むなら、すでに首や顔まで食われているはず。
左足、胴体右半分、右手、右足。おそらくこれらが食われてから、首から上が結晶に呑まれる。
その光景を脳裏に思い描き、シャーリィはぞくりと身を震わせた。
(…怖い……けれど………)
そんなものなどに、怯えている暇は彼女にはない。
自分の体が結晶に食われることなど、この「バトル・ロワイアル」に敗れる事に比べれば些事もいいところ。
両手両足を失おうと。
目玉を抉られ耳を潰されようと。
肌が焼かれ舌を斬られ鼻を削ぎ落とされようと。
そんなことなど、この戦いに負けて兄に二度と会えなくなることに比べれば、下らぬ瑣末事。
確かに、恐怖はある。自らの体が、人ならざる鉱物の体になるという恐怖は。
だが、この結晶は己の身を食わせれば、代償に力をくれる。
肉体の超再生力、エクスフィギュアの剛腕、テルクェスを弾丸として撃ち放つ力。
どの力も、この島の戦いを生き延びるのに不可欠な力。
その力のためになら、命の九分九厘までをこの結晶に食わせる。
全ての敵を屠り去り、血の池に沈めることさえ出来たなら、自らの命の最後の一かけらさえ残ればいい。
それが、シャーリィが下した結論。
この島では――
否。人の生きる社会は、力が正義だから。正義を語るために、力が必要だから。
(だからこそ、ミュゼットさんもあんなことを、あの日にマウリッツさんに言ったんだよね?)

******

交渉は、平行線を辿っていた。
「水の民の代表として、このままこの条項は呑めません! 滄我砲の破壊だけは、何としてでも譲るわけには…!」
「それはこちらとしても呑むわけには参りませんわ。
この遺跡船は、元創王国時代の生きた化石とでも言うべき船。
学術的にも軍事的にも、その価値は計り知れないと私の部下のウィル・レイナードも言っております。
よしんば実際に破壊作業を行うにしても、あれほどの巨大な施設を破壊するのであれば、
本国から工兵隊を呼び寄せたり工具を集めたりといった、かなり大掛かりな計画になりますわ。
そもそもあれほど巨大な施設…破壊するには一体破城鎚がいくつ必要になるのか…」
「ならば私の方も、部下を動員して遺跡船の施設を調査させます!
光跡翼の一件で私の腹心であるワルター・デルクェスは戦死しましたが、それでもまだ私には多くの部下がおります!
私が部下を使わせて遺跡船を調査させるのと並行して、そちらも滄我砲の破壊計画を立ち上げていただきたい!
無論、前項の『水の民の元創王国時代の建造物への無許可での進入禁止』のこともありますから、許可を頂いた上で!
我々水の民の調査部隊にそちらの部隊を同行させてくださっても結構ですぞ!
これならば、滄我砲の調査が終わり次第直ちに破壊作業に移っていただける!」
「その考えは早計ではなくて?
この遺跡船には、現在の我々の技術水準では解明できない仕掛けも多数存在することは、周知の事実です。
少なくとも、我々がこの遺跡船を完全に再現できるようになるまでは、遺跡船に学術的価値は残り続けますわよ」
「しかし…!」
かちゃり。再びミュゼットのティーカップが、室内に無機質な音を響かせる。
「どうしても、そちらが滄我砲の破壊を要求されるのであれば、そうですわね――」
紅茶で喉を潤したミュゼットの目元には、いつの間にやら深い影が落ちていた。
結ばれた口元は真一文字。俯くミュゼットは、己の太ももの上で両手を組む。
そしてその口が開かれた。
マウリッツは、稲妻に打たれたかのごとくに、恐怖と驚愕のない交ぜになった表情を浮かべ、そのまま凍りついた。
「――今回の光跡翼の一件の真相を、こちらも全世界に公表させていただく。
この条件を呑むのなら、考えても構いませんわ」

