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女神転生バトルロワイアル 3

1 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/06(金) 22:53:53 ID:bLTZDeC10
メガテンのキャラクターのみでバトルロワイアルをしようという
参加型リレー小説スレッドです。

誰でも参加できます。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

作品に対する物言い、感想・議論は
「女神転生バトルロワイアル議論・感想スレ」で行ってください。
詳しい説明は>>2以降参照。

【議論・感想スレ】
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/gsaloon/1154263378/
【過去スレ】
女神転生シリ-ズでバトロワは可能か?
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1135066355
女神転生バトルロワイヤル 2
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1151509530
【したらば】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/7003/
【まとめサイト】
ttp://playmemo.web.fc2.com/megatenbr/

2 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/06(金) 22:55:33 ID:bLTZDeC10
+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員には、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><参加者リスト>
 <着火器具・携帯ランタン>が支給される。
 また、ランダムで選ばれた<COMP>が渡される。
 支給品は武器+アイテム(例:アタックナイフ+傷薬5個 コルトボニー+魔石)
 ※死亡者リストは放送とともに人名に斜線が入る。
・<ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る
・開始直後、参加者はスマル市のどこかにランダム転送される。
・生存者が一名になった時点で、ゲーム終了。その一名はどんな願いもかなえられる。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。

+呪術関連+
・参加者は生存判定用の感知能力がついた『呪術』をかけられている。
 この呪術は、着用者が禁止された行動を取ったり、
 または運営者が念じることで即死魔法が発動する。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、即死魔法が発動する。
・なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。

+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減します

+メガテン特有のシステム+
・邪教の館、ベルベットルームは使用不可。
・フィールド上の野良悪魔は、開始直後は弱く、放送の度に強くなる。出現場所固定。
・悪魔との交渉は可能。悪魔合体は邪教の館不使用でできる場合は可。
・ペルソナは変異可能。
・噂システムは未定。

3 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/06(金) 22:56:26 ID:bLTZDeC10
■書き手のルール■
リレー小説要素を高めるため
完全予約制・展開協議制を廃止しました。
以下のルールを守って楽しいバトロワを。

・コテハン・固定鳥は非推奨
・予約する時は捨て鳥推奨
・自分が書いたパートの続きを予約できるのは、投下後1週間誰からも予約がない場合のみ
・予約後1週間投下できなかった場合、予約は失効
・もちろん予約せずに投下しても桶、ただし予約されてるキャラには影響しないように注意
(=予約なしのスピード連続投下なら自己リレー容認)
・「この展開は他と矛盾しないか、原作解釈としてOKか」
などを投下前に相談したい時は、したらばのネタバレ相談スレを再利用。
他の書き手が予約中のキャラ・場所に影響しそうなシーンを書きたい時も相談すると吉。
ただし全書き手がしたらばをチェックしてるとは限らないから返事がなくても泣かない
・過去作との矛盾、他者の予約無視、荒らしと判断されるような作品は無効。
・1話が長くなりそうな時は、前後編に分けての投下も可。
可能な限り、予約する時にその旨を明記すること。
前編を投下してから1週間以内に後編の投下がなかった場合、後編の予約は無効になる。

4 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/06(金) 22:57:23 ID:bLTZDeC10
= 書き手さんへのお願い =
※各キャラ同士の力のバランスを崩さないよう、十分に気をつけてください
※話に矛盾(時間軸・場所・所持品など)、間違いが起こらないよう注意してください
※作中に登場した人物の状況や所持品などを、レス末に記載してください
※タイトルは名前欄に記載してください
※キャラを新しく参加させることは、条件・理由を問わず一切認めません。
※他の書き手さんにつなぐためにも時間描写をできるだけ入れてください
※SSの登場キャラは基本的に早いもの勝ち(書きたかったキャラが先に死んだりしても文句は言えない)
※キャラの予約(〜を書きたい)は自由。この場合予約者が優先されます
※他の書き手のSSで登場したキャラを書くのも自由(殺してもOK)
※死亡者報告の放送を作中で流す場合はスレで報告してください
※この板は全年齢対象です。過度の下ネタ・性的描写はどんな理由があろうとも厳禁です。
※叩かれても泣かない。(読み手は叩いてもいいという意味ではない。)

= 基本注意事項 =
※原作を知りたい方は、原作をやるか「ストーリーを教えてくれるスレ」へ行きましょう。
※職人さんにとって、読み手の感想は明日への活力になります。読むだけで終わらず、積極的に言いましょう。
※この板は全年齢対象です。雑談でも、過度の下ネタ・性的描写はどんな理由があろうとも厳禁です。
※スレが荒れてきた場合は一切反応せず、収まるまで各メガテンスレやしたらばでまったりして来い。
※女性差別反対!…ってタヱが言うので、その志を尊重しる!
※1タイトルに偏ったバトロワと関係ない話がしたい場合は、
 対応するタイトルのスレ又は、したらば雑談でやれ
※参加作品は、以下のタイトルのみ。それ以外の話題は雑談スレでもスレ違いとなります。
 非該当作品について話したい場合は、対応するタイトルのスレ又は、したらば雑談でやれ。
 「旧1」「旧2」「真I」「真II」「真III」「if」「ペルソナ」「ペルソナ2」
 「ソウルハッカーズ」「デビルサマナー」「ライドウ」・・・以上、11作品

「キャラがどんな扱い、結末だろうと 絶 対 に文句を言わないこと」

5 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/06(金) 22:59:19 ID:bLTZDeC10
+マップに関して+
・舞台は浮上スマル市全域(鳴海区除く)
【スマル市】
蓮華台
 町の中心に位置する
 ・七姉妹学園、シルバーマン宅、アラヤ神社、本丸公園、民家多数
 ・悪魔出現:七姉妹学園

平坂区
 西側
 ・春日山高校(地下に防空壕あり)民家多数
 ・悪魔出現:春日山高校 スマイル平坂

夢崎区
 北側
 ・繁華街、店多し、パチンコ屋なんかもあったり
 ・悪魔出現:GOLD(スポーツジム) ギガ・マッチョ(CDショップ) 
       ムー大陸(ゲームセンター)ゾディアック(クラブ)

青葉区
 東側
 ・野外音楽堂公園、キャスメット出版、消防署、スマルTV等
 ・悪魔出現:野外音楽堂公園 スマルTV(2F以降)

港南区
 南側
 ・海に面している、住宅多し 警察署あり
 ・悪魔出現:廃工場 空の科学館

6 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/06(金) 23:00:13 ID:bLTZDeC10
参加者一覧
【真・女神転生】
ザ・ヒーロー(作中名未定)  ヒロイン(作中名未定)
ロウヒーロー(作中名未定)  カオスヒーロー(作中名未定)

【真・女神転生II】
アレフ(主人公)  ベス  ヒロコ   ザイン(=サタン)

【真・女神転生III-NOCTURNE】
主人公(人修羅・作中名未定)  橘千晶
新田勇   氷川  高尾祐子  フトミミ

【デジタル・デビル物語女神転生】
中島朱実   白鷺弓子  リック

【デジタル・デビル物語女神転生II】
主人公(作中名未定)  ダークヒーロー(作中名未定)
ヒロイン(東京タワーの魔女・作中名未定)

【デビルサマナーソウルハッカーズ】
塚本新(主人公)   スプーキー
ネミッサ(=遠野瞳)   ナオミ

【真・女神転生デビルサマナー】
葛葉キョウジ   レイ・レイホウ(麗 鈴舫)
シド   秦野久美子

【デビルサマナー 葛葉ライドウ対超力兵団】
葛葉ライドウ   鳴海昌平   大道寺伽耶   朝倉タヱ

【女神異聞録ペルソナ】
藤堂尚也(主人公・ピアスの少年)   園村麻希   南条圭
桐島英理子  サトミタダシ

【ペルソナ2罪・罰】
周防達哉(罪主人公)   天野舞耶  リサ・シルバーマン
周防克哉   上田知香(チカリン)  反谷孝志(ハンニャ)

【真・女神転生if...】
内田たまき(女主人公)  宮本明   赤根沢玲子   狭間偉出夫(魔神皇)
神代浩次(男主人公)  白川由美

7 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/06(金) 23:30:05 ID:zGJLlELY0
>>1
乙です!

8 :天の父の如く優しく、残酷な:2006/10/07(土) 05:52:52 ID:I6bZ9eoe0
女は震えていた。
錯乱し、怯え、均衡を失っていた。
祈りを捧げるかのように跪き、自らの肩を抱き締め、今にも崩れ落ちそうにがくがくと身を震わせる。
金色の髪には、こびり付いて黒ずんだ血液。
白い指も、初めて見た時には美しい光沢のあったエナメル革のスーツも、乾きかけた血に汚れている。
哀れな姿だ。女を見下ろして、男はそう思う。

「私、あ、あ、アタシ……殺したの」
女が懺悔するように発した言葉に、男が反応する。
僅かに目を細め、口許を歪める。俯いた女にはそれは見えない。
「アレフを撃ったの。ナカマに、なるって言った。だから、だからアタシ、アレフの血と一緒になりたくて」
「……アレフ?」
女が他人の名を呼んだのは初めてだった。男の目から笑みが消える。
「そう、私、混じり合いたくて、アタシの流れた血とあの子の、アレフの血と……ナカマ……
だってアタシは、知ってるもの。そうよ良く、アレフの事、知ってる知ってる知ってる思い出せない」
言葉は次第に彼女自身にしか意味を持たぬものに、そして彼女自身にすら意味をなさない嗚咽に変わる。
男は、跪く女に歩み寄る。気配に女が顔を上げた。
美しい女だ。しかし整った貌もまた、返り血と彼女自身が流した血によって無残に汚されていた。
顔を挙げたことで露になった胸元も、かつては官能的な美を誇っていたのだろうが、今は見る影もない。
女の胸には、武骨な凶器で貫かれたに違いない穴が開いていた。
その周辺には当然ながら、夥しい出血の跡。
今の彼女を見れば誰もが美より、恐怖や禍々しさを感じるだろう。明らかに、生きていないのだから。
「アタシはアレフを撃ったの。憎くて殺したくて一緒になりたくて可哀想で。
でもあの子、女の子、テンプルナイトの……違ったのよ、違った、血を流したのはアレフじゃなくて……」
目の前の男の姿に触発されたのか、女は歯をがちがちと鳴らしながら懺悔を再開する。
それを罪と思う意識は、女には最早ない。
ただ己の中の静められぬ何か、強烈な感情の残滓を持て余しているのだ。

9 :天の父の如く優しく、残酷な:2006/10/07(土) 05:54:04 ID:I6bZ9eoe0
もう一歩、男が歩み寄る。
虚ろな目で、女は男を見上げながら聞き取れない言葉を繰り返している。
この地で初めて彼女を見た時も、こうだった。
彼女が異常な精神状態にあることは一目瞭然だった。生気のない目をして、跪き、天上の見えない何かに赦しを乞うていた。
その見えない何かを、まだ生きていた彼女は神と呼んだのだろう。
しかし周囲も見えず祈り続ける姿は崇高な聖女のそれでなく、狂人のものでしかなかった。
赦しを欲していたのではない、ただ赦されざることを恐れていたのだ。
まるで、自らが赦されざる存在であるという考えを植え付けられてでもいるように。
――しかし、男にはどうでもいいことだった。
彼女が信仰を持つ女だったのは彼にとって幸運であったが、それだけだ。
正気だろうと狂気に堕ちていようと、抵抗があろうとなかろうと、彼は彼女に同じものを与えただろう。

「……しんぷさま」
助けを求めるように呟いた女を、身を屈め、男は抱擁した。
女の震えが治まる。自らの肩を抱いていた手が、だらりと垂れ下がる。
「悩むことハ、ありませン」
柔和な声で、諭すように男は語り掛ける。優しさを装い、「本物の」神父のように。
この女は、まだ使える道具だ。
こうして一時の安定を与え、行く末の安息を信じさせていれば、手駒として使い続けることができる。
「――折角、何も恐れる必要のない体ヲ、あげたのですかラ」
「は……い」
女の声色から、感情の波が引いてゆく。
支配を揺るがせる感情が消えた今、男の呪縛は、死せる女を完全に捕らえていた。
「わかりますネ。あなたガ、するべきことハ」
虚ろだった女の目に、暗い火が灯る。
「殺す、こと」
「そうでス。殺し続けれバ、あなたは楽になれル。神様モ、それをお望みでス」
精神の均衡を失い、自らの罪に怯えていた女に、神父の出で立ちをした男の言葉は効果絶大だった。
逃げも抗いもせず死の呪法を受け入れたほどに。
男の声は、女にとってまさに神の声だった。
「殺したら……血が、アタシのものになるわ。赤い血が、沢山沢山」
既に血液のほとんどを失った彼女の体に、熱い血潮が戻ることなどありはしない。
どれほど欲しても、満たされることのない渇望なのだ。
しかし女は、それを理解するだけの理性を持たぬが故に、陶酔の表情で微笑む。
男は満足げに抱擁を解き、女の両肩に手を置いた。
細めた目でじっと見つめて――いま一度、命令を告げる。
「あなたの使命ハ、ひとツ。殺すのでス」
絶対の支配力を持った言葉。他のあらゆる思考も概念も、女の頭からは消え失せる。
殺せ。その命令だけが、彼女の中に響き渡っているだろう。術の効き目を確信し、男は更に目を細めた。

10 :天の父の如く優しく、残酷な:2006/10/07(土) 05:54:46 ID:I6bZ9eoe0
「……それにしてモ、予想外でス」
再び女を「狩り」に送り出した男は、その姿を見送りながら呟く。
生ける屍となった者が自我を保つことは、非常に稀である。
強靭な精神力か、何かに対する極めて強い執着心がなければ、生命への渇望と憎悪に囚われた屍鬼と化すのだ。
言わば死者の本能とでも呼ぶべきものに衝き動かされているだけだから、使役も容易い。
術を施した時、あの女の精神は弱り切っていた。強い感情や自我を持っているようには見えなかったが。
「アレフ……ト、言いましたカ」
女が口走っていた名を呟いてみる。生ける屍に、感情を甦らせかけた人間。興味が湧かなくもない。
「――しかシ」
男は首を横に振る。所詮、その男とて屍の人形ひとつ壊せなかった人間に過ぎない。
追い詰めてやるのも余興としては悪くないが、そこまで暇でもない。自ら手を下さねばならぬ相手は他にいるのだ。
「私モ、そろそろ動きましょうカ」
空を見上げる。日も高くなってきた。未明から動き続けている者は、疲れも出てくる頃だろう。
あの人形もだいぶ傷んでしまったから、次の人形も用意しておくべきかも知れない。
放送までに死んだ人間が十一人。あの女を除いても十人もいるのだ、使える死体もあるだろう。
死体を見付けられなかったら、作ればいい。

静かな街を、神父の法衣を纏った男――シド・デイビスは歩き出す。
この街に存在するあらゆる人間に、分け隔てなく死を与えるために。


【シド・デイビス(真・女神転生デビルサマナー)】
状態:良好
武器:不明
道具:不明
仲魔:なし(ヒロコをゾンビ化して使役中)
現在地:夢崎区→青葉区方面に移動
行動方針:皆殺しでス

【ヒロコ(真・女神転生U)】
状態:死亡 ネクロマによりゾンビ状態(肉体強化、2度と死なない)
   大道寺伽耶の一撃により胸に穴が開いているが活動に支障は0 ガラスの破片が多数刺さる
武器:マシンガン(銃弾はかなり消費)
道具:呪いの刻印探知機
仲魔:無し
現在地:夢崎区
行動方針:頭に響く殺せと言う命令に従い皆殺し

11 :覚醒:2006/10/11(水) 03:04:00 ID:LB3R7N1g0
「それ」を例えるとするならばTVの電源を入れた瞬間に生じる画面の歪みであろうか?
眼球と呼ばれる器官は正常に動作しているにも関わらず「彼」の意識は今だ混濁状態であった。
続く意識の混濁……
頭が朦朧としている。
TVゲームを再開する時に発生するロード時間と言うべきか?
「彼」は自分が何者であるかですら理解出来ない時が流れた。
「おはよう」
「あ、起きたんですね?おはようございます」
そんな二つの声が聞こえた様な気もする。
無論、それは幻聴である。
勿論、その様な声がかかるはずも無い。
「彼」は一人だったのだから……

……
……
!!

意識が完全に覚醒した。
「彼」の目前にあったのは完食したカップラーメン。
飲み干したコーヒーのカップ。
そして自分の所持品であるザックだった。
無論此処は寝る前と同じ地域である平坂区、その一般家屋の一部屋である。
夢ではない。
そうこれは「彼」にとっての紛れも無い現実。
否、恐らくは参加を強制された殆どの人間にとって悪夢と言って良いのかもしれない。
全員が殺し合い、ただ一人だけが生き残れると言うこのゲームは未だに続行していたのだ。
ふとラーメンを食べる直前まで使用していた時計の針に目を向ける。
この時計が正常に機能していると仮定するならば時刻は10時半をまわった所。
あれから2時間弱睡眠をとっていた事になる。丸一日以上寝たと言う憶測も可能だがさすがにそれは無いだろう。
幸いな事に誰にも遭遇しなかったらしい。
結局ゲームの開始からまだ六時間程しか進捗していない事になる。
いっそあのまま永眠出来た方が良かったかもしれない……と言った思考が脳裏を掠める。
否。
それでは「彼」の目的は達成する事ができない。
「生」に対する強い執着。必要なのはそれを得る事が可能な力。
その為には……このゲームに勝ち残る必要があるのだ。
しかし……と「彼」は思う。
藤堂と言うあの男、共に行動していた玲子と言う女。
共闘しているグループも存在している事は事実だ。
悪魔を使役し戦力として運用できる能力を持つ人物がいる事を「彼」は知っている。
また「彼」同様、魔法を使う事に長けた人物がいる事も「彼」は知っている。
そして「人修羅」と自ら名乗ったあの「悪魔」。
能力が未知数、そして判明しつつも実力が計り知れない参加者もいるに違いない。
既に開始から僅か2時間で11人の参加者が脱落しているのだ。
そして緩やかにせよ、急激にせよ、徐々にではあるが確実に脱落者の数は伸びるに違いない。
背筋に冷たい何かが走る。
嫌だ。
冗談じゃない。
俺は死にたくない。
じゃあどうすればいい?
俺が生き残るにはどう行動したらいい?
混乱した意識の中で起こりやすい無限思考ループに彼は陥る。
寒気の様な物が彼を強襲する。寒くないのに歯が自然と鳴り出した。両肩の辺りを思わず擦りだす。
まずは落ち着こう……と彼は冷め切った湯とインスタントコーヒーをカップにぶち込みそのまま一気に飲んだ。
水の様な温度、濃度も考慮せずに完成したコーヒー……当然、不味いの一言で片が付く。
だがその不味さが彼の脳を刺激した。
もしも喫煙者であればリラックスする為に思わず煙草を口に咥え火をつけるであろう。
だが「彼」にはその様な趣味は無かった。未成年者のせいでもあるが……
食事を行った前に戻って考え直す。

12 :覚醒:2006/10/11(水) 03:06:00 ID:LB3R7N1g0
更に武器や防具、その他の道具を調達するか……
参加者(出来れば弱っている人物)との交戦、勝利して武器等を鹵獲するか……
既にノルマは達成されている。一旦何処かに潜伏し午後六時の放送結果から行動を開始するか……
問題は積極的に行動し短期決戦を挑むか……?あえて消極的な行動をとり参加者の共倒れを狙いつつ長期的な生き残りを狙うか……?
そこまでが浮かんだ案であった。
と、ここでもう一つ案が浮かんだ。
「誰かと共闘し、頃合を見て共闘している相手も屠る」
口元からこぼれる卑屈で自虐的な笑み。
……なんとまぁ見事な構想だ。惨めで無様で卑怯な思考結果だ。
彼は声を殺しつつも笑い続けた。
しかし短期的な戦略と長期的な戦略の構想は基本的に異なる物である。それが混在せずにいたという事は彼が決して無能ではない事を証明していた。
どうしたものか……
「彼」の性格からして消極的な行動は向かない。
むしろ「好み」ではない。
何かしらの行動を起こさなければ事態は進まない事もまた事実。
頭の中で思考が未だにまとまらない。どう行動すべきが未だに判らない。
ふと思う。
もしも「あいつ」がいたら……悔しいが「奴」もいたのであれば相談等で何か指針を見出せたのかもしれない。
が……「彼」は一人であった。
湧き上がる劣等感。
なんてこった、自分はここまで判断力がなかったのか……
再び湧き上がる卑屈な笑み。

13 :覚醒:2006/10/11(水) 03:06:39 ID:LB3R7N1g0
まぁいいさ……と「彼」は開き直った。
俺は生き残る。必ず。
藤堂?
奴との対戦も楽しみの一つであるのも事実だ。
だが「そんなもの」は自分の目的に続く道の過程での話でしかない。
ザックを背に担ぐ。
「彼」は静かに立ち上がる。
誰かに気配を悟られたくは無い。敵意があるにせよ、無いにせよ自分が今此処にいる事を誰かに知られたくは無い。
静かにそして慎重に「彼」は玄関へと歩み寄る。
玄関へ近づくにつれ「彼」の眼光が鋭くなる。
銃を片手に構え、いつでも射撃可能な状態にする。もちろんトリガーには指を掛けない。
近接武器である斧に似た鈍器をいつでも握り締める様に位置を整える。
今までの戦いで身につけた生き延びる為の術。
慎重と臆病は異なる。
「彼」は決して弱くは無い。「彼」もいくつもの死線を乗り越えた人間であるのだ。
そうさ……と「彼」は思う。
大破壊前……実際に生きていたであろうと思われる時代……あの時の様な自分ではないのだ。
今の俺は魔法も扱え、銃器も扱え、こうして今を生きている。
落ち着いて対処すれば良いだけの話だ……
臨機応変。
……なんと素晴らしき言葉だ、畜生。
皮肉じみた思考を繰り返す内に玄関の前に辿り着いた。
身を屈ませ出来るだけドアノブから距離を取り利き手では無い方でドアノブを回転させる。
静かにドアを開ける。最小限に……自分の身が通るだけの空間を作り出すと「彼」は一気に飛び出した。
通りに面した壁の裏に身を寄せて呼吸を整える。
大丈夫だ。誰もいない。
無意識の内に天を仰ぐ。
神に祈った訳ではない。
ましてやこの自分の状況を怨んでいる訳でもない。
「彼」は太陽を探しただけだ。先程確認した時計の時刻が正しいのか天測を試みただけである。
「ふむ……」
無意識の内に出る一言。
太陽の位置、それを目視する事によって時計が指していた時刻が「ほぼ」正しい事を確認する事が出来た。
結論。
ゲームはまだ継続中、(恐らくではあるが)1日目の10時半……
午前6時以降に犠牲者が出たかはまだ判らない。
これは午後の放送でしか知ることは出来ない。
呼吸の整った所で「彼」は壁から道路に顔も出した。慎重に、最小限に。
誰もいない……
再び壁の内面に顔を戻り少し安堵。とりあえずは周囲の安全は確保されてはいるようだ。
そう「彼」は判断すると平坂区の中央に向け歩き出すのだった。

14 :覚醒:2006/10/11(水) 03:07:15 ID:LB3R7N1g0
【カオス・ヒーロー(真・女神転生)】
状態  :正常
武器  :銃(経緯から狙撃が可能?):斧に似た鈍器入手(刃は無い模様)
道具  :カーボライナー(弾丸:追加効果STONE):学園内にて三発消費
     高尾祐子のザック所持の中身(詳細不明、尚高尾裕子が所持していたザックその物は破棄)
     応急処置用の薬箱
     蝋燭&縄
     十得ナイフ
現在地 :平坂区
行動方針:なんとしてでも生き残る術を求める。藤堂尚也との再戦。

【現在時刻】
午前10時半

15 :堅物と知性派ムードメーカー:2006/10/11(水) 07:56:23 ID:zYYjaOSo0
「よっしゃあ! せっかくだから俺はこの赤い箱を選ぶぜ!」
一体何がせっかく≠ネのかは解らないが、塚本はそう言いながら並んでいるダンボールから赤い物を選び出し、力任せに破り開けた。
「テレッテッテー、新は退魔の水を手に入れた!」
またわけの解らないことをほざきつつ、ダンボールから勝手に入手した退魔の水の小瓶を頭上高く掲げる。
その様子を背後から眺めていた南条は、付き合ってられないと言った風に大きく溜息を付いた。
此処は蓮華台ロータス内に店舗を構えているサトミタダシ蓮華台店。
塚本の傷を治すために必要な薬品等を探しに来たのだが、手当てもそこそこに塚本は勝手に家捜しを始めたのである。
並べられた商品を手当たり次第にカバンに放り込んでいる上に、奴はあろうことかレジ裏を調べて勝手に会計帳簿の中身まで確認していた。
南条としては、いくら非常時とは言え商店の売り物を勝手に失敬するのはどうしても気が引けたが、
塚本の方はそんな彼に眼もくれず、何の躊躇いもなく今も陳列棚をひっくり返している。
そう言えば、道中塚本に身元を尋ねたら天海市でハッキングチームに参加している高校生だと言っていた。
ハッカーと言えばネット世界の盗賊である。
どうやら塚本は他人のものを盗むという行為自体にあまり罪悪感を覚えないタチらしい。
こういう状況では非常に羨ましい性格だ。南条は皮肉を込めた視線を注ぎながらもう一度溜息をつく。
しかしその時、南条は塚本のある行動に疑問を感じた。
「おい塚本…」
「心配入りません! もう此処に店員はいないのです!」
「…要りません、だ。お前は満足に日本語も喋れないのか?」
「……ちぇ。これだから坊ちゃん育ちはユーモアが無くて困る。で、何?」
「何をやってるんだお前は。」
「え? 何って、見て解らないかな。説明したでしょ。こんな状況だから必要なものを…」
「そうではない。お前さっきから見ていたら退魔の水ばかりを盗ってるではないか。
限られた場所でしか悪魔は出ないのに、何故そんなものが必要なんだ?」
今、南条たちが置かれている戦場で、戦う相手は人間のみ。悪魔の巣窟に足を踏み入れる必要は無いはずだ。
新本人はデビルサマナーの能力があるらしいのだが、悪魔召還に必要なGUMPと呼ばれる機械は没収されてしまい、
召還どころかまともに交渉することすら不可能。
南条の方も、ベルベットルームを利用出来ない為、悪魔との交渉を繰り返していくらスペルカードを入手しても全く使えないのである。
こうなると、悪魔の巣窟に足を踏み入れること自体が危険な上に無意味であり、そんな場所に行く必要性すら存在しない。
したがって退魔の水は必要無い筈だ。
それに第一、退魔の水はその名の如く、悪魔を退ける効果を持つ。
仮に交渉を目的として悪魔出現ポイントに向かうとしても、そこで悪魔を退けたのでは更に意味が無い。
南条の疑問は至極真っ当なものだと自負していた。
だが、塚本の方はそう思うことすらナンセンスと言わんばかりに人差し指を立てて横に振った。

16 :堅物と知性派ムードメーカー:2006/10/11(水) 08:00:21 ID:zYYjaOSo0
「ちっちっち。甘いな南条君。こういう時だからこそこの道具の真価が発揮されるのだよ。」
「どういうことだ?」
「どうやら最初から説明する必要がありそうだな。」
素直に理由を尋ねる南条に意味深な笑みを浮かべると、塚本はレジ台に投げられていた会計帳簿を手に取り、数枚捲った。
「此処の最後の日付は199×年8月31日、つまりこの店はその日まで営業されていたことになる。
で、郵便受けに入っていた新聞の日付は9月1日となっていたからこの街の住人が連れ出されたのはおそらくその日の早朝ってワケだ。」
「ふむ。そうだな。」
「で、さっきシルバーマン邸の庭先に猫が二匹死んでたのを見たんだが、覚えてるか?」
「ああ。同じ首輪をしたつがいの猫だったな。」
猫の屍骸は二匹とも腐敗が激しく、しかも骨と皮のような状態だったことからして餓死したのだと考えられる。
首輪にはオスの方に『殿』、メスの方に『姫』と名前が刺繍されていた。これによりこの二匹の猫の飼い主が同じだったことが解る。
子育て期間中のメス以外は単独行動を取る習性のある猫が、つがいと言えども同じ場所で同じように死んでいるのは珍しい。
おそらくこの二匹はシルバーマン邸で大切に飼われていた猫だったのだろう。
だから逃げずに、消えてしまった主人をずっと庭で待ち続け、そして餓死したのだと思われる。
南条としては、何の説明も無く突然殺し合いを強要されている自分たちや、突然街を追われた元の住人たち以外にも、
こんな形で被害を被っている者の存在を知ることにより、
この戦場を作り上げた原因の人物に激しい怒りを覚えただけだったが、塚本は何かに気付いていたようだった。
彼は続けた。
「で、その猫の死体なんだが、よく観察するとクロバエの三齢幼虫、それから蛹も沢山付いていた。
スマル市は関東にある海沿いの街だから天海市の気候とあまり変わらないから九月の気温は大体20度程度。
後はカツオブシムシも沢山付いていたから死語二十日前後って言ったところだろう。
猫は個体差こそあれど、餓死するまでに大体二十日程度だからそれを計算すると、今日の日付は十月初旬。
多分、三日か四日と言ったところか。」
唐突過ぎることが多くて、今の正確な日付を確認することすら怠ってしまっていたが、塚本はこの短い時間に、道具を探しながら分析していたらしい。
猫の腐乱死体を短時間で正確に観察する冷静さと、法昆虫医学という意外な知識に南条は舌を巻いた。
どうやらこの塚本新という男、南条が考えていた以上に頭が良く、また、実戦経験に富んでいるらしかった。
もっとも、意地っ張りな南条はそれで彼を簡単に褒めたりはしないが。
そんな南条の心境に気付いているのかいないのか、塚本はさらに続ける。
「重要なのは此処からだ。
俺はサマナーという職業柄、月齢にはちと詳しいんだが…」
それはペルソナ使いである南条も同様だ。
悪魔の生体バイオリズムは月の満ち欠けによって大きく変わる。
月齢が影響を及ぼす影響は悪魔の能力だけではなく、精神的にも作用する。
月齢の状態は、悪魔と交渉、または戦闘を行うことに置いて、まず確認を取らなければならない必須項目であった。
生きて悪魔の巣窟から脱出するために。それくらい重要なことだった。
「あっ!」
そこまで思い出した所で南条は声を上げた。