145 :力という名の正義の下に4:2006/12/22(金) 23:57:49 ID:o+G2g8ib0
事情もろくに知らぬ者が聞けば、ミュゼットの発言を条約締結の交渉における譲歩と勘違いしたかも知れない。
だが、この言葉に込められた言外の意図は、それとは真逆。
鞭と飴の二択で言うなら、前者。
完全な、脅迫。
「……あなた方水の民は、先日猛りの滄我による教唆の下、メルネスを筆頭に光跡翼の発動を企てた。
光跡翼を発動させることがいかなる意味を持つか、あなた達水の民は十分理解した上で。
たとえ猛りの滄我の干渉により精神が錯乱していたとは言っても、
それを理由に責任を回避するには、企てた事態はあまりにも重大ですわよ」
「…………」
マウリッツは、ただただ沈黙していた。
「光跡翼が発動していたらどうなっていたか――ウィル・レイナードは今回の一件を仔細に報告してくれましたわ。
光跡翼の発動に伴う大沈下、つまり全世界の国土沈没でしたわね?
つまりあなた方水の民は、全世界の国家の潰滅を試みたわけです。事実上の、全世界への宣戦布告ですわね」
「…………」
マウリッツはもはや、とぼける事さえ許されない。
「そして現在、光跡翼及びメルネスが共に健在である以上、全世界の国家潰滅の脅威は消えていない。
そして、水の民が1人でも生き残っていれば、光跡翼という世界を破滅させる引き金はいつでも引かれる可能性がある。
この事実が発表されれば、水の民はどうなるか分かりますわね、マウリッツ・ウェルネス族長?」
「…! それだけは!!」
「全世界で、魔女狩りならぬ水の民狩りの嵐が吹き荒れることは想像に難くありませんわね。
そしてその事実を発表したなら、水の民に友好的な我々レクサリアもまた、
国際世論の圧力を受けて、水の民狩りを行わないわけには行かなくなりますわ。
全世界に散在する水の民を狩り尽くすにはどれほどの時間がかかるか分かりませんが、
遅かれ早かれあなた達水の民は殲滅(け)されることになりますのよ」
「…ッ!!」
「その際水の民の族長であるあなたとメルネスは、全世界を滅亡の危機に瀕させた凶悪な蛮族の首領として、
世界中の国家に引き回された上で、最後は衆人環視の中公開処刑……これが一番ありえそうな筋書きですわね。
まあ、メルネスにはセネル君を初めとする多くの仲間がいる以上、下手に公開処刑など行って彼らの反感を買えば、
最悪私を初めとするレクサリアの重鎮が、セネル君達に暗殺されるという事態にもなりかねないから、
メルネスには『事故死』してもらうことになるでしょうけれども。
さもなくばメルネス本人に、自ら首を断頭台(ギロチン)に差し出す決心を作ってもらうように諭して、
セネル君達を説得・懐柔させるという選択肢もありますわね」
「…何と悪辣な!」
「悪辣なのはどちらかしら? 全世界の国家潰滅を企んだ、世界の敵たる水の民の首魁…マウリッツ・ウェルネス」
マダム・ミュゼットは、言い切った。
マウリッツ・ウェルネスは、苦渋の表情を浮かべた。
一拍置いて。
ミュゼットは次の言葉を、マウリッツに投げかける。事実上の、最後通告。
「あなたには選択権がありますわ。マウリッツ・ウェルネス族長。
一つは水の民を代表して、我々源聖レクサリア皇国の滅び去るその日まで続く忠誠と恭順の意を示した上で、
光跡翼の件の真相を永遠に闇に葬り、レクサリアの保護の下生きるか……」
マウリッツの頬に、雫が伝う。塩辛そうな汗が、零れ落ちる。
「…はたまた、この一件の真相を表沙汰にした上で、
あなた方全ての水の民の命を、我ら七聖連合の築く平和なる世界の礎(いしずえ)に差し出して頂くか。
そのどちらかを選び取る権利が」
すなわち。
光跡翼による世界滅亡を企てたその罪の大赦を得るか。
それともレクサリアの正義の元、光跡翼発動未遂の大罪で裁かれたいか。
唇が、わなわなと震える。血色を失い、紫色になる。
マウリッツは、本来の齢に加え、更に何十歳も年をとったかのごとく、憔悴する。
そして、マウリッツに許された選択は、ただ一つきり。
がくりとマウリッツはうなだれ、辛うじて動くその口で、その旨を伝える。
「そちらの提示した条項を、全面的に承諾致します……」
マウリッツは、言うが早いかそのまま机にくずおれた。
「……ご賢明な判断、感謝いたしますわ」
ミュゼットは一つ、安堵したかのように息を吐いた。

******

両手に抱いた鉄塊をがしゃりと鳴らしながら、1人の少女は川面から顔をのぞかせた。

146 :力という名の正義の下に5:2006/12/22(金) 23:58:37 ID:o+G2g8ib0
肺に満たした水を吐き出し、空気を呼吸する準備を整える。
現在時刻、午前9時を若干回ったところか。
シャーリィ・フェンネスは、ブレス系爪術の呪文を口ずさみながら、西の空に面(おもて)を向けた。
『ファイアボール』で発生させた火球が、彼女の周りをぐるぐると回りながら、その熱で服を乾かしてゆく。
紫色の熱が、たちまち着衣から水分を奪い去る。けれども、彼女の目の焦点はそれにはなかった。
(西に行くわ)
それが、彼女の選択。
シャーリィは右手を掲げながら、西の地平線を睨みつける。
そのうちに、右手に止まるは青き蝶。G3とC6に放っていたテルクェス。
蝶はたちまち身をほぐれさせ、彼女の右手に吸い込まれる。
けれども、西の2地点から反応があったのならもう他の箇所の反応はどうでもいい。
二箇所当たりがあったのなら、それで十分。
シャーリィはテルクェスを飛ばしながら、ひたすらにそのわけを推理していた。
何故、ここに至ってミクトランが島を分断するような暴挙に出たのか。
もちろん通常の戦いにおいてなら、敵勢力を分断してそれを各個撃破するのは極めて有効な戦法。
だが、異常な戦いの集大成とでも言うべきこの「バトル・ロワイアル」では、話が違う。
島を二つに分断したのなら、当然参加者は別れ別れになる危険が発生する。
最悪の場合、西に1人、東に1人ずつ分かれてしまったなら、その時点でこの戦いは終焉を迎える。
どちらかが自殺や事故などで死ななければ、あとは両者に残された道は例の「24時間ルール」による緩慢な死のみ。
ミクトランがじわじわと迫り来る死の恐怖に怯える参加者を見て、嗜虐心を満たしたいのであれば話は別だが、
そんな嗜虐心を満たしたいだけならば、この「バトル・ロワイアル」という舞台はあまりにも大仰過ぎる。
この殺戮劇自体が、何らかの大規模なブレス系爪術のための、生け贄の儀式なのか。
はたまたこの戦いは、ミクトランが有能な腹心を見つけるために参加者に課した「選抜試験」だとでも言うのか。
ミクトランの真意はまるで推理できないが、それでも参加者に殺し合いを続けてもらうのがミクトランの望みなら、
本来島の分断はあってはならない致命的な失態。
だとするなら、ミクトランがこんなことをする理由は一つしかない。
(今、この島の生き残りはどちらかに集結している、って可能性ね)
それならば、島の東西分断は致命的な失態どころか、非の打ち所のない賢明かつ当然の判断となる。
では、現在参加者が東西どちらかに偏在しているという仮定が正しいなら…
もちろん、参加者が集結しているのは西側で間違いない。
東側に飛ばしたテルクェスには反応はない。そして、西側のC3にてテルクェスの反応があった。
この事実から導き出される当然の帰結である。
そして、島の西側に参加者が集結しているというのであれば、今朝のミクトランのあの言葉も俄然符合してくる。
『諸君等が居るべき戦場は‘そちら’だ‘あちら’ではない』
この言葉は、おそらくは西側に居るであろう残り大多数の参加者に向けられた言葉である。
ミクトランは、参加者同士の殺し合いを望んでいる。
この仮定および既成事実をおけば……
おそらくこの言葉は、ミクトランが自身に直々に下した天声。
ミクトランは己にのみ分かる形で、己の殺人行為を後押ししてくれているのだ。
だからこそ、あえてここから一番近い東西の行き来の要点、D4を正午の禁止エリアに指定したのだ。
もしF5とD4を禁止エリアに指定する時刻が逆だったなら、かなりの強行軍を強いられていた。
ミクトランはシャーリィが休息する時間まで計算に入れて、禁止エリアの指定順を定めたのだ。
つまりミクトランのあの言葉は、
『今からシャーリィが貴様らを殺しに行くからそこで待っていろ。そしてシャーリィ、お前はそこで存分に死を撒き散らせ』
というニュアンスを、言外に込めて放たれたのだろう。
主催者までもが己に期待を寄せてくれているならば、やらないわけにはいくまい。
これから西に向かう。そこで、他の参加者を殺して殺して殺しまくる。
そして、この戦いに生き残り、愛しい兄と共に遺跡船に帰るのだ。
そのためには、まずどうするか。
一応、今後の進路は決めてある。
D4を越えたなら、砂漠沿いにE3を南下し、そのままE2を偵察。
E2の生存者を殺したら今度は北上してC3の生存者を殺す。
それでもまだ生き残っている奴がいたら、またテルクェスを放って最後の1人まで見つけ出して、殺し尽くす。

147 :力という名の正義の下に5:2006/12/22(金) 23:59:36 ID:o+G2g8ib0
(これで決まり! これなら進む道のりにもあんまり無駄はないし、最高ね!)
シャーリィは一つ手を打ち、かわいらしく微笑む。その場で軽くスキップを踏んだ拍子に、腰布がふわりと宙を待った。
それに、E3には、どうしても調べておきたい所がある。
ここからE2にテルクェスを飛ばす際、その航路上で突然、テルクェスが異常な挙動を見せた箇所。
おそらく、E2の城東部の丘陵地帯。
テルクェスはもちろん、シャーリィ自身の操作のもとシャーリィ望んだ箇所に行く。
だがE3の丘陵地帯では、危うく操作を失いかねないほどに、テルクェスが迷走した。
おそらく、E3の丘陵地帯には何かある。滄我の力の異常なほどの乱れを感じた。
ひょっとしたら、それはテルクェスの性質を知っている誰かが、テルクェスの性質を逆手に取った「釣り」かも知れない。
例えば、今生きている連中では、ミトスあたりがその「釣り」をやっているかもしれない。
(あのクソガ…じゃなくて、あの子にはわたしのテルクェスの性質、初めて会ったときに少し教えちゃったわけだしね。
きっとあの子も、今頃お姉さんを殺されて、優勝するために殺しまくっているはずだし)
兄を殺された妹。姉を殺された弟。
同情やシンパシーとは、まるでかけ離れた、対極の感情。
けれども、シャーリィはそれで、真実を言い当てていた。ミトスの今の目指す先を。ミトスの今の心のありようを。
見る者によれば、彼らをまるで鏡映しの存在のようにさえ感じていたかもしれない。
聖なる焔の名を冠した青年。彼に真の名を奪われた、聖なる焔の灰たる青年。
かの2人の赤髪の青年のように。
それでも、シャーリィは同情などしない。する意志も、出来る余裕もない。
戦う。蹴落とす。踏みにじる。
E3に罠が待っていたとしても、その罠を、仕掛け人ごと力ずくで叩き潰せばいい。
死体の山の上に立つことが出来るのはただ1人のみ。
誰がどんなに大切な人のために戦っているのかは分からないけれども。
人の命がどれだけ大切なものかは知っているけれども。
それでも。
(お兄ちゃんの命に比べたら、他の人の命の価値なんて、ゴミ屑同然よ)
だから、戦うのだ。
蚤から見れば、猫はとてつもなく巨大な存在に見えるだろう。
けれども猫から見れば、山はとてつもなく巨大な存在に見えるだろう。
それと同じこと。兄以外の人間の命など、そもそも大切さの次元が違うのだから。
戦う。そして勝つ。遺跡船に、帰る。
(けれども…みんなにはどう説明すればいいのかしら?)
モーゼスとジェイはもう死んでいるけれども、クロエやノーマ達には何と事情を説明すればいいだろう。
モーゼスとジェイは自分の手で殺してはいないけれど、自分がこの島で行った所業をとがめられるだろうか。
もしとがめられたら…
(まあ、いいかな。その時はクロエもノーマもウィルも、みんな殺しちゃえば)
いっそのこと、遺跡船の住人と皆殺しにした上で光跡翼を発動させて、
今度こそ大沈下で世界を滅ぼしてしまうのもいいかも知れない。
そうすれば、世界は兄と2人きりの楽園になる。もちろん、他の目障りな水の民も虱潰しにみんな殺す。
兄と2人きりの世界は静寂で平和で、きっと素晴らしい桃源郷となるだろう。
他の人間なんて、みんな心は汚いんだから。
結局のところ、陸の民も水の民も、みんな自分のために生きて自分のために動いているんだから。
だから、正義なんて簡単に決まる。
力。
権力。財力。知力。種類は何でもいい。どんな形であれ、最終的には力を持つ者のみが正義を語れるのだから。
そして、この島において最も有効かつ汎用性が高い力。
暴力。
いつの間にやら、『ファイアボール』は消えていた。
服は、既に完全に乾いている。
こきりこきりと、シャーリィは指を鳴らした。
次に死の闇に沈むべきは、誰か。
(そんなの、誰でもいいけどね)
どの道、他の14人は死んでもらうわけなのだから。その順番が遅いか早いか。違いは、それだけ。
アーツ系爪術。
ブレス系爪術。
メガグランチャーによる小型滄我砲。
ウージーから放たれる、テルクェスの弾幕。
そして、エクスフィアに己の身を食わせることで引き出される、エクスフィギュアの怪力と再生力。
これら全ての武器を振るい、目指すは優勝ただ一点。