17 :堅物と知性派ムードメーカー:2006/10/11(水) 08:03:38 ID:zYYjaOSo0
「気付いた?
199×年10月の満月は4日の予定だ。この年は確か8月にグランドクロスがあったはずだが、多分月齢までに影響は無いだろう。
つまり、悪魔が最も活性化して凶暴になるのは今夜か、遅くても明日…。」
満月の日の悪魔は頭のネジが飛んでいるとでも言うのだろうか。凶暴になり、とてもじゃないが交渉なんて行えない。
その上満月の光は悪魔の戦闘力も格段に上げるため、戦うとしてもかなりの危険が伴うのだ。
しかもこちらにロクな武器が無い以上、それは自殺行為に他ならない。
「そうか、満月の日、悪魔出現ポイントには誰も来ない。と、言うことか。
そしてその満月時に退魔の水を撒いておけば、悪魔出現ポイントは一転して安全地帯になる。」
「そういうこと。
……まあこれくらいのことはサマナーとして当然知ってなきゃいけないワケだが……。
因みに俺の見立てでは、この街に連れてこられた人間の中には俺以外にも何人かサマナーがいる。」
「少なくとも、一人は確実にな。」
南条の記憶にあるサマナーはただ一人。軽子坂高校からの転校生、内田たまきだ。
彼女も歴戦のサマナーという話だから、日付に気付けば同じ事を考えているかもしれない。
たまきとはあまり親しくしていたわけではないが、南条の知っている彼女が進んで他者を屠って生き残ろうと考えているとは思えない。
どうにかして会うことが出来たら、こちらに引き入れることが可能かもしれない人物の一人だ。
「南条君の知り合いにもサマナーがいたのか。
俺の方は…知り合いっつーか、心当たりのある奴がいる。二人ほどな。」
塚本の知っているサマナーは葛葉キョウジ、葛葉ライドウの両名だ。
キョウジの方は何度か顔を合わせたことがあり(今同じ街にいるキョウジは塚本の知っているキョウジと全く別人の上、外見も違うのだが)
葛葉ライドウは、名前だけ聞いたことがある。
確か平安時代から続く悪魔召喚士の一派で、ライドウの名は代々世襲制だと聞いている。
名簿には十四代目と書いてあったが、残念ながら顔までは知らなかった。
「この街にはまだ多くて39人生き残っている。俺の知ってるサマナーはさっき名前を呼ばれなかった。
南条君の方は?」
「いや、聞いていない。」
「そうか。良かった…って、言っていいんだよな?
まあサマナーがそう簡単に死ぬことは無いと思うし、俺達が知ってるだけで三人のサマナーがいるワケだから、もっと沢山いると思っていいだろう。」
「その中で、この殺し合いに乗る意思の無いサマナーがいたなら、もしかしたら…。」
「そうだ。退魔の水か、エストマを使える仲魔がいれば、同じ事を考えるかもしれない。」
「いや、それはサマナーだけではない。この俺もそうだがペルソナ使いも悪魔と蜜月関係だ。だから…」
その時、南条は一つのことに気が付いた。
先ほど自分は、今ベルベットルームを使えないということを無意識の内に知っていた。
それは何故か。
此処に来る途中、同じくロータス内でベルベットルームの青い扉を発見したのだ。
だが、扉は固く閉じられ、押そうが引こうが絶対に開くことが出来なかったのである。
ベルベットルームは南条が関わったセベク・スキャンダルが解決すると同時に御影町から姿そのものを消したのだが、このスマル市には存在する。
イゴールの名は名簿に載っていなかったが、この街の何処かにいて、扉と繋がっているのだろうと考えるのが妥当だ。
しかし扉は開かない。それは一体何を意味しているのか…。
「南条君?」
ふと気付くと塚本が不思議そうな顔をして南条の顔を覗き込んでいた。
どうやらしばらくの間ぼんやりと押し黙ってしまっていたらしい。
しかも無意識に右手を首筋の――例の刻印が掘り込まれた辺りに当てて。
「……いや、何でも無い。」
「ならいいんだけど。」
本当は何か聞きたそうな雰囲気だったが、塚本は気を利かせて何も尋ねて来なかった。
どういうわけか南条の首筋に冷たいものが走っていたのだ。
ベルベットルームに入れないことと、この殺し合いの謎。それは非常に強い繋がりがあって、とても重要なことのように感じた。
だが、それ以上の回答は出てこなかった。そしてそのまま、この嫌な予感が当たらなければいいのだが……。
「さて、これからどうしようか。俺としてはもう少し使えそうな物を探したいんだが。」
「そうだな…。俺もこの区域にはまだ用事がある。」
南条が先ほどシルバーマン邸で拾ったメモによると、藤堂尚也がこの街の商店街付近にいる。
出来れば再開してこちら側に引き入れたい。
それに満月の夜までまだ時間があるのだ。それまでに何とか藤堂を見つけておきたかった。

18 :堅物と知性派ムードメーカー:2006/10/11(水) 08:05:58 ID:zYYjaOSo0
《午前9時半頃》

【南条 圭(女神異聞録ペルソナ)】
状態:正常
武器:アサノタクミの一口(対人戦闘なら威力はある)
  :鎖帷子(刃物、銃器なら多少はダメージ軽減可)
道具:ネックレス(効果不明):快速の匂玉
降魔ペルソナ:アイゼンミョウオウ
現在地:蓮華台
行動方針:仲間と合流

【塚本新(主人公・ソウルハッカーズ)】
状態:銃創による左肩負傷・応急手当済み(左手は何とか動かせるようになった。)
武器:作業用のハサミ
道具:物反鏡×1 傷薬×3 包帯 消毒液 パン(あんぱん・しょくぱん・カレーパン) 
銘酒「からじし」 退魔の水×10
現在位置:蓮華台
行動指針:蓮華台の民家で家捜し、スプーキーズとの合流

19 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/14(土) 23:01:06 ID:cDKV/WpcO
保守

20 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/17(火) 03:32:39 ID:NiSNSjy30
保守


21 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/18(水) 23:53:41 ID:ZRRofRhT0
保守

22 :この街の真実:2006/10/20(金) 14:39:11 ID:YiBaPQG+0
ザ・ヒーローと大道寺伽耶の両名は、天野舞耶の探索に出ているピクシーの帰りを待ち続けていた。
時刻は午前8時。
二人が青葉区のオフィスビルの三階に潜伏し始めてから一時間が経過していた。
「何か見えるか?」
オフィスビル内に置かれた本棚を漁り、何か資料として使えるものが無いか探していた伽耶が落ち着かない素振りでヒーローに話しかけた。
ヒーローは先ほどからずっと双眼鏡で窓の外を監視している。
外から、中に人間がいることを察知されたら危険だから、窓に掛かったブラインドは完全に下ろしていた。
ブラインドの隙間をこじ開け、そこに双眼鏡のレンズを押し込んで外を見ていたため、外の様子は伽耶には全く解らないのである。
「まだ何も…。」
二人のこのやり取りはこの一時間で何度目だろうか。会話をしている本人達も最早数えてはいなかった。
「そっちは?」
何度も同じことを尋ねてくる(むしろこの一時間二人の会話はこれだけだった)伽耶の方に視線すら向けない。
返答に何も期待していないからだ。
だがとりあえず、社交辞令的に尋ね返しておいた。
「少し興味深い物を発見した。」
「ふーん………
……え?」
全く希望的な観測はしていなかったため、伽耶の押さえた声の中にある興奮めいた発音に驚きを隠せなかった。
思わず終始覗き込んでいた双眼鏡から顔を離し、伽耶の姿をまじまじと見つめてしまう。
昨晩からすっかり見慣れたえんじ色のセーラー服姿の美しい少女だが、目つきは歴戦の戦士のそれで、鋭い。
そして、今は口元に不敵とも取れる笑みが零れていた。
一体伽耶はこの寂れたオフィス内で一体何を見つけたというのだろう。
ヒーローがざっと見た所、この会社は警備会社の地方支部で、
会社として機能していた最後の日が8月31日であったということ以外何も解らなかったのだ。
「これを見ろ。」
伽耶は言いながら小脇に抱えた一冊の本をヒーローに突き出した。
タイトルは『イン・ラケチ』
言葉の意味は古代マヤ語で『私はもう一人のあなた』である。
キスメット出版から出ており、著者は橿原明成となっている。聞いたことの無い名前だ。
「本棚ではなくデスクの引き出しに入っていた。どうやら此処の社員の私物だったらしいな。」
今一度オフィスを見渡す伽耶の言葉を聞き流しながら、ヒーローは受け取った本のハードカバーを開いた。
表紙のデザインは古文書を彷彿とさせるセピア色だが、本自体は新しいものだった。
前の持ち主も購入後は殆ど触れていないらしく、手垢などは全く付いていない。
見たところそれ程分厚い本ではない。
読み易さを意識したのか、印字されたフォントもかなり大き目だったが、じっくり読んでいる暇は無かった。
だから流し読みに留めておいたがそれでも内容はとてつもない驚きに満ちた物であった。
と、言うよりもむしろ何かの冗談のような文章の羅列で、ヒーローは思わず吹き出してしまいそうなのを堪えつつ目を通した。
「地球の文明は宇宙人であるマイヤ人が与えたもの? 蝸牛山がピラミッド?
…こんなもの信じる人間がいるのか?」
あまりにも陳腐で胡散臭い仮説の並んだ内容に、馬鹿馬鹿しさからあんぐりと口を開けてしまったヒーローだった。
が、目の前の伽耶の表情はあくまでも真剣だ。

23 :この街の真実:2006/10/20(金) 14:41:31 ID:YiBaPQG+0
「信じる者がいたのだろう。それもかなりの多数、な。奥付を見てみろ。
この本の持ち主が買ったのが最後の日…。
8月31日だったとしても、発売から数ヶ月で増刷が10回も掛かっている。
少なくともこの街ではとんでもないベストセラーだ。」
ヒーローも念のために奥付を見ると、確かに伽耶の言ったとおりだった。
実際に東京大破壊から、ガイア教、メシア教の戦い、大洪水を見てきたヒーローでも信じがたいことだったが、
この街の人間は余程信心深い人種だったらしい。
あるいは単に話のネタが欲しかっただけなのか?
ともかくこれはかの有名なノストラダムスの大予言とか言う大法螺も裸足で逃げ出すレベルのことだ。
「けど、いくらベストセラーって言っても、こんな内容じゃ…」
言いかけてヒーローははたと止まった。
この本が売れたのが別の時間軸の、別の場所であったなら問題は無い。せいぜい単なる笑い話で済むことだろう。
だが、この街はスマル市だ。
噂が次々と現実になる現象が起こったと言ういわく付きの街である。
「解ったか? 何故この街が浮いているか…。
つまり、この本に書かれていることが噂となり、現実になったからというわけだ。」
「じゃあ、この街を浮かせている動力となっている物は、ここに書いてある五つの水晶髑髏……。
それがこの街のどこかにあるということなのか?」
「ああ。だがこの本に書かれている四つの神殿は、おそらく無い。
俺もお前と同様、この街を隅々まで歩き回ったわけではないが、そのような目立つ建物があれば嫌でも眼に入るはず。
それに支給品のマップに載っていないのもそれを裏付ける。」
「それもそうだね。じゃあ、その前の段階…蝸牛山から入れるというカラコルに…」
「はたして…それはどうだろうか。」
「?」
ヒーローはきょとんとした。
本によると、カラコルの最下層に水晶髑髏が五つ集結し、そのエネルギーでスマル市は浮いたということになる。
その後、髑髏が五つある内の四つが安置されているはずの神殿が無いということは、
そのままカラコルに残されていると考えるのが妥当なはずだ。
「改めてこの戦いのルールと参加者を思い出せ。
ルールは問答無用の殺戮。
だが、俺達を此処に集めた主催者側に危害が加えられてはゲームそのものが成り立たないだろう。
だからあまりにも強力な大量破壊兵器は参加者には絶対に与えられないだろうし、作ることもおそらく不可能。
だが、集められた者はどうだ?
件のネクロマ使いもそうだが、かなりの力量を持った者が多数いると考えていいだろう。
勿論、魔法を使う者もいる。悪魔を使役する者もな。」
力を持った者とは勿論、この伽耶の内にいる四十代目葛葉ライドウと、ザ・ヒーローも含まれている。
他にも、ヒーローの思い当たるところでは、先ほど一戦交えたロウヒーロー、そしてヒロイン、カオスヒーローもその気になればかなりの力を発揮する。
そして、伽耶に宿る四十代目葛葉ライドウと縁のある人物、
名簿にあった十四代目葛葉ライドウ、そして同じ葛葉の名を冠する葛葉キョウジも気になるところだ。
後、ヒーローと伽耶の知っている人物では南条圭。
この時代(二人にとっては遠い過去)では世界的に有名な南条コンツェルの跡取りということだが、力量までは不明だ。

24 :この街の真実:2006/10/20(金) 14:43:38 ID:YiBaPQG+0
伽耶の仮説は続いた。
「主催者はこの街の出身者もいると言っていたが、
その出身者がイン・ラケチの内容を知った上で、その水晶髑髏を探そうと考えるかもしれないのは容易に察することが出来るだろう。
勿論、俺達のように、初めてこの街に来てこの本の内容を知る者も他にいるかもしれないが……。
兎に角、主催者側から考えて、この本の通りの場所にそんな強大なエネルギー体をそのままの場所に置いておくとは考えにくい。」
「確かに…。けど街がまだ浮いているということは…」
「ああ、何処かに必ず水晶髑髏はある。
俺の予測が正しければ、主催者の手の届く場所にな。」
それは最も解り易い推測だが、おそらく当たっているだろう。
水晶髑髏という危険な代物が参加者の手に渡りにくく、更に安全に守れる場所がそこなのである。
「話が振り出しに戻ってしまったね。
何処かに潜んでいる主催者を見つけられないとどうにもならないというわけか。」
「そうだ。
だが主催者なる人物を見つけられたとしても、それが俺達の…最期の記憶となるだろう。」
厳しい視線と口調で言い、伽耶はセーラー服の襟元を少しずらした。
白くて細い首筋には例の凶悪な刻印、参加者全員に分け隔てなく与えられた死の宣告が刻まれているのだ。
ヒーローは盛大な溜息をついた。
「全く、よく出来たルールだな。僕らには殺し合い以外打つ手は無し…ってことか。」
「ああ、忌々しいことだ。」
伽耶が小さく舌打ちをし、どさっと革張りのソファーに座った。
ヒーローはその横にイン・ラケチを投げ、再び双眼鏡で外を見ようとブラインドを指で押し上げた。
「あ……!」
双眼鏡を覗き込んだヒーローは小さく声を漏らした。
「どうした?」
反射的に伽耶が立ち上がる。
そしてやはり骨髄反射的にポケットの中の管に手が伸びていた。
「人がいる…!」

25 :この街の真実:2006/10/20(金) 14:46:38 ID:YiBaPQG+0
「……! 貸せ!」
短い言葉が終わるか終わらないかの内に伽耶はヒーローから双眼鏡を奪い取り、覗き込んでいた。
双眼鏡からは、一人の少年の姿を垣間見ることが出来た。
スラリとした長身で、きりっとした凛々しい眉眼と、真一文字に引き絞られた形の良い口元。
ヘルメットのように見える少々奇抜な髪形だが、神話の男神を髣髴とさせるような美貌を持った少年である。
その少年が、周囲をやや気にしながら歩いているのだ。
そして、大道寺伽耶ではなく四十代目葛葉ライドウとして気になるのは彼の身のこなしだった。
「あいつ、全く隙が無い……。」
年端の行かない少年として見たら、少し珍しいことだ。
彼もこの殺し合いに呼ばれるべくして呼ばれた、と言うことだろうか。
「それに…」
伽耶はごくりと唾を飲み込んだ。
「あの少年は、この街の出身者ではないか。」
伽耶は先ほど見ていた。
イン・ラケチがしまってあったデスクに一枚の家族写真が飾られてあった。
そこには警察官の制服を着た父親と思しき中年男性と、母親と思われる女性、そして二人のよく似た兄弟いた。
双眼鏡から垣間見える少年は、少々成長しているが、紛れも無く写真に写っていた弟の方であった。

《午前8時過ぎ》

【ザ・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:体中に切り傷 打撃によるダメージ 疲労(ガリバーマジックの効果によりほぼ回復)
武器:鉄パイプ、ガンタイプコンピュータ(百太郎 ガリバーマジック コペルニクスインストール済み)
道具:マグネタイト8000 舞耶のノートパソコン 予備バッテリー×3 双眼鏡
仲魔:魔獣ケルベロスを始め7匹(ピクシーを召喚中)
現在地:青葉区オフィス街にて双眼鏡で監視しつつ休憩中
行動方針:天野舞耶を見つける 伽耶の術を利用し脱出 体力の回復  

【大道寺伽耶(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態:四十代目葛葉ライドウの人格 疲労(少し回復)
武器:スタンガン 包丁 鉄パイプ 手製の簡易封魔用管(但しまともに封魔するのは不可能、量産も無理)
道具:マグネタイト4500 双眼鏡 イン・ラケチ
仲魔:霊鳥ホウオウ
現在地:同上
行動方針:天野舞耶を見つける ザ・ヒーローと共に脱出し、センターの支配する未来を変える 体力の回復

26 :笑顔:2006/10/21(土) 18:50:57 ID:3NK9wVym0
「どうする?」
伽耶の横から指でブラインドに隙間を作り、ヒーローは外に見える少年を見つめながら尋ねてきた。
ヒーローの双眼鏡は伽耶が持っているのだから、彼からしてみたら、少年の姿は豆粒程度にしか見えないはずだ。
双眼鏡を奪われる前に一瞬だけ見ているとは言え、警戒は解いていない口ぶりだった。
「どうもこうも、一度接触を試みる。
あの少年がこの街の出身者ならば、こちらに引き入れるメリットは多い。」
「だが…彼は大丈夫なのか?」
ヒーローはちらりと少年の方に眼をやり、それから振り返るとじっと伽耶の顔を覗き見た。
彼はこの街に来て既に狂気に駆られた旧友と一戦交えているのだ。
いや、彼とはこの街に連れて来られる前に、戦い、自らの手で殺しているのだ。
本来の彼はとても心優しい青年であったはずだが、紆余曲折を経て非常に好戦的な性格へと変貌してしまったのである。
同じようなことが窓の外を歩いている少年に起こらないとは限らない。
ましてや二人とも彼のことを全く知らないのだ。
混乱や憎悪以前に、あの少年が最初からやる気だったらどうするつもりなのか。
二人とも少年の姿は遠目にしか見ていないが、隙を全く見せない身のこなしから相当な使い手ということは押して測らずである。
こちらは二人いるとは言え、戦うとなったらそれなりの消耗は必須であろう。
探している天野舞耶もまだ見つかっていない状況で、それはかなり大きなダメージとなる。
「ヒーロー、お前はここに残れ。」
「え?」
「俺が一人で交渉に当たる。いざと言うことがあるかもしれないからな。」
「一人で行くなんて、それは危険だ。」
「お前は…ピクシーと天野舞耶を待たなければならないだろう。
もしお前が死んだら、これまでやって来たことが全て無駄になる。
だが、俺は元から天涯孤独の身。目的は果たせなくとも死して悲しむ者はおらん。」
「……馬鹿野郎。」
「何だと?」
ヒーローがぼそりと呟いた暴言に伽耶は眼をぱちくりさせた。
しばらく話してみて解った、コロシアム初代チャンプとは思えない温和な性格のヒーローの口から飛び出したその言葉は胸に響いた。
「死んでも誰も悲しまないなんて思ってはいけない。
貴女が生きている以上、誰かが必ず貴女の帰りを待ってるんだ。
……それに、その身体の持ち主のことも少しは考えろ!」
伽耶、いや、四十代目葛葉ライドウはその言葉にびくりと肩を震わせた。
大正時代に生まれた自分の先祖だということ以外で、この身体の持ち主に対して特別な感情は抱いたことは一度も無かった。
だが、この身体、大道寺伽耶にも家族がいて、友がいる。
ましてや年頃の娘なのだから恋の一つでもしているかもしれない。
大道寺伽耶が、おそらく大切にしていたであろう長く美しい黒髪をばっさり切り落としてしまったことを一瞬だけだが、後悔した。
戦闘のことを考えると、長髪は時として命に関わる。
だから戦いが避けられない以上、邪魔な長髪を切り捨てたのは決して間違った判断ではない。
当然のように利便性と安全性のみを考えて切ったのだ。
だが、大道寺伽耶は自分と同じテンプルナイトではなく、戦いとは無縁の普通の女の子なのだ。
今更そんなことを思い出したことで仕方が無いのだが、ヒーローに真正面から訴えられ、四十代目葛葉ライドウの胸は痛んだ。
「……解った。無理はしない。だがやはりお前はここに残れ。
少し休んで回復したから一度の召還くらいは耐えられるだろう。
だが万が一のことがあったら、必ず助けに来てくれ。」
最後は笑顔で言った。不器用だが、精一杯の笑顔。心からの笑顔。だから、信じることが出来た。
「ああ、解った。」
そう言い、ヒーローもそれ相応の笑顔で大きく頷いた。

27 :笑顔:2006/10/21(土) 18:52:25 ID:3NK9wVym0
いきなり襲い掛かってきた新田勇を撃破した後、しばらく青葉区を歩き回ってある程度の物資を補給した周防達哉だったが、
まだ武器として使える道具を一つも見つけられていないことに焦りを感じ始めていた。
自分の身体能力にはそれなりの自信を持っている。
それに自分には強力なペルソナ能力があるので、多少のダメージなら耐えられる。
だが、そんな自分よりも強い者に奇襲されたらどうなるだろう。
ペルソナはもう一人の自分であり、今は唯一の武器だ。
だが、召還には若干タイムラグがある。
奇襲に気付いて呼び出したのでは間に合わないかもしれないのだ。
それならば、反射的に取り出せる武器――理想は使い慣れた刀か、銃がいい――が必要となる。
相手が完全武装していた際、さすがの達哉も素手で立ち向かう度胸は無かった。
だから武器の入手は最優先の課題であるが、ここはビジネス街の青葉区。
せめて骨董品屋かミリタリーショップでもあれば……と思ったが、
見渡す限りオフィスビルばかりでそんな都合の良い店は一つも無かった。
最悪、民家があれば、調理用の包丁を失敬することも出来るが、どうもそれも見当たらない。

そんな追い込まれた状況が達哉の判断能力を鈍らせていたのだろう。
普段なら絶対に犯さないであろう愚考だが、相手を見る前に先制攻撃を仕掛けてしまったのだ。
それも、普通に考えたら殺し合いとは無縁であろう、臙脂色のセーラー服を着た華奢な少女に。

28 :笑顔:2006/10/21(土) 18:54:48 ID:3NK9wVym0
「ペルソナ!」
叫びと共に、真紅に燃えるアポロが出現する。
そして、それは大きく腕を振りかぶり、炎の魔法、アギダインを発動させた。
「なぁっ!」
炎の塊は少女の足元に炸裂すると巨大な火柱を作り上げ、視界を真っ赤に染めた。
驚いた少女の声が一瞬聞こえたような気がしたが、仕留めたという手ごたえは感じられない。

避けられた?

そう判断するより先に、再びアポロを召還する。
熱気を含んだ粉塵の中に、微かに伺える気配を辿る。
今度はしっかり捉えて止めを刺すために、物理攻撃・ギガンフィストを仕掛ける。
アポロが跳躍し、少女に向かって腕を伸ばしながら加速する。距離的にも絶対に逃れられないだろう。
達哉が思った通り、少女は逃げなかった。だが、倒れもしなかった。
土煙が晴れた車道の真ん中で、少女はアポロの強烈な一撃を、何と一本の鉄パイプで受け止め、踏ん張っていたのである。
見かけによらす強靭な肉体の持ち主らしい。
だが、アポロの強烈な一撃は細い鉄パイプを真っ二つに叩き折り、少女を捕らえるために加速した。
「甘い!」
だがそれを見切っていたのだろう。少女はとんぼを切って後退し、折れた鉄パイプを投げ捨てると、
今度は懐から何かを取り出し、アポロに向かって投げつけた。
「ぐっ!」
達哉の脇腹に激痛が走る。
アポロの脇腹、丁度達哉が痛みを覚えた箇所に包丁が刺さっていたのだ。
ペルソナが受けたダメージは、そのまま自分に跳ね返ってくる。
達哉は思わず右手で腹を庇い、その瞬間アポロは消滅した。
考えていた矢先にとんでもない強敵にぶつかってしまった。
目の前に迫る少女のポテンシャルは相当なものだ。
鉄パイプ、それにただの包丁という貧弱な装備で、太陽神アポロを撃退したのである。
奇襲されていてこれなのだから、少女と自分がまともに戦っても勝てる見込みは薄かった。
だが、こんな所で諦めて死ぬわけにはいかない。
自分は舞耶姉を見つけ、守り、このゲームの主催者を倒すのだ。
「来い、アポロ!!」
痛みを堪えてもう一度ペルソナを呼び出す。今度こそ、目の前の障壁を取り除くために。
「遅いわ!」
だが、今一歩及ばなかった。
アポロの影が一瞬浮かんだが、技を繰り出す前に少女の蹴りが達哉の顔面に入り、弾き飛ばされた。
倒れた達哉の元に再び少女が接近してきた時、達哉は殆ど直感的な動きで跳ね起きると両手で少女の細い首を捉え、締め上げた。
「うぐぅっ……くっ…ッ!」
少女が悶絶から低い呻きを漏らし、両腕で達哉の手首を掴んで引き剥がそうとする。
だが、純粋な腕力は達哉の方が上回っていたらしい。この瞬間、形成は逆転した。
首を掴んだ達哉の腕はぴくりとも動かず、そのまま少女をコンクリートの地面にうずめさせた。
めりめりと指が首に食い込む音が聞こえるような気がする。
目の前に迫る少女の顔は、眼球が飛び出すほど眼を見開き、顔色も窒息寸前で真っ赤だった。
「すまない…!」
人を殺すという後味の悪い苦味に達哉は歯を食い縛り……。
見ず知らずの少女に対する罪悪感から小声で謝罪すると、手にさらなる力を込めた。

だが、その時達哉の視界が大きく歪んだ。少女の顔が酷く捻じ曲がる。
それから鈍い痛みが後頭部に襲い掛かり、直後、強烈な眠気にも似た倦怠感が全身を襲った。
奇妙な浮遊感と意識の揺れに耐えられず、達哉は昏倒し、少女に覆いかぶさるようにうつ伏せに倒れた……。

29 :笑顔:2006/10/21(土) 18:56:46 ID:3NK9wVym0
「げほっ! がはっ! がはっ!」
少年の腕からようやく開放された伽耶は、覆いかかる彼の身体を押しのけて這い出ると、首を押さえて激しく咳き込んだ。
急激に肺へと取り込まれた酸素にむせ返ってしまう。
「大丈夫か?」
そんな彼女に鉄パイプを手にしたヒーローが余っている方の手を差し伸べた。
「…ああ、何とか生きている……すまない……はぁ、はぁ…!」
だがその手は受け取らず、伽耶は呼吸を整えると自らの力で立ち上がった。
首の状態を確かめると、爪が食い込んでいたらしく、わずかに血が滲んでいたが、動脈に異常は無かった。間一髪である。
もしもヒーローの登場があと数秒でも遅れたらと考えるとぞっとした。
四十代目葛葉ライドウは、この街に来て初めて死の恐怖と戦ったのだ。
この身体は決して自分のものでは無い。そう思って、初めて抱いた感情である。
「どうやら説得ってのは無理みたいだね。どう考えても彼は戦う道を選んだみたいだ。」
倒れた少年を見下ろし、彼に喰らわせた鉄パイプを肩に引っ掛けたヒーローはそう呟いた。
だが、伽耶はその言葉に首を横に振った。
「いや、それは違うと思う。
多分、この少年も恐怖と戦っていたのだろう。俺と同じでな。」
「あんたの口からそんな言葉が出るなんて…ちょっと意外かもしれないね。」
伽耶はヒーローの言葉を聞きながら小さく息を漏らし、たった今締め上げられた首に手を当てた。
「こいつは……俺の息の根を止めようとした時、小さく謝ったんだ。
その時、何とも言えない悲しい瞳をしていた。
俺にはこいつがとてもこのゲームに乗った人間だとは到底思えない。
この少年とは、落ち着いて話せば解り合えそうな気がする――。」
その言葉は、はたして自分の言葉なのか、内に眠る大道寺伽耶のものなのか、口にした本人にも解らなかった。
だが、ただ一つ言えるのは、たとえどちらの言葉であったとしても、それは二人の本心に他ならないのだ。
それだけは確実だった。

「さっきのビルに戻ろう。彼は僕が運ぶよ。」
「?」
「こう見えてもフェミニストなんだ。女性に重い荷物を運ばせるわけにはいかないからね。」
「ふっ、そうしてくれると助かる。」
伽耶はほんの少し安心したような優しい笑顔を浮かべると、
倒れた少年を肩に担ごうとするヒーローを置いて、先ほどのビルに向かって軽やかに駆け出した。

30 :笑顔:2006/10/21(土) 18:58:03 ID:3NK9wVym0
《午前8時半》

【ザ・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:体中に切り傷 打撃によるダメージ 疲労(ガリバーマジックの効果によりほぼ回復)
武器:鉄パイプ、ガンタイプコンピュータ(百太郎 ガリバーマジック コペルニクスインストール済み)
道具:マグネタイト8000 舞耶のノートパソコン 予備バッテリー×3 双眼鏡
仲魔:魔獣ケルベロスを始め7匹(ピクシーを召喚中)
現在地:青葉区オフィス街にて双眼鏡で監視しつつ休憩中
行動方針:天野舞耶を見つける 伽耶の術を利用し脱出 体力の回復  

【大道寺伽耶(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態:四十代目葛葉ライドウの人格 
疲労 首に爪跡があるが、大したダメージではない
武器:スタンガン 包丁 手製の簡易封魔用管(但しまともに封魔するのは不可能、量産も無理)
道具:マグネタイト4500 双眼鏡 イン・ラケチ
仲魔:霊鳥ホウオウ
現在地:同上
行動方針:天野舞耶を見つける ザ・ヒーローと共に脱出し、センターの支配する未来を変える 体力の回復

【周防達哉(ペルソナ2罪)】
状態 頭を強打され昏倒 脇腹負傷(出血は無し)
降魔ペルソナ アポロ
所持品 チューインソウル 宝玉 虫のようなもの 
傷薬×5 ディスポイズン ディスシック ディスパラライズ マッスルドリンコ
行動方針 仲間との合流 主催者を倒し、ゲームから脱出する

現在地・青葉区オフィスビル

31 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/28(土) 02:59:09 ID:mpXxTUW60
保守

32 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:39:17 ID:q+/+ZstI0
「……おい」
声を落として明が呟く。そのただ一言で、キョウジは問い掛けの意味を察した。
体は思い通りには動かないが、頷く程度はできる。
「ああ、気付いてる。近くに……いるな」
激戦を繰り広げた春日山高校前を後にし、歩き出してから二時間弱。
何者かの濃い気配を、キョウジは感じていた。恐らく明も同じものを感じ取っている。
戦い慣れているとはいえ、キョウジには霊感のようなものはあまりない。
姿の見えない人間を気配だけで察知することができるほど、感覚は研ぎ澄まされてはいないのだ。
つまり、その何者かの気配がわかるということは。
「相当、やばい相手だな……」
キョウジの言葉に、今度は明が頷いた。
気配と言うより妖気、いや瘴気と表現した方が相応しいかも知れない。
見えない位置にいても感じ取れるほど、強烈な気をその人物は発している。
いや――人物と言うよりも、悪魔だろうか?
あの神代という少年も人間離れした強さだったが、彼でさえここまでの存在感と圧迫感を醸し出しはしなかった。
今この近くに潜んでいる存在が、人間の力を超えたものであることは間違いない。
そして、もう一つわかる。
奴は、やる気だ。

明は先程奪った荷物の中の魔石で右手の傷は癒したものの、キョウジを守るほどの余裕はないだろう。
結果的に互いを助ける形にはなったものの、彼の戦い方は誰かを守るとか、そういう類のものではない。
キョウジ自身はというと、麻痺したままでまともに動けない。
当初は自力で歩こうとしていたのだが、十数分ともたずにへばってしまい、今では明に肩を借りている始末。
強敵との遭遇タイミングとしては最悪だ。こんなコンディションでなければ、まだ切り抜ける自信はあるが。
高校の前に留まっていては銃声や声を聞き付けた者と鉢合わせ、弱っている所を狙われる危険があると思って移動を開始したのだが――
結果論ではあるが、動いたのは失敗だったか。いや、動くにしても別の方向を選ぶべきだった。
キョウジが最初に転送された方向、先程の高校から南方面には、麻痺治療薬を置いていそうな場所はなかった。
明達と出会う前に薬屋のチェーン店は見掛け、覗いてみていたが、回復役はほとんど撤去済。
主催者の念の入れようには呆れたものだ。
学校の中にも、明が漁ってきた以上の薬品類はなかったらしい。
神代から奪った荷物の中にも残念ながら、お馴染みのディスパライズは見当たらなかった。
北に進めば、地図によると夢崎区。繁華街なら物資は多そうだ。
それも同じように取り払われてしまっているかも知れないが、少なくとも新しい場所へ行くのは無駄足にはならない。
そこで、二人は北に進路を取っていたのであるが。