148 :力という名の正義の下に6:2006/12/23(土) 00:00:28 ID:FMzqHji60
知力の限りを尽くして、聖コルネア王国の上級学校入学を果たしたノーマ・ビアッティのように。
権謀術数の限りを尽くして、レクサリアを七聖連合の宗主国に登り詰めさせたミュゼットのように。
暴力の限りを尽くして、これからシャーリィは優勝を目指すのだ。
兄に逢いに行くのだ。
ぶちぶち。
ぶちぶち。
シャーリィの念に応えるように、魔の結晶は彼女の肉体を蝕む。
命の九分九厘をエクスフィアに捧げてでも、兄の愛しい姿を見るために。
シャーリィは、西に向けて駆け出した。
ぶちぶち。
ぶちぶち。
輝石は、彼女の記憶も喰らっていくかのように。
彼女は忘れようとしている。
あの夜の、最後の記憶を。
マダム・ミュゼットがマウリッツを脅迫した、鉄面皮の奥底の素顔を。
マダム・ミュゼットの苦渋を。

******

「おいでなさい、シャーリィ。そこにいるのでしょう?」
会談の後。
マウリッツがフェロモン・ボンバーズのカーチスとイザベラに、ウェルテス外のダクトまで送られた後。
ただただ立ちすくんでいただけのシャーリィに、突然の声。
幸いマウリッツは、シャーリィのいた反対側のドアを潜り、退出していった。だから、今まで誰にも気付かれなかった。
それなのに。
シャーリィは、びくりと肩を震わせた。
どうしよう。立ち聞きしていたことが分かったら、きっと怒られる程度では済まされない。
さっきは、「『事故死』してもらう」なんて言葉も飛んでいた。
もしかして、このままカーチスやイザベラに…!
恐怖のあまり、シャーリィは顔面が蒼白になる。
普段は優しかったミュゼットさんが、実はこんなに怖い人だったなんて。
怖い。ヴァーツラフに捕まえられたあの時より怖い。
怖い。怖い。怖い。
しかと噛み合わない奥歯が、がちがちと鳴る。
このまま、殺されるのか。
せっかく、お兄ちゃんに逢えたのに……!
けれども。
「…大丈夫よ、怯えなくても」
その声は、先ほどまでマウリッツを恫喝していたあの女性と同一のものとは、まるで思えないほどに穏やかに響いた。
「ちょうど今日、本土から旬の紅茶が届いたのよ。あなたの分もあるから、怖がらずにおいでなさい」
「でも……!」
「ならね、シャーリィ…」
こほん、とミュゼットは一つ咳払い。
そして次の言葉は紡がれる。
「…シロギクの花言葉は何?」
「!」
この言葉。この問いかけ。
間違いない。
このウェルテスにて園芸とティータイムを愛する穏やかな老女、マダム・ミュゼットのそれ。
シャーリィは、そしてその問いに過たず答えてみせる。
「ええと…『あなたを支える』!」
「そう、正解よ」
柔らかで上品な笑い声が、ミュゼットの口から漏れる。
それにつられて、またシャーリィも同じく。
「それじゃあミュゼットさん…シロツメクサの花言葉は?」
シャーリィは、ひょこりとそこに顔を出す。
いつもと変わらぬ、ミュゼットの家。いつもと変わらぬ、高級な茶器。
そして、いつもと変わらぬミュゼットの姿。
ミュゼットは穏やかに目を細め、シャーリィの問いに答えてみせる。

149 :力という名の正義の下に7:2006/12/23(土) 00:01:39 ID:FMzqHji60
「あら、簡単な問題なのね。答えは『あなたを信頼します』…そうでしょう?」
「正解!」
シャーリィは胸の前で小さく拍手をしながら、ミュゼットのもとに駆け寄る。
ミュゼットの近くにあった椅子を引き、そこに腰掛ける。
先ほどまで机の上に広がっていた書類の束は、いつの間にやら既に小さく束ねられ、所在なさげに机の上に佇んでいた。
ミュゼットが傍らの棚から、もう一つ茶器を持ち出す。ここに来てから、シャーリィが愛用しているものを。
ミュゼットがポットから、飴色に染まった湯を注ぐ。かぐわしい香りと共に、湯気が部屋の中に溶け込む。
注がれた紅茶は、シャーリィの目の前に。
素朴ながらに優雅で、春風の匂いさえ伴いそうな方向が、シャーリィの鼻を心地よくくすぐる。
けれども、シャーリィはただ所在なげに、茶器の取っ手を弄ぶのみ。
上目遣いで、どこか申し訳なさそうな雰囲気を漂わせながら、ミュゼットの方に視線をさ迷わせていた。
沈黙。
ミュゼットは、一口自身の紅茶を口に含む。口内でそれを転がすようにして香りをほぐれさせ、嚥下。
その残り香を静かに味わいながら、ミュゼットはようやくのことで口を開いてみせた。
「……まずはじめに、あなたには謝らなければならないわね…ごめんなさい」
右手の人差し指と中指をかけた茶器の中、静かに揺れる紅茶に、ミュゼットは目を落とした。
「本当は、私もこんな脅迫まがいのことはしたくはないの。
確かに滄我砲を残しておけば、マウリッツさんが自分の民をいつ弾丸にされるか分からないと、不安がるのも無理はないわ」
せっかく淹れてもらった紅茶だが、シャーリィはそれを飲む気にはなれなかった。
「私だって、あんな忌々しい兵器を残しておくことがどれだけ危険か、重々理解はしているわ。
先日の対クルザンド戦役で放たれた滄我砲は、ガドリアの空割山を粉微塵に破壊したことは覚えているわね?
その際の余波で、ガドリアは人的、物的にも甚大な被害を受けた。
その犯人がクルザンドのヴァーツラフであったことは、不幸中の幸いかしら。
あの件はクルザンドのヴァーツラフ派が主犯格だったことから、非難の矛先はクルザンドに向いてくれた。
幸い、あなたたち水の民は非難の矢面に立たされずに済んだわけね」
シャーリィは、ミュゼットの言葉を複雑な気持ちで聞き入れていた。
「けれども、今度はガドリアの左翼タカ派が、戦勝国としての権利を主張し、遺跡船の所有権を求めた。
…あなたのお友達の…フェニモールちゃんだったかしら? 彼女がガドリアの騎士に殺された、あの一件ね」
こくりと、シャーリィは頷いた。
あの時の憎しみに満ちた心は、今思い出しても怖気が走る。
それが原因で、己は猛りの滄我につけ込まれたのだ。
「…遺跡船発見の報を受けた15年前、いち早く私はこの島に調査隊を派遣した。
私は当初、この島を自国のものとする気はなかったし、一時期は元創王国時代の英知の賜物として、
陸の民も水の民もなく、人類の共有財産に出来たら、とさえ思ったの。
けれども、この遺跡船に搭載された滄我砲に光跡翼…これまでの事態を受けて、私は考え方を変えたのよ」
「だから…」
だから、普段のミュゼットからすればありえないほどの、恐ろしい脅迫をマウリッツにやってのけたのか。
シャーリィは、この話を始めたミュゼットの真意を、少しずつながら理解し始めていた。
再びミュゼットは、紅茶を一口飲み下した。静かに、陶磁器の音が部屋に響いた。
「強過ぎる力は人を狂わせる。これまでのクルザンドやガドリアの行いを見てきたあなたなら、それは分かるわね?
だからこそ、私はあえてこんなことをしているの。
もしこの遺跡船が、クルザンドのような野心的な国家の手中に収まったら、大変なことが起こるわ」
世界の軍事バランスの崩壊。それに次いで起こる、複数国家を交えた大戦争。
世界の秩序と平和は、たちまちの内に崩壊する。吹き荒れる血と悲嘆の嵐が、世界にあまねく災いをもたらす。
「だから、遺跡船はレクサリアが管理すると…そう決めたわけなんですね?」
「出来ることなら、遺跡船を『レクサリアと親しいけれども、どの国家にも属さない自治区』にすることが、
私の目標なのだけれどもね。遺跡船という大きな波紋を投げかけられた現在、
遺跡船を葬らずに世界の体制を維持するなら、世界有数の強国であるレクサリアが管理するほかないわ。
現在のところ、世界はレクサリアを基軸とした七聖連合という一極を屋台骨として成り立っている。
滄我砲という戦略級の大量破壊兵器を他の国が持てば、この屋台骨は崩壊するわ」

150 :力という名の正義の下に8:2006/12/23(土) 00:02:39 ID:FMzqHji60
「…でもそれじゃあ……」
シャーリィは、まだ幼くも純粋な見習い外交官なりに、ミュゼットに反駁を試みる。
「どうしてミュゼットさんは、滄我砲や光跡翼だけを破壊するっていう選択をしなかったんですか?
もし遺跡船に搭載された兵器が、世界に戦争の火種を撒き散らしかけないって言うなら、
それだけを破壊すればいいと思うのに…」
その言葉を受けたミュゼットは、シャーリィの海色の瞳を覗き込む。
そして次の瞬間、表情を悲しげに崩して申し訳程度の笑みを顔に作ってみせた。
「そうね。確かに、それが一番いい選択肢ね。
でも、私がその選択肢を取らなかった理由はいくつかあるの。
一つ目は、この遺跡船の構造の問題よ。
私も博物学者のウィルや、考古学に明るいノーマさんからよく話を聞いたのだけれども、
この遺跡船には、現在の私達の知識や技術では解明できないような、不思議な仕組みがたくさんあるわ。
だからちゃんとした調査もなしに、下手に滄我砲や光跡翼の破壊作業を行えば、
ひょっとしたら誤って遺跡船にとって重要な機関を傷付けてしまうかも知れない。
ヴァーツラフは遺跡船の艦橋で、滄我砲を発射するという操作には成功していたけれど、
だからと言ってそれは遺跡船の仕組みや原理を完全に理解してやっていたわけではなかったようなの。
だから、下手に遺跡船の主要な設備に手は付けにくいのよ」
シャーリィは、両手で自分の茶器を包むようにして持ち、紅茶を口に含む。
ミュゼットは、そのうちにも話を続けていく。
「二つ目の理由。それはね、さっきも話していたけれども、手間や費用の問題ね。
遺跡船中を旅して回ったあなたなら良く分かると思うけど、滄我砲や光跡翼と言った施設は、あまりにも巨大だわ。
もしあれを完全に破壊しようと思ったら、それこそ本格的な城攻めに匹敵するほどの人員や道具が必要になる。
僻地であるこの地に対して、本国から船団を寄越してもらうなら、破壊工作隊を用意するだけでも一苦労。
おまけに、この遺跡船の中枢部は、まるで正体の分からない材質で出来ている。
これを破壊するとなると、その手間は生半可な城壁を打ち壊す以上に骨が折れる作業になるわね。
そして3つ目の理由は…」
ミュゼットは、言いかけて沈黙。
言うべきか、言わざるべきか。
逡巡の沈黙が、そこに降りる。
はらりと散るは、鉢植えのバラ。甘く麗しい香りと共に、部屋に舞う。
バラの花びら、ひとひら。
床に落ちたとき、ミュゼットは静かに口を開いた。
「…とても汚い大人の打算が理由よ。
この遺跡船には、学術的にも軍事的にも極めて重要な価値があると、先ほど私が言っていたのは聞こえていたかしら?」
「…はい」
シャーリィの瞳の奥で、ゆらゆらと想いが揺れる。
俯く。視界に、己の金髪がほぐれ落ちる。
ミュゼットの紅茶の湯気は、もういつの間にか消えていた。
「この遺跡船に用いられている技術は、現存するどの国家のそれよりも優れているわ。
私はね、近々本土の学士達をこの遺跡船に呼び、遺跡船の技術を解明する計画を立てているの。
この遺跡船から再現され、また生み出される技術はきっと、私達をより幸せにしてくれると思うわ」
「それが…どうして大人の汚い打算なんですか?」
「それはね、きっと再現されるであろう技術が、どれも人を幸せにするためのものばかりとは限らないからよ。
おそらく、月日が経てば私達は滄我砲や、ひょっとしたら光跡翼さえ再現出来るようになるかもしれないわ」
「!!」
シャーリィの喉が、吸気で鳴った。
ミュゼットの伝えた事実…
それは、無知ではあるけれども決して愚劣ではないシャーリィの脳裏に、その可能性を描かしめていた。
遺跡船の技術が解明されれば、滄我砲や光跡翼を量産出来る日が来るかもしれない。
もしも滄我砲が量産され、それが国家間の戦争に用いられるようになったなら、それはどれほどの悲劇と惨劇を生むだろう。
冗談抜きに、水の民が滄我砲の弾丸として「養殖」される日が来てしまうかも知れない。
もし、あれが何十発も乱れ飛ぶような事態にでもなれば。その破壊力は国家一つを丸ごと灰燼に帰するに足るだろう。
「ミュゼットさんは…レクサリア以外の全ての国を、滄我砲で滅ぼしたいんですか?」
「もちろん、そんなことはないわ」
目を細め、首を縦に振るミュゼットの声に、嘘の色彩はなかった。