33 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:39:52 ID:q+/+ZstI0
この場を切り抜けるには、どうすればいいか――キョウジの逡巡は、突然打ち切られる。
肩を貸して支えていた彼の体を、明が道路の隅に放り出したのだ。
尻餅をつき、思わず抗議の声を上げようとして、そういえば大声を出す訳にはいかないと気付く。
恨めしげに視線を向けると、明はにやりと不敵な笑みを浮かべ、肩に担いだ二つのザックをキョウジの横に放った。
明の殺された仲間の持ち物や神代から奪ったものなども、既にこの二つのザックに移し替えている。
「ここにいろ」
潜む何者かに聞き取られないようにか、低い声で明が言う。
「独りで戦う気か」
「今のあんたじゃ足手纏いだ」
遠慮会釈もなく言い捨てて、明は地面に置いたザックから幾つかの品を取り出した。
まず、それなりに防御効果がありそうなグローブを手にはめる。
今まで使っていた重そうな刀ではなく、神代から奪った刀――無想正宗を右手に。拳銃を左手に。
最後に、残った三個の魔石の中から二個を制服のポケットに入れた。
足手纏いになるというのを否定できないキョウジとしては、黙々と装備を整える明をただ見ているしかない。
「……後は、置いてくか」
身軽さを保てる程度の装備をすると、明はキョウジを一瞥した。
重い道具と同じ、文字通りの「お荷物」を見るような視線を向けられるのだろうと覚悟していた。
が、違った。ばつの悪そうな、意外に穏やかな顔。
ふんと鼻を鳴らして、明はキョウジの方に残った一個の魔石を投げて寄越す。
「いいのか。持っていかなくて」
放られた魔石を辛うじて受け止めて、手の中に収める。
「話の通じる奴は生きててくれると助かるからな」
「……ありがとう。気を付けてくれ」
明はそっぽを向いて再び鼻を鳴らすと、足音を殺し、油断のない動きで道路を駆け出した。
キョウジを巻き込まないように別の場所に相手を釣り出そうというつもりだろう。
力になれないのが心苦しいが、彼の気遣いはありがたかった。

34 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:41:11 ID:q+/+ZstI0
「どこに居やがる。出て来い」
皮膚をちりちりと焦がすようにすら感じられる、人ならざるものの気配。
それを辿り、キョウジを降ろした場所が見えない位置まで動いてから明は立ち止まる。
この近くに何者かがいる。それは嫌と言うほど感じるが、正確な方向までは掴めなかった。
ある程度近付いた辺りで、その殺気のあまりの濃密さに感覚が狂ってしまったような気がする。
しかし、明は怯んではいなかった。
悪魔人の強靭な肉体こそ今は持っていないが、積み重ねた戦いの経験は失われていない。
ガーディアンの力もある。戦える自信はあった。
そして、彼には逃げるという選択肢は存在しなかった。
気に入らない相手は叩きのめす。それが彼の流儀だった。一介の不良として燻っていた頃から、ずっと変わらない。
「出て来いよ、腰抜け野郎」
挑発の言葉を吐き出しながら意識を研ぎ澄まし、周囲のあらゆるものに注意を向ける。
一瞬でも油断したら喉笛を食い千切られかねない。そんな気配を持った相手だ。
が、その「人ならざるもの」は明の予想を裏切る形で現れた。
「勇敢ね」
くすっと笑う声がした。澄んで良く通る女の声。
道の向こうから、人影が近付く。彼女がこの禍々しい気配の主であることは直感で理解できた。
(女……?)
悠然と歩み寄ってくるのは、白髪の華奢な少女。年頃は明とそう変わらないだろう。
(――いや、ただの女じゃない)
彼女の姿は、一見してわかる異様なものだった。髪の色だけではない。
少女の腕は片方、肘から下が欠損していた。それが示す事実は一つ、彼女は既に誰かと戦ったのだ。
しかし重傷を負わされているにも関わらず、彼女は余裕に満ちた笑みを浮かべている。
苦痛も、焦りも微塵ほども感じられない。あるのはただ――殺気だ。
そしてもう片方の腕は、人外のものとしか呼びようがない形状に変化している。
(どうやら同類、って訳か……)
化け物なら見慣れている。魔界に落ちた学校で見た悪魔達。そして悪魔人と化した自分自身。
今更、恐れる気持ちが湧いてくるはずもなかった。
正面から睨み付ける。少女は涼やかな微笑のまま、表情を変えない。
「勇敢だし、口だけでもなさそう。楽しませてくれそうね」
「……遊びに付き合ってやるほど暇じゃねえ」
互いの殺意を確認すれば、言葉はそれで充分だった。
明は無想正宗を握り締め、アスファルトの地面を蹴る。少女はそれを、微笑を湛えたまま正面から見据えた。
距離は一瞬で詰まる。構えを取る様子もない少女に向けて、明は浅い斬撃を繰り出した。
牽制のつもりだった。戦いの最初の一手。そのまま喰らってくれるなどとは期待していない。
が、起こったのは明の予想の範囲を超える出来事だった。
少女の異形の腕が更に捻じ曲がり、不規則な軌道を描いて明に向かい伸ばされたのだ。
その勢いで、斬撃は軽々と弾かれる。
驚きに僅かに反応が遅れる。手から離れた無想正宗が、乾いた音を立てて地面に転がった。
女のものではありえない――いや、人間のものですらありえない力と速度で、異形の腕は更に迫り来る。
心臓を抉ろうとしているのだろうか、黒い腕が正確に左胸を狙う。
明はそれを、避けなかった。
少女が侮蔑の表情をする。これだけで終わるなど、つまらない相手だとでも言うように。
それとは対照的に、その攻撃が心臓の位置を捉える瞬間――明は、少女に見せ付けるように笑みを浮かべてみせた。

35 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:42:35 ID:q+/+ZstI0
「く……っ!」
小さく呻き、よろめいたのは少女の方だった。
明には何の痛手もない。体勢を崩してさえいなかった。
(よし。狙い通りだ)
敵の隙を明は見逃さない。再び大地を蹴って間合いを詰め、至近距離まで近付いてから左手の拳銃を突き付けた。
狙うのは、剥き出しの肩。
ほとんどゼロ距離でトリガーを引く。銃声と共に血飛沫が飛んだ。
「よくも……!」
少女の瞳に、声に、憎悪が滲んだ。肩を撃たれた程度では大した痛手にならないらしく、異形の腕が再び伸ばされる。
胴を狙っても自分が傷付くだけだということは悟ったはずだ。次に狙ってくるのは頭か、脚か。
攻撃の軌道を見切ろうと、少女の姿をした化け物を睨む。
少女の華奢な体とはアンバランスな黒い腕が振り上げられる。上だ。
この少女の力は尋常ではないが、ガーディアンの加護を得た明もまた人外の膂力を備えている。
動きさえ読めれば、受け止められるはずだった。
――そう、動きさえ読めれば。
異形の腕は、受け止めようと構えた明の頭上で突如、幾つにも枝分かれした。
触手状になったそれは明の腕に突き刺さり、或いは頬を掠め、そして足元まで達して絡み付く。
巨大な腕による重い一撃を予想していた明は、その攻撃には無防備に等しかった。
触手に足を引かれ、バランスを崩した所に別の触手が迫る。目の前に。
激痛と共に、視界に赤い閃光が走った。
「ぐぁ……あああぁぁっ!」
悲鳴と言うよりほとんど咆哮に近い絶叫が、明の喉から迸る。
痛みと、怒りと、なお燃え上がる闘争心。それらが混じり合い、明の中で渦巻き、憎悪を湧き起こらせる。
目の前は真っ赤に染まり、何も見えない。
出血で視界が妨げられただけなのか、今の一撃で完全に目を潰されたのかは判断が付かない。
そんなことを考えている余裕も、気にする冷静さもなかった。
無我夢中でガーディアンの力を解放する。明の足元から炎が吹き上がり、絡み付いた触手を灰にした。
異形の腕が遠ざかるのを感じる。炎に焼かれながら追撃を続ける気は、さすがにないようだ。
しかし、退く気がないのは二人とも同じに違いなかった。少女の放つ殺気は、全く減じた様子がない。
「まだやる気があるなんて、面白いじゃない!」
優位を取り戻したゆえか、幾分余裕の戻った調子で少女が言い放つ。
その声には、先程までになかった熱が篭もっている。
「さっきは不覚を取ったけど……種はその服ね」
明の制服は、攻撃を受け止めた左胸の部分が破れている。そこから覗くのは髑髏の稽古着。
物理攻撃を完全に遮断し、攻撃してきた力をそのまま相手に返す防具である。
それに覆われていない部分にまでは効果を及ぼさないのが難点ではあるが、物理攻撃を主とする相手には非常に強力だ。
支給されたこの防具を、明は制服の下に密かに着込んでいたのだ。

36 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:43:11 ID:q+/+ZstI0
空気の動きを感じる。少女が動いたことを、明は知覚した。
「同じ手は二度も通用しないわよ」
さも愉快そうに、それこそゲームでもしているような口調で少女が言い放つ。
「……うるせえんだよ」
その余裕に憎悪を煽られ、明は吐き捨てる。
目が見えない今、攻撃を見切って避ける、或いはガードすることは難しい。となれば、作戦は一つだ。
ぎりぎりまで引き付けようとタイミングを計る。動くのが一瞬遅ければ負け、それでゲームオーバーだ。
触手が空気を切り裂き、目の前まで迫ってきた――と感じたのと同時に、精神を集中する。
ガーディアン、魔神ラーの力が流れ込む。
「喰らえ……マハラギダイン!」
怒号と共に、魔力を一気に放出する。膨大な熱が溢れ出すのを周囲に感じる。
「早いわね。二度は通じないと言ったでしょう?」
一瞬にして燃え上がった炎の轟音の向こうから、嘲笑の響きを帯びた少女の声が聞こえる。
炎が自らの場所まで届かなかったことで、明がタイミングを見誤ったと思ったのだろう。
が、それは誤算だ。
誤算だというのを思い知らせてやろう、と明は思う。このタイミングこそ、彼の狙い通りなのだ。
行く手に燃え上がる炎の中に、いや、炎の向こうに明は飛び込んだ。
「これは一度目だ」
「なっ……」
すぐ鼻の先から、少女の狼狽した声が聞こえた。
自らの生み出した炎に突っ込み、衣服に火を纏った明は、そのまま正面の敵に体当たりを喰らわせる。
人間離れした化け物とはいえ、体格は少女。その華奢な体は簡単に吹き飛んだ。
まだ煙を上げる衣服と火傷を構いもせずに、明は気配で少女を探り当てる。
視覚が絶たれたことで他の感覚が研ぎ澄まされたためか、濃密な殺気にも慣れてきたためか、今なら彼女の位置は正確に掴めた。
死の危険を前にして、生存本能によって普段以上の能力が引き出されているのかも知れない。
倒れたまま未だ体勢を立て直していない少女に組み付き、執念で握ったままだった拳銃を右手に持ち替える。
先程傷を与えた肩の付け根に近い辺りに銃口を突き付け、トリガーを引く。
少女が低く呻いた。返り血が手に飛んだのを感じる。
同じ所を狙って続けてトリガーを引いたが、手の震えと相手の抵抗のため狙いは多少外れたようだ。
が、少女の体から更に大量の血が流れ出したのは感触でわかる。ダメージは大きいはずだ。
「くたばれ……」
この拳銃の装弾数は三発。先程神代から奪って弾を詰め替えた時に確かめていた。
つまり、もう弾切れだ。拳銃を投げ捨て、抵抗の弱まった少女の喉に手を掛ける。
殺れる。そう半ば確信を持った時だった。
聞こえるはずがない銃声を、明は聞いた。
今まで持っていた銃は弾切れで、つい今しがた投げ捨てた。敵の少女は銃など持ってはいない。
キョウジは離れた場所に置いてきたし、ろくに動ける状態ではないはずだ。
だとしたら、今の銃声は何だ?
――自分の脇腹に突き刺さった何か、鋭い痛みと流れ出す血の感触は、何だ?

37 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:46:17 ID:q+/+ZstI0
倒れた女を組み敷いていた男がもんどりうって倒れ、アスファルトの上に転がった。
危ない所だった。安堵に溜息をつき、倒れたまま動かない女に駆け寄る。
只ならぬ気配が漂っている通りに踏み込んでみたら、いきなり目撃することになった戦闘の光景。
遠目では詳しい状況まではわからなかったが、それなりに戦い慣れていそうな男が細身の女を組み敷いていた。
そして、女の片腕は肘から先がなかった。相当の重傷だろう。
もう片方の腕は体勢的に見えなかったが、例えもう片方は無事だとしても片腕切断の状態で戦う者はそういまい。
その女に、男は止めを刺そうとしているように見えた。
この状況から考えられるのはまず、男が女を襲い、傷を負わせた上で殺そうとしているという状況。
そうでないとすれば、先に攻撃したのは女だが、男が返り討ちにしたという状況。
前者だとすれば、女を助けなければならない。
もし後者だとしても、男は片腕を落として戦意も戦闘能力もほぼ失っているだろう女に止めを刺そうとしているのだ。
それも、止めたかった。
止めようとしたために男が命を落としたとしても、戦えない相手を殺そうとするような者なら仕方ない、とも思った。
もし女が男にとって大事な誰かの仇で、正義はないと知りつつ殺意を抑えられないのだとしたら、というのも一瞬考えた。
しかし、それ以上考える余裕はなかった。
そしてたった一瞬の猶予で思考を巡らせ、達した結論は――「それでも許されるべきでない」。
理屈よりも感情が下した判断に近かった。
殺されようとしている女に、守れなかった彼女達を重ねてしまったのかも知れない。
自己嫌悪と自罰意識ゆえに、復讐のためなら尚更許せないという思いが働いたのかも知れない。
――そんな自身の胸中を分析するだけの経験も、説明する言葉も、アレフは持ち合わせていなかったが。
だから彼は、言葉の代わりにトリガーを引いたのだ。

「大丈夫か? 君……」
銃を下ろし、駆け寄ったところでアレフは気付く。
先程発砲した位置からは見えなかった、女のもう片方の腕。その異形の形状。
絶句して一瞬立ち竦んだ所に、背後から男が叫ぶ。
「馬鹿野郎っ……離れろ!」
声の主は、女を助けるためにアレフが撃った男。助けようとした女は、悪魔としか思えない姿だ。
この女は悪魔だったのだろうか。では男の方が、襲われた被害者?
男の方を振り向いた瞬間、女が殺気を膨れ上がらせたことに混乱したアレフは気付かなかった。
横たわったままの女の体から、闇が溢れ出すかのように漆黒の何かが伸びた。
変形した腕だ、と気付いた時には遅かった。受け止めようとした腕が空を切る。
女の異形の腕はアレフの横を通り抜け、その向こうに倒れた男の胸に突き刺さり、嫌な音と共に赤い飛沫を上げた。

38 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:46:49 ID:q+/+ZstI0
男の胸から、そして口から鮮血が溢れ出る。
それと同時に、真紅のエネルギー体が男の体から立ち上り始めた。それは吸い寄せられるように、女の手元に向かう。
倒れていた女がゆらりと立ち上がり、艶然と微笑んだ。
肩には銃創があり血を流してはいるが、彼女の表情には負傷を感じさせない余裕が漂っている。
「あなたに助けられたようね。お礼は言っておこうかしら」
「お前が、先にこの人を?」
声が震えた。怒りと悔恨と、取り返しの付かないことをしてしまったという絶望感に。
「彼はとても楽しませてくれたわ。あなたが乱入してこなかったら、私でも危なかったわね」
この女が悪魔なのか人間かはわからない。ただ一つ、アレフは確信する。
彼女は殺すことを楽しみ、それに罪悪感の欠片も抱かない存在であるということを。
「……許さない」
銃口を女に向ける。トリガーは未だ引かない。闇雲に発砲してどうにかなる相手ではないことは悟っている。
「逃げないのね。あなたからも、沢山マガツヒが貰えそう。だけど……」
笑みを浮かべた女が、突然天を仰いだ。
目の前の事態を把握するのに必死だったアレフは、気付いていなかった。主のもとへ舞い降りようとする悪魔の影に。
輝く翼を備えた巨鳥が、急激に高度を下げる。
急降下の勢いで飛び掛ろうとする巨鳥に向け、翼を狙ってトリガーを引く。
しかし銃弾はその美しい翼を傷付けることなく、巻き起こされた風に容易く弾き飛ばされる。
巨鳥の鋭利な爪が、もう眼前まで迫っていた。
「っ畜生!」
毒づきながら地面に転がって、辛うじて攻撃は避ける。
しかし巨鳥の翼によって生み出された風圧は凄まじく、目も開けていられない。
「これ以上消耗してまで戦うほど、私は愚かじゃないの。また会いましょう」
風の音の向こうで、女の声がした。
舞い上がる埃に塗れて顔を挙げた時、巨鳥の姿は既に空中にあった。
そして、その足に異形の腕を絡み付かせた女の姿も、もう遠い。
「待て!」
声を限りに叫んだが、応えは返らない。
今はもう顔も見えない距離にいる女が、嘲笑っているような気がした。

地面に這い蹲ったまま、しばし呆然と見送って――それから、アレフは思い出す。
「……君! しっかり……」
跳ね起きて、倒れたまま動かない男に駆け寄る。
男の胸には、異形の腕に抉られた深い傷。心臓からは逸れたようだが、出血が酷い。
脇腹には銃創。他ならぬアレフが撃ったのだ。
顔にも触手で切り裂かれた痕がある。目をやられているようだ。
焼け焦げた学生服も、額のバンダナも鮮血に染まっている。
「ごめん、俺、こんな……あいつ、あんな化け物だなんて」
跪いて、必死で呼び掛ける。
この傷では、とても意識を保ってはいられないだろう。聞こえてはいないかも知れない。
すぐに充分な治療をしなくては、まず助からない。

39 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:48:20 ID:q+/+ZstI0
アレフは絶望の淵にいた。己の罪に、そして無力さに。
助けねばという一心で放った銃弾が、あの悪魔のような女を救ってしまった。
女と戦っていたこの男は、立ち竦んだアレフに離れろと叫んだ。誰に撃たれたかは理解していたろうに。
彼の警告がなければ、あの時、自分も殺されていた。
今度こそ助けなければならない、恩を返さなければならないのに、そんな力はなかった。
治癒の魔法が使えれば。宝玉か魔石でも持っていれば。悪魔が呼べれば。
そのどれ一つも持たない自分が情けなくて、憎かった。
「待っててくれよ、どうにかするから……絶対死なせないから」
絶対、などと約束できる根拠は何もない。
しかし気休めでもそう考えていなければ、本当に絶望しそうだった。
誰か、治癒の手段を持った信頼できる人物はこの近くにいるだろうか。
そんな確率は限りなく低い。しかしそれに頼るしかない。
「ごめん、俺が魔法とか使えればいいんだけど……何もできないから、待ってて」
「……うるせぇよ」
男の唇が、微かに動いた。低く掠れた声が紡ぎ出される。
「え……君、駄目だよ、そんな傷で喋っちゃ」
「……男がびーびー喚いてんじゃ、ねぇ……」
まだ意識があって、激痛に耐えながら話すことさえできるのか。男の肉体と精神の強靭さに、アレフは驚く。
「助けたいんだよ。これは俺の責任なんだ。君は死なせたくない」
「ポケットに……魔石、が……」
さすがに辛いのだろう、男は顔を歪めて黙る。荒い呼吸と共に、その口から血が吐き出された。
一刻も猶予はない。アレフは男のポケットを探った。指先に何かが触れる。
「あった……魔石!」
ポケットには二個の魔石があった。微塵も迷わずに、二つ分の治癒の力を男に向けて解放する。
魔石の回復効果は元々そう大きいものではない。
しかもベスが使っていた治癒魔法と同じく、魔石の効果もこの世界では弱められているようだ。
が、応急手当としては充分だった。
男の体の傷が塞がってゆく。体組織の再生により押し出された銃弾が地面に落ちた。
荒かった呼吸も、次第に落ち着いてくる。
「良かった。これで大丈夫だよ、後はしばらく安全な所に……」
呼び掛けて、アレフは気付く。
痛みに耐えるのにも限界が来たのか、治癒の術を受けた安堵によって緊張の糸が切れたのか。
男は、気を失っていた。
「……無理もないよな」
一瞬焦ったものの、男の呼吸が正常なことを確認してアレフは安堵の息をつく。
そして、巨鳥を従えた女が飛び去った方角の空を睨んだ。
「東。蓮華台か」
あの女を野放しにしては、確実に次の犠牲者が出る。
傷も癒えていないであろう今の内に、倒さねば――仕留めねばならない。
(わかってるよ。殺したら、あいつらと同じ場所に立つことになるんだって)
拳を握る。友が言ったことを、ただの綺麗事だとは思っていない。
(でも、俺はさ。元々、そういう場所に立つ人間だったんだ)
殺し合うことが仕事であり、生きる手段であり、栄光への道だった日々。
そんな日々を、決して嫌いではなかった自分。
今更になって、今の自分の中にもそれが生きていることを思い知る。
向かうべき道は最初から、一つだったのかも知れない。

「――手を汚すのは、俺みたいな奴だけでいいんだ」

40 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:51:27 ID:q+/+ZstI0
意識を失っている男を、誰かに見付からないように近くのビルのエントランスに運び込む。
彼が持っていたのだろう刀と銃も、その傍らに置いた。
荷物はないようだ。どこかに置いてきたのだろうか。仲間に預けているのかも知れない。
「……あ。荷物」
それを考えて、ふと思い出す。自分が持っていたザックを、いつの間にか降ろしてしまっている。
巨鳥の攻撃を避けた時に手放したのだったか。半ば無我夢中だったため、はっきりとは覚えていない。
独りで道路に戻り、辺りを見回す。――見付からない。
「嘘だろ……参ったなあ」
きょろきょろと周囲を探し回るが、どこに飛ばされてしまったのかザックは影も形もない。
もしかしたら巨鳥の爪にでも引っ掛かったか、あの女に持ち去られたのだろうか。
食料に水、名簿も地図も、ベスの形見のバンダナも入っているというのに。
逸る気持ちで、東の空を見上げる。
急がねばならない。あの女は、倒れた男からエネルギーのようなものを吸収していた。
あれがマグネタイトのような生体エネルギーを視覚化したものなら、治癒を早める効果もあるはずだ。
つまり、あの女は誰かを殺すか瀕死に追い込みでもすれば回復できる。
深手を負っているのだから積極的に戦いはしないだろうが、無力な者を狙って殺そうとするかも知れない。
(仕方ない。荷物なら後でまた探しに来ればいいんだ)
頭を振って、東の方向を睨む。女が向かった方向は蓮華台、この街の中央だ。
アレフにとっては、最初に転送された区域でもある。
地図を失ってしまったのが痛いが、できる限り早く近付ける、真っ直ぐな道を探して行こうと考える。
尤も、彼女が蓮華台に留まっていてくれるとも限らないのだが。
何しろあれだけ移動能力に長けた悪魔を使役しているのだ。
見たところ、悪魔召喚の道具らしき物も持っていなかったようだが――
(……道具なしで、召喚?)
先程出会った天使の言葉を思い出す。主は人間なのかという問いに、天使は答えなかった。
『あの方にはそのような物は必要ありません』
その言葉の意味が、あの時はわからなかったが。
(――まさか、な)
考えないことにして、アレフは歩き出す。
向かうは蓮華台。この悪夢のゲームの、始まりの場所。

41 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:52:12 ID:q+/+ZstI0
千晶は不機嫌だった。
ただの人間にしか見えなかった者に傷を負わされたばかりか、退却する破目になるとは思っていなかった。
あの無謀極まりない学生服の男から少量のマガツヒは奪えたものの、止めを刺すには至らなかった。
未だ、銃創を塞ぐのに充分なマガツヒは集まっていない。殺せていれば、必要なだけ得られていたのだが。
間抜けにも手助けをしてくれた長髪の男も、学生服の男が警告などしなければ不意打ちで倒せていただろう。
「千晶様。傷が痛まれますか」
側に控えた巨鳥――スパルナが心配そうに問い掛ける。
主の浮かない表情を案じてのことだろう。しかし、気遣いなど彼女にとっては邪魔なだけのものだった。
「私がそれほど脆弱に見える?」
冷たく一瞥すると、スパルナは目に見えて怯えた。
期待に副わない者は、たとえ己の配下であろうと殺すことを躊躇わない。主のその性格を、悪魔は知っている。
「失礼を……」
かつては人々に讃えられた高貴な聖鳥が、猛禽に睨まれた小鳥のように萎縮している。
千晶の配下となった悪魔は皆、彼女の力と思想に靡いた者達だった。
強き者が全てを支配する。それを是とする者が、より力ある存在に従うのは当然だ。
逆に言えば、千晶に従う悪魔は序列に敏感で、その頂点に千晶が存在することを認識している者ばかりである。
逆らえばどうなるか理解しているのだ。
「臆病者は必要ないわ」
眉一つ動かさず、千晶は黒い腕を伸ばした。避ける間も与えず、それはスパルナの心臓を貫いた。
苦悶の羽ばたきが美しい羽を舞い散らせるが、それもすぐ止んだ。
地に伏して動かなくなった悪魔から立ち上るマガツヒが、千晶に吸い寄せられてゆく。
「――足りない」
不満げに、千晶は呟く。
バンダナの男に撃たれた傷は、出血こそ止まっているが未だ塞がっていない。
己の体に醜い傷が残っていることを、彼女は苦々しく思う。
その気になれば、あの場に留まってバンダナの男に止めを刺し、長髪の男も殺すことはできていたはずだ。
しかし、手負いの獣がどれだけ激しい抵抗をするかは計り知れない。
この傷も、その「予想外」の産物だ。
ボルテクス界とはまた違う、この奇妙な都市で行われている死のゲーム。
ここで力を示し、自らが最も優れていることを証明するのは、出会った者と愚直に戦っていては至難に近い。
一対一で千晶に勝てる者は少ないだろう。しかし、無傷で片付けられる相手ばかりとは限らない。
そして、ゲームを受け入れず団結する者もいる。
どれだけの力があったとて、力だけでは生き残れない。知や精神力をも試されているのだ。
(面白いじゃない。優れた者は、全てを手にするのよ)
眼下に広がる街を見渡す。
(弱い者はせいぜい足掻いていればいい。私が刈り取ってあげるわ、全て――何もかも)
千晶は笑みを浮かべた。悪魔のような、冷たい笑みを。

42 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:54:48 ID:q+/+ZstI0
動かない体を引きずって、ほとんど精神力だけで前へ進み続ける。
銃声が聞こえたのは、明が見えなくなってから数分後。
反射的に飛び出し掛けたが、足手纏いになると言われたことを思い出して足を止めた。その時は。
しかし二発目、三発目の銃声を聞いた今、動かずに待つつもりはなかった。
正確には――その二発の音を聞く前に、明の悲鳴が聞こえたからだ。
多少の傷など物ともせず平気な顔をしていた彼が、苦痛に声を上げるような状況。
尋常ではない。最初から、尋常でないことはわかっていたのだ。大気を満たす禍々しい気配で。
(宮本君……無事でいてくれ)
動けないなどと言っている場合ではなかった。動かなくてはならないのだ。
よろめき、何度も倒れながらキョウジは進む。明はきっと、助けを必要としている。
助けられる自信がある訳でもなかったが、彼を見捨てることはできない。
漂ってくる邪悪な気配に揺らぎが生じていることも、キョウジは感じていた。
そういえば、と当たり前のことを思い出す。この体には葛葉一族の血が流れているのだと。
元はと言えば葛葉とは何の縁もなかったキョウジには、その自覚は薄い。
しかし自らの霊感が次第に研ぎ澄まされてゆくのを感じ、彼は初めて葛葉の血を意識した。
(恐らく宮本君はピンチだ。しかし、敵もダメージを受けている)
冷静に状況を分析しながらも、焦りは募る一方だった。
明が数分で駆け抜けていった距離を進むのに、麻痺した体はどれだけの時間を要するだろう。
彼のもとへ辿り着いたとして、果たして間に合うのか。
息を切らしながら歩を進める中で、彼は――四発目の銃声を聞いた。
(今のは!?)
息を呑む。明が持っていった拳銃の装弾数は三発。弾に予備はなかった。
考えられるのは一つ、その場所には別の銃があるということだ。
誰が、誰を撃ったのか。嫌な想像が浮かび、手に汗が滲む。
気ばかり急いているのに、体はまともに動いてはくれない。
やがて次なる異変が起こった。空に、急速で飛来する影が見えたのだ。
鳥に見えるが、その大きさといいシルエットといい、こんな都会に元々住んでいた鳥とは思えない。
悪魔だ。恐らくは、誰かに召喚された。
(くそっ……何が起こっている?)
影は、舞い降りた。
そして――遠くから見守るしかないキョウジの存在に気付くこともなく、再び空中へ舞い上がる。
(……あれは?)
鳥の足の辺りに、何か人影のようなものが見える。しかしキョウジの距離からは、その正体は掴めなかった。
しかし、一つだけははっきりと確信できる。
あの禍々しい気配が、遠ざかりつつあるということは。

43 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:55:49 ID:q+/+ZstI0
それから更に十数分は経ったろう。ようやく、戦闘の跡のある場所にキョウジは辿り着いていた。
酷い有様だ。誰のものとも知れない血が路上に撒き散らされている。
中でも大きい、誰かが倒れていたに違いない血溜まりが二つ。
地面には焼け焦げた跡があるが、何が燃やされたのかは推理できない。
燃え滓は先程の鳥が着地した時、その翼の生み出す風圧で飛ばされてしまったのだろう。
「宮本君!」
目の届く場所に明の姿はない。彼の死体が転がっていなかったのは喜ばしいが、無事とも思えなかった。
連れ去られたのかも知れない。周囲への警戒は怠らないまま、声を張り上げて名を呼んだ。
「宮本君! 聞こえるか!」
発声器官は完全に麻痺してはいないものの、普段に比べると掠れた声しか出ない。
この声の聞こえる範囲に、彼はいるのだろうか。不安が頭をもたげ始めた時だった。
「うるせぇ……怒鳴んな」
返事が聞こえた。弱々しいが、確かに明の声だ。聞こえてきた先は――道路脇の小さなビルのエントランス。
駆け込みたいところだが、それもままならない。ゆっくりとキョウジは歩を進め、転がるようにそこに飛び込んだ。
「来んなって言っただろ……」
呆れ顔で、壁を背にして座った明が呟いた。
「そんな訳にいくか。何があったんだ」
よろよろと明に歩み寄る。服は焼け焦げ、所々破れているが外傷はないようだ。
しかし、ぐったりと座った様子や声の調子からはかなりの消耗が見て取れる。
「……殺り損ねた」
そう言って深く溜息をついた後、明はゆっくりと起こったことを話し始めた。

「なるほどね……」
大体の事情を飲み込み、キョウジは頷いた。明の話はこうだ。
異形の女と出会い、戦った。明は目をやられながらも女を追い詰めたものの、その光景を誤解したらしい男に撃たれた。
女は逃げ去り、明を撃った男は懸命に詫びていて――そこで意識が途切れたらしい。
キョウジの声で意識を取り戻してみると、幸いなことに傷は塞がり、視力も戻っていたそうだ。
「……冗談じゃねえ。とんだ災難だ」
「しかし魔石を素直に両方使ってくれたなんて、そいつも結構なお人好しじゃないか」
自分の生き残りを優先に考える人間だったら、魔石の場所を教えられたら持ち逃げしかねない。
明は戦いを邪魔されたことで不満そうだが、その男は仲間に引き込める人種かも知れない。
「顔は見えなかったんだよな。また会えるといいんだが」
「俺は御免だ」
吐き捨てるように言って、数秒。ふと思い出したように明は付け加える。
「……髪、だ」
「髪?」
「そいつが俺の側に屈んだ時、髪が触れた。長髪野郎だ」
これは推理材料になるな、とキョウジは思う。言うまでもなく長髪の男はそう多くない。
教室に集められていた中に、何人いただろうか?
さすがに人数までは思い出せないが、これから出会う相手から情報を募れば手掛かりも掴めるだろう。
それまで互いに生きていれば、だが。