151 :力という名の正義の下に9:2006/12/23(土) 00:03:45 ID:FMzqHji60
「でもね、だからと言って滄我砲や光跡翼の技術は、捨て去ってしまうにはあまりにも惜しいものなのよ。
滄我砲や光跡翼の技術は、ないよりはあった方がいいに決まっているわ。
将来、滄我砲や光跡翼を用いなければならないほどの一大事件が、絶対に起きないとは言い切れないわ。
もしその時にその技術がなかったなら…あの時その技術を培っておけば、という後悔は、絶対に許されない」
「…………」
「私もレクサリアの聖皇として、そして世界の七聖連合体制を支える柱の一つとして、
そこまで見越して行動しなければならないの。
現在、そして未来において、世界の多くの人々に安寧のうちに暮らしてもらうためには…
将来見越される危機をしっかり見据えて、その危機の芽を可能な限り摘み取らねばならない。
もちろん滄我砲の技術を拾うことにより受け入れねばならない危険にだって、目を向けなければならないのだけれど。
それに可能ならば、もちろん水の民の命を弾丸にしなければならないような、非人道的な仕組みは改良したいわね。
……分かったかしら、シャーリィ? これが、汚い大人の打算よ」
「…………」
ただシャーリィは黙していた。
「そもそもね、シャーリィ。
あなたの選んだ外交官の道は、厳しい道よ。
自分の属する国や民族にとって譲れない一線を保ち、理想を言えば双方がなるべく最小限の損害を被りあいながら、
最大限に利益を引き出される道を見出さなければならない。
人間誰だって、富や利益は多く欲しいもの。その外交の際に、むき出しの欲望や人間の闇を見る覚悟も必要よ。
私もレクサリアの政(まつりごと)を行う時、見せつけられた人間のあまりの汚さに、何度も吐き気のする思いをしたわ。
たとえばね…」
今度は、ミュゼットが俯き語る番となった。
その目は、ただただ悲しみに満ちて。シャーリィに対する謝意をその瞳に込めて。
「私はこの光跡翼の一件の後、あなたが自ら外交官となり、水の民と陸の民の橋渡しとなりたいと志願してきた時、
心の底から嬉しかったわ。
だけれど、政治の文書の上では、あなたのその純粋な誠意から出た行動も、
『メルネスの身柄を拘束した』と書かなければ誰も信じてはくれないわ。
もちろん、あなたの誠意をそんな風に書き連ねるなんて、あなたに対するとてつもない侮辱だとは分かっている」
最後の紅茶が、ミュゼットの喉に滑り落ちた。
ことりと音を立て、茶器がコースターの上に鎮座する。
「もちろん、そんな汚さから目を逸らしたところで、誰もあなたのことを臆病者呼ばわりする権利はないわ。
外交官や貴族などといった高官は、けれどもそれを真正面から見据える覚悟がなければ務まらない。
そして、人間の闇の側面こそが人間の真の姿だと勘違いして、自らもその闇に染まることは許されない。
どんな光をも遮るような絶望的な闇の中でも、自ら光を放ち続ける意志が必要よ。
全ての想いを力に変えて、未来を見る力が」
ミュゼットは、明かりに照らされるシャーリィの顔を、しかと見つめ、そして問う。
「少し厳しい言い方になるけれども、あなたにもその覚悟が必要となるわ」

******

そう、その覚悟はある。
叩き潰す覚悟は。
捻じ伏せる覚悟は。
踏みにじり蹴落とし打ち払い突き進む覚悟は。
邪魔者を、全員ぶち殺す覚悟は。
野を駆けるシャーリィは、自らの力を試すかのごとくに、拳を一つ握り締めた。
力なき者に正義を語る口はない。
力ある者のみが、正義を語る権利を持つ。
ゆえに、力ある者こそ正義の主唱者。
力こそが、正義。
(そうでしょう、ミュゼットさん?)
ミュゼットの悲しみと苦しみを、理解する力を失いつつあるシャーリィは、心の中聞く。
(力が、正義なんでしょ?)
何だかんだ言ってもミュゼットさんも、国際平和だの世界秩序だの御託をほざいておきながら……
結局は遺跡船に搭載された滄我砲の、圧倒的な力に魅了されただけでしょ?
光跡翼とその発動のキーである私を飼い慣らして、敵対する国を脅迫する外交カードが欲しかっただけでしょ?
世界の全ての国をレクサリアの属国にして、従わない国は消すつもりだったんでしょ?

152 :力という名の正義の下に9:2006/12/23(土) 00:05:50 ID:FMzqHji60
だって、そうよね?
それ以外、レクサリアの聖皇であるミュゼットさんが、遺跡船にいる理由が、ないもの。
どうせ耳に心地いい理想論を並べ立てたって、それは全部、周りの人間に対して善人ぶるための腹芸よね?
自分のどす黒い欲望を隠すための、偽善っていう仮面でしょ?
人間の闇の側面こそが人間の真の姿だと勘違い?
ミュゼットさんも、心にもないことをしゃあしゃあと言ってのけたわね。
闇の側面こそ……欲望むき出しの側面こそが、人間の真の姿よ。
ミュゼットさんは、心の中ではそう思っていたに違いないわ。
だって、そうでしょう? この島での戦いでは、人間は誰だって欲望むき出しなんだから。
誰かを蹴落としてでも生き延びたい。
誰かを殺してでも、自分にとって大切な誰かを守りたい。
誰かを殺したい。与えられた死神との社交ダンスの機会を、ただ楽しみたい。
ほら、欲望が渦巻いてる。
『殺したくない。殺したくないし、生きたい』?
そんな事を口にする偽善者は、何様のつもりなのかしら。
まったく、反吐が出るような考え。
人を殺したくないなら、さっさと自殺して終わらせればいいのに。
生きたいなら、容赦なく他の参加者を殺せばいいのに。
そいつ自身が誰も殺していなくても、例の24時間ルールがある。
ゲーム開始から24時間など遥かに過ぎている現時点でこの島で生きている以上、どう弁護してもその事実は変わらない。
偽善者どもの立つその足は、誰かの死体を踏みしめていることに。
誰かの死体を踏みしめて生きている事実に目を反らして、綺麗事をぬかすような奴らは最悪だ。
それなら、自らの行いをあっさり認めた方が、どれほど潔いか。
(わたしは、目を反らさない。わたしは、他の人間の命を踏みにじってでも――)
この島では、どんな考えや信念や欲望だって正義になる。
自分自身の掲げる理(ことわり)を正義にしたいなら、必要なものはただ一つ。
力。特に、その中でも暴力が最高。
わたしは、お兄ちゃんにまた逢いたい。
わたしは、お兄ちゃんの命こそ、全世界とそこに生きる全ての命を合わせた命よりも重い。
その信念を、わたしは正義として掲げる。
そのために、わたしは殺す。
ぶち殺す。わたし以外の、全ての参加者を。
昨日のハロルドみたいに、逆らう奴は皆殺しにしてゴミのように踏み潰す。
肉を裂き。
骨を砕き。
臓物を引きずり出し。
脳天を爆裂させ、みんな汚い花火にしてやる。
他の人間なんてお兄ちゃんに比べれば、みんなただの生きてる血と肉と骨の塊だ。
わたしのその正義を貫くためには、まだまだ力が足りないけど……
ううん、力はどれだけあっても足りない。
ここには、滄我砲もない。光跡翼もない。
滄我の力はあっても、猛りの滄我と交信できない以上、メルネスとしての力も借り受けられない。
力が欲しい。
わたしの正義を貫く力が。
お兄ちゃんの命を拾い上げる力が。
他の誰かの正義を否定する力が。
残る14人を葬る力が。
わたしは今、満身創痍。
だから、他の参加者を殺すためなら。
自分の正義を貫くためなら。
どんな卑劣な手だって使う。勝てば官軍。
わたしの足は、ひたすらに地面を蹴る。
西に向かうため。
わたしの正義を貫くため。
誰かの正義を否定するため。

153 :力という名の正義の下に9:2006/12/23(土) 00:06:30 ID:FMzqHji60
待っててね、お兄ちゃん――。
今日は頬に当たる風が、すごく気持ちいいわ。