44 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:56:56 ID:q+/+ZstI0
「……ところで、荷物はどうした」
「置いてきたよ。今の僕じゃ二人分のザックなんか運べない」
明は露骨に嫌そうな顔を見せたが、仕方ないという風に首を振る。
「わかった。持ってくる」
「お……おい。待てって」
立ち上がろうとした明に、キョウジは制止の言葉をかけた。構わず、明は立ち上がると壁に凭れる。
「あんたは動けねえ、俺も少しは休みたい……なら、ここに荷物を持って来んのが安全だ」
理屈はわかる。キョウジが取りに行くよりは明の方が早いだろう。
しかし彼は、瀕死の重傷から回復したばかりなのだ。
傷は塞がっていても所詮は魔石の回復力、体力はほとんど戻っていないだろう。
「じゃあ、せめてこれを」
「駄目だ」
渡されてポケットに入れていた最後の魔石を差し出すが、一言で却下される。
「使い果たしたら、次に死に掛けた時にどうなる。……俺は動けるんだ、必要ねえ」
正論だ。仕方なく、魔石をポケットに引っ込める。
「……わかった。荷物を持ってきたら、ここでしばらく休もう。決して無理はしないでくれ」
「まだ死ぬ気はねえよ」
口の端を歪めて、明は笑った。
消耗を感じさせない、意外にしっかりした足取りで彼が出て行く。
無理をしているのだろうな、とキョウジは思った。

十分ほどの後。明は、無事に戻ってきた。
「土産だ」
ザックを三つ投げて寄越すと、明は壁に凭れて腰を下ろす。やはり、かなり辛いのだろう。
――ザックを三つ?
「おい、これ……」
「木の枝に引っ掛かってた。あの馬鹿野郎が慌てて放り投げでもしたんだろ」
呆れた様子で明は溜息をつく。
馬鹿野郎と彼が呼ぶ本人にとっては災難この上ないだろうが、明にしてみれば迷惑を掛けられたのだからお互い様か。
「できれば返したいが……中は見ておくか」
手掛かりになる物も入っているかも知れないし、使える品があれば借りておいてもいいだろう。
ザックの口を開け、中身を引っ張り出して床に並べる。
地図や名簿、着荷器具などの基本セット。特に地図や名簿に書き込みはない。
水と食料が二人分。誰かから奪ったのだろうか。
明の話を聞く限り、その馬鹿野郎は積極的に殺人を犯すタイプではないように思える。
となれば襲ってきた相手を返り討ちにしたのか、死んだ仲間から受け継いだのか。
それから、十字が染め抜かれた白と青のバンダナ。支給品とも思えないし、私物だろうか。
「使えそうな物は入ってねえか」
些かがっかりした調子で、並べられた品を眺めて明が言う。
「らしいね、どうやらアンラッキーだ。これが最後……」
ザックの中に最後に残った品を取り出し、キョウジは言い掛けた言葉も忘れて黙り込む。
「? どうした?」
不審げな顔をした明が立ち上がり、寄ってきて覗き込む。
キョウジはにっと笑って彼を見上げた。明の表情は、つい数秒前のキョウジと同じだったろう。
「前言撤回。どうやら僕らはラッキーだ」
手の上にある薬のラベル。そこに燦然と輝く文字は――『ディスパライズ』。

45 :手負いの獣が見た希望:2006/10/28(土) 06:57:36 ID:q+/+ZstI0
<時刻:午前9時半前後>

【橘千晶(真・女神転生3)】
状態:片腕損傷(軽微)、肩に銃創×3
装備:なし
道具:なし?
現在地:七姉妹学園屋上
仲魔:なし?
行動方針:皆殺し

【アレフ(真・女神転生2)】
状態:左腕にガラスの破片で抉られた傷
装備:ドミネーター(弾丸2発消費)
道具:なし(ザックごと紛失)
現在地:平坂区/夢崎区の境から、蓮華台に向けて移動
行動方針:ネクロマの術者を倒す、千晶を倒す

【宮本明(真・女神転生if...) 】
状態:外傷は塞がっているが消耗大、ボロボロの服
装備:ヒノカグツチ(少し重い)、鍋の蓋、スターグローブ(電撃吸収)、無想正宗
 アセイミナイフ×2、クラップK・K(残弾なし)、髑髏の稽古着(焼け焦げて使い物にならない)
道具:包丁×3、アルコールランプ、マッチ*2ケース、様々な化学薬品、薬箱一式 、
 メリケンサック型COMP、傷薬2つ、デイスポイズン2つ、閃光の石版、MAG1716
行動方針:ハザマの殺害、たまきと合流しゲームの脱出、休息を取り体力回復
現在地:平坂区/夢崎区の境
仲魔:コボルト
備考:肉体のみ悪魔人間になる前

【葛葉キョウジ(真・女神転生 デビルサマナー) 】
状態:麻痺
装備:ピースメーカー
道具:魔石1個、ディスパライズ、ベスのバンダナ、基本支給品を余分に1セット
行動方針:レイと合流、ゲームの脱出、休息を取り明を回復させる
現在地:同上
備考:中身はキョウジではなくデビサマ主人公です。

46 :錠平:2006/11/03(金) 11:39:42 ID:12djMrFNO
(cレ ゚∀゚レ〈保守

47 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:21:45 ID:ynd8XTsB0
「はあぁ〜…。」
あたしは全身全霊を込めて溜息をついた。
「ずどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!」
もう一回、溜息をつく。
そんなことをしたって後ろで無意味に暴れてるバカが空気を読んでくれるとは思えないけど。
そりゃこんな所に閉じ込められたのはこのバカだけのせいじゃないって解ってる。
このバカだってこんな状況になると思ってやったことじゃない。
本気で殺されるかもしれなかったから、仕方無いよ。
こうでもしないとあたしたちダメだった。
このバカだって良かれと思ってやったことが裏目に出ただけなんだって。
だけど、そんなこと解ってるけど、やっぱりムカつくものはムカつくよ。
「うおぉれは好カベ一代いいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
……もう、コイツ殺してもいいですかぁ〜?
こうやってあたしが思いっきりコールドな視線を浴びせかけてもこのバカときたら、なぁ〜んにも感じて無いみたい。
一本足で跳ね回って大喜び。何なのよもぅ!
あたし一人がこんなに悩んだり困ったりしても仕方無いのかもしれないけど。
それでも絶望。超絶望。
あーあ、さっき知らない人間が通りかかったから呼んでみたけど気付かないし。
ムカつくから此処から出れたらまずあの人間を殺したい!
ちょっと年行ってたけど背が高くて、モジャモジャ頭が微妙だけど顔自体はまあまあ。
やけに時代掛かったキャメルのスーツ姿で、何か追い詰められた表情だった。
追い詰められてるのはこっちだっての!
これ以上お肌荒れたらあのモジャ毛と、後ろで無意味に暴れてるバカのせいだからね!
あー、余計ムカついてきた。

何処かにこの囚われのお姫様(あたしのこと!)を助けてくれる素敵な王子様はいないのかなぁ…。
そんなステキな王子様がいてくれたら、あたし、一生付いて行っちゃう。
お嫁さんにしてもらう!
「うぉまえぇぇぇぇぇぇぇ!! 
先っちょ削れるかもしれないぞおぉぉぉぉぉぉ!!!
やっぱり削れないかもしれないぞおおおおおおおおおおお!!!
どっちなんだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!
わからねええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

…………。

やばい、泣きそう…。
「もう嫌――――――――――――――――ッッッ!!!」

48 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:24:14 ID:ynd8XTsB0
鳴海が病室から出た後、再び浅い眠りについていたライドウは、何処かで少女の悲鳴が聞こえたような気がして覚醒した。
半身を起こして周囲をきょろきょろと伺うが、人の気配は無い。
人の気配なんて、あるわけが無いだろう。ここは廃病院だ。
しかも窓ときたら背伸びしないと届かないような場所に申し訳程度の大きさのものが一つ。
その上頑強そうな鉄格子まで付いているような病院である。
おまけに外は人っ子一人いないような山奥だ。
視線を逸らし、壁に掛かった時計を見ると十分程度しか経っていない。
まさか丸一日寝過ごしたとは思えないから、熟睡したような気がしたが、そうでもなかったのらしい。
先ほど鳴海が持ってきてくれた食べ物を口にしたからだろうか、出血多量だった当初よりは頭がスッキリしていた。
ベッドからもぞもぞと這い出し、枠に引っ掛けてある自分の学生服を羽織った。
それから、いつも愛用している黒い外套を探すが見つからない。何処かで無くしてしまったのだろうか。
腕を動かすと、強引に縫い合わせられた右肩の傷口が少し傷んだが、血は出ていないようだ。
包帯の巻き方は無茶苦茶だったが止血はちゃんと施されているらしい。
かなり手荒だが、その手当てをしてくれた鳴海は足りない血液を補うために探索に出てしまったが、まだ帰ってきていない。
それ程時間が経っていないのだから、もう少し待っていてもいいのではないかと思わないでもなかったが、何故か嫌な予感がした。
鳴海が先ほどこの部屋から出た時に感じたものと同じ感覚だ。
もう二度と、まともな姿で会えないのではないかという、不吉な予感――。
普段はチャランポランだが、やる時はきちんとケジメを付ける鳴海に限って自分を裏切るような真似はしないと信じたいが……。
何故か心に掛かったもやのような物は晴れない。
厭な考えを振り切り、立ち上がると部屋の片隅に眼をやる。
自分のものと、赤根沢玲子から預かった荷物が無造作に放り投げられている。
鳴海の荷物は無かった。

49 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:27:20 ID:ynd8XTsB0
その荷物を取ろうと一歩踏み出すと、目の前が白く染まった。
平衡感覚が上手く掴めない。
少し食事をして寝ただけでは、まだ完全回復に至っていなかったらしい。
が、そんなこと言っている場合では無いような気がして歩を進めた。
まず、自分の荷物を開ける。
中の道具は使いきってしまって、あるのは無銘の脇差だけだ。
これだって数刻前、ピアスの男の持つロングソード
(脇差よりも重量、破壊力共に勝っている。おまけに持ち主の力も強い)
と鍔迫り合いをしたのだから刃こぼれが酷い。
それとわずかな食料と水、他に残るはこのゲームのルールブックだけだ。
ライドウは、この戦いに巻き込まれてから今の一度もルールブックに眼を通していないことに気付いてそれを手に取った。
書いてあるルール自体はどれも鳴海やレイコから聞いたことばかりだ。
参加者名簿に改めて目を通すと、一つの名前に眼が留まった。

葛葉キョウジ

その名が眼に飛び込むや否や、ライドウはぎょっとした。
ライドウが知っているキョウジ、いや『狂死』は危険な男だ。
ヤタガラス機関の『掃除屋』である悪魔召還士で、ライドウと同じく葛葉の名を冠する。
ライドウの知っているあの男は粗野で乱暴。
悪魔以上に悪魔らしい人間と言える。
標的がたとえ一人だったとしても、そいつのいる建物ごと焼き払うような危険人物だ。
そんな奴まで此処に来ていたとは――。
あの男がこのゲームに乗って殺戮に手を染めている姿はありありと想像出来た。
(このゲームに呼び出された葛葉キョウジはライドウの知っている初代葛葉狂死とは別人だが、彼はそれを知らないのだ。)
戦いを避け、この街から脱出するとしても、遭遇したら厄介な相手だ。
魔神皇同様、出来るだけ見つからないように行動したい所だが、鉢合わせになったら戦闘は避けられない相手だろう。
油断は出来ない。

50 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:32:16 ID:ynd8XTsB0
そう言えば、一度目の放送の時、自分は外出していたから死者が誰なのかを聞き流してしまっていた。
あの時も、嫌なものを見た。
道端に投げ出されていた少女の死体、目の前で包丁を使って自らの喉を突いた少女……。
あの二人も死者の名前に連ねられているのだろう。
参加者名簿(好きで参加してるわけじゃないのに)には鉛筆で名前がチェックされている。
自分が眠っている間に鳴海がやっておいてくれたのだろう。
(こんなに鳴海さんに世話を焼かせたことって今まで無かったな。
どっちかと言うと普段は働かないダメ上司だから苦労していたのは自分なのに。)
ふと、そんなことを思った。
それから自分の知っている名前、朝倉タヱと大道寺伽耶の名前にチェックが入っていないことに少し安心した。
ゴウトの名前は最初から書いてないが、彼ならまぁ、そう簡単にくたばるようなことは無いだろう。
勿論、鳴海とレイコの名前にもチェックは無い。
「レイコさん……」
レイコのことを思い出すと、心が今まで感じたことの無い感情で溢れた。
何故だろう。
このゲームが始まって出会ったばかりだと言うのに、彼女のことを考えるだけで胸が熱くなって鼓動が早まるような気がする。
だが決して不快ではない。
むしろ、ずっとレイコのことを考えていたいくらいだ。
彼女は必ず、自分が守らなければいけないような気がするのに――。
彼女は今、おそらくだがあのピアスの男に囚われている。
酷い目に遭わされているかもしれない。
どうして一瞬だったにせよ、彼女から眼を離してしまったのか…。
酷い自己嫌悪に駆られてしまうが、まだ死亡が確認されていないのだから、助け出す余地はあるはずだ。
(早く、早く行かないと……。)
それからもう一つの荷物、レイコから預かっていた荷物に眼をやった。
このゲームの主催者から配布された物とは言え、女性の荷物を勝手に開けていいものなのか少し戸惑ったが、
ライドウは意を決してカバンのジッパーを開いた。
中身は全員に配られる食料と、ルールブックが入っている。
それからマハラギストーン、マハブフストーン、マハジオストーン、マハガルストーンが一つずつ。
人の物だから勝手に使っていいとは思えないが、緊急事態に役立つかもしれない。
そう考えながらライドウはジッパーを閉じた。
二人分のカバンを持ち上げた時、何かが転がり落ちてライドウの靴の爪先に触れた。
「これは…」
それは鳴海に預けていたはずのメリケンサックだった。

51 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:36:26 ID:ynd8XTsB0
ただ、それはただのメリケンサックではない。
自分には使えないが、悪魔召還を可能とする機能を備えた特殊なメリケンサックである。
何となくそれを手に取り、右手に嵌めて手の甲に当たる鉄板部分に指を触れてみる。
すっと音も無くそれは横にスライドし、小さな青白い画面が現れた。
何かが書かれているが、ライドウにはあまり馴染みの無い英単語とルーン文字が羅列してあったため、殆ど意味は解らない。
この形状でどうやって悪魔を封魔して、召還するのか想像も付かなかった。
唯一解ったのはメリケンサック内に内蔵出来る悪魔は全部で6体。
そして最初からマグネタイトが3000程入っているということだ。
(これが使えたら、かなり有利になるのに…)
誰か未来の機械に精通していて話の通じる相手がいたら使い方を教えてもらおう。
そう思いつつ、一つの疑問が頭を過ぎった。
何故、鳴海はこれを置いて出て行ったのか。
輸血用の血液を探すのだから、歩き回るのはこの病院内だけのはずだ。
だが悪魔や、やる気になっている人間に出くわす可能性もあるから武装を固めていくのは当然だろう。
このメリケンサックだって、召還が出来なくとも殴ればそれなりに効くはずだ。
なのに、何故?
鳴海に悪魔召還は出来ない。そして管の無い自分にも今や不可能。
ただし、今このメリケンサックの利用方法が解れば、サマナー知識に関して素人の鳴海よりも自分の方が上手く使いこなせる。
「まさか…!」
ライドウは思うが早く、二つの荷物を手に取り、乱暴に病室のドアを開けると外に飛び出した。
(まさか、鳴海さん……一人で外に出たのか?)
確かに鳴海は元帝国陸軍所属で、訓練を受けているため一般人よりは格闘に強い。
だが、それは普通の人間相手に対してのみ言えることだ。
外には、今まで一度も遭遇しなかったのは奇跡だが、悪魔が蔓延っているらしい。
それに、それ以上に危険な人物が闊歩しているかもしれないのだ。
「ちょっとは見直したけど、やっぱりあの人……馬鹿だ!」
ライドウは今まで溜め込んでいた上司に対するささやかな暴言を口走り、自身が貧血気味でフラフラなのも忘れて走り出した。

52 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:38:08 ID:ynd8XTsB0
無機質で白い天井には、行く先々で案内の標識が引っかかっていた。
ライドウはそれを頼りに出入り口に向かう。
何故か途中に戦闘が行われたような痕跡や血の跡がついているが、今の状況ならそれほど珍しくないように感じた。
普通なら病院でこのようなものを見たら多かれ少なかれ不気味に感じるものだろうが、
異常事態の連続で感覚がすっかり麻痺してしまったようだ。
標識を見て、ロビーの方向に向かって曲がる。
その時、逆の方向から少女の声が聞こえた。
「人間! 人間だ!」
声からして幼女のようだが、どうしてこんな所に幼女がいるのだろうか。
まさかそんな年端の行かない子供まで参加者として召還されたのか?
「人間、助けてよぉ……。助けてくれたら何でもするから!」
「がおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!
うぉれぇ、し、し、失敗……パイナップルうううううううううううううう!!!」
幼女の声を遮ってよく解らない絶叫も聞こえる。
だが、ライドウはこの絶叫に聞き覚えがあった。
(悪魔か……)
あの一種独特のマッド口調は一度聞いたらそうそう忘れられるはずが無い。
だから間違いは無いだろう。
本来なら悪魔なんかに構っている暇は無いのだが、悪魔から情報を少し聞き出しておくのも悪くないだろう。
それにマッド口調の方はともかく、幼女の方は切羽詰ってるような声色だ。
気付いていて放っておくのはいくら何でも凌ぎ無い
ライドウは踵を返して声のした方に進んだ。

53 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:45:21 ID:ynd8XTsB0
その廊下の突き当たりに、それはあった。
目の前の空間全体を覆う、鈍い光と、その中央に眼窩と口腔をぼんやりと開いた不気味な顔が浮かび、蠢いている。
シキミの影だ。
この厄介なトラップは一定の属性で攻撃しないと破壊出来ない。
帝都を守護するライドウも、これには何度も手を焼いた。
「あぁ、やっと気付いてもらえた! 助けてよ人間!! ねぇお願い!」
「ずどおおおおおおおおおおぉぉぉん、ずどおおおおおおおおおおおおおおん!!
うぉまええええええええええええええええ、何故うぉれは此処にいるううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
答えろおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
悪魔2体が突き当たりの壁とシキミの影に挟まれて身動きが取れなくなっていた。
その悪魔はモー・ショボーと、イッポンダタラ。
奇妙な組み合わせである。
「これは……一体どうしてこんな所にシキミの影が。一体誰が?」
ライドウはシキミの影に手を当てて学生帽の頭を傾けた。
「うぉおおおおれの壁はぁぁぁ世界一いいいぃぃぃいいいいいいいいい!!!」
「うるさーい! アンタは黙ってて!」
モー・ショボーが甲高い声を上げてイッポンダタラの頭を拳で殴った。
やられたイッポンダタラの反応からしてあまり効いていないようだが、とりあえず叫ぶのは止めてくれたようだ。
後ろでぴたりと止まって固まっていた。
「人間あのね、あたしたち山から逃げてきたの!
白い服着た怖〜い人間が山の中で破壊の限りを尽くしてて……それで、それでね……。
うえぇ〜ん、怖かったよぉぉぉ〜!」
そう言って緊張の糸が切れてしまったのか、火がついたように泣き出してしまった。
モー・ショボーの話は点で要領を得ないものであったが、舌ったらずな言葉の中にライドウは思い当たる節があった。
白い服……。
「そいつが着てたのは白い着流しだったか?」
ライドウの質問にモー・ショボーはしゃくりあげながら首を横に振った。
「ううん、白い学生服だよ…着物じゃなかった。」
ならば葛葉狂死ではない。
破壊の限りを尽くす白い学生服の人間――。
間違いなく魔神皇だ。
「モー・ショボー、それはいつの話だ? 君達はいつからそこにいる?」
「えっ、えっ、時間なんて解らないよぉ〜。もうずーっとだよぉ!」
少なくともライドウがこの病院に来て以降の話ではないようだ。
だからと言って、魔神皇の死亡が確定されていない以上安心は出来ないが。
「それでね、ひっく、此処に逃げて来たの、そしたら……」
涙を服の袖で拭いながらモー・ショボーは恨めしそうに後ろで硬直したまま黙っているイッポンダタラに恨めしそうな眼を向ける。
「コイツが壁作って出られなくなっちゃったんだよお〜!」
そう言ってまた声を上げて泣き出した。
後ろでどうしたらいいのか解らないイッポンダタラがオロオロしている。
「なるほど解った。」
ライドウは一つ頷くとシキミの影をコンコンと軽く叩いた。
うっすらと見える色からして氷結属性の攻撃で簡単に撃破出来そうだ。
魔法を使えないライドウだが、幸運なことにマハブフストーンはあった。
本来の持ち主はレイコだが、このことについては再会してから詳しく説明することにしよう。
「人間、助けてくれるの!?」
「うおぉまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
パッション、パッショォォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンンンン!!!!」
二人の顔が煌いて、シキミの影に張り付き、ライドウにずずい期待の視線を向ける。
「助けてやっても構わない。ただし、条件がある。」
それからライドウはメリケンサック型の召還具の嵌った右手を二人によく見えるように挙げた。

54 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:50:40 ID:ynd8XTsB0
だがライドウが条件を説明する前にモー・ショボーが口を開いた。
「人間、サマナーなの? 解った! 出してくれたらあたし、人間に付いていく!」
「うぉおおおれはムァグが大好きなんだああああああああああああああああああ!!!」
召還具を見せただけで言いたいことは解ってくれたようで助かった。
モー・ショボーは強力な魔法を持っているから純粋な戦力として使えるだろう。
何より回復手段が無い現状で彼女の持っているディアの魔法はかなりありがたい。
イッポンダタラはこんな性格だから手懐けるのに手間が掛かりそうだが、それなりの戦闘力はある。
それに自由自在にシキミの影を作れるのなら、使い道はありそうだ。
だが、今手元にあるのは管ではなく使えない召還具。
はたして本当にこの状態で悪魔を使役出来るのか。
「いや、僕が召還士には違い無いがこの機械の使い方が良く解らないから…知ってたら教えて欲しいんだが。」
「うん、解った! 教えてあげるからっ!」
「本当に使い方が解るのか?」
「うんっ、前お世話になったサマナーが同じの使ってた!」
「本当に大丈夫なのか? 壁が消えた途端襲い掛かったりしないだろうな?」
「大丈夫、約束するっ!」
だって、ずっと待ってた王子様なんだもん……。
背が高くて、美形で、モミアゲがちょっと意味不明だけど、とっても格好良い王子様。
「解った。契約は成立だな。少し離れてろ。」
そう言って二人がシキミの壁から離れたのを確認すると、ライドウはレイコのカバンからマハブフストーンを取り出し、投げつけた。
氷の飛礫が壁一杯に広がり、一気に凍結させる。
それからきっちり3秒後にシキミの影の顔が大きく歪み、崩れ落ちた。
「やったあ!」
泣き顔から一転してモー・ショボーが満面の笑みを浮かべると、崩れた壁から飛び出し、ライドウにしがみついた。
「ありがとう、あたしの王子様! モミアゲの王子様!」
「王子様? モミアゲって……」
モー・ショボーの小さな身体を受け止めながらライドウは首を傾げた。
二人の後ろでイッポンダタラが自由になった喜びから、意味不明なことを叫んで飛び回っている。
「えへへ、恥ずかしいけど……これはあたしからのお礼だよ。」
「え……?」
モー・ショボーは少し顔を赤らめ、俯き加減にそう言うと、
両手でライドウの白い頬に触れ、首を伸ばして彼の唇に小さなキスをした。
悪魔の、それも幼い子供にこんなことされて、喜んでいいのかライドウが悩んでいると、
その瞬間、モー・ショボーが驚いたように飛びのき、いきなり軽くなったライドウは思わずよろめいた。
「きゃー大変! 王子様顔が冷たいよ! 死んじゃう!」
彼女の言葉でライドウは、自分が今も血が足りていないことを思い出し、がっくりとその場に尻餅をついて倒れた。

55 :モミアゲの王子様:2006/11/03(金) 23:52:29 ID:ynd8XTsB0
《午前11時20分頃》

【葛葉ライドウ(葛葉ライドウ対超力兵団】
状態 出血多量による重度の貧血 (少し回復)
武器 脇差 メリケンサック型COMP
道具 レイコの荷物(マハラギストーン マハジオストーン マハガルストーン) MAG3000
仲魔 モー・ショボー イッポンダタラ
現在地 蝸牛山 森本病院

56 :錠平:2006/11/03(金) 23:59:56 ID:12djMrFNO
(cレ* ゚∀゚レポッ

57 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/06(月) 22:22:34 ID:eJvAwcNLO
保守

58 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/07(火) 22:22:18 ID:Z7UTm2Jc0
保守

59 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/10(金) 02:12:55 ID:RF557kPC0
保守

60 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/10(金) 10:00:36 ID:akAbU9n/O


61 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/14(火) 00:35:10 ID:HsD/flTS0
保守?

62 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/16(木) 22:49:59 ID:MBEtEBLI0
保守

63 :呼んだ名は、告げられた名は:2006/11/17(金) 10:34:26 ID:E3evA/Xo0
ここは悪魔の住処だったはずだ。
つまり、外は悪魔の住処ではないはずだ。
だから最初は戸惑った。突然開け放たれたガラスの扉、逆光に照らされて立つそいつの姿。
セクシーな衣装の女で、どう見ても死体で、動いている。
が、ボディコニアンがいきなり外から入ってくるのはおかしな話だ。中にいたなら納得したが。
理由を考える前にマシンガンの乱射を受けて、誤解に気付いた。
こんな銃を使いこなすボディコニアンはいない。あいつらは普通の女のゾンビだ。
それを理解した時、ちょうど見えた。そいつの鎖骨の上、刻まれた呪印に。

今まさに狩ろうとしていた悪魔を盾にして掃射をやり過ごし、彼は舌打ちをした。
血飛沫を上げて悪魔が倒れ伏す。
苦々しい。獲物を奪われた事がではない。
相手の性質の悪さがわかっているから、苦々しい。
ただでさえゾンビという奴は面倒だ。痛覚も恐怖もないから、物理的に破壊しないと止まらない。
加えて、今の相手はマシンガンを使いこなしている。戦い慣れた女のゾンビだ。
腐敗の始まっている死体なら動作も遅いが、生憎こいつは死んだばかりのようだ。
当たり前だ。この六時間足らずの間に死んだに違いないのだから。

「……嫌な相手だ」
彼は独りごちる。
嫌な光景を思い出す。初めて悪魔と戦った時のこと。
そいつらは同じシェルターの住人だった。見知った顔もいた。
それが、悪魔に成り果ててしまっていた。あの苦い思いは忘れようとしても忘れられない。
ゾンビの性質の悪さの中でも最大のものは、それがかつては人間だったということだ。

64 :呼んだ名は、告げられた名は:2006/11/17(金) 10:36:19 ID:E3evA/Xo0
「あらぁ……外しちゃったわね」
ゾンビ女が笑った。生前なら、快活さを感じさせる魅惑的な笑顔だったろう。
しかし、胸に風穴を開けた女にそんな顔を見せてもらっても嬉しくも何ともない。
「でもちょうどいいわ……血が流れすぎちゃったら、啜れないものねっ!」
「言ってくれる!」
再び銃口を向けられる前に、彼は動いた。
ゲームセンターという場所は銃で戦うには不利だ。障害物がそこら中にある。
手近な椅子を相手に投げ付けて、巨大な筐体の陰に隠れる。一瞬の時間稼ぎができればそれでいい。
「来い、オルト……」
サバトマの詠唱を始めると同時に彼は気付いた。聞こえるべき銃声が聞こえない。
マシンガンなどという強力な得物を持っているのだ。撃ってくるとばかり思っていた。
「遅いわよぉ!」
絶叫というより吼え声に近い、戦いの昂揚をそのまま迸らせたような女の声。
それはすぐ横、身を隠した筐体の陰から聞こえた。
一瞬後にはそいつは飛び出してくる。死角から襲い掛かってくる。
そう悟りはしても、身構えるのが間に合わない。
詠唱の声は途切れた。
案の定、次の瞬間には凶悪な笑みを浮かべたゾンビ女の姿が目の前にあった。
投げ付けられた椅子にも構わず突進してきていたのか。こいつの戦い方は銃だけではないのか。
組み付かれながら、握ったままの刀をそいつの背中に突き刺す。手応えはあるが効果はない。
「もっと深く刺したらどう……? アンタも一緒に串刺しだけどねっ!」
微塵も動じず、女は笑い声を上げた。笑う女と内心毒づく彼は、一緒に床に倒れ込む。
刺して駄目なら腕を斬り落としてでもやろう。女の体から刀を抜こうとした時だ。彼の右腕に激痛が走る。
彼を床に押さえ付けたゾンビ女の爪が、腕に食い込んでいた。
物凄い力だ。刃物ででも刺されたかのように鮮血が迸る。女はそれを見て、うっとりと歓喜の表情を浮かべていた。
まずい。この調子では喉を掻き切られるか、食い破られる。
まだ自由な左手で、血に気を取られた女の横っ面を力の限り引っ叩く。多少気が咎めるが何しろゾンビ相手だ。
奴がバランスを崩した所で、腹を蹴り上げる。女の体が僅かに浮いた。食い込んだ爪が傷から引き抜かれる。
彼はそのまま転がって、敵から距離を取る。どうせ今の攻撃などろくに効いていないだろう。
相手が体勢を立て直し、再び飛び掛かってくるまでにオルトロスの召喚を終えるのは至難の業。ならば。

65 :呼んだ名は、告げられた名は:2006/11/17(金) 10:37:42 ID:E3evA/Xo0
刀を無事な左手に持ち替えて跳ね起きた。
痛みを感じた様子もなく、女が立ち上がる。
右手には銃を持ったまま、血塗れの左手を震わせ、憎悪に燃える目で彼を睨む。
「来い、死に損ない」
「うるさい……うるさい、アンタも死ぬのよぉぉぉ!」
絶叫して、女は跳んだ。床に転がる椅子を避け、古びたゲームの筐体に飛び乗る。
確か、とても古いゲームだ。デビルバスターなんかよりずっとずっと昔のゲーム。
シェルターの老人から話を聞いたことがあった気がする。
昔のアーケードゲームには、透明な板張りのテーブルがそのまま画面になっているようなのがあって


その話に聞いた筐体というのが、多分、ゾンビ女が飛び乗ろうとしているそれなのだ。
「……ザンマ!」
短い詠唱で発動できる得意の魔法。跳躍した彼の掌から衝撃波が飛んだ。
女に向かってではなく、女がまさに着地しようとしていた筐体のカバーに。
「あぁっ!?」
破壊音、空中に飛び散るカバーと基盤の欠片。
足場が砕け散り、壊れた筐体に足を取られた女が悲鳴を上げて転倒する。
このまま距離を取って更に時間を稼ぐことはできる。が、悪魔を召喚するにはまだ時間が足りない。
相手は銃を持っているのだ。オルトロスが完全に実体化する前に撃たれる危険がある。
(だったら、動かれる前に無力化するまで!)
彼は攻勢に転じることにした。武器は刀だけだが、こちらには魔法もある。
ゾンビにはどんな魔法が効くかというのも良く知っている。
着地すると同時に、彼は残骸を避けながら女との距離を詰める。
「アギ!」
迸る炎が女の、執拗に銃を放さないままの腕に襲い掛かった。
(――銃さえ手放させれば、圧倒的に俺が優位!)
魔法による炎は瞬間的なものだが、その火力は自然の炎とは比べ物にならない。
一瞬の内に女の腕が炭化し、ぼろぼろと崩れる。手首から先だけが、銃を握ったまま床に取り残され

た。
「あ、あぁ……アタシの手……!」
痛みは感じていないようだが、女の声には明らかな狼狽が表れている。
彼はその隙にダッシュし、女の指が絡み付いたままのマシンガンを素早く拾い上げる。
血塗れで傷だらけの白い指が、決して放すまいとでも言いたげにグリップを握って離れない。
当然もう動くことなどない肉片だ。力を込めて指を解くと、女の手首はぼとりと床に転がる。
こんな嫌な感触を味わわなければならないから、こんな光景を見なければならないから、ゾンビの相

手は嫌いだ。
「誰だ。お前をこうしたのは」
縋り付くかのように自らの手首を拾う女から距離を取り、奪った銃を構えて尋く。
こいつには会話を成立させる知性が、自分の体への執着が残っている。
ならば、殺されて亡者に成り果てたなら、自分を殺した相手への憎悪も残ってはいないか。
ゾンビを作り出すなどという悪趣味な、ふざけたことをする奴についても情報が得られないか。
それを期待したがゆえに彼は尋いたのだ。
そうさせたのは未だ見ぬ敵への嫌悪感だけでなく、義憤に近い感情だった。

66 :呼んだ名は、告げられた名は:2006/11/17(金) 10:39:53 ID:E3evA/Xo0
「死人使いがいるんだろう。お前はそいつに殺された。違うか」
「うるさい……」
焼き切られた自らの手首を握り、床に這い蹲ったまま女は呟く。
「殺してやる。アンタも殺してやる。血を寄越しなさいよぉぉぉぉ!」
呟きが次第にトーンを変え、ボリュームを増し、絶叫に変わった。
女は這い蹲った姿勢からそのまま彼に飛び掛かる。
肉食獣が四本の足でそうするように両足と、片方だけになった腕を使って。
彼は舌打ちをする。ゾンビの生者への憎悪と闘争心は容易くは拭い去れないということだ。
今度は簡単に組み付かれるような間合いではないが、このまま逃げ回っては疲れ知らずのゾンビが有利。
感情に任せて隙の大きい攻撃を仕掛けてきたこの機に、大きなダメージを与えておく必要がある。
手っ取り早いのは魔法だが、魔力を使いすぎる訳にはいかない。
悪魔狩りでの疲労もあるし、傷を治すための魔力も残しておかねばならないのだ。
(早速、こいつに役立ってもらうか!)
牽制のためだったとはいえ、マシンガンはいつでも撃てるよう構えている。銃口はゾンビ女に向けたままだ。
トリガーを引く。独特の銃声と共に弾丸が撃ち出され、女の体に幾つもの穴を開ける。
この程度でゾンビが怯むなどとは期待していないが、突撃の勢いを削ぎ、損傷を与える効果は充分にある。
彼女の体を流れていた血は既にほとんど流れてしまったのだろう。血飛沫は上がらず、肉片だけが飛び散る。
しかし女は止まらない。気付けばその姿はもう目前に迫っていた。銃を捨てて刀を構える余裕はない。
銃身が異様な熱を持っているのに気付いたのは、攻撃を防ごうとマシンガンを体の前に突き出した時だった。
女の腕を銃身で受け止めた瞬間、彼は見た。彼自身と女を隔てる狭い空間に散った火花を。
耳を聾する破裂音が轟く。
彼は事態をすぐには飲み込めなかった。理解したのは、腹を割かれるような激痛が走って、そこから血が噴き出すのを見た時。
「銃が……暴発……!」
間近で炎の魔法が炸裂したことで、銃身も弾倉もかなりの高温になっていたのだろう。
そんな状態で掃射を行い、また銃身に衝撃を与えた。
冷静に考える余裕があれば、暴発の危険に気付いていただろう。
弾倉が見るも無残に破裂したマシンガンが、ゲームセンターの床にごとりと落ちた。
痛みと衝撃で立っていられず、彼は仰向けに倒れる。
そのすぐ横に、掃射でボロボロになった女も倒れ込んだ。
(まずい、殺られる……!)
朦朧とした意識の中で警鐘が鳴り響く。人間は深手を負えばろくに動けないが、ゾンビは違う。
女が僅かに体を起こし、這うように近付いてきているのが視界の端に見える。
動かなければ殺される。彼の意識はそれを悟っていたが、体が思うように動かない。
暴発による傷は幸い致命傷ではなかったが、激痛が動きを妨げている。
倒れる時に床に打ち付けたせいもあるかも知れない。全身が、ショックで軽く麻痺したようになっている。

67 :呼んだ名は、告げられた名は:2006/11/17(金) 10:40:54 ID:E3evA/Xo0
伸ばされた女の手が、彼の体に触れた。生命のない手は酷く冷たい。
探るようにその冷たい指は動き、今や無防備となった喉を探り当てる。
先程までのような力を加えられていれば、簡単に喉を破られるか首をへし折られていただろう。
しかし女の肉体も損傷が激しい。筋肉が傷付けば力が弱まるのは、死体とて同じだ。
爪を立てて抉ろうとしているのか、何度も喉が引っ掻かれる。息が詰まって、彼は小さく呻いた。
やがて女は爪での攻撃を諦めたようだった。その代わりに、今度は片方の手だけで喉を締め付け始める。
掛けられている力は人間と同程度のもの。しかし今の彼には、それを撥ね退けるだけの抵抗も覚束ない。
どうにか動く両手で女の腕を掴んで引き剥がそうとするが、じわじわと首を絞められる内に意識が朦朧としてくる。
(ああ……俺はここで死ぬのか)
視界が霞み始めた。いやに静かなのは聴覚も失われつつあるせいか、本当に何の物音もないのか。
(駄目だ、まだ死ねない。俺にはまだ役目が)
「あなた方こそ救世主です」と告げられた日のこと。シェルターでの戦い。荒れ果てた地上。
救わねばならない世界の光景が次々に頭を過ぎり、死に際に走馬灯が見えるというのは本当なのだと思う。
平穏だった日常。ずっと苦楽を共にするのだと思っていた親友の笑顔。いつも側にいてくれた恋人の微笑み。
そうだ、彼女は今もシェルターで待っているに違いない。
ここで死んでしまったら彼女のもとには帰れない。悲しませてしまう。
(俺は……帰るんだ、あの世界に)
呼び覚まされた意志が、ほんの僅かに、彼の動かない体を動かした。
締め付けられて潰れそうな喉から、掠れた声が絞り出される。
「…………――ヒロコ」
呼んだのは、愛する人の名前。
その瞬間、彼の喉を締め付けていた力がふっと緩んだ。

「……どうして」
女の声が聞こえた。
突然解放された理由もわからず、彼は咳き込みながら空気を貪る。
敵は何故か止めを刺せる直前で攻撃の手を止めたらしい、ということだけは理解できるが。
喘ぎながら目の焦点を合わせる。真上には女の顔。つい今の今まで戦っていたゾンビ女の顔だ。
しかし先刻までの憎悪に満ちた表情はそこにはない。彼の顔を覗き込むような格好で、女は困惑の表情をしていた。
「どうして、アンタが知ってるのよぉ……アタシは知らない、アンタなんて覚えてないのに、なんで」
虚ろな目が縋るように彼を見つめる。女に何らかの変化が起こったことは言うまでもなかった。
呼吸を整えながら、彼もまた探るように女を見返す。
「ねぇ、なんであなた、アタシを……私の名前を……どうしてか、思い出せないのよぉぉ」
(――名前?)
朦朧とした意識の中で、そういえば、名を呼んだのだ。
故郷で待つ恋人の名。それにこの女は、反応したのだろうか。
放送で呼ばれた死者の名の中に、彼女と同じ、その名前があったのを思い出す。
「……ヒロコ?」
もう一度、今度は目の前の女に向けてその名を呼んだ。
「アタシを……あなたは、知ってたの? 私はアンタを……ねぇ、忘れてるだけ? 私、忘れちゃったの?」
生気のない目の中で、混乱と不安と期待の色が次々と入れ替わる。
女が正常な精神状態を保てていないのは明らかだが、それは同時に彼女が敵意だけで動く存在ではないことも意味する。
「アタシ、きっと大事なことを忘れて……」
「大丈夫だ、ヒロコ」
彼女のことなど何も知らない。生前の記憶を戻してやることなどできもしない。
しかし、彼は思わずそう口にしていた。ただ、そうすれば彼女は安堵できるのではないかと思ったから。

68 :呼んだ名は、告げられた名は:2006/11/17(金) 10:42:52 ID:E3evA/Xo0
よろよろと身を起こして、治癒呪文を唱える。消耗は避けたいとは言っても傷を塞ぐのが先決だ。
何度か詠唱を繰り返すと、腹の傷は少なくとも見た目の上では塞がった。
爪で抉られた腕の傷にも治癒魔法を使い、ひとまず出血は止めた。
疲労で倒れてしまわない程度に治すのは、今の時点ではこれが精一杯だ。
ゾンビ女はその間、うつ伏せで床に転がったまま動こうとしなかった。
同じような言葉を何度も呟いたり、問い掛けてきたりはしたが、心なしか落ち着いてきたようにも見える。
「……誰が、お前をこんな体にした?」
先程と同じ問いをまた投げる。今の彼女なら答えてくれそうな気がした。
「痛くも苦しくもない体に、って、何も怖くないって、神父様が。――そう、神父様が言ったの。殺さなきゃ。
全部全部殺して、アタシと同じに、みんな」
「そんな必要はない」
怒りを覚えながら、彼女の言葉を遮る。
神父と呼ばれるような男に心当たりはない。しかし参加者の誰かが彼女を殺し、甦らせ、皆殺しの命令を植え付けたのだ。
そいつにも生き残らねばならない理由があるのかも知れない。勝者となるには手段を選んではいられない。
そう理解していても、その男への怒りは抑えられそうになかった。
恋人と同じ名の女の無残な姿を見たせいか、それとも相手が過去を思い出させる死人使いの術を用いたからか。
「殺さなきゃ。そうよアンタも、あの子も、みんな……」
「――オルトロス」
召喚の呪文を唱える。傍らに魔獣の姿が現れた。
激しい戦闘の跡と傷だらけの二人を見て、オルトロスは驚いたように小さく唸る。
「派手にヤッタな。オレを召喚すれば良かったものヲ」
「こいつを灰にしろ。跡形も残すな」
軽口には応えず、横たわる女を視線で示す。
「ゾンビ……カ」
「……楽にしてやれ」
女が顔を上げた。虚ろな目には縋るような色がある。肉体を失うことはゾンビにとっても恐ろしいのだろうか。
生ける屍と成り果てた者の肉体が消滅したとして、その魂がどこへ行くかは彼にはわからない。
朽ちた肉体の呪縛から解放されて安らかに眠れるのか、それとも悪霊となって彷徨うことになるのか。
ただ、こんなボロボロの姿で殺戮の道具にされているよりは、まだ救われる気がした。
「お前はもう殺さなくていい。その神父とやらも、じきにあの世へ送ってやる」
「ねぇ、あなたは……」
彼の言葉を、どこまで理解しているのだろうか。
返事はせずに、彼を見つめて女は問う。彼にはその表情が、独りで死にゆくことを不安がっているように見えた。
「あなたは誰?……私を、知ってたの?」
「俺は」
オルトロスに目で合図する。もう終わらせてやれ、と。魔獣が頷いた。

「――俺は、メシアだ」
それが、彼女が現世で聞いた最後の言葉になったろう。
オルトロスの吐き出した紅蓮の炎が彼女の朽ちた体を包み、焦がし、焼き尽くしていった。

69 :呼んだ名は、告げられた名は:2006/11/17(金) 10:43:24 ID:E3evA/Xo0
「……コレで、いいカ」
さらさらと床に崩れる灰の山から、オルトロスは主人に振り返る。
灰の中には骨の欠片も残っているが、動き出す様子はない。死人使いの呪縛は解けたのだろうか。
「ああ。構わん」
複雑な思いでそれを眺めながら、彼は呟いた。
――その時、ふと視界の隅に奇妙な物が映った。懐中時計ほどのサイズの機械のように見える。
ゲームの筐体の部品ではないだろう。女が持っていた物か。
彼のその視線に気付いたのか、オルトロスがそれを咥えて持ってくる。
「何ダ、これは」
膝の上に落とされたそれを手に取り、観察する。
円形をした機械の前面は、何かを表示するための画面のようになっている。
その中央に光点が一つ。それ以外には何も見えない。
「レーダーに見えるな……」
裏返してみると、見覚えのある図形が刻まれていた。思わず自分の鎖骨の上に目を遣る。
「なるほど……そういうことか」
刻まれている図形は、参加者に刻まれた呪いの刻印と同じ。つまりこれは、その刻印を探知する物なのだ。
あの女が獲物がいるのを知っているかのようにゲームセンターに踏み込んできたのも、それで納得がいく。
これは使える品だ。獲物を探すにも、危険を避けて移動するにも利用できる。
しかし、今はそのどちらもできそうにない。戦闘に加えて魔法での消耗もあり、疲労が限界に達していた。
「オルトロス。俺は休む。そいつを見張って……近付いてくる奴がいたら教えろ」
「わかった。人ガ近付いたら、こいつでわかるんダな」
床に置かれたレーダーをオルトロスが覗き込む。
強力な魔獣が見張っていれば、ここに住む悪魔も手を出しては来ないだろう。
次の放送の時間には悪魔も強くなるのだろうが、それまでには疲労も回復するはずだ。
少しでも快適な所で休みたい。力を振り絞って立ち上がり、体感ドライビングゲームのシートに体を埋める。
(俺は、帰らなければならないんだ)
彼は目を閉じる。生まれた世界の光景と、待っているはずの彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
(生き残るために、俺には勝つ必要がある。……俺は間違っていないよな、ヒロコ)
瞼の裏の彼女の顔が、少し、悲しげに歪んだような気がした。


【ダークヒーロー(女神転生2)】
状態:極度の疲労・体力消耗
武器:日本刀
道具:溶魔の玉 傷薬が一つ 呪いの刻印探知機
 少々のMAGとマッカ(狩りで若干増えたが、交渉に使用した為共に減少)
現在地:夢崎区/ムー大陸
行動方針:戦力の増強 ゲームの勝者となり、元の世界に帰る

【ヒロコ(真・女神転生U)】
状態:肉体消滅

70 :65訂正につき再投稿:2006/11/17(金) 10:44:35 ID:E3evA/Xo0
刀を無事な左手に持ち替えて跳ね起きた。
痛みを感じた様子もなく、女が立ち上がる。
右手には銃を持ったまま、血塗れの左手を震わせ、憎悪に燃える目で彼を睨む。
「来い、死に損ない」
「うるさい……うるさい、アンタも死ぬのよぉぉぉ!」
絶叫して、女は跳んだ。床に転がる椅子を避け、古びたゲームの筐体に飛び乗る。
確か、とても古いゲームだ。デビルバスターなんかよりずっとずっと昔のゲーム。
シェルターの老人から話を聞いたことがあった気がする。
昔のアーケードゲームには、透明な板張りのテーブルがそのまま画面になっているようなのがあって。
その話に聞いた筐体というのが、多分、ゾンビ女が飛び乗ろうとしているそれなのだ。
「……ザンマ!」
短い詠唱で発動できる得意の魔法。跳躍した彼の掌から衝撃波が飛んだ。
女に向かってではなく、女がまさに着地しようとしていた筐体のカバーに。
「あぁっ!?」
破壊音、空中に飛び散るカバーと基盤の欠片。
足場が砕け散り、壊れた筐体に足を取られた女が悲鳴を上げて転倒する。
このまま距離を取って更に時間を稼ぐことはできる。が、悪魔を召喚するにはまだ時間が足りない。
相手は銃を持っているのだ。オルトロスが完全に実体化する前に撃たれる危険がある。
(だったら、動かれる前に無力化するまで!)
彼は攻勢に転じることにした。武器は刀だけだが、こちらには魔法もある。
ゾンビにはどんな魔法が効くかというのも良く知っている。
着地すると同時に、彼は残骸を避けながら女との距離を詰める。
「アギ!」
迸る炎が女の、執拗に銃を放さないままの腕に襲い掛かった。
(――銃さえ手放させれば、圧倒的に俺が優位!)
魔法による炎は瞬間的なものだが、その火力は自然の炎とは比べ物にならない。
一瞬の内に女の腕が炭化し、ぼろぼろと崩れる。手首から先だけが、銃を握ったまま床に取り残された。
「あ、あぁ……アタシの手……!」
痛みは感じていないようだが、女の声には明らかな狼狽が表れている。
彼はその隙にダッシュし、女の指が絡み付いたままのマシンガンを素早く拾い上げる。
血塗れで傷だらけの白い指が、決して放すまいとでも言いたげにグリップを握って離れない。
当然もう動くことなどない肉片だ。力を込めて指を解くと、女の手首はぼとりと床に転がる。
こんな嫌な感触を味わわなければならないから、こんな光景を見なければならないから、ゾンビの相手は嫌いだ。
「誰だ。お前をこうしたのは」
縋り付くかのように自らの手首を拾う女から距離を取り、奪った銃を構えて尋く。
こいつには会話を成立させる知性が、自分の体への執着が残っている。
ならば、殺されて亡者に成り果てたなら、自分を殺した相手への憎悪も残ってはいないか。
ゾンビを作り出すなどという悪趣味な、ふざけたことをする奴についても情報が得られないか。
それを期待したがゆえに彼は尋いたのだ。
そうさせたのは未だ見ぬ敵への嫌悪感だけでなく、義憤に近い感情だった。

71 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/23(木) 16:48:19 ID:x4sU7HaSO
保守

72 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/27(月) 03:40:15 ID:ULOxytr5O
(;゚∀゚)=3

73 :サマナーと愉快な仲魔:2006/11/29(水) 08:39:41 ID:Hd7eBGG10
彼女はとても上機嫌で、誰かと話したい気分で、ついでにと言っては語弊があるが情報を求めていた。
そこにたまたま通り掛かったのがその悪魔だった、ただそれだけの事。
格段の意図もなく、善意も悪意もなく、偶然出会った悪魔と人間。
そんな時の人間の反応はいくつかのパターンに大別できる事を、その悪魔も知っていただろう。
怯えて逃げるか、戦う気で武器を構えるか、交渉しようとしてくるかだ。基本的には。
だから驚いたのだろう。

「あら、可愛い」
「ウォー! 何するのチミ!」

出会い頭に悪魔をひょいっと持ち上げ、抱き締める人間など普通はいない。
というか、そんな危険な事を普通はしない。
ただ彼女は普通ではない状態で、それが普通でない事を忘れていた。
悪魔がどんな反応をするか予測もしていなかったし、何も期待していなかった。
抱え上げた悪魔がじたばた暴れ出して初めて、彼女は交渉が始まっている事に気付いたのだった。

「うーん、手触りもいいわね。連れて歩くには丁度いいかしら」
「聞いてないね、ボクの話。ダメダメちゃんだね、チミ」

異界化した空間に現れる、主を持たない悪魔。
それはつまり多くの場合、マグネタイトを得るために人間を襲う気満々な存在である。
言葉は通じたとしても悪魔との交渉は人間とのそれとは違う。
彼等は狡猾で欲深く、気紛れで残酷なのだ。
どんなに愛らしく見えても悪魔は「悪魔」である。悪の名を冠しているのは伊達ではない。
歴戦のサマナーたる彼女はそれをよく知っている。弱い悪魔が相手でも気を抜いてはならない事も。
人間と悪魔が出会えば、戦いであれ交渉であれ、そこには一瞬の油断も許されない駆け引きが生まれる。
ただ――

「そんな事言わないで仲良くしましょうよ。チミ」
彼女、ナオミは駆け引きに必要な冷静さとは程遠いほろ酔いの幸せ気分で悪魔を抱き締める。
「あれれ? ボクにフォーリンラブ?……ドゥフフ」
その悪魔は、図らずもナオミの胸に顔を埋めた形になって、彼女に負けず劣らず幸せそうだ。

――この出会いに限っては、例外かも知れない。

74 :サマナーと愉快な仲魔:2006/11/29(水) 08:40:27 ID:Hd7eBGG10
「あなた、モコイね。何でこんな所にいるの?」
廃工場の床に、やっと抱擁から解放された悪魔がだらしなく座っている。
その前に杯を置き、蜂蜜酒を注ぎながらナオミは訊ねた。
「実は、ボクもよく分からないんだ。ドントノー」
一見すると子供が粘土で作った人形のような不格好な悪魔が、手をひらひら振りながら答える。
適当に作った粘土細工みたいな顔をしている割に、物腰のせいか豊かな表情があるかのように思える。
「あ、もらっちゃうね。ありがと。イケてるね、チミ」
指のない手で意外に器用に杯を取り上げ、モコイは蜂蜜酒を口にする。
傍らにはブーメランが置いてある所を見ると、これも手に持って使えるのだろう。
しかし、この生き物に酒を飲めるような器官があるのだろうか。いや、生き物じゃなくて悪霊だっけ。
モコイが奇妙な仕草をするのがいちいち面白くて、ナオミはその度に笑い声を上げた。
「じゃあ、あなたも知らない内に連れて来られてた口かしら。私と一緒ね、チミ」
真似ている間に楽しくなってしまって口調が伝染っているが、いい気分のナオミはそれを自覚していない。
素面の時の彼女なら、間違ってもモコイの真似はしないだろう。
「いやあ、最近忘れっぽいんスよ。ボク」
杯の中身を飲み干して、悪魔は足を投げ出して座ったまま胸を張る。自慢にも何にもならないのだが。
「ああ、そうそう。メイドさんにドキドキだったね」
「メイドさん? 会ったの?」
「ここに来る前にね、召喚された時。もうメロメロだよ」
召喚とメイド。二つの単語がナオミの中で結び付きかける。
ここに来る前に召喚されたという事は、モコイは別のどこかから召喚されてこの廃工場に放たれたのだ。
サマナーに使われている訳ではなさそうだから、放たれるために召喚されたと考えていいだろう。
とすれば召喚したのはゲームの主催者か、その配下である可能性が高い。
そしてそこに居たというメイド。悪魔の扱いに長けた誰かに仕えている?
何か心当たりがあるような気がするが……思い出せないので、諦める事にした。
何と言っても今は、愉快な新しい友人と美酒を酌み交わしている最中だ。考えるのは後でもできる。

「ねえ、私と一緒に来ない?」
好きな食べ物はとかペットを飼うなら何かとか、取り留めのない話をしながら杯を数回空にして、ふとナオミは思い出す。
畳んだまま持ち運んでいた日傘。そういえばこれはCOMPで、これがあれば悪魔を仲魔にできる。
普段使っている召喚魔法とは勝手が違うものの、使いこなせる自信はあった。
「そうだね。気前いいしね、チミ。仲魔になればボクも幸せ。ランラン」
酒に酔うような身体構造をしているのかどうかは甚だ疑問だが、モコイも既に上機嫌のようだ。
「おっけぃ。知ってると思うけど、ボクはモコイ。もうチミの仲魔」
「私はナオミ。コンゴトモヨロシク、ね」
「そして、ボクの希望。行きたいね、イスタンブール」
「いいわね、その内行きましょうか。食べたいわ、本場のドンドルマ」
サマナーと悪魔は硬く握手を交わした。……というか、ナオミがモコイの手を握り込んだだけだが。

75 :サマナーと愉快な仲魔:2006/11/29(水) 08:41:40 ID:Hd7eBGG10
モコイはここに連れて来られた経緯こそ理解していなかったが、廃工場の構造はそれなりに知っていた。
ナオミに出会うまでうろうろしていていて道を覚えたらしい。
ぐにゃぐにゃした奇妙な動きで先導するモコイの後をついて歩くと、出口はすぐだった。
「どう、役立つでしょ、ボク。あ、ホメなくてもいいっスよ」
モコイは誇らしげに胸を張るが、何の事はない、単に元々出口が近かっただけである。
無駄に迷わずに済んだのはモコイのお陰かも知れないが、酒盛りをしていた分、時間は余分に掛かっている。
が、今のナオミはそんな細かい事を気にしてはいない。
「うーん、風が気持ちいい……」
朝の微風を浴びて伸びをする。何せ酔っ払った頭で制御室のレバー相手に悪戦苦闘し、薄暗い廃工場から出てきた後だ。
外の空気と風がとても快く感じられる。この同じ街で殺し合いが行われているとは思えない程に。
「これから、どこ行くの。チミ」
「そうね……尋ね人がいるんだけど、闇雲に探しても仕方ないし。まずは情報収集」
まだ酔いは醒めていないが、冷静さは多少戻ってきた。……ような気がする。
制御室で聞いた放送では、レイ・レイホゥの名前は呼ばれなかった。
当然だ、そんなに簡単に死ぬ女ではないのだから。勝手に死なれても困る。
見付け出して、この手で止めを刺すまでは。
そして異界に多くの人々を呼び集めたゲームの主催者。こちらについても情報が欲しい。
ザックから地図を取り出して広げた。
ナオミが手で持つ高さだと見えないらしく、後ろでモコイがぴょこぴょこと飛び跳ねて覗こうとする。
「この近くには……シーサイドモールに、警察署。行ってみる価値はありそうね」
地図を畳んでザックに戻す。さて、行き先はどこにしようか――。


【時間:午前8時】

【ナオミ(ソウルハッカーズ)】
状態 酔い(Happy)、エストマ
武器 なし
道具 日傘COMP 黄金の蜂蜜酒 酒徳神のおちょこ
仲魔 夜魔モコイ
現在地 廃工場外
基本行動指針 呪印を無効化する 情報を集める レイホゥを倒す

76 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:03:17 ID:CV6jMnx20
藤堂尚也と赤根沢玲子はシルバーマン邸から移動を開始していた。
人目に付かないような隠れ蓑が多く、それでいて物資の補給が容易な商店街に向かって。
二人とも積極的に殺戮する意志が無い以上、商店街へ移動するのは上手く隠れることの出来る場所を確保することが大きな目的だったはずだが――。
尚也は自分の置かれた現状に溜息をつきたい気分だった。
レイコがことあるごとに自分達が此処を通ったというメッセージを残しているからだ。
メッセージを送る相手は無論、あの黒マントの書生だ。
あの書生には自分も用があるのであちらから来てもらえるのならばそれに越したことはないが…。
レイコはあれから商店が並んでいる区域の入り口、其処から数十メートル歩いた位置にある電信柱、さらに数十メートル先の郵便ポスト、
そしてたった今、道路標識の白いポールにメッセージを残しているのである。
それだけなら問題は無い。
尚也が頭を悩ませているのはメッセージの残し方だった。
レイコは一つの場所にメッセージを残す際メモした紙を、確実に自分だと解るように、スカートを切ってそれで包んで巻きつけているのである。
そのため、シルバーマン邸から此処までメッセージを残すため、確実に毎回5センチずつスカートが短くなっているのである。
気が付いたら、レイコは当初よりかなり短くなり、今ではすっかりコギャルもびっくりな超ミニスカート姿だ。
しかもその姿で堂々と振舞っているのならこちらも普通に接することが出来そうだが、尚也の眼が少しでも脚に行くと(男なんだから仕方無いだろ!)
必死になって少しでもスカートを長く見せようと裾を引っ張りながら怒るものだから尚也はほとほと困り果てていた。
見えているのだから仕方無いだろうとこっちも言いたいのだが、女の子にその理屈は通じない。
だから尚也は困っているのだ。

そんな彼らは今一軒の古着屋の前にいる。
古着と言っても、若者向けのヴィンテージ商品を扱っているような流行の古着屋ではなく、それこそ古臭い着物やその周辺の小道具を取り扱っているような店だ。
中を覗いてみても、手入れだけは行き届いていたが、半ば埃を被っていそうな品揃えの商店で、普通に生活している高校生ならまず近寄らないこと請け合いだった。
だが、レイコはそこで立ち止まってしまった。

77 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:07:15 ID:CV6jMnx20
何故かは、尚也にもすぐに解った。
その店の曇ったショーウインドーに真っ黒な鳶マントがディスプレイされていたからである。
それはあの書生が身に着けていたマントによく似ている。
レイコはそれを見ながら複雑な表情で佇んでいた。

(あいつを、思い出してるのか……。)

何故か尚也の心境も複雑だった。
蝸牛山であの男を襲撃した際、人質として使えるかもとレイコを捕まえたのだ。
だからそれ以外の感情は持ち合わせていないはずだった。
それにレイコにも人質になっている自覚があるのだろうから、味方であるはずのあの書生を恋しがる気持ちも頭では解る。
なのに、どうしてこんな心に霧が立ち込めているような気分になるのだろうか。
今の自分を復讐の鬼に駆り立てている園村麻希の存在ですら、そのような気持ちにはならなかったというのに。
自分で自分の気持ちが解らなくてイライラする。
こういうことは誰に聞けば教えてくれるのだろうか。
一番聞きたい相手である園村麻希はもういない。
彼女を殺したあの書生を仕留めたら、自分は彼女の後を追う。
人殺しになってまで生き延びる理由は無い。
――最初はそのつもりだった。
だが、あれからたった数時間しか経っていないにも関わらず、その決意、自決する意志は徐々に薄れつつあった。
依然として最後の一人になるまで殺し合いをさせられるという最悪の状況に変化は無い。
だが自分が此処に召還されたのなら、死ぬ前に戦い以外の何かをしないといけないのではと、今では思っている。
それが一体何なのかは、自分でもよく解らないのだが。
今会えるかもしれない友人ならば、南条圭に聞くのはどうだろうか。
いや、無理だろう。
あいつは馬鹿ではなく、むしろ頭脳明晰な方だがそういう質問に的確な答えを返してくれるようなタイプではない。
根拠は無いが、そんな気がする。
ならば桐嶋英理子はどうだろう。
少なくとも、南条よりはマシな答えを返してくれそうだ。
だが、何故かは解らないが、それを彼女に聞いたらいけないような気がする。

いや、それ以前にこの二人に会うわけには行かない。
この二人が今の自分の有様を見たらどう思うのか。
醜い復讐心が大きな原動力となっている自分を知ったら――。
あの強く優しい二人が絶望する顔なんて、自分は見たくない。

78 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:11:50 ID:CV6jMnx20
では目の前のレイコに聞くのは?