******

死の芳香に満ちた、闇の回廊の奥底で。
冥府の澱みの最深部に、彼らが直面する直前のこと。
片腕を間に合わせの包帯で巻いて固定した牛人間は、ひたすらにその動向をうかがっていた。
洞窟の中を舞う蝶。地獄蝶たるテルクェスを。
「くそ…やはりフォルスには反応しやがらねえか」
四星トーマは、洞窟を下りながら『磁』のフォルスを展開し、一つ舌打ち。
「さっきお前自身が話していただろう。あの蝶は、俺達のフォルスには反応しないと」
青髪のヒューマ、ヴェイグの声には若干の苛立ちが混じる。
この洞窟の異様なまでの圧迫感は、きりきりと心臓を締め付けるような不快感をもたらす。
トーマは、いまだ動く左手だけで、肩をすくめてヴェイグに答えた。
「念のため、だ。ヴェイグ、お前は『磁』のフォルス使いではないから分からんかも知れんが、
『磁』のフォルスにはヒトの方向感覚を狂わせる作用がある。
その作用があの蝶に聞いてくれればもっけの幸いと思ったんだがな。だが、やはり結果はこのザマだ」
このまま行けば、遅かれ早かれ後ろの蝶はプリムラの元にたどり着く。
手をこまねいているままでは、どの道「奴」にここを探知される。
「まったく、まるで背後にユリスでも付いているかのような、呆れるほどの執念だな」
ヴェイグは、もとよりらしくはない皮肉を口にして胸のざわめきを紛らわす。
トーマは、そのヴェイグの皮肉に応ずるかのように、ため息と共に漏らす。
「できることなら、さっさとこっからは退散してえところだな。この洞窟は石灰岩質…鉄分に乏しい。
この洞窟じゃ、俺の『磁』のフォルスの威力も半減する。
できりゃあ昨日の騒ぎの後に砂鉄を集めておくべきだったんだろうが、時間も余力もなかったしな」
「頼れるのは、俺の『氷』のフォルスか」
そう、この洞窟内には水分が多く存在する。そして水は冷却すればたちまちの内に氷に変わる。
『氷』のフォルスは、水と優れた相性を発揮するのだ。
フォルス使い同士の戦いの趨勢を決めるのは、フォルスの属性の相性もあるが、戦う地形もまた大きな要素なのである。
ゆえにヴェイグは洞窟の壁を氷結させ、道を氷で塞いでテルクェスを遮るという提案もしてみた。
提案した途端、トーマに制止を食らったが。
「洞窟の中で、氷なんかで道を塞ぐのは危険だ。空気がよどんで、俺たちが息を詰まらせちまう危険がある。
それに、あのテルクェスとやらは弾丸として飛ばすことも出来る。
どうやらこの島では、フォルスで作られたものを壊せるのはフォルスだけじゃねえみたいだし、
だからあの蝶が氷の壁をぶち抜いてこっちに来る危険だって0じゃねえ」
という判断のもとに。
「くそっ! ハロルドの奴が生きてりゃ、何とかなったかも知れねえものを…ん?」
突然、トーマの耳を叩く足音が二つから一つに減った。
ヴェイグが、立ち止まっている。ちょうど、洞窟の曲がり角のところ。今のトーマからは、テルクェスが死角に入っている。
ヴェイグは、呆けたようにその場で立ち止まったまま、洞窟の入り口方面を見続けている。
「どうしたんだ、ヴェイグ?」
「テルクェスが…」
ヴェイグは、怪訝そうに眉をひそめ、シャーリィの使い魔たる蝶を指差した。
トーマは、そのまま無造作にヴェイグに歩み寄り――
そして、ヴェイグ共々、眉をひそめた。
「テルクェスが…引き返してやがるのか?」
つい先ほどまで、執拗に洞窟の奥底まで一団を追っていた海色の蝶は、突如として転進。
洞窟の入り口の側に引き返している。それも、かなりの高速で。
テルクェスの放つ燐光はそのまま洞窟の闇に飲み込まれ、そして闇の中に埋もれ去るまで、さほど時間はかからなかった。
「…一体、どういうことだ?」
いぶかしむ2人は、しかし神ならざる身がゆえに、その真実を知ることはなかった。
少なくとも、今は。
死の芳香に酔い、己を忘れた1人の少女が、ついにその歩みを始めたその事実を。
彼らは、こうしてシャーリィの尚早な判断に、身を救われることと相成った。少なくとも、今は。
その救いが、彼らの更なる地獄への一歩となるか。
はたまた、これがシャーリィの妄執を砕くための、一筋入ったひびとなるか。
洞窟に澱む黒い臭気は、その問いに答えることなく、沈黙を守り抜いていた。

154 :力という名の正義の下に10:2006/12/23(土) 00:07:05 ID:FMzqHji60
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:メガグランチャー
    ネルフェス・エクスフィア(アーツ系爪術一部使用可)
    フェアリィリング
    UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
    ハロルドの首輪
状態:HP50% TP50% 「力こそ正義」の信念 左手に刺し傷痕(エクスフィギュアの再生力で完治)
   ハイエクスフィア強化 クライマックスモード使用不可
   永続天使性無機結晶症(肉体が徐々にエクスフィア化。現在左腕+胴体左半分がエクスフィア化。
   末期症状発症まではペナルティなし?)
基本行動方針:セネルと再会するべく、か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動し、優勝を目指す
第一行動方針:E3→E2→C3の順で島を巡り、参加者を殺しまくる
第二行動方針:索敵範囲内の参加者を殲滅したら、再び索敵を行う
第三行動方針:病気を回復させる方法・首輪を解除する方法を探す
現在地:D5の川辺→E3(魔杖ケイオスハートの存在地点?)

【トーマ 生存確認】
状態:TP75% 右腕使用不可能 軽い火傷 やや貧血気味 プリムラのサック所持
所持品:イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり) パイングミ
    ジェットブーツ 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 首輪 スティレット ミラクルグミ
    ミスティブルーム、ロープ数本 ウィングパック(食料が色々入っている)  金のフライパン
基本行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
第一行動方針:テルクェスとヴェイグの暴走に警戒しつつ状況を静観
第二行動方針:漆黒を生かす
第三行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
現在位置:G3洞窟・中央中継点前

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP40% TP55% 状況への理解不能 他人の死への拒絶
所持品:チンクエディア ミトスの手紙
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:カイルが殺した?何故ジューダスが此処にいる?何がどうなっている?
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:G3洞窟・中央中継点前

155 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/02(火) 10:14:36 ID:AVun5f4gO
保守

156 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/06(土) 13:57:57 ID:urZmRBcdO
保守age

157 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/09(火) 11:07:18 ID:V5f7vbk+O
保守age

158 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/09(火) 12:10:50 ID:2i/COv79O
テイルズは好きだがこれは面白くない

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