自分の口からは聞けない。理由は不明だが。
これから自分はどうすればいいのだろうか。考えても答えは出ない。
それどころか考えれば考えるほど心臓に重石をつけたような感覚が襲い、余計に混乱してしまいそうだった。
そんなこちらの気持ちを知ってか知らずか、レイコは今も複雑な眼をしてショーウインドーに手を当てて鳶マントを眺めていた。
尚也は一つ深呼吸すると、周囲に誰もいないことを確かめ、ロングソードの鞘をショーウインドーにぶつけてガラスを破壊した。
レイコを横にどかし、尚也は少々荒っぽい仕草で古びたトルソーに掛かっているマントを剥ぎ取ると
驚いて眼を見開いているレイコに突き出した。
「どう…したんですか、いきなり。」
「……あいつのことが気になるんだろ? 持ってろよ、これ。」
「え?」
困惑の浮かんだいぶかしげな表情で、なかなかマントを受け取らないレイコに少し苛立った尚也は自分を落ち着かせながら続けた。
「いやその、何ていうか……大体今の君の格好は……眼のやり場に困るんだよ。だから、これを着てくれ。」
尚もレイコに向かってマントを突き出す。有無を言わさない調子だ。
だが、その時一瞬だがちらりとレイコの破れたスカートから露出した太ももに眼が行ってしまった。
そんなつもりは無かったのだが、尚也は慌てて視線を逸らせた。
「きゃっ!」
レイコは赤くなって小さく声を上げると同じく慌てている尚也からマントを奪うように受け取ると、
まず最初に露出した白い太ももを黒いマントで隠した。
既に何度も見ている仕草だったが、今回のはまるで、今の自分の姿が尚也にとってどれだけ過激なものなのかに初めて気付いたようであった。
レイコは尚也の視線から逃れるように後ろを向くと、受け取ったマントをおずおずと慣れない仕草で羽織る。
男物のマントだから、女であるレイコが羽織ると少し大きい。
本来ならば膝丈程度になるように作られているのだろうが、マントはレイコの膝下まですっぽりと隠した。
「藤堂さん……」
「何だ?」
「ありがとうございます。」
そう言って振り向いたレイコの顔は、やや頬を上気させていたのも相まって、尚也にはどこか艶っぽく映り、
まともに視線を合わせることが出来なかった。
尚也はそれをごまかすように不自然な動作で咳払いをすると、レイコに背を向けて大股で歩き始めた。
「行くぞ。さっき音を立てたからもう此処は危険かもしれない。まずは……どこかで回復出来る道具を補給したいところだ。」
「え、えぇ。」
歩きながらぶつぶつと呟く尚也の後ろを、レイコは羽織ったマントがずり落ちないように手で押さえて小走りで追った。
レイコは少し嬉しそうだったが、尚也の心の霧は晴れない。
むしろ今の行動で、その霧は余計に濃くなってしまったようであった。

79 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:14:13 ID:CV6jMnx20
「おい、今度は何をやってるんだ、お前は。」
塚本新から指令を受け、不承不承、近くのホームセンターからある資材を盗み出してきた南条圭は、
サトミタダシの店内で怪しい実験さながらの惨状を繰り広げている新の姿を見てあからさまに顔をしかめた。
店内には石油の刺激臭が充満しており、その臭いに圭の眉間に深い皺が寄る。
「お、待ちかねたよ南条君お帰り〜。」
床に胡坐をかき、背中を見せたまま新は背後の圭に手を振った。
「まったく、この俺に盗みを働かせるなど……」
生きるためにはやむを得ないとは言え、
こんなに落ちぶれてしまった自分を見たら天国の山岡は卒倒するのではないかと、圭は心が痛んだ。
「うーん、名門・南条家の跡取り息子をパシらせて万引きさせるカ・イ・カ・ン。
いやんっ、癖になっちゃう!」
「この……痴れ者がァ!」
「わーっ、ゴメンゴメン! 嘘だよ! ウソウソ!」
こちらに振り返って慌てて謝る新に、圭は半ば本気で叩き斬ろうと抜きかけたアサノタクミを鞘にしまい直した。
「質問にはまだ答えていないな。今度は一体何をしていたんだ、貴様は。」
呼吸を整えて冷静に質問しなおしたつもりだろうが、口調は辛辣なままだ。
さらに新に対する呼び名が先ほどの「お前」から「貴様」に変わっている辺り、圭的には怒りが収まりきっているわけではないようだ。
そんな彼のご機嫌を伺うように新は当たり障りの無い言葉を選んで現状の説明を試みた。
「えーっと…何だ。前ネットやっててたまたま見つけた裏モノ系サイトで載ってたことなんだけど……。」

80 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:17:02 ID:CV6jMnx20
新の目の前には卵の殻十数個分が散らばり、中身はボウルに卵黄と卵白の二種類に分けられている。
そして塩、インスタントコーヒー、緑茶エトセトラ。
これだけ見たら卵焼きでも作ってちょっと早めに優雅で貧相な昼食を……。
と、殺し合い以外の時間なら思わないでもないのだが、
それだけではなく何処かの庭からでも持ってきたのだろう、
化学肥料の袋が乱暴に破られ、中身が床に散乱していたのだから意味が解らない。
そして、これも何処かの庭先に停めてある車から拝借してきたのだろう。
ポリ容器に注がれたガソリンが置いてあった。さっきから漂っている石油の臭いの元はこれである。
更にそれらを測りで軽量して混ぜたのだと思われる物体をガチャガチャ
(サトミタダシの店外に置かれていた)の丸いケースに詰め込み、セロテープで密閉していたのだ。
因みにガチャガチャの中身は子供向けアニメのキャラクター人形で、
新はそういう趣味があるのか床に丁寧に並べていたが圭は全く興味が無かった。
「今これらを使って武器をカンパンしてたんだよ。武器を。」
「武器?」
「ああ。どうにもこうにも俺達って戦力的にはメチャクチャ不利なような気がするんだよ。
そりゃぁ夜になったらエストマ汁を撒いて逃げるつもりだけど、悪魔なんか目じゃないよーなヤツが殴りこんできたら大変じゃん。
ぶっちゃけ俺たち死ぬよ?」
「まぁ、確かにな。」
いくら圭が刀で武装していてペルソナを呼べると言ってもそれで相手に出来る人数はせいぜい三人か四人が限度だ。
しかもそれは相手が普通の人間だった場合に限った話である。
だが相手が武装していた場合、悪魔を使役していた場合、最悪その人物が強力なペルソナを降魔していた場合は話が違う。
その時の選択肢はおそらく「逃げる」しか選べないであろうことは想像に難くない。
そして、そんな状況下で相手がおいそれと逃がしてくれるとは思えないのも事実だ。
逃走の失敗は命に関わる。
だからと言って、強敵を迎え撃てるほどこちらが強いかと言えばそうでもない。
新の言うとおり、戦力不足は否めなかった。
圭の不安をよそに、新は自作した謎の中身入りガチャガチャを一つ拾い上げ、圭の顔面に突き出した。

81 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:20:03 ID:CV6jMnx20
「で、コレはさっき言った裏モノ系サイトに載ってた作り方を参考にしてカンパンした、塚本新様特製お手製焼夷弾!」
「焼夷弾だと?」
「詳しいカンパン方法は省くけど……って、触るなよ。危ないぞ。」
さっそく突き出された中身入りのケースに伸ばされた圭の手を、新は払いのけた。
その動作に圭はムッとしたが、中身は危険物なのだから仕方無いだろうと諦める。
「まぁ主な原料はガソリンと卵の白身だから威力はあんまり期待出来ないけど、
作れるだけ作ったからしばらくはコレで凌げるだろ。
だけどコレだけだったら萌えない…じゃなくて燃えないから、
発火するための道具の材料を南条君にパクってもらったってワケだ。」
「ほぉ。で、俺に盗ませた材料で具体的には何が作れるというのだ?」
「さてさて、南条の坊ちゃまはキチンとお遣い出来たかしら? どれどれ…」
「貴様…」
「おお、ちゃんと俺のリクエストした道具盗って来てくれたみたいだね〜。
おりこうさんでしゅね〜。」
「…本当に殺すぞ。」
人を小ばかにしたような新の口調に米神あたりがピクピクしてきたが、
当の新は全く意に介さず圭が手にしている買い物袋の中身を勝手にまさぐり始めた。
「えーっと。
ライター、爆竹、コンデンサ、豆電球、電池、コード、アルミパイプ、タコ糸……全部揃ってるね。
これで簡単なヤツだけど爆弾がカンパン出来る。」
「爆弾だと?」
「そそ。で、爆弾をこのパイプに詰めて火を点けると……。」
新は長さ1メートル弱、直径三センチ程度のアルミパイプをまるでライフルのように構え、
南条に向けて「BANG!」と撃つ真似をした。
思わず仰け反ってしまう南条の反応に満足したのかにやりと不敵に笑うと、
架空の銃口の先から昇る煙を吹き消す動作をした。
ただしライフルじゃなくてアルミパイプだから不恰好極まりないが本人は全く気にしてはいないようだ。
ようするに新は手製の火縄銃を作るつもりのようだ。
「まぁ場末のホームセンターに大したサイズのコンデンサがあるとは思えないから、
こっちの爆弾の方の威力も期待出来ない。
だが先にこの塚本新様お手製焼夷弾をぶつけておいて爆発させたらどうなるか……。
焼夷弾の方はゼリー状だからくっついたら離すのは至難の技。
この最悪コンボを喰らった相手は悲劇だね。怖い怖い。
……ってワケ。解った?」
「ああ。」
頷きながら南条はどこかで血の気が引くのを感じた。
この塚本新という男、ふざけているようだが、
先ほど今夜辺りが満月だと推理したことと言い、今回の焼夷弾、爆弾を作り出した知識と言い、
この男がもし「やる気」になっていたらと思うと勝てる気がしなかった。
こちらがもし最強の銃を支給されていたとしても、
その頭脳と応用力で自分など煙に撒かれて気が付いたら死んでいたという結末を迎えることに違い無い。
心底、味方であって良かったと思う。
最初は口調と雰囲気が彼の悪友である上杉秀彦にどことなく似ていたから不安だったが
(だからこそあっさり信用出来たのかもしれないが)
この男がこちら側に付いていたらゲームからの脱出もあながち遠い話ではないのかもしれない。
「よ〜し、カンパン開始! あ、南条君はちょっと休んでていいよ。」
早速圭の持ってきた材料を組み立て始める新に、圭は話しかけた。
「所で塚本。」
「何?」
「お前がさっきから言ってるカンパンって何だ?」
「帰ったら『九龍+カンパン』でググってごらんよ。」
「???」
彼の頭の回転力や知識はさておき、圭には彼の言っていることが理解の範疇を超えていた。

82 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:22:09 ID:CV6jMnx20
それから爆弾を作り始めた新の手際は驚くほどに早く、見る見る内に小型のコンデンサ爆弾が増えてゆく。
導火線のタコ糸が異様に長いのはパイプに詰めて発射するための処置だろう。
だが、無造作に置いてある爆弾の中には導火線の短いものもいくつか含まれているので、投擲して使う場合も考慮されている。
さすがに抜け目が無かった。
新は此処に来る前はハッカーとデビルサマナーをやっていたというのだから、
それなりの戦闘経験はあるのだろうが、
そこでこんな風に自分で爆弾を作る機会があったのかどうかは疑問である。
自分も何度も死線を潜り抜けてきたつもりだが、少なくとも武器を自作することは無かった。
悪魔を使役するというのはそこまで危険なことなのだろうか。
彼に対する疑問は尽きないのだが、珍しく真剣なまなざしで爆弾を作っている新を邪魔するわけにも行かず、
手持ちぶたさになった圭は意味無く店内をウロウロしていた。
何気なく手にした風邪薬のパッケージを見ながら圭はまだ平和に学校に通っていた頃のことを思い出す。
彼が通っていた聖エルミン学園は決して不良校では無かったが少なからずならず者はいた。
教室の片隅でそいつらが風邪薬をアルコールで溶かして合法ドラッグを作れるという
少々いただけない会話をしているのを小耳に挟んだことがあった。
思わぬものがほんの少しの工夫で思わぬ凶器になるという事実を学ばせてもらったので
彼らの会話を教師に報告するのは止めておいたが……。
おそらく新はそういう類の人間なのだろう。
そういった人間には嫌悪することも多いが、今回のように生きるか死ぬかの瀬戸際には、
むしろそんな知識や経験こそ必要なのである。
自分が嫌っている人種に今はこうして助けられているのだ。
(皮肉なものだな……。)
圭は、今までそういう世界とは無縁に生きてきた自分に対して自嘲を漏らした。
と、その時、出入り口の方からかすかに人の気配を感じて咄嗟に身構えた。
新のほうを見ると、彼も音を立てないように最小限の動作で手製の爆弾、焼夷弾をカバンに詰め込んでいた。
表情は爆弾を作っている時以上に真剣だ。
(どうする?)
その意味を込めた視線を新に向けると、彼はすぐに意味を悟ってくれたようで、
鋭い眼を圭から気配のあった店の出入り口の方にさっと流した。
(行ってくれ。気をつけろ。)
彼が眼で語った内容ははおそらくそうだろう。
新の持っている武器は今ある中では最大の威力を誇る爆弾だが、接近戦には向かない。
だからこういう時はまず、接近武器である刀を持っている圭が出るのが道理だ。
圭は無言で頷くと足音を立てないように出入り口に向かった。勿論、抜刀してからだ。
いつでもペルソナを呼び出せるように精神も集中させる。
緊張から乱れる呼吸を整え、
そして、一気に駆けると動かない自動ドアを蹴破り、外に躍り出た!
ガラスが割れるけたたましい音とともに飛び出し、圭は刀を振り上げた。威嚇のつもりだ。本当に斬るつもりは無い。
相手がやる気ならば先制して戦意喪失を測る。もし相手にその気が無ければすぐに刀は降ろすつもりだ。
だが、目の前に現れた相手を見て、圭は驚くと同時に喜びすら覚えた。
目の前にいたのは彼の良く知っている相手、クラスメイトであり親友の藤堂尚也だったからだ。

83 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:25:28 ID:CV6jMnx20
「藤堂! 本当に藤堂なのか!」
彼ならば武器を持つ必要は無い。すぐに刀を鞘におさめた。
「南条……生きていたのか。」
「ああ…良かった。俺もお前まで死んでしまったのでは無いかと心配したぞ。」
「すまないな。」
少し疲れているようだが、藤堂尚也はそれなりに元気そうで安心した。
「知り合いかい?」
遅れて新が顔を出す。
念のために焼夷弾と爆弾をいくつか抱えているが、もう此処でこれを使う必要は無いだろう。
「ああ、俺のクラスメイトだ。この男なら安心出来る。」
「おお、それはよかった! 初めまして。南条君の友達の塚本ってんだ。ヨロシクな!」
明るくそう挨拶し、尚也に向かって握手を求めて手を伸ばす新だったが、尚也はその手を受け取らなかった。
それを警戒と取った圭は、自分からも新を紹介した。
「こいつは塚本新。
さっき知り合ったばかりだが戦う意志は無いらしい。共に脱出を目指す仲間だ。」
「あれ。お連れさんがいるみたいだね。君もこっちおいでよ。」
尚也から少し離れた物陰からこちらを伺う少女に気付き、新は手招きした。
新に呼ばれてこちらに歩いてくる黒マント姿の少女に、圭は思い当たるところがあった。
圭がシルバーマン邸の前で見つけたメモを書いたと思われる、軽子坂高校の生徒、赤根沢玲子だ。
圭が心から信頼している尚也と一緒に行動しているのだから、この少女にも危険は無い。新もそういう判断を下したのだろう。
だが、レイコがこちらの輪に入る直前、尚也は彼女の腕を引き、自分の後ろに隠すように置いた。
「え?」
その行動は圭と新だけではなく、レイコにも予想外のことだったのだろう。眼鏡の向こうの眼をぱちくりさせた。
次に向かった視線の先、尚也は表情を押し殺し、冷徹な瞳をしていた。
「悪いけど、俺はそっちには行けない。

84 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:27:24 ID:CV6jMnx20
「何だって?」
全く予想だにしていない尚也の発言に、圭は一瞬自分が寝ぼけているように感じた。
「行けないんだ、どうしても。」
「どういうことだ、藤堂…。」
「南条、君が俺のことを仲間と思ってくれてたのは嬉しいよ。すごくね。
だけど俺は……」
煮え切らない尚也に、圭の脳裏に最悪の事態が浮かんでしまった。
「藤堂、お前まさか……この殺し合いに乗ったとでも言うのか?」
圭の問いに尚也は無言だった。何も言わず俯いてしまった。
彼の後ろのレイコはどうしたらいいのか解らない風に尚也と圭の顔をきょろきょろと見合わせている。
彼女は一体何なのだろう。
尚也との関係は? 彼女はやる気なのか? とてもそうは見えないが……。
新は尚也の無言を肯定と取ったのか、臨戦体勢に置き換え、爆弾を投げられる間合いを掴むために後退を始めた。
まだそうと決まったのでは無い。
圭はそう思い、彼を止めようとするが、やはりまず目の前の尚也が先だ。
「どうなんだ、藤堂。俺は信じないぞ、そんなこと!」
圭は尚也の肩を両手で掴み、乱暴に揺すった。
尚也はされるがままにガクガクと揺れる。
まるで力が入っていない人形を相手にしている感じだ。
中に綿や砂の代わりに血と肉が詰まった等身大のリアルな人形――。
気高く勇敢で、寡黙ながら仲間思いな、圭の良く知るいつもの尚也とあまりにも違い過ぎる。
圭はますます混乱した。
「一体どうしたんだお前! 何があった! その女がお前をそそのかしたのか!?」
急に指を指されたレイコはびくりと肩を震わせる。
「私は…」
レイコがか細い声で何かを言いかけた時、尚也がレイコに向かった圭の指を払い落とした。
「藤堂!」
「やめろよ。こいつは関係ないんだ。」
「だったらお前も……」
「何度も言わせるな、俺はそっちには行けないんだ。」
「どうして……理由は何だ。」
困惑する圭に、尚也は理由を話さなかった。いや、話せなかった。
純粋に脱出を目指している南条圭の姿は眩しすぎて、復讐の鬼と化している自分の目的を話せるわけが無い。
「どうしてもだ。理由は言えない。お前には言えない……。」
「それじゃあ何なんだ、お前は何をするつもりなんだ!」
「だから言えないんだよ!」
何かを振り払うように声を荒げ、尚也は圭を突き飛ばすと背中に隠し持っていた物を圭の眉間辺りに突きつけた。
それは黒光りするダブルアクションのリボルバー。
彼が見つけた時にはすでに死体と化しており、鴉に啄ばまれていた憐れなリサ・シルバーマンの荷物から拾ったコルトライトニングだ。

85 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 00:30:05 ID:CV6jMnx20
圭は少しよろめきながらも体勢を立て直し、今の状況を理解しようと頭を全力で回転させた。
だが、それは圭には理解出来るようなことではない。
信じていた友人に銃を突きつけられているという事実はまるで馬鹿げているとしか思えない。
だが、よく見ると銃を握る尚也の手は崩れ落ちそうなほどに震えていた。この震えはどういうことなのだろうか。
まずはそれを聞き出さなくては……。
「藤堂、お前……本気なのか?」
「……」
「お前本当に、やる気なのか?」
「……」
「返事をしろ、藤堂。お前がそう言うまで俺は信じないぞ……。」
「南条……」
拳銃を構えた尚也が零したその名は、決して敵意のある呼び方ではなかった。むしろ友達のことを労わる優しい響きだ。
だから圭は、親友に銃を突きつけられているという絶望の中に希望を見出したのかもしれない。ほんの少しだが表情を緩めた。
一方の尚也の方は相変わらず感情を無表情に押し殺している。だが、瞳は今にも泣き出しそうなほどに悲しかった。
突きつけている銃口も、心なしか小刻みに震えている。まだ幾分かの迷いがある。そう見て取ることも出来た。
そんな彼の口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「南条、俺たちって友達だよな?」
「何を言ってるんだ、当たり前だろうが! だからその銃を降ろせ、今すぐ!
俺たちが殺し合う必要なんて無いんだ。それくらいお前にも解るだろう?」
「南条は…………俺が悪魔でも友達でいてくれるのか……?」
「どういうことだ、藤堂。お前の言っている意味が解らない……。」
尚也の言っていることと、やっていることがまるで噛み合わず、圭はますます混乱してしまい、掛ける言葉が見つからなかった。
だが、たった一つの事実だけ言う事が出来た。
「お前が悪魔だろうが何だろうが、俺はお前を友達だと思っている。
今も、これからもずっとそれに変わりは無い。」
その言葉を聞いて、尚也は口元を少しだけ微笑む形に歪ませた。
眼は今までで、圭が彼と出会って以来見てきた尚也の表情では見たことが無いくらいの悲しさを浮かべていた。
だが、銃を降ろすこともしなかった。

86 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 01:20:43 ID:CV6jMnx20
「そうか……。ありがとう。」
礼を言って後ずさる。銃を持っていないほうの手で、レイコのマントを掴んでいた。
だからレイコも自然に尚也にぴったりとくっついた形で後退することになった。
彼女もまた、どこか悲しい表情をしていた。彼女は何かを知っている?
「南条、俺は君を忘れない……たとえ死んでも忘れないからな!」
半分泣いてしまっているような声でそれだけ言うと、尚也はレイコの手を引いて一目散に駆け出した。
「藤堂、待て、藤堂!」
すぐさま後を追おうとした圭だが、新に後ろから腕を掴まれて止まらざるを得なかった。
「止めるな塚本! 俺は信じない!」
焦って額に汗を浮かべている圭とは間逆に、いつになくシリアスな面持ちで走り去る尚也たちの後姿を眺める新は静かに呟いた。
「あいつ、何か事情があるな。」
「そんなのは見れば解るだろう! 早く追わないと……!」
最悪過ぎて信じられない状況で、ほぼ部外者とは言え異様なほど冷静な新に圭は苛立ちを覚え、
自分の腕を掴んでいる彼の手を必死に振り払おうともがいた。
だが、新は離してくれない。
「落ち着けよ、な? 
お前が追ったところであいつ、どう見てもお前の話を聞き入れる感じじゃなかったぜ。
よっぽど深い理由があるんだろうよ。」
「だが、あいつは!」
「友達なら空気読めよ。あいつは友達のお前を振り払ってまでしても何かの目的を果たそうとしてるんだぞ。」
「お前に何が解る!」
「全然解んねーよ。お前らの事情なんて初対面の俺が知るか。」
「だったらお前には関係ない! 離せ!」
「でもなぁ、あいつの眼、ありゃあとんでもない覚悟を決めてる眼だ。人殺しの眼なんかじゃない。」
「当たり前だろう。あいつがゲームに乗っただなんて信じられるものか!」
圭を落ち着かせるために一呼吸置き、新は彼の肩に手を置いた。
「女がいるからそう早く移動出来るとは思えない。
だがこっちが見つかったらあいつ、一目散に逃げるだろうし……次は最悪マジで撃ってくるかもしれねー。」
「それは、そんなことがあってたまるか!」
「だから、な。」
「塚本……?」
「少し距離を置きながら追うぞ。」
新は、そう言うとカバンに作った爆弾を全て詰め、散乱した店をそのままに出た。
その後を追い、圭も自分の荷物を取ると、サトミタダシを後にした。

87 :僕が悪魔でも友達でいてくれますか? ◆/nPUs5HTuE :2006/11/30(木) 01:21:40 ID:CV6jMnx20
【午前10時】

【赤根沢レイコ(if…)】
状態 やや疲弊
武器 無し
道具 無し(ライドウに預けたまま)
現在地 蓮華台
行動方針 魔神皇を説得 ライドウたちを探す ゲームからの脱出

【藤堂尚也(ピアスの少年・異聞録ペルソナ)】
状態 正常だが精神的に不安定
武器 ロングソード コルトライトニング
道具 ?
ペルソナ ヴィシュヌ
現在地 同上
行動方針 葛葉ライドウを倒し、園村麻希の仇をうつ カオスヒーローとの再戦

【南条 圭(女神異聞録ペルソナ)】
状態:正常
武器:アサノタクミの一口(対人戦闘なら威力はある)
  :鎖帷子(刃物、銃器なら多少はダメージ軽減可)
道具:ネックレス(効果不明):快速の匂玉
降魔ペルソナ:アイゼンミョウオウ
現在地:蓮華台
行動方針:仲間と合流 藤堂尚也を追う

【塚本新(主人公・ソウルハッカーズ)】
状態:銃創による左肩負傷・応急手当済み(左手は何とか動かせる)
武器:作業用のハサミ 手製の焼夷弾×15 手製の爆弾×10
道具:物反鏡×1 傷薬×3 包帯 消毒液 パン(あんぱん・しょくぱん・カレーパン
アルミパイプ(爆弾発砲用に改造済み) 銘酒「からじし」 退魔の水×10
現在位置:蓮華台
行動指針:スプーキーズとの合流 藤堂尚也を追う

88 :未知の感情:2006/12/02(土) 06:10:22 ID:FAYKA7xz0
(――未だ、悟らぬのか)
その声は低く、高圧的で、しかし何故か親しみを感じさせる響きだった。
(救世主を名乗る者までもが、殺戮に手を染める。地上の者の魂の穢れは拭い去り難い)
諭すように、憐れむように、何かを促すように声は降り注ぐ。
その声の命ずるままに受け入れてしまえば、楽になれるような気がした。
しかし、そうしてしまったら自分が自分でなくなるような予感もした。
(許せぬのであろう。法に背き、正義を貶める者が。ならば裁け、その手で。
お前にはその権利がある。穢れに染まりし全てを裁く審判者となれ)
「……違う」
返したのは拒絶の言葉。口に出す必要はなかった。心に思うだけで、その存在は応えを知覚する。
何故かは解らないが、それだけは知っている。
「僕は殺し合いに乗る気はない。それは、僕の信じる法じゃない」
しばしの沈黙の後、再び声が聞こえる。
(目覚めには、至らぬか……
しかし忘れるな。お前は神の名の下に生まれし者。裁くべきは何か、それはお前が定めることだ)
よく知っている声のような気がする。けれど、何を期待されているのか解らなかった。
「あなたは――」
姿の見えない、その存在に向けて問いを投げ掛ける。
答えは、返らなかった。

視界に光が戻ってもしばらくは、どちらが夢でどちらが現実か判然としなかった。
頭が重い。背中が酷く熱い。周囲には物音一つない。
朦朧としたまま身を起こすと、何かが体の上から滑り落ちた。外気の冷たさが突き刺さる。
ややくたびれたジャケット。これが今まで、冷たい空気から守ってくれていたのだ。
――はっとして、思わず跳ね起きようとする。その瞬間、強烈な眩暈に襲われた。
床に膝をつき、倒れそうな体を腕で支えた。フローリングの床に触れた手から冷たさが伝わる。
床や外気が冷たいのでなく、自分の体温が高いのだと気付いたのは数秒後だった。
背中の傷のせいだろう。全身が気怠さに包まれ、巻き直してもらったばかりの包帯は汗で僅かに湿っている。
重い頭を巡らせて、周囲を見回した。誰もいない。
聞こえるはずの物音がないことに覚えた悪い予感は、正解だったのだろうか。
「……スプーキー?」
この場所にいなければならないはずの人物の名を呼ぶ。声が震えているのが自分でもわかった。
応えは、返らない。

89 :未知の感情:2006/12/02(土) 06:13:11 ID:FAYKA7xz0
壁を支えに、ゆっくりと立ち上がる。鼓動が速まる。
彼も眠っているのかもしれないと考えようとしたが、その希望はすぐに打ち砕かれた。
スプーキーの姿は、さして広くない店のどこにもない。
棚の陰のようなここからでは死角になる場所もあるが、そんな所で寝ているはずもなかった。
戦う力も、身を守る術もない彼が、独りでどこへ行ったのだろう。
手掛かりを探し、ほとんど縋るような思いで視線を巡らせる。
「……これは」
目に付いたのは、カウンターの上に置かれたメモ。走り書きの字が踊っている。
『煙草と食料を確保してくる。すぐ戻るから待っていてほしい。スプーキー』
そう書いた横にはユーモラスな幽霊のイラスト。こんなメモを残せたのだから、余裕のある状態でここを出たのだろう。
「なんだ……」
安堵し、床に座り込む。体が重い。脇腹に手を当ててみると、石化した部分が広がっているのが判る。
熱のせいか、頭もぼうっとしていて思考が纏まらない。
ふと顔を挙げると、壁に掛けられた時計が目に入った。針が示している時刻は一時前。
確か、死者の名を告げる放送が流れたのは午前六時。
この店に逃げ込み、眠りに落ちたのは――あの放送から三時間も経っていない頃だったはずだ。
四時間ほど眠ったことになるのか、と計算したところで、思い当たる。
その四時間の内のいつ、スプーキーはこのメモを書いた?
『すぐ戻る』という言葉。これが書かれたのが、もし三時間も四時間も前だったとしたら。
彼は、『すぐ』には戻ってきていないのだ。
再び鼓動が速くなる。スプーキーが残していったジャケットを握り締める。
過ぎってしまった最悪の予感が、消えてくれない。
(……まさか。帰ってくるに決まってる。きっと、すぐに戻ってくるはずだ)
このメモが書かれたのはそれほど前ではないのだと、自分に言い聞かせる。根拠など何もない。
何もないことを嫌というほど知っているから、どんなに信じようとしても不安は消えない。
手が震え出すのを止めようとして、ジャケットの裾を更に強く握る。
このまま待っていても、スプーキーは帰ってこないかもしれない。
どこかで危機に瀕して助けを求めているのかもしれない。しかし、その場所を突き止める術はない。
彼が今まさに殺されようとしていたとしても、それを知ることもできず、助けることもできない。
いや、場所が判っていたところでどうにかなるとは言い難い。
傷付き、疲れ果て、立ち上がるのが精一杯の体で、手遅れになる前に駆け付けることができるか?
そこに辿り着いたとして、殺人者と戦うことなどできるのか?
悔しいが、無理だ。常人より優れた身体能力を備えているとはいえ、生身の人間に変わりはない。
思い知らされた、己の力の限界。無力さ。手の震えが止まらない。
その震えは次第に全身に伝播する。

90 :未知の感情:2006/12/02(土) 06:14:12 ID:FAYKA7xz0
――子供達は、生まれた時から己は道具なのだと信じていた。
神のための、メシアのための、救うべき人々のための。
正確には、生まれる前からと言うべきかもしれない。
培養槽の中でプログラムによって脳に知識と思想を直接植え付けられた、その時から彼らは道具だったのだ。
全てを捧げるようにと教えられた。
彼らに人間的な愛情を注ぐ者はなく、自らを大切にすることなど誰も教えなかった。
特別な使命を持って生まれた彼らにとって、己の生命など、務めを果たすための道具でしかなかった。
役割を持って造られた道具である以上、それを果たさなければ存在意義がない。
同じように生まれた兄弟達のこともまた、道具だと理解していた。
彼らが死んだら悲しいけれど、それが使命のための殉教であるなら仕方ない。
自らの死も、いざとなれば兄弟達を失うことも受け入れるよう彼らは教育されてきたのだ。
そして、同じ道具である兄弟達の他には、失いたくないと感じさせる者と出会うこともなかった。
子供達はそれぞれの任に就くまでは半ば隔離され、センター上層を出ることすら稀だったのだから。
まさに純粋培養である。
道具としての自我が揺らがぬように、無垢な神の子であるために、必要のない感情は与えられなかった。
人間として育てば自然に身に着くはずの感情を、子供だった時期を持たない子供達は知らぬまま――
使命に従って生きていたなら、自らが道具である前に人間なのだと気付かずに一生を過ごしたかもしれない。

ザインは震え続けていた。
今まで覚えたことのない感情に戸惑い、混乱していた。
(信じなければ。スプーキーが帰ってきた時に、僕がここにいなかったら彼を不安にさせるだけじゃないか。
待つしかない。今の僕には待つしかできない。帰ってきてくれると、信じていればいいんだ……)
ジャケットを握る指は、力を込めすぎて痛いほど。
大丈夫だと自分に言い聞かせる度に、そんな気休めでは安心できない自分がいることを思い知らされる。
初めて友人になった『普通の人間』。彼の身に何か起こったのではないかという悪い予測が頭を離れない。
失いたくないものを――友であれ、己の命であれ――持っていたなら、とうにどこかで知っていただろう感情。
ザインにとってはそれは未知のもので、自らの中に芽生えたそれをどう処理したらいいのかは見当も付かない。
ただ、その感情を何と呼ぶのかは理解していた。
今までは知識としてしか知らなかった概念。『道具』であれば抱くはずのない感情。

これは、恐怖だ。


【ザイン(真・女神転生2)】
状態:傷による発熱、軽く恐慌状態
 背中に深い刀傷、腕・拳に刀傷多数、胸部打撲、石化進行中(脇腹の出血は石化により止まる)
武器:クイーンビュート(装備不可能)
道具:スプーキーのメモ、スーツの上着
現在地:夢崎区、小さめの通りにある文具店
行動方針:スプーキーの帰りを待つ

【午後1時】

91 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/10(日) 19:23:49 ID:EIMp/dWcO
(cレ ゚∀゚レ<Q

92 : ◆Mqfei9gUOg :2006/12/13(水) 06:01:06 ID:9PrHaaLD0
「うっ・・・」
達哉がうめき声を一つ上げた。
今まで閉じていた達哉の目がゆっくりと開く。
「・・・お目覚めかな?」
途端、声をかけられた。
「!?」
すぐに構えようとするも体が動かない。
どうやら椅子にくくりつけられているようだ。
「おっと、悪いけど縛らせてもらったよ」
達哉の前ではヒーローがGUMPをこちらに向けていた。
「そんなロープは君ならアギでも使えば簡単に切れるだろうけどね、切ろうとしたら・・・バンッだよ?」
口調こそ冗談っぽいがヒーローの目は本気だ。
「それは銃・・・じゃないな」
達哉は決して動じず、ボソッとしゃべった。
達哉は以前たまきがソレと似たものを持っていたのを見たことがある。
するとあれから出るのは弾丸じゃなく・・・。
「お、見たことあるのかな?確かにこれは銃じゃないけど・・・弾よりもっと怖いものが出るかもよ?」
ヒーローはシレっとした様子だ。
達哉は確信した。
やはりあれは以前見たものと同じ。
あれから出るのは悪魔だと。
自分が反抗すれば悪魔を撃ち込まれるのだ。
「・・・俺をどうするつもりだ?」
自分の絶対的不利を理解しながらも達哉の口調に動じた様子は無い。
「とりあえず尋問かな?」
「答えないのならバンッ!こちらが嘘を言ったと思ったらまたバンッ!僕の気に入らない答えでもやっぱりバンッ!・・・OK?」
「待遇は最悪レベルだけどさ、一回襲い掛かってきてるんだ、スグに殺されないだけマシとでも思ってよ」
「・・・わかった」
軽い調子でしゃべるヒーローに達哉はボソッと一言だけ返事を返した。


「交渉」が始まった。


93 :「待つ者」「探す者」 ◆Mqfei9gUOg :2006/12/13(水) 06:02:13 ID:9PrHaaLD0
「質問その1・・・君は優勝狙いかい?」
「・・・いや、俺は優勝で脱出するつもりは無い」
事実だ、これは問題ない。
「・・・質問その2、君は誰も殺さないつもり?」
「NO・・・だ、必要なら殺す・・・すでに一人殺した」
達哉にとって不利になる質問だ。嘘をついてもよかった・・・しかし見透かされる気がした。
「ふーん・・・その3、このゲームから脱出したいかい?」
「・・・ああ」
「アテは?」
「無い」
「そりゃ残念・・・その4、ゲーム開始前から知ってる人はいる?いるなら何人?」
「いる、9人だ・・・最初の放送で5人死んでる・・・」
「・・・残り4人の名前、言える?」
「・・・・・・南条圭、桐嶋英理子、周防克哉・・・それに・・・天野舞耶」
「天野舞耶?彼女の関係者か」
ヒーローは自分が捜していた人物の名前が出たことに少し驚いた。
「舞耶姉を知ってるのか!?」
いままで落ち着いた口調だった達哉だがヒーローの言葉に声を荒げる。
「質問その5・・・」
そんな達哉の様子に何かを察したようにヒーローは質問を続ける。
「答えろ!舞耶姉は!」
「質問その5!・・・お前は誰かを・・・優勝させるつもりなのか?」
ヒーローは有無を言わせず質問を続ける。
そこに先ほどまでの冗談じみた口調は無くなっていた。
「!!」
「繰り返すぞ・・・お前は・・・そいつ以外を皆殺しにして最後に自殺することでそいつを優勝させるつもりか?」
さらに語調が強くなった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・最悪の場合、そのつもりだ」
それは今までよりも小さな声、けれどはっきりした決意をこめて・・・達哉はYESの返事をした。
「聞くまでも無いけど・・・天野舞耶だね?」
達哉の返事を聞くとヒーローの口調が戻った。
彼の頭の中で一つの結論が出たようだ。
「・・・ああ」
「天野舞耶は今・・・平坂区からこちらに向かっている」
「場所・・・わかるのか!?」
「まだ会った訳じゃないけどね、僕のところへ向かっているのは確かだ」
「この縄を解いてくれ・・・舞耶姉のところに行く」
「行ってどうする?」
「守る」
「ここにいればいずれは来るよ」
「ここに来るまでに襲われるかもしれない」
「行き違いになるかも・・・」
「それならまた探すまでだ」
「・・・解ったよ」
ヒーローはこれ以上続けても意味がないと判断し妥協した。
正直ヒーローにとって、この町の実情さえ知っていれば天野舞耶で無くともかまわないのだ。
目の前にいる周防達哉もまたこの町の出身者のようだし情報を聞くには十分なはずだ。
しかし、今までの会話から考えて舞耶を無視するなど達哉が出来るはずもないことはわかっていた。


94 :「待つ者」「探す者」 ◆Mqfei9gUOg :2006/12/13(水) 06:04:53 ID:9PrHaaLD0
「天野舞耶は現在彼女を含めて三人と、僕の仲魔のピクシーで行動している」
「ピクシー?」
「ああ、僕が彼女を探すために出した奴だ、彼女の現状もピクシーからの報告で知っているだけで実際に会ったわけじゃない」
既にヒーローはGUMPを達哉に向けるのを止めている。
「君が天野舞耶を見つけたらここに連れてきて欲しい、頭数は多いほうがいい」
「・・・脱出のアテがあるのか?」
「2割ってところだね、今のところは」
「解った、無いよりマシだ」
「ピクシーに上空から君を探させよう、多分見つけるのは向こうが先になる」
「助かる・・・それより一刻も早く動きたい、ロープを解いてくれ」
「・・・解いてる最中にアギダインを撃ち込まれちゃたまらないからね、僕は上の階に行くから行った後に適当にアギかなんかで抜けてよ」
そういうとヒーローは立ち上がり階段に通じる扉に向かう。
「それじゃ頑張ってね、期待してるよ」
言うが速いかヒーローは扉から出て行った。



「・・・・・・」
一人残された達哉、文句の一つも言いたかったがそんな暇が無いのも事実だった。
「ペルソナ」
達哉がつぶやくと彼の半身たるアポロが現れロープを焼ききった。
「荷物は・・・あるな」
達哉は部屋の片隅に置かれた自分の荷物を担ぐ。
「舞耶姉・・・今行く」
守るべきもの場所はわかった。
彼にもう迷いは無い。
太陽の半身は朝日を背に走り出した。












「よかったのか?奴を行かせて」
上のフロアで周囲を警戒していた伽耶が尋ねた。
「僕らが説得するより天野舞耶に任せたほうがよさそうだからね、彼の場合…うまくすれば僕らの火力不足が一気に解消できるかも」
「お前がそれでいいならいいんだが…ところでなんだ?その虫みたいなのは」
「彼の支給品みたいだけどね、情報料ってことで」
「役に立つのか?」
「さぁ・・・」
「気持ち悪いな・・・お前が持っておけよ」


95 :「待つ者」「探す者」 ◆Mqfei9gUOg :2006/12/13(水) 06:06:01 ID:9PrHaaLD0
【ザ・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:体中に切り傷 打撃によるダメージ 疲労(ガリバーマジックの効果によりほぼ回復)
武器:鉄パイプ、ガンタイプコンピュータ(百太郎 ガリバーマジック コペルニクスインストール済み) 虫のようなもの
道具:マグネタイト8000 舞耶のノートパソコン 予備バッテリー×3 双眼鏡
仲魔:魔獣ケルベロスを始め7匹(ピクシーを召喚中)
現在地:青葉区オフィス街にて双眼鏡で監視しつつ休憩中
行動方針:天野舞耶達がここを訪れるのを待つ 伽耶の術を利用し脱出 体力の回復  

【大道寺伽耶(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態:四十代目葛葉ライドウの人格 
疲労 首に爪跡があるが、大したダメージではない
武器:スタンガン 包丁 手製の簡易封魔用管(但しまともに封魔するのは不可能、量産も無理)
道具:マグネタイト4500 双眼鏡 イン・ラケチ
仲魔:霊鳥ホウオウ
現在地:同上
行動方針:天野舞耶がここを訪れるのを待つ ザ・ヒーローと共に脱出し、センターの支配する未来を変える 体力の回復

【周防達哉(ペルソナ2罪)】
状態:脇腹負傷(出血は無し)
武器:なし
道具:チューインソウル 宝玉
ペルソナ:アポロ
現在地:青葉区オフィス街から平坂区の方角へ
行動方針:舞耶を守る 主催者を倒し脱出する 最悪の場合舞耶を優勝者にする


96 :蟲毒 ◆YCdozkB52g :2006/12/15(金) 00:41:23 ID:c9Xu2EuP0
蟲毒
甕に様々な毒蟲をいれ殺し合わせる。
最後の一匹になったものは蟲毒となり様々な呪を行う呪法。
スマル市という甕の中で行われているこのゲームもまさにそれ。
だが甕の中のもう一つの甕があった。

青葉区 スマルテレビ屋上。
四方数十メートル程度の「甕」で行われている悪魔同士の殺し合い。
人修羅はその中心にいた。
人修羅の放つ右ストレートが悪魔を抉る。
悪魔は体液を噴出させその場に倒れこむ。
「死亡遊戯・・・!!」
放った斬撃が広範囲を破壊する。
しかし悪魔も負けてはいない。
仮にも人修羅の仲魔だった悪魔達だ。
彼らの放つ魔法は人修羅の皮を焼き肉を抉る。
確実に人修羅の体力をそいでいく。
「・・・・・・」
人修羅に近い力を持つ悪魔が12体。
確実に数が減っているとはいえ強いものが残る。
しかし人修羅に焦りは無い。
何故なら・・・。
「オオォーーーーーーーー!!」






地    母    の    晩    餐  ッ!!






咆哮、そして衝撃。
人修羅の放った技は残った数体の悪魔を一度に塵にする。


97 :蟲毒 ◆YCdozkB52g :2006/12/15(金) 00:42:33 ID:c9Xu2EuP0
しかし


「グゥ!?」
煙の奥から現れた最後の悪魔。
悪魔の放った魔法は人修羅の左腕を?ぎ取った。
腕の付け根から血が噴出する。
(ああ・・・血だけはまだ・・・赤いな・・・)
既にほとんど無い理性でそんなことを考えていた。
生き残った悪魔を見やる。
(あいつは・・・物理無効・・・)
この考えをしたのは本能。
常に戦いを望む悪魔の本能。
その本能は目の前の悪魔を倒す最善の一手を選択する。






至    高    の    魔    弾ッ!!





人修羅から放たれた光線は悪魔を貫く。
悪魔の体に空いた大穴からは血・・・いや体液が噴出する。
悪魔の体液を全身に浴びた。





最後に立つのは隻腕の修羅。
半壊したビルの屋上で。
その身に人は既に無い。
12の悪魔の血を浴び、蟲毒となった修羅は街に降りる。
自らの本能の赴くまま。
殺戮のために。





「人修羅」と「何か」は一つになる・・・。


98 :蟲毒 ◆YCdozkB52g :2006/12/15(金) 00:43:35 ID:c9Xu2EuP0
<時刻:午前11時>

【人修羅(主人公)(真・女神転生V-nocturne-)】
状態:左肩から下を欠損し出血中  
受けたダメージと消耗により既にまともにスキルを使用することは不可能  
悪魔化 フルムーンの影響を受けつつある 
体中に悪魔の体液を浴びており強烈な異臭がする
武器:素手
道具:無し(所持していたものは先の戦闘の巻き添えで塵に)
仲魔:無し
現在位置:スマルTV屋上より移動開始。
行動指針:本能の赴くままに殺戮
備考:悪魔との戦闘はとてつもない音が響いたため青葉区にいればまず気づくでしょう。
   左腕からは血が流れていますが、悪魔である彼が出血死するかは不明です。


99 :蟲毒の修羅 ◆YCdozkB52g :2006/12/16(土) 04:01:30 ID:rbkHoRKK0
蟲毒
甕に様々な毒蟲をいれ殺し合わせる。
最後の一匹になったものは蟲毒となり様々な呪いを行う呪法。
青葉区 スマルテレビ屋上。
ここで行われている行為は正にそれ。
四方数十メートル程度の「甕」で行われている悪魔同士の殺し合い。
人の頭では想像できようはずも無い光景がそこにはあった



何の変哲も無い右ストレート。
だがそれは悪魔の急所を的確に抉りぬく。
人修羅
人であり悪魔。
ほんの数時間前までは十分に人としての心を残していた彼。
彼は今自らの仲魔と殺しあっている。
頼り、頼られたはずの仲魔と完全なる自分の意思で殺しあう。
手に残る肉の感触が。
吹き出る体液の温かさが。
そして何より消えていく命の感触が。
確実に人修羅の人としての部分をそぎ落としていくのが解る。
悪魔が一体・・・また一体と地に伏せ、躯となる。
そのたびに人修羅の凶暴性は増していくのだ。
そしてそれは魔仲魔もまた同じだ。
かつて主人だったものに容赦なく攻撃を加える。
放つ魔法は皮を焼き、繰り出す武器は肉を抉る。
確実に人修羅の体力をそいでいく。
確実に人修羅の「人」を消していく。
今の人修羅には「情け」や「容赦」などは存在しない。
「オオォーーーーーーーー!!」






地    母    の    晩    餐  ッ!!






咆哮、そして衝撃。
広範囲に放たれる衝撃波。
耐性の無いものは即座に塵と化す。
そして耐性のあるものは・・・。




100 :蟲毒の修羅 ◆YCdozkB52g :2006/12/16(土) 04:03:22 ID:rbkHoRKK0
煙の奥から現れた最後の悪魔。
その悪魔の放つ一撃は技を放った直後、無防備な人修羅の左腕を引きちぎった。
同時に腕の付け根から血が噴出する。
血が流れる。
流れ落ちる。
かつて人だったときから流れ続けていた血が。
流れ落ちる。
彼の心に最後のほんのちょっぴり染み付いた人の心を。
洗い流していく。
(ああ・・・血だけはまだ・・・赤いな・・・)
これは「人」としての人修羅の最後の思考。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
咆哮。
あるいはソレは産声だったのかも知れない。
もうそこに

人など

いない。


(物理ハ・・・キカナイ・・・)
この考えをしたのは本能。
常に戦いを望む悪魔の本能。
その本能は目の前の悪魔を倒す最善の一手を選択する。
殺戮のための一手。



至    高    の    魔    弾ッ!!



人修羅から放たれた光線は悪魔を貫く。
そして躯がまた一つ。


屋上に悪魔の死体が12。
人修羅はゆっくりと死体に近づくと死体を持ち上げる。
彼は勝者だ。
彼は蟲毒だ。
彼がやることは・・・・・・一つ。
人修羅は死体にゆっくりと口を近づけた。




悪魔の死体を貪り食う隻腕の男。
その体からは悪魔の体液による強烈な異臭が放たれている。
今の彼に、「人」を感じられるものがいるだろうか?

いはしない。
敵だろうと。
かつての友であろうと。


人修羅自身だろうと。


101 :蟲毒の修羅 ◆YCdozkB52g :2006/12/16(土) 04:04:55 ID:rbkHoRKK0
<時刻:午前11時>

【人修羅(主人公)(真・女神転生V-nocturne-)】
状態:左肩から下を欠損し出血中  
    受けたダメージと消耗により既にまともにスキルを使用することは不可能  
    悪魔化 殺戮衝動 
体中に悪魔の体液を浴びており強烈な異臭がする
武器:素手
道具:無し(所持していたものは先の戦闘の巻き添えで塵に)
仲魔:無し
現在位置:スマルTV屋上
行動指針:本能の赴くままに殺戮
備考:悪魔との戦闘はとてつもない音が響いたため青葉区にいればまず気づくでしょう。
   左腕からは血が流れていますが、悪魔である彼が出血死するかは不明です。


102 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/22(金) 18:21:03 ID:gCJnIw2eO
マハ・ホシュ

103 :牙を隠して:2006/12/26(火) 03:40:39 ID:p937d2eU0
重い身体を引きずり、神代浩次は歩いていた。
荷物は減って、と言うより殆どなくなって身軽になりはしたものの、先程のケンカの代償は予想外に高くついてしまった。
「あーあ……俺の苦労が水の泡とはね」
わざと大袈裟におどけて呟いてみるが、憤りは収まらない。
肩を竦めようとしても、右肩は外れたままでろくに動かなかった。
更に悪いことに悪魔狩りで入手した武器も、食料なども奪われてしまっている。
武器もなく、利き手が使えず、このままいたら餓死必至。考え得る限り最悪の状況に放り込まれたようなものだ。
しかしそんな状況でも、彼の頭脳は回転を続ける。
必要なのは治療。それから食料と水の確保と、できれば武器も。この街の地図も持っておきたい。
しかし食料や水はともかく、地図の入手には他の参加者から受け取るか、奪うかしかない……そう考えて、神代はふと思い出す。
そういえば、当てがあった。つい先程無謀にもいきなり挑みかかってきた、あの変なマッチョの男の荷物。
ざっと中を見て大した物が入っていなかったから、そのまま置いてきてしまった。
しかしお陰で自前の支給品と一緒に奪われずに済み、無事な形で入手できるのだからラッキーだ。
魔界を散々歩き回ったお陰で方向感覚にも自信がある。
身体のあちこちの痛みの所為で多少時間は掛かったが、殺人現場までは難なく辿り着けた。
他にここを通った者もいないようで、死体も放置したザックもそのままになっている。
改めてザックの中身を取り出し、確認する。片手しか使えないとそれだけでも結構な作業だ。
入っていた物は、マッチョが使おうとしなかったのも納得のいくラインナップ。
武器として入っているこれは……結び合わされた何本ものロープに錘が付けられた物。確かこういうのはボーラと言うはずだ。
これは特別製で、機械で撃ち出すようになっているようだ。
「捕まえるにゃ便利だが……デストロイの役には立たないよな。レイコの奴を回収する時に使うか」
他に武器がある時にわざわざ持とうとは思わないが、今なら何もないよりましだ。
扱いが簡単で逆手でも使えそうなのもいい。今の条件下では、これはそう外れでもないようだ。
それから道具。綺麗に巻かれた小さな紙片の赤いのが三枚、青いのが三枚。
何だこれは、と思ってザックの中を更に漁ると説明書が出てきた。
「赤巻紙:マハラギ・マハブフ・マハジオ・マハザンのいずれかがランダムで発動します」
「青巻紙:ディア系の魔法がランダムで発動します」
……あまり頼りにしない方が良さそうだ。ランダムでは作戦に組み込めたものではない。
「しかしまあ、こっちは使えるか」
青い紙片を一枚開いてみる。ぽうっと暖かさが広がったかと思うと、殴られた頬の痛みが引いた。
この効果だと、発動したのはディア辺りか。気付けば手の中の巻紙は消えていた。
「……こんなもんか」
青巻紙を右のポケットに、赤巻紙を左のポケットに突っ込む。
食料と水は……殆ど残っていなかった。
この短時間で食い尽くしたのかこいつ、と思わず呆れ顔になる。使えない奴だ。
保存食がありそうな店でも探すかと考えながらザックを担ぎ、無様に転がっているマッチョの死体を蹴っ飛ばす。

104 :牙を隠して:2006/12/26(火) 03:42:29 ID:p937d2eU0
声が掛けられたのは、その時だった。
「君が殺したのかい? その人は」
高校生だろうか、学生服を着た少年が神代が来たのとは反対方向の道に立っている。
驚きはしなかった。実のところ、近付いてくる気配は察知していたのだ。
だから、受け答えも既に頭の中に用意していた。
「いいや、俺じゃない。通り掛かりに荷物だけ頂いた所だよ」
少年の視線が神代と、マッチョの死体を見比べる。やがて納得したように彼は頷いた。
「……らしいな。君は凶器を持っていない」
マッチョの死体には実に目立つ刀傷がある。そんな傷を付けられるような得物を、「今の」神代は持っていない。
怪我の功名という奴だ。
しかし目の前のこの男、死体と人殺しの容疑者を前にして冷静なものだ。
自分と同じ種類の、修羅場に慣れた人間に違いない……そう神代は考える。
彼の無言をどう解釈したのか、少年は相変わらず冷静なまま質問を続ける。
「君、怪我をしているようだけど」
「見ての通りさ。性質の悪いのに襲われてね、死んだ振りでやり過ごした」
半分は本当で半分は嘘。人を騙す時にはこれぐらいが丁度良い。
全て嘘では、どこかで必ずボロが出る。
「そうか。安心したよ、君が好戦的な人じゃなくて」
少年が微笑む。女だったら見惚れるような美しい笑顔だが、今は場違いこの上ない。
(良く言うよ……)
神代は内心毒づく。目の前に死体が転がっているのに笑顔を浮かべられる人間なんて、まともな筈がない。
そう見られる事がわからないほど、こいつも愚かではないだろう。
この外面なら善良な少年を装う事もできるだろうに。
神代に同種の人間の匂いを感じ取り、猫を被っても見破られると踏んでいるのか。
大体、この男は神代がマッチョの死体を蹴飛ばしたその瞬間を見ている筈なのだ。
この邂逅が平和的に終わるなどとは思っていまい。
自分が安全な人間でない事を暗に匂わせ、プレッシャーをかけてきているつもりなのだ、こいつは。
「……そいつはどうも」
愛想笑いを浮かべる。こいつの思惑はわからないが、今は仲良しごっこに乗ってやってもいいだろう。
「僕は中島朱実。君は?」
「神代浩次、だ」
「神代君か。よろしく」
中島が右手を差し出す。
「生憎、右手は動かなくてね」
「そうか。すまなかった」
脱臼した右肩を指差してみせると、中島は残念そうな顔をした。
大した演技力だ。腕が動いたとしても、あまり握手したいタイプの相手ではない。

105 :牙を隠して:2006/12/26(火) 03:43:33 ID:p937d2eU0
「探している人がいるんだ。セーラー服の女の子なんだが、見なかったかい?」
中島の質問に、神代は少し拍子抜けする。
自分と同じ種類の人間が人探しをしている。となれば、何か理由があるに違いなかった。
殺し合いに乗る気ならば、友人だろうと恋人だろうと敵に過ぎない。探す必要などないのだ。
手駒にするために知り合いと合流するという選択肢もあるが、その為にわざわざ神代に質問などはしないだろう。
出会ったばかりの相手に質問をするというのは、自分の意図を知らせる、つまりは弱みを晒す行為でもあるのだ。
となれば何か目的がある筈。脱出の手掛かりか、呪いの刻印の解除方法か。
あるいはハザマにとってのレイコのような、「ただ一人の特別な存在」という奴か。
いずれにせよ、素直に知らないとは答えず引っ張るのが得策だろう。そう神代は判断する。
こちらは手負いで丸腰に近い。相手はほぼ無傷で、武器を隠し持っていないとも限らない。
逆の状況だったらどうするか。言うまでもなく、聞くだけ聞いて始末するに決まっている。
奴の能力は未知数、勝てるかどうかは不明。確実に生き延びるには……こいつにとって用済みにならない事だ。
「それだけじゃわかんねぇな。セーラー服なら見掛けたが、その娘かどうかは知らん」
嘘である。セーラー服どころか、人間の女に遭遇した事すらない。
「長い黒髪の綺麗な子だ。彼女は優しいから、積極的に戦ってはいないと思う」
(……惚気話かよ)
嫌味の一つも言いたくなるが、これが本当ならその女はこいつにとっての弱みに違いない。
守るべきものを持つ奴は、そこに付け込めば利用するのは簡単だ。
「そいつは……悪いニュースを伝えなきゃならないかもな」
勿体ぶって視線を逸らしてみせる。中島がハッと息を飲むのが聞こえた。ここからが勝負だ。
「俺が見掛けたのはその娘かも知れない。ただし……死体だったが」
「まさか!」
勝った、と神代は思う。中島の声にははっきりと動揺が表れていた。
「その娘だとも限らないけどな。黒髪でセーラー服なんて、何人もいておかしくないだろ?」
「場所はどこだ。どんな風に殺されていた? 嘘はつかない方がいいぞ」
先程までの爽やかな笑顔はどこへやら、睨む表情で問い詰める中島からはもう余裕は感じられない。
無論、彼も神代の言葉を信用しきってはいないだろう。その場凌ぎの嘘という可能性も考えている筈だ。
それでも、「もし本当だったら」という不安を隠せないのだろう。
その女の事は、こいつにとって思った以上に大きな弱点らしい。
恐らくこの男は、その女に惚れている。
こんな、殺し合いという現実を当たり前に受け止めている男が。戦いがお嫌いだという聖母様のような女を。
とんだお笑い種だ。

106 :牙を隠して:2006/12/26(火) 03:44:50 ID:p937d2eU0
「向こうの方……港南区だっけか。道の真ん中に、血を流して倒れてた。背中を斬られてたな」
我ながらよくもまあ、こうも出任せが思い付くものだ。
ボロを出してはいけない。喋りながら頭の中でシナリオを組み立てる。
「俺をコケにしてくれた奴も刀を持ってたし、会ったのは向こうだ。殺ったのはあいつかもな……」
「向こうの方の、どこだ。どんな場所だった」
「どんなって言われてもな。目印も何もないフツーの道路だったし」
疑いの目で、中島は神代をじっと見詰める。
気まずさに目を逸らす振りをしながら、神代はこの状況を変える、止めの一言を発した。
「確かめに行くかい?」
「……よし。案内しろ」
苦渋の表情で、中島は頷いた。
「僕の前を歩け。妙な真似はするな。言っておくが、騙し討ちは無駄だ」
「はいはい。信頼ないなぁ」
苦笑しながら考える。この状況の切り抜け方を。今はまだ、時間を稼いだだけに過ぎない。

「案内」の為に歩き出してすぐ、神代は別の気配に気が付いた。
後ろを歩く中島の更に後ろ、少し距離を取り、身を隠しながら追ってきている何かがいる。
(仲魔か? こいつ、COMPを持ってるのか……)
厄介だが、上手くすればこれは好機になりそうだ。
どうにかしてこの中島という男をぶちのめし、COMPを奪えれば……。

107 :牙を隠して:2006/12/26(火) 03:45:34 ID:p937d2eU0
「……歩くのが遅くないかな」
苛立つ気持ちを努めて抑えながら、中島は前を歩く神代に言う。
「無理言わないでくれよ、こっちは怪我人だぜ」
振り返らず歩き続けながら神代が答える。
よく言うものだ。歩くのも辛い怪我人にしては、彼の足取りは随分しっかりとしている。
肩が脱臼しているというのに酷く痛がる様子もないし、我慢強いというだけでは済ませられない体力である。
この男、油断のならない相手だ。死体を見たというのだって本当かどうかは知れたものではない。
時間を稼いで何か仕掛けてくるつもりか、それとも案内する先に仲魔でも待たせてあるのか。
聞く耳を持たず殺してしまおうかとも思ったが……万が一を考えると、彼の言葉を無視はできなかった。
嘘だと決め付けて神代を始末したとして、もし彼の言葉が本当だったら。
恐怖と苦痛の中で息絶えた弓子が、野晒しのまま冷たい地面に倒れているのを見過ごす事になるかも知れない。
まだ遠くへは行っていなかった弓子の仇をみすみす逃す事になるかも知れない。
いや、神代が死んでいると思っただけで実はまだ息のあった弓子を見殺しにする事にさえなるかも知れない。
それを考えると、真偽を確かめずにはいられなかった。
たとえ偽の可能性が九十九パーセントで、真の可能性が残り一パーセントしかなかったとしても。
神代を殺すことはいつでもできる。確かめてからでも遅くない。現時点で唯一の、弓子の情報なのだ。

そういえば、神代の着ている制服。
白と青、緑のストライプが特徴的なズボンに、校章らしき胸のエンブレム。
横丁で先程会った、内田という女と同じ学校のものだろう。こんな配色の制服がそうあるとは思えない。
あの女も油断ならない相手だった。こちらの殺気に気付き、先制攻撃を仕掛け、悪魔を屠る戦いぶりを見せたのだ。
そしてこの神代。やはり、ただの高校生とは思えない。
軽子坂高校と言ったか。その高校で「何か」が起こったのかも知れない。十聖高校と同じように。
そして、悪魔の力に触れた者が複数存在するのかも知れない。この神代や内田のような人間が。
(悪魔を使う場合も、悟られないようにしなければ……)
ちらりと後ろを振り返る。少し離れた所を、物陰に隠れながらついて来る小さな人影。
あらかじめ召喚しておいた妖精ゴブリンである。
住宅地に差し掛かり、道が入り組んで見通しが悪くなってきた辺りで中島はゴブリンを召喚した。
そして少し離れた所を歩かせ、レイピアも持たせておいたのだ。
言い包められそうな者に遭遇した時、武器を手に持っていては警戒されるというのが一つ目の理由。
それから誰かと戦闘になった時、上手く回り込ませれば挟撃になるというのが二つ目の理由。
目の前の手負いの男程度なら、不意打ちでなくとも片付ける事はできるだろう。
しかし今は時ではない。まだ……。

108 :牙を隠して:2006/12/26(火) 03:46:53 ID:p937d2eU0
歩を進めながらも苛立ちと焦りは募る。
神代の言葉が嘘ならば、あるいは真実であっても見た死体が別の少女のものならば、これは全くの無駄足だ。
こんな事をしている間に弓子が別の所で危機に陥っていないという保証は、どこにもない。
しかし中島は思う。ここで確かめなかったら、その不吉な仮説はずっと自分を苛み続けるだろうと。
生きている弓子と無事に会えるまで、地獄の炎のように彼自身を灼き続けるだろうと。
一時間程度の無駄で後の憂いを晴らせるなら、安いものだ。
……ああ、しかし、その一時間が弓子の命運を分けてしまったら?
あるいは神代の言葉の通り、物言わぬ屍となった弓子と対面する事になってしまったら?
思考がループを繰り返す。繰り返し、繰り返し……やがて一つの点に辿り着く。
(そうだ、その時は取り戻せばいいんだ)
迷う事はない。この殺人ゲームの勝者には、望みのものが与えられるというのだ。
勝ち残り、望みを叶えればいい。
弓子の為なら魔王だろうと神だろうと、全世界だろうと敵に回そう。
彼女をこの手に取り戻す為なら、地獄の果てまでだって行ってやる。
イザナミの復活を求めて根の国へ下った嘗ての自分自身、あのイザナギのように。



【午前9時】

【神代浩次(真・女神転生if、主人公)】
状態 右腕脱臼
所持品 ジェットボーラ 赤巻紙×3 青巻紙×2
行動方針:どうにか今の状況を切り抜け、中島からCOMPを奪う
 レイコの回収、ハザマの探索、デストロイ(アキラとキョウジが最優先)
現在地 平坂区南部から港南区へ移動中

【中島朱実(旧女神転生)】
状態 正常(頬に軽い傷)
仲魔 ロキ、ゴブリン他2体
所持品 レイピア(ゴブリンが所持) 封魔の鈴 COMP MAG2700
行動方針 弓子の安否を確かめる 弓子との合流 弓子以外の殺害
現在地 平坂区南部から港南区へ移動中

109 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:31:39 ID:UqnhJCKl0
突如静寂を破った轟音に、椅子に腰掛けて腕を組んだままうとうとしていた克哉は跳ね起きた。
こんな状況なのに心理的疲労からつい転寝してしまったことを後悔するより先に身構える。
「何だ、何が起こった?」
声のした方向に顔を向けるとゴウトも身を堅くして周囲を伺っていた。
しばらく低く物々しい音が響いていたが、やがて静かになる。
そして再び静寂が訪れた。
だが、屋内であるスマル警察署内にも関わらずすさまじい殺気が張り詰めていた。
「誰かが戦っているようだな。」
「ああ。この音、魔法か何かを使ったのかもしれない。」
上の階で休んでいる二人の女性を起こしに行かなくては。
そう思って立ち上がったところでドアが開き、当の女性二人が現れた。
「周防さん、ゴウト、今の音って。」
弓子が不安そうな表情を浮かべている。
彼女はそう聞くが、既にアームターミナルを装着しているのだからある程度状況を理解しているようだ。
「どうする克哉。ここを動くか?」
ゴウトが二人を伺い、克哉の方に目を向けた。
「いや、急に動くのはかえって危険に飛び込むことになるかもしれない。
少し様子を見ることにしよう。」
言いながら克哉はベルトに刺した拳銃を抜く。
「でも、今こうしている間にも誰かが命を落としているかもしれませんわ。」
そう反論したのは英理子だ。
英理子は一度友人を目の前で亡くしている。
また、放送でも別の友人の死を知った彼女はいても立ってもいられないのだろう。
彼女の言い分も一理ある。
戦う意志の無い者が誰かに襲われていて、今自分達が駆けつけることによって助けられるかもしれないのだ。
助けられる命は、助けたい。その思いは全員に共通している。
だがここを動くということは、彼女達も危険に晒す可能性が上がることを意味するのだ。
克哉は判断を迷った。
「この街の地の利が解るのは克哉だけだ。
様子を見に行くのなら全員で移動した方がいいかもしれんな。」
すぐそばにいれば、二人と一匹を守ることが出来る。
「ああ。ゴウトの判断に従うとしよう。」
ゴウトの言葉に頷きながら、克哉は銃の安全装置を外した。

110 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:33:29 ID:UqnhJCKl0
誰がどこに潜んでいるのか解らないから足音を出来るだけ潜ませ、外に出る。
ロビーを抜け、止まっている自動ドアをこじ開けて出ると、外は驚くほど静まり返っていた。
戦闘はもう終わったのだろうか。だが、気を抜くわけには行かなかった。
かすかだが、埃に混ざった血のにおいが漂っている。
「鳥が騒いでいるわね。戦闘があったのはそんなに遠くないわ。」
弓子が耳に手を当て、周囲の音を拾った。
「おいで、ミズチ。」
アームターミナルを起動させ、唯一の仲魔であるミズチを呼び出す。
「呼ンダカ。」
「ええ。近くで戦闘があったの。ひょっとしたら貴方の力を借りるかもしれないわ。」
「承知シタ。」
短いやり取りだが、ミズチは弓子の命令には絶対服従のようだ。
三人と一匹、そして仲魔一体は物陰に身を寄せながら少しずつ進む。
方向は血のにおいが強くなる方向。ひょっとしたら誰かが攻撃を受けているかもしれない。
見つけたら助ける。全員そのつもりであった。
「ミズチ、何かわかる?」
「死体ガ多イナ。」
「それは人間の?」
「イヤ、悪魔ダ。死ンデイルノハ悪魔ダケダ。」
その言葉に全員はほっと胸を撫で下ろした。
少なくとも人間の犠牲者は出ていないことが解ったからだ。だが克哉とゴウトはその安堵感の中で何かが引っかかっていた。
「ミズチよ、その死体を作り出したのも悪魔か?」
そう訊ねたのはゴウトだ。
ゴウトの問いに、ミズチは長い身体に乗っている小さな頭を捻った。
「解ラヌ。人間ノ気配ニ近イ感覚モスルガ、コノ殺気ハ悪魔ニ近イ。」
「どういうことですの?」
ミズチの言っている意味が解らない英理子はストレートに疑問をぶつけた。
彼を召還した弓子自身も首をかしげている。
「それについては僕が話そう。憶測の域を出ないことだが……。」
少し迷っているような口ぶりで克哉が出た。ちらりとゴウトに視線を落とすと、彼は無言で頷いた。
ゴウトにもはっきりとした答えは出ていないようだ。
克哉は、弓子と英理子が休んでいる間に来訪者があったことを伝えた。
彼の弟と同じくらい、つまり弓子たちとも同年代の少年で、全身に幾何学模様の刺青が施されていたこと。
無口で、その時は好戦的な態度ではなかった。
それどころか、こちらに対しては控えめで、従順ですらあった。
だが、ゴウトに言わせると彼は人ではなく「悪魔」であるという。
それも、並みの悪魔が束になっても適わないような強力な力を秘めた――。
「悪魔を皆殺しにしたのは奴かもしれんな。」
「ならば、それほど心配はいらないだろう。少なくとも彼に敵意は無かった。」
「だが悪魔だぞ。悪魔は極めて気まぐれなものだ。安心はできん。」
ゴウトの言葉に女性二人が頷いた。
「そうですわね。私もそれで散々苦労しましたわ。」
「ミズチ、貴方はどう思う?」
弓子はミズチに話を振った。悪魔のことは悪魔に、というわけか。
ミズチはしばし沈黙したが、ややあって口を開く。
「気ガ変ワッタノダトシタラ、理由ハ明白ダ。」
「どういうこと?」
「気付カヌカ。月ノ満チ欠ケニ。」
ミヅチはぶるりと身体を震わせると空を見上げた。雲間から太陽が覗いている。
だがそれだけで彼らはピンときた。
今は昼間だから人間には見えないが、もしも今夜が満月ならば、悪魔の気が高ぶっている理由になる。
ミズチも同じく悪魔だが、仲魔として人間と一緒にいる以上、かなり自己を押さえつけているようだ。
「どうやら今彼に接触するのは良くないようだな。」
克哉は小さく溜息を漏らした。
「ならばこれ以上外に出ている理由は無いな。一度署に帰ろう。」
そう言って踵を返そうとした瞬間、四人と一匹、そして一体の輪の中に何かが落ちてきた。
それが人間の形をしており、周囲に張り詰めた殺気の原因だと知った時に――。
すでにミズチの身体が引き裂かれていた。

111 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:34:59 ID:UqnhJCKl0
「!!!」
全員身構え、後ろに飛んで距離を取る。
現れた人の形をしたソレはミズチの返り血を全身に浴びて不気味に蠢いていた。
「君は……その腕は一体どうしたんだ…!」
「マ、マガツヒを…マガツヒをもっと……くっくく喰わせろ…!
マガツヒマガツヒマガツマガツマガッマガッ、ガガッ、ガァァァッ……!!」
低く唸るような声だ。その言葉一つ一つも飢えた亡者の呻きを思わせる。
本当はすぐにでも発砲しなくてはいけないのに、克哉は躊躇した。
一瞬でミズチを引き裂き、そこから浮かび上がる赤い光を吸収している人物。
それは先ほど克哉と会話したあの少年に他ならなかったからだ。
しかも左腕が根元から無い。
先の戦闘が彼だとしたら、その時失われたのだろうか。
かつて腕が生えていた場所は真っ赤に染まり、とめど無く血を滴らせている。
「Persona!」
最初に行動を起こしたのは英理子だった。
英理子のペルソナ、ニケーが現れ、赤い眼をらんらんと光らせる少年にガルの魔法を喰らわせる。
強烈な衝撃を受け、少年はコンクリートの壁に叩きつけられるが、ダメージはあまり受けていないようだ。
すぐに体勢を立て直し、首の間接を二、三度鳴らすと攻撃を加えた英理子に飛び掛った。
「危ない!」
「きゃあ!」
弓子のとっさの判断で、英理子を突き飛ばし、代わりに弓子の腕を少年の爪が捕らえる。
真紅の血が飛び散り、弓子のセーラー服の左袖が引き裂かれた。
「白鷺君!」
「Yumiko!」
「大丈夫、少し腕の肉を持っていかれただけだから…。」
気丈にそう言う弓子だが、右手で抑えた左腕からは血がどくどくと零れている。
少年は、弓子の血が付いた右手を舐めると、身をかがめて牙を剥き出し、こちらを威嚇した。
「克哉、話にならないようだぞ。逃げるか?」
「……」
「克哉!」
ゴウトに怒鳴られ、克哉ははっとした。
克哉は今の今まで、悪魔であっても彼には話が通じると信じきっていた。
だが、仲間が傷つけられ、ようやく戦わなければならないと気が付いたのだ。
それなのに、どこかでまだ、希望は捨て切れていないことも自覚していた。
「警察署に戻るぞ!」
克哉は叫ぶと、仲間たちを先導しながら駆け出した。
「克哉、何か考えがあるのか?」
「署内なら少し時間が稼げる。」

112 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:36:08 ID:UqnhJCKl0
逃げながら克哉は弓子を庇い、英理子は効かないと解っていてもガルを連発した。
ガルは直接的なダメージこそ与えないが、悪魔と自分達の距離を少し稼いでくれる。
悪魔をのぞく全員が警察署のロビーに飛び込んだのを確認すると、克哉は拳銃の引き金を引いた。
弾丸は自動ドアと壁の境目に命中し、瞬時にけたたましい音を立て、シャッターが落ちてきた。
どうやら銃でシャッターの止め具を破壊したようだ。
すぐさまシャッターのロックを掛ける。
「これからどうしますの?
shutterだけではすぐに破られてしまいますわ。」
英理子は魔法を連発したせいか、他のメンバーよりも疲労が大きいようで息遣いが激しかった。
彼女の言うことはもっともだ。
すでに悪魔はシャッターを破壊すべく外からすさまじい攻撃を仕掛けている。
「それに、Yumikoの傷も…。」
「私は大丈夫。回復魔法をかけたから。」
本人がそう言うように、傷自体は塞がっているようで、もう血は流れていない。
だが出血と衝撃により、顔色は悪かった。
仲魔が一瞬で殺されたのもショックが大きかったのだろう。
「一度地下に降りる。地下は留置所だ。桐嶋君、まだ走れるか?」
「Yes.まだ大丈夫ですわ。」
「拘置所…なるほど、そういうことか。それなら少しだけ逃げる時間が稼げそうだな。」
ゴウトは留置所というだけで納得したようだ。他の二人も。
そうなると迷っている暇は無い。
すでにシャッターは外側から大きく凹み、新たな一撃が加わるごとに建物事態がきしんでいるようだった。
コトリと小さな音がし、そちらに一同が振り返ると、
ロビーカウンターの上に置かれていた警察署のマスコットキャラ「ピーポくん」の人形が転がり落ちていた。
それが外からの衝撃のすさまじさをつぶさに物語っていた。
彼らが地下へ向かう階段に飛び込むと同時にシャッターは弾き飛ばされ、激しい咆哮と共に悪魔が飛び込んだ。

113 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:40:43 ID:UqnhJCKl0
悪魔は猛烈に餓えていた。

(足りない、血が足りない、マガツヒが足りない、何も足りない……。
足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足り、足りな…足り……
足りな足りたりなたりたりたりなた、たりっ、たりったったっ、
たたたたたたたたたたたたたたたたたりりりりりりりりりなっなっなっなつなつ!!!!)

少しでも思考を働かせようとするとすぐに強烈な餓えが彼を襲った。
感情が昂ぶり、逆に冷静な思考がどんどん失われた。

「たっ、たっ…たりりりりっりっりっっっあっ、あっっあっああっああああああああああああああああああああ!!!!!!」

シャッターを血の滲んだ拳で叩き壊し、人間の気配とかすかな血の匂いに転げまわる。

「人間どこ!? どこどこどこどこっこっっ殺ス、殺ス、喰う、喰う、
殺す殺す殺す殺す殺す殺す喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰うくくくくクククククククっっっ!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

消え去った右腕からは今もなお血が流れていた。
そしてその自らの血すらも彼の激昂を増徴させていた。

「ああああああああああああああああああああ!!!!!」

無茶苦茶に叫びながら彼は眼に見えるものを手当たり次第に破壊しまくった。
そうしないと自分を抑えきれない。
いや、もうすでに抑えるつもりは無いのだが、破壊衝動は尽きなかった。
最後に巨大な「ピーポくん」人形を一撃で粉砕すると、かすかに人の気配を感じる地下への階段を転がるように降りた。
何度か脚を踏み外しそうになりながら何とか階下に降りたが暗い留置所には誰もいなかった。
室内は廊下を挟み、いくつもの鉄格子の付いた小窓と分厚い鉄のドアで区切られている。
灯りは全く無く、全体的に圧迫した雰囲気だった。
ドアは当然、見渡す限り全てが閉じられている。
「どこ、どこ、どこどこ? 人間何処何処どこどこどどどどこここここここ?」
肩を大きく震わせ、息を喘がせながら彼は人間を探す。
呂律の回っていない口で言葉とも呻きとも取れない意味不明な声を発しながら。
気配はあるのだから、どこかにいるはずだ。
一つ一つ、ドアを破壊して調べようとしたが、その前に一番奥の扉だけが開いているのを見つける。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああ
いいいいいいいいいいいたああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
歓喜の絶叫を上げつつ、彼はその小さく開いたドアに突進し、ろくに中を確かめることなく飛び込んだ。
瞬間、ガンと激しい音が響き、背後のドアが勢いよく閉じられる。
ガチャリと鍵が閉る音も聞き取れた。
そして銃声。さっきと同じだ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
やはり同じく扉の上のほうで金属が弾け、出入り口のそれよりはるかに分厚いシャッターが床に叩きつけられた。
「うわ嗚呼嗚呼アアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
自分がはめられたことに気付き、彼はメチャクチャな咆哮を上げると、膝を付いて冷たい床を何度も拳で叩きつけた。
「喰う喰う喰う喰う喰う喰うくくくくくくくくくくくくううううううううう!!!!
ああああああああいつらああ絶対絶対ぜーーーーーーーーーーーったいいい!!!!
喰う喰う喰うあああああああああああああああああいつら
くうくうううううううううオオオオオオオオレサマオマエマルカジリぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
悔しさのあまり血を撒き散らしながら転げまわる彼をよそに、
廊下を挟んで向かいの檻に隠れていた三人と一匹は駆け足だが、悠々と外に出た。

114 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:41:45 ID:UqnhJCKl0
再び警察署の外に出た一行だったが、しばらく走ったところで克哉はふいに足を止めた。
「克哉、何をしている。一刻も早く逃げるぞ。」
先頭を駆けるゴウトがやきもきとした様子で克哉を怒鳴った。
「そうですわMr.Suo!」
「克哉さん…」
英理子もゴウトと同様に焦っている感じで、弓子も克哉の袖を引っ張った。
「僕は戻る。」
「な、何だと!? 正気か!
あの少年…いや、悪魔を説得するとでも言うのか! 馬鹿なことを!」
「僕も自分で馬鹿なことだと思うさ。
だけど僕は刑事だ。ペルソナ使いである前に警察官なんだ。
非行に走っている未成年の少年を放っておくことは出来ない。」
「お前はまだそんなことを言っているのか!
弓子を見ろ! あの悪魔は女でも手加減しない奴だぞ! 
それも満月で気が違っている! 話が通じるわけが無かろう!」
ゴウトは弓子に顔を向けた。
弓子の傷は既に塞がっているが、裂けられた袖は彼女の傷跡を露にし、またセーラー服も赤く汚れている。
「それでも僕は彼を見捨てることは出来ない!」
尚も非難の声を上げるゴウトを克哉は遮った。
「仮に彼が悪魔なのだとしても、人の心が少しでも残っているのなら。
説得は無駄では無いはずだ。
最初に会った時のように。」
「この…馬鹿者が。どこまで甘ければ気が済むんだ。この大馬鹿者。」
ゴウトは下を向き、もう一度小さく「馬鹿者」と吐き捨てた。
だが、ゴウト自身、そんな克哉の甘さを否定し切れないのも事実だ。
「俺も付いていく。」
ゴウトがぽそりと言ったセリフに克哉の表情が少し明るくなる。
だが女性二人の表情は曇っていた。
「克哉さん、ゴウト、いくら何でも危険よ。」
「そうですわ。あのdaemonには魔法も通じなかった。
先ほどのすさまじい戦闘音、まさか忘れたわけじゃありませんよね?」
二人が克哉とゴウトを必死に止める。
だが、止めた所で止まるような二人ではなかった。
似たような弟、もしくは相棒を持つ身として、あの悪魔を放っておけないのである。
「必ず戻ってくる。必ず。」
「克哉さん…」
弓子は克哉の袖を掴んだまま俯いた。
英理子も、ゴウトを抱き上げて瞳を潤ませた。
「絶対、帰ってきてくださいまし。信じていますわ。」
「ああ。行ってくる。」
ゴウトは英理子の腕から飛び降りると、先に警察署に向かって駆け出した。
「君達は今すぐここから逃げてくれ。そうだな。この近くで目立つ場所…。
青葉公園で落ち合おう。後で必ず行く。」
「絶対ですわよ……。」
英理子は言葉を詰まらせ、語尾が少し震えていた。
克哉はそんな彼女と、ようやく袖を離してくれた弓子に少しだけ視線を送った。
それから、やや遅れてゴウトの後を追って走り出した。

115 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:42:41 ID:UqnhJCKl0
活きが良く、高質で大量のマガツヒを持った人間達は足音を聞く限りどこかえ逃げてしまったらしい。
だが、しばらくして戻ってきた者もいた。
耳をすまして足音を聞き分ける。
一つはすぐにわかった。猫だ。だがただの猫じゃない。
もう一つは、人間。男の足音だ。こいつもただの人間じゃない。
一体何しに戻ってきたのか。まさかわざわざ喰われに? 愚かなことを。
だが好都合。こちらはとにかく腹が減って仕方無いのだ。
猫の方はともかく大量のマガツヒと肉体を持つ人間が自分から近寄って来るのだから頂かないわけには行かない。
人修羅と呼ばれる少年は、破壊されたドアとシャッターを一度振り返った。
出入り口の時よりも少し梃子摺った。それだけ。
灯り一つ無い拘置所は真っ暗で、人間だったら少し動くだけでどこかにぶつかりそうだが、夜目の利く彼には関係無かった。
むしろ人目に付き難いという点では暗いほうがこちらはやりやすい。
彼は溢れ出る唾液を引き裂かれたような口元から垂れ流しながら戻ってきた気配を追う。
一度上に上がるかとも思ったが、どうやら二つの足音はさらに地下に降りたらしい。
微かにだが、会話が聞こえる。
残念ながら会話の内容までは聞き取れなかったが、下にいるのは間違いないようだ。

人修羅が下に向かう階段をゆっくりと踏みしめながら降りると、階下に広がっていたのは地下駐車場だった。
何台かのパトカーがまばらに並び、それとは別の乗用車も数台停まっている。
駐車場の天井には薄暗いがライトが点けられていた。
電力供給は止まっているはずだが、予備電源か何かだろうか。まぁ、どうでもいいけど。
とにかく腹が減る。
「ど、どこだあ…」
停まっているパトカーの横をすり抜けながら人修羅は呟いた。腹が鳴るのが止まらない。
「僕はここにいるぞ。」
背後から声が耳に入り、人修羅は振り返った。
スーツにサングラス姿の青年が立っていた。
その横に停まっている真新しいパトカーのボンネットに黒猫が乗っていた。
「克哉、説得は一度までだ。次は無いぞ。」
「ああ、解っている。」
青年は猫にむかって返事したが、そちらを見ることは無く人修羅に一歩近づいた。
人修羅は身構える。
本当はすぐに喰らい付きたいところだったが、青年の気迫がそうさせなかった。
それは人修羅に人間の心が残っているかとか、彼らのことを少しでも覚えているかとかではない。
単純に防衛本能からであった。
目の前彼は死を覚悟している。死んでまで何をするというのか。
仲間を攻撃されたからか。命を賭してカウンターパンチを食らわすためか。
だが、人修羅のリーチ圏内まで近づいて足を止めた彼からは思いもよらない言葉が飛び出した。

116 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:43:37 ID:UqnhJCKl0
「君は、本当に悪魔なのか?」
彼は一体何を言っているのだろう。
そんなこと見て解らないのか。
この身体に浮き出た幾何学模様。真っ赤に焼け爛れたような瞳。剥き出しの牙。
腕一本?ぎ取られて血を流しながらも簡単に動き回っている耐久性。
どう考えても人外魔境そのものだ。
「さっき君に会った時は、今のように攻撃的では無かったのだが。
悪魔の性格が月に影響されるというのなら、君は本当に悪魔なんだな。」
寂しそうに笑い、また一歩近寄ってきたので人修羅は反射的に手刀を繰り出した。
「ぐっ!」
顔を狙ったが、紙一重で避けられたらしい。だが、代わりに左肩を抉った。
血が吹き出し、ダークグレーのスーツの上着を赤黒く染め上げる。
「克哉!」
猫が吼えた。彼も今にでも飛び出してきそうだ。
「ゴウト! もう少しだ、もう少しだけ待ってくれ!」
青年は猫を制止すると、抉られた肩を押さえながらまた一歩近づいてきた。もう至近距離だ。
すぐにでもその顔面をミンチにすることだって可能な距離だが青年は止まらない。
「ふ、僕の弟も普段大人しい割に一度怒ると手が付けられないほど暴れるが、君も容赦無いな。血が止まらない。
ところで君のその腕は手当てをしなくてもいいのか?
まったく無茶をする。
そう言えば、あいつは一度刃物の刃の部分を力いっぱい握ったことがあってな。
それは胆を冷やしたものさ。」
どうしてコノ人はこの期に及んで弟の話ばかりするのだろう。
そんなに弟のことが心配ならば、今すぐそっちに行けばいいのに。
……と、何で自分がそんなことを考えるのか。
目の前にいるのは良質のマガツヒで、良質の蛋白源だ。ただ、それだけなのに。
「思えばあいつとは、本気で喧嘩をしたことが無いな。
僕はあいつに少し嫌われているようで、喧嘩にもならないんだよ。
あいつは何も話してくれないし、僕の話も聞いてくれない。それは寂しいものだ。」
「……」
「あいつが本当はどう思ってるのか確かめることは出来ないのだが、僕はあいつに言いたいことが山ほどある。
あいつは家にも帰ってきていないようだからな。
どこに泊まっているのか、食事はしているのか、ちゃんと学校には行っているのか、
悪い人間に眼を付けられていないか、心配だよ。
君にも、家族はいるんだろう?
君が人間であろうと、悪魔であろうとそれには変わりないはずだ。」
家族? 心配? 一体何のことなのだろう。意味が解らない。解らない。
「かか家族…し、しらない。」
「…………。
そうか。悪いことを聞いてしまったな。だが、家族でなくとも君を心配している人は必ずいる。解るか?」
「???」
「例えば僕だ。」
「???」
「僕は君のことがすごく心配だ。
君は僕の弟によく似ているんだ。
頭がいいように見えて何を考えているか解らないところとか。
いつもフラフラしてて捕まらないところとか。
そのくせ一度思い込むとなかなか考えを曲げないんだ。
だから間違った方向に進んでしまったらどうしようかといつも心配している。
君と僕の弟は、本当によく似ているからな。どうしても、君のことも心配になるんだ。」
臆面も無く語ってくる言葉を、何故かもうこれ以上聞いていたくは無かった。
だから、黙らせようと拳を振るった。

117 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:44:28 ID:UqnhJCKl0
「克哉!」
拳を腹に撃ち込まれた青年が弾き飛ばされ、猫が飛び出してきたからそれも軽く振り払う。
猫は一瞬動かなくなったが、すぐに何も無かったかのように起き上がった。少し手加減し過ぎたか。
「僕は大丈夫だ。防弾チョッキが役に立ったようだな。」
ふらりと青年が立ち上がる。口からは血反吐を滴らせている。
立ち上がった体勢は、胴体を庇うように背中を丸めている。あばらが何本かいってしまったか。
口とは裏腹に、どう見ても大丈夫ではないようだが…。
「克哉、これ以上は無理だ! お前殺されるぞ!」
猫の言葉は彼には届いていないらしい。彼はなおも人修羅に近寄ってきて何事かを口走る。
「僕は思う。
君と、僕の弟が友達だったとしたら……どんなだろう。」
「克哉!」
人修羅は猫の声ではっと我に返った。
もうこれ以上聞いていられない。聞いていたら、何か自分にとって何かよくないことが起こる。
そう思って再び攻撃を繰り出した。
鋭い右ストレートが、今度こそこの青年の顔面を粉々にするヴィジョンが明確に頭に浮かんだ。
だが。
「ペルソナ!」
直前で青年が叫び、真っ黒な猫の顔を持った人影が浮かび上がり、代わって拳を受け止めた。
「僕の言葉は通じないのか。」
「ううううううううううううううううううう……」
ペルソナ。どこかで聞いたような言葉だ。どこで聞いたのか思い出せないが。
そのペルソナとやらは両手で拳を掴んで離さない。人修羅はさらに拳を深く埋めた。
「何て力だ。本気で僕を殺すつもりなのか……。」
「克哉! 何をしている! 説得はもう終わりだ!」
「だが僕も死ぬわけには行かない。人を待たせているんだ。
命に代えても僕はここで君を止めるぞ。」
言っていることがメチャクチャだということをこの人は自覚しているのだろうか。
そう言いたい気もしたが、一気に溢れた闘争本能によって言葉は掻き消された。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
掴まれた拳を激しく振り回し、ペルソナ・ヘリオスを薙ぎ払う。
それが消滅したところで青年に視線を戻す。
青年はいつの間にか構えていた銃の引き金を引いた。
がん、とすさまじい銃声と共に額に鈍い痛みが走った。衝撃で思わず尻餅を着いてしまう。
立ち上がった時には既に青年の姿は無く、代わりに真正面に停めてあったパトカーのエンジンが激しく唸りを上げていた。
そうか。説得に失敗したら、殺す気だったんだな。
だったらどうだと言うんだ、その車ごと破壊するまで!
拳を構えて立ちはだかる人修羅に向かって一気に加速するパトカーはぶつかる直前で勢いよくスピンする。
タイヤとアスファルトが擦れる耳障りな音に顔をしかめている一瞬、ドアが開き、青年と猫が飛び出すのが見えた。
だが加速の止まらないパトカーはドアを開いたまま、人修羅に激突する。
パトカーのボディに弾き飛ばされた人修羅は壁に叩きつけられ、そのまま押しつぶされる。
激しい圧迫感と熱に襲われ、気が遠くなった。
人修羅の意識が飛びそうになったところで、地を揺さぶるような爆音が響いた。
パトカーが炎上し、それを皮切りに次々と他の車体に引火。辺りは炎に包まれ真っ赤に染まった。

118 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:45:24 ID:UqnhJCKl0
そこから少し離れた所で頭を防御して蹲っていた克哉は立ち上がった。
その横にはゴウトも佇んでいる。
「……本当にこうするしか道は無かったのか…。」
叩きつけるような熱風を受け、人修羅が埋まっている炎と鉄の固まりを見ながら克哉は苦しそうに呟いた。
「僕は、彼を殺した。」
肩口を破られ、あばらも何本かいかれている。
だが、本当に苦しいのはそんなことでは無かった。
「気を落とすな克哉。お前は出来ることを全てやった。その結果がこれなのだから仕方が無い。」
「ゴウト…。」
「青葉公園に行こう。英理子と弓子が待っている。」
「そうだな。落ち込むのはそれからでも遅くは無い、か。」
彼らは階段に向かって歩き出す。
ここを出て、扉を閉じるとじきに酸素が燃え尽き、炎は鎮火するだろう。
その時には既にあの少年の身体は骨一つ残さず炭化しているに違い無い。
克哉もゴウトもそう思っていた。
だが、克哉が階段のドアを開いた時、あってはならない気配を感じ、足を止めた。
炎の轟音に混ざって鉄の塊がアスファルトに投げ出される音が響き、炎の中から人影が立ち上がった。
「まさか」
息を呑み、意を決して振り返る。
「ううううううう…」
「そんな、馬鹿な…。」
それから克哉は無我夢中で銃、警察署支給のニューナンブM60を乱射する。
だが既に三発ほど使っているため、シリンダーには残り二発しかない。
いくら引き金を引いてもそれ以上発砲されることは無かった。
辛うじて撃てた内の一発はどこに飛んだのか解らない。だが一発は人修羅の顔面に当たった。
身に浴びた血が焦げて黒ずんでいる人修羅は、銃弾を受け、仰け反っている。
この時克哉にもう少し冷静な判断能力が残っていれば、一目散に逃げ出していたことだろう。
だが彼は銃を構えたまま眼を見開いて立ちすくんでいた。
その体勢のまま、少年がぐるんと仰け反った上半身を起こすところをただ呆然と眺めていることしか出来なかった。
「ぐううううううう」
腹から低い呻き声を発する人修羅が噛み締めた歯の間に弾丸はあった。
人修羅が悪魔の強靭な歯で弾丸を受け止めていたのである。
弾丸を咥えたままアスファルトの床を蹴って人修羅が跳躍する。

目の前が真っ赤に染まり、そこで克哉の記憶は途切れた。

克哉が最後に開けてくれたドアからすり抜けたゴウトは走っていた。
英理子と弓子が待っているはずの青葉公園に向かって。
克哉とは、おそらくもう二度と会うことは無いだろう。
どうすることも出来なかった。
自分は戦闘力の無い猫の身だ。彼を助けるためにあの悪魔と戦うことなんて出来ないのだ。
悔しい、そして悲しい。
だからこそ、彼の死を無駄にすることは出来ない。
早く英理子と弓子と合流し、出来るだけ遠くに逃げる。逃げて、戦力を蓄える。
それから、さらに信頼できる仲間を増やさなければならない。
そうしないとこれから先、生き延びることなど出来ないからだ。
(ライドウ、あいつは今どこにいるんだ……!)
今思い出せる信頼できる仲間は、彼と、鳴海、タヱ、大道寺伽耶。
とにかく信頼出来る仲間を集め、早くこの地獄から脱出しなければ――。

119 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:46:38 ID:UqnhJCKl0
酸素が殆ど燃え尽くされ呼吸することすら困難な地下駐車場で、人修羅は周防克哉の肉体を貪っていた。
大の字に寝転んだ死体の纏ったスーツとワイシャツを切り裂き、ハラワタを引きずり出す。
這い蹲って齧り付くと口の周りだけではなく、全身に血を浴びるが気にすることは無い。
芳醇な血の匂いと、暖かなマガツヒが乾いた喉に流れ込んでくる。至福の時であった。
特に柔らかな内臓は、鮮度が高いことも相まって、ことさら美味である。
これが人間の味。
悪魔よりやや脂が乗っている。
彼が人間だった頃に食べたことがある食べ物で例えるなら極上のトロの味に似ていると思った。
ひとしきり臓物を味わった人修羅は身体を起こした。
別に喰うのをやめたのではない。
生き物の部位の中でも最も美味とされる脳を味わおうと思い、頭を持ち上げるために首を取り外そうと思っただけだ。
鋭い手刀で首の頚椎を切り離し、引きつったままの表情を残した頭を両手で持ち上げた。
人修羅は興奮から肩で息をしていたが、ぴたりと動きを止めた。
克哉のサングラスがずり落ち、ぼんやりと開いた眼孔と、自分の視線がかち合った。
「あ、あ…あ…」
何故かその時頭の中に克哉の言葉がフラッシュバックする。

『その腕は手当てをしなくてもいいのか?』
『君を心配している人は必ずいる。』
『僕は君のことが心すごく配だ。』
『君と弟が友達だったら……どんなだろう。』

この人は、光だ。
自分が悪魔で、闇を象徴しているのだとしたら、この人は紛れも無く光だ。
いつかこの人は出来るだけ多くの人を救いたいと言っていたような気がする。
警察官である彼は、何の力も無い人々にとって希望の光なのだ。

僕は、希望の光を喰った。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

わずかに残った人の心が叫びだす反面、頭の中では自分であって自分ではない何かがこうも怒鳴りつける。

モット喰エ、喰ライツクセ。オ前ハ悪魔ダ。躊躇ウナ!!

人の心と悪魔の本能のはざまで混乱した人修羅は、おぼろげな表情の首を落とした。
そしてその場で今食べたものを全て吐き戻した。

120 :人の心と悪魔の本能  ◆nRO0EiYVg6 :2006/12/27(水) 14:47:38 ID:UqnhJCKl0
<時刻 午前11時半>

【人修羅(主人公)(真・女神転生V-nocturne-)】
状態 左肩から下を欠損し出血中  
    受けたダメージと消耗により既にまともにスキルを使用することは不可能  
    悪魔化 殺戮衝動 
体中に悪魔の体液を浴びており強烈な異臭がする
フルムーンの影響を受けている。
PANIC状態
武器 素手
所持品 無し(所持していたものは先の戦闘の巻き添えで塵に)
仲魔 無し
行動指針 本能の赴くままに殺戮だが…?
現在位置 スマル警察署地下駐車場
備考 左腕からは血が流れていますが、悪魔である彼が出血死するかは不明です。

【桐島英理子(女神異聞録ペルソナ)】
状態 正常
降魔ペルソナ ニケー
所持品 ニューナンブM60 防弾チョッキ
行動方針 周防克哉、ゴウトドウジ、その他仲間との合流 ゲームからの脱出
現在地 港南区

【白鷺弓子(旧女神転生1)】
状態 腕に傷を受けたがほぼ回復
仲魔 無し
所持品 アームターミナル MAG2000 ニューナンブM60 防弾チョッキ
行動方針 周防克哉、ゴウトドウジと合流 中島朱実との合流 ゲームからの脱出

【周防克哉(ペルソナ2)】
状態 死亡
降魔ペルソナ ヘリオス
所持品 拳銃
    防弾チョッキ
    鎮静剤
現在位置 スマル警察署地下駐車場

121 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/01(月) 02:54:19 ID:4x+WkRv4O
明けましておめでとう保守。

122 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/06(土) 14:21:36 ID:cIch+IBlO
保守だ

123 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/06(土) 16:25:43 ID:5wEPtZojO
あげ

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  し'∪   |   |   |   ∪ /  電波〜   電波〜    \毎日何処かの板で糞スレを立てる>>1
          ̄ ̄ ̄ ̄     /  .∧__∧      ∧__∧      \糞スレを立てる事しかできない白痴。
      ガッキーン       /  ( ゚∀゚ )    ( ゚∀゚ )          184607/82" target="_blank">>>82/>>23★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

